前編

選ばれ続ける理由は、ブレないヘアサロン目線、スタイリスト目線。

第145回放送

株式会社彦田 代表取締役社長

彦田勇哉さん

Profile

ひこた・ゆうや/石川県金沢市生まれ。2010年、一橋大学商学部経営学科を卒業。経営コンサルティングファーム2社を経て、2013年に金沢に戻り、『株式会社彦田』(創業は1946年。金沢市尾張町。美容材料卸し・販売)に入社。2019年に渡米し、ニューヨーク大学経営学修士課程を修了。2020年、『株式会社彦田』代表取締役社長に就任。

インタビュー後編はこちら

Tad 原田さんはどこで髪を切ってますか?
原田 定期的に決まった美容室に通ってますけど…。
Tad 僕も美容室に通ってるんですけど、美容室って実は、石川県だけでも数千軒もあるらしいんですが、美容室に行くとシャンプーとかヘアートリートメントとか、ちょっといいものがありますよね。
原田 そう! 美容室から帰ってくると髪のツヤが違うんですよね、やっぱり。
Tad そうですよね。その数千軒ある美容室にシャンプーなどの美容材料を卸している専門の商社さんがあるんです。今回のゲストは『株式会社彦田』代表取締役社長の彦田勇哉さんです。実は、彼は僕の自慢の後輩でして。小・中学校が一緒でしたっけ?
彦田 そうですね。
原田 彦田さん、すごく日焼けされて、がっちりしていらっしゃいますね。
Tad ちょっと見ない間にすごくたくましくなられて。人間性すべてにおいて、もう僕は負けている(笑)。
彦田 とんでもないです(笑)。
Tad 素晴らしいお話を楽しみにしております。ところで、彦田さんの経歴がもう、すごいですよね。
原田 すごいですね!
Tad 『株式会社彦田』は実は創業が古くて1946年ということですが、今は北陸3県の美容室さんに美容材料を販売されていますよね。石川県では現在7割を超える美容室と取引されていますが、創業当時からずっとそういう事業をされていたんですか?
彦田 わたしでちょうど4代目になるんですが、曽祖父が以前、理美容室をやっておりまして、その後に材料屋に転換をしまして、今に至ります。
Tad 最初は髪を切る方をされていて、それが転じて美容材料を取り扱われるように?
彦田 はい。そのきっかけは定かではないんですが、パーマ液を中心に販売する材料屋に業態転換をしたと聞いております。
Tad 当時はパーマ液が主流の製品だったんですね。
彦田 そうですね。今は美容室というとヘアカラーが中心ですが、当時はパーマ屋さんというイメージが強かったと思います。それから、パーマ液を中心に販売をするようになったようです。
Tad 今は取り扱う製品がたくさんありますよね。
彦田 現在、美容室にあるものは基本的に弊社で取り扱いをしていますが、一番ウェイトが高いものはヘアカラーですね。ヘアカラー、ヘアケア製品、シャンプー、トリートメント、それからパーマ液、スタイリング剤という順番です。そのほかにも美容師さんが使うハサミやコーム(くし)、椅子、鏡、シャンプー台など、基本的に美容室にあるものはすべて取り扱いをしています。
Tad なるほど。
原田 美容室のあらゆるものというか、ほとんどのものですね。最初、曾祖父の方が始められた頃はそんなに物流も発達していなかったでしょうし、ご自身で商品を運んだりもされていたんでしょうか?
彦田 そうですね。わたしが直接見たわけではないんですが、軽トラックいっぱいにパーマ液を積んで、石川県を珠洲市からぐるっと回って販売をしていった、というふうには聞いています。
原田 なるほど、そうしてお客さんを1軒1軒増やしていかれたと。
彦田 そうですね。
Tad 今ではどのくらいの数のお客さんがいらっしゃるんですか?
彦田 今我々は3000軒弱の美容室様とお取引をさせていただいております。
Tad 3000軒!? 石川だけじゃなくて富山や福井も?
彦田 そうですね、北陸3県に5つ拠点がありまして、北陸3県で3000軒の美容室様とお取引をさせていただいております。
Tad 美容室さんから「こんなのが欲しいんだけど」と注文があってお届けするわけですか?
彦田 基本的にはルートセールスをしておりまして、だいたい1人あたり100軒くらいの美容室様を担当しているんですが、1日20軒くらいの美容室を回りまして、美容室様に必要なものをお聞きして、それをお届けするというような仕事をしております。
Tad なるほど。彦田さんからみてこの何年かというのは、美容室業界も変化していますか?
彦田 やはりコロナの影響というのは非常に大きくて、感染者数が爆増したときは美容室もお客様が来なくて静かになってしまった時期はありました。それでもやっぱり「美容業界は強いな~」と思ったのは、コロナが落ち着いてくるとそれまで来ていたお客様がしっかり戻ってきてくださったんです。それが美容業界の強みかなと思いました。女性で髪を染める方は、家でするとどうしても上手くいかないので、美容室でプロの方にお任せして髪を染める方が多いのかなと思っております。
原田 そう。だってヘアカットは自分じゃ前髪くらいなら頑張って切れたとしても、後ろは絶対切れないですし。
Tad そうですよね。
原田 美容院じゃないと無理です! 小さい頃ならお母さんに切ってもらうこともできましたけど、髪を整えてもらうのはプロにしてもらわないとっていうのはありますね。
彦田 そうですね。
原田 逆に、ちょっと外に出られない、というときでも、ちょっときれいになることでテンションも上がったり、気分がよくなったりもしますから。
Tad 心も晴れやかになりますしね。
彦田 そうですね、そう思います。
Tad 美容師さんたちのニーズを『株式会社彦田』として嗅ぎ取ったり、汲み取ったり、感じたりして、美容師さんたちは一般で来られるお客さんのほしいものとか、したい髪形とか、そういうものに合わせて商品を選ばれている、そんな感じなんですかね。
彦田 基本的に我々のスタンスとしては、美容室様に材料を販売する会社ではありますけれども、美容室様が繁盛するようサポートすることによって、我々の販売高も増やしていきたいという思いがベースにありますので、美容室様がどうしたら繁盛するのかを日々考えながら、セールス活動をしております。
Tad 商品を卸すだけでなく、いろんなサポートもされているんですか?
彦田 商品販売がベースではあるんですが、それに付随して経営サポートや、美容師様が技術や感性を向上させる機会の提供など、いろいろな角度からサポートをしています。
美容師たちがスキルやセンスを競い合うコンテストも開催。
Tad 経営サポートってどういうことをされるんですか?
彦田 本当に多岐にわたるんですが、たとえば「新店舗を出店したいから事業計画を作りたい」ということであれば、もちろん事業計画の策定のお手伝いもしますし、「新人が〇名入ったから新人教育をしてください」と言われて対応することもありますし、本当にいろいろな角度からサポートしています。
原田 美容学校を出たら、美容師さんはハサミを手に職人としてずっとやっていかれるわけですよね。「自分でお店を出したいな」といって出せたとしても、経営となるとこれまでに習ってきてないわけですよね。
彦田 はい。美容師さんというのはレストランのシェフみたいに、やっぱりいつかは自分のお店を持ちたいっていうのがベースにあって、みなさん修業されるわけですが、自分のお店を出すときに初めて「経営」というワードが降ってくる。そこで「まず、経営って何なんですか?」というところから始まるわけですが、最初は資金調達をするために事業計画を作らなければいけない。それで、事業計画を作るときに「どうやって作ればいいんですか」となりますし、そういったところから我々が親身になってサポートをして、美容師様がよりよく繁盛して成長していけるようにバックアップをしていく、という感じです。それによって美容室様の取り扱う材料が増えてきて、我々の売上が上がっていけば、お互いハッピーかな、と思っております。
Tad 実際に美容室の経営っていうのは、どういうポイントがあるんですか?
彦田 お客様の数があって、単価がありますよね。その掛け算で美容室の売上ができていますが、美容室のお客様の数というのは新規のお客様の数と、既存のお客様の数というのがあって、新規のお客様は、たとえばクーポン誌から来られるお客様でしたり、最近多いのはインスタグラムからですね。
原田 インスタグラム!
彦田 そこからいかにお客様を掴むかというのが、今の美容室のメイントピックだと思います。
Tad 全然知らなかった!
彦田 やっぱりインスタグラムですね、今は。インスタグラムをどう使いこなして、いかに自分のお店のウリを一般消費者の方に訴求するかが、成功するかどうかの大きな鍵になっていますね。
Tad なるほど。
原田 そういうことに関してもアドバイスなさったりするんですか?
彦田 そうですね。これは最近結構よくあるオファーなんですが、美容師様に対してインスタグラムをどう使えば魅力的に見せることができるのかということは、よく夜間講習でやらせてもらったりしています。
原田 夜間講習っていうと、お店が終わった後に?
彦田 そうです。美容室様は19時とか20時にお店を閉められて、そこから研修や勉強、練習する時間ができるので、わたしはよく19時とか20時とかに美容室様におうかがいして「インスタグラムの使い方をみんなで研究していきましょう」といったこともしています。
Tad 美容師さんたちがアップロードする写真などが「あぁ、このサロン素敵だな」とか「こういう髪形にわたしもしてみたい」とか、そういう感じなのでしょうか?
彦田 一般的な手順としては、その美容室様がまずどういうお客様をターゲットにしていらっしゃるのかを明確にするところから始まります。
Tad はい。
彦田 よく「ペルソナ」と最近言ったりしますが、自分のお客様の仮のイメージ像をすごく明確に作ってもらいます。たとえば、仮の名前で「花子さん28歳。職業は広告代理店勤務で、結婚していて旦那さんの収入はいくらで、世帯収入はいくら。自分の趣味は〇〇で、休みの日はこういうふうに過ごしています」とか。そのくらいのレベルまで具体的にターゲットにしているお客様をイメージしていただいて、「そういうお客様、そういう人物が美容室を探すときに、どういうアクションを取るだろうか?」というのを、みんなで考えるんです。
原田 なるほど。
彦田 たとえば、「ごはんを作っている途中、何かを煮込んでいる間に、ソファに寝っ転がってインスタグラムを見ています」みたいな話だとすると、投稿する時間がそれによって決まってきます。
原田 なるほど!
彦田 そんなふうにターゲットの姿を明確にして、その方がとるアクションを想像して、それに見合ったインスタグラムの投稿の仕方を考えていく、というようなセミナーは最近よく実施させていただいてますね。
原田 すごい!
Tad これは美容師さんたちだけではできないなって思いますよね。
原田 本当ですよね! 投稿する時間も大事なんですね。要するに見られなければ意味がないから、いいタイミングで新着の投稿がパッと目に入ってくるようにするということですね?
彦田 そうです。例えば前髪を気にしている女の子がいるとして、そんな女の子がインスタグラムを見ているときに、後ろ姿だけアップされていると、「その美容室に行こうかな」ってきっと思わないですよね。だから、やっぱり美容師さんってどうしても後ろ姿を撮りがちなんですが、ターゲットに対して撮っている画像が自己満足的になっていないか検証する必要性があるんです。その辺はやっぱりオーディエンスと言いますか、ターゲットにしている潜在顧客をしっかり理解するというところがすごく大事になってくるんだろうなと思ってます。
原田 なるほどね。
Tad すごい。そこまでの研究を『株式会社彦田』として研修・教育までできるようになっているということですね。
彦田 最近の若い子たちって、Googleで検索をしないでインスタグラムのハッシュタグで検索するって言われますよね。
原田 「タグる」っていうやつですね?
彦田 はい。ハッシュタグをどう使うかというのもすごく大事なんです。上限は30個だと思いますが、ハッシュタグを10個しか付けないと、それだけでチャンスを逸するわけです。ですから、30個はフルに使う必要があって、その30個をどう使い分けをするのかっていうのもすごく大事なポイントとしてあります。
原田 なるほど。
彦田 インスタグラムでハッシュタグを使うことによって、どういうアカウントとして認識されるかということにもトレンドがあるんです。その辺を上手に使い分けしながら。
Tad おすすめに出てきたり?
彦田 そうです。その辺りのセミナーも最近やっています。
原田 「そういえば美容材料の商社さんだった」といま思い出しました。すごい話が飛び出しましたね。
Tad 「物売り」だけじゃない感じがね。
彦田 我々は競合他社も非常に多いので、基本的にオリジナルの商材はないですし、他の会社さんと製品も被りますから、どこで差別化をするのかっていうのはすごく大きなポイントですね。
Tad なるほど。美容師さん向けの感性や技術の講習みたいなものもされているんですね。
彦田 コロナ禍までは年間100近くのセミナーをやっていました。ニューヨークとか東京、あとは関西エリアとか、いわゆる「カリスマ」と呼ばれる、業界の第一線を張るような有名な美容師さん方に来ていただいて、技術セミナーやトレンドセミナーを非常に多く開催しております。
日本の美容業界を牽引する実力派ヘアサロンのひとつ『PEEK-A-BOO』代表の川島文夫氏を招いたカットデモンストレーションライブ。
原田 美容室に入りたいんだけどっていう美容学生のみなさん向けにも何か活動されているんですか?
彦田 「リクサロ」というイベントを立ち上げまして好評をいただいているんですが、美容学校生のための就職活動説明会を開催しています。北陸3県の美容室の方々にブースを作っていただいて、そこで美容学校の方々、学生さんに各店舗のご紹介をしていただく。そして学生さんにどこのサロンに入りたいかを見つけていただくマッチングのイベントをしています。
Tad 全体的にお客様である美容室の成長や、美容師さんがいかにエレガントに狙ったターゲットにむけてしっかりとアピールしていけるのか、そういったところのサポート・アシストというのが、一言でいうと「経営アシスト」になるのかもしれないですが、すごく多岐にわたる活動をされてますよね。
彦田 美容業界の繁栄が、ひいては我々の繫栄に繋がりますので、美容業界がどうしたら盛り上がるのか、どうしたら美容室様が繁栄してくださるのかというところが常に念頭にありますので、材料はもちろん大事なんですが、それに付随して、できることはなんでも全力でするというスタンスでバックアップさせていただいています。
Tad すごい後輩ですよ。
原田 彦田さんみたいな方がいてくださるから、美容師さんたちは自分の技術に専念できるというところもあるでしょうね。
彦田 そんなふうになればいいなと思っております。
Tad ところで、彦田さんは元々全然違う業界にいらっしゃってから美容業界に身を投じられたわけですが、美容業界のおもしろさはどんなところにありますか?
彦田 前職から転職をして思ったのは、非常にハッピーな業界だなということです。我々の企業理念にもあるんですが、美容がもつ「人を幸せにする力」ってすごく大きいなと思っています。たとえば女性でしたら、朝、髪を洗って髪がつやつやしたり、ドライヤーでしっとりまとまったり、ヘアスタイルがバシッと決まったりすると、その一日を非常にハッピーな気持ちで過ごせると思うんですよね。
そういう幸せって、おそらく美容がもつとてもユニークで強い力だと思っています。そういう仕事に携われることもすごくハッピーですし、業界としても、美容師さんもお客様の髪をきれいにして感謝される仕事ですから、とても幸せで前向きな業界かなと思っています。

ゲストが選んだ今回の一曲

レディー・ガガ

「ミリオン・リーズンズ」

「アメリカ滞在中に、ラスベガスまでレディー・ガガのコンサートに行ったんです。初めて彼女を見たんですが、非常に強いメッセージ性を持っていて、その時に『世の中にはセクシュアリティや宗教、人種などいろんなところでハンデを持っている人がいるけれど、やっぱり人間はみんな平等だよね。だからそんなハンデに負けないで、がんばって、支えあって手を取って生きていこうよ』というメッセージを彼女は発していました。そこに非常に強く感銘を受けまして、この曲を選ばせてもらいました」(彦田)

トークを終えてAfter talk

Tad 今回はゲストに『株式会社彦田』代表取締役社長の彦田勇哉さんをお迎えしましたけれども、いかがでしたか、原田さん。
原田 いわゆる美容商社としてのお仕事にプラスして、星の数ほどある美容室の中で選ばれるサロンになるために、かなり具体的なサポートをいろんな面でなさっているということに、本当に驚きました。
Tad そうですね。競合他社とは基本的には同じ商品を販売されているとおっしゃっていましたが、スタイリストさんには最新の美容材料やトレンドを常に紹介して、オーナースタイリストさんの経営も助けて、彦田さんとお付き合いすることで各美容室を、今まさに原田さんがおっしゃったように、お客様から選ばれるサロンにしていきたいということでした。創業者である、曾祖父の方も最初はいわばスタイリストだったわけですが、商社に転じたということでしたよね。当時も最新の良いものを同業者さんに届けたいという思いがきっとそこにはあったんだと思います。いつまでもサロン目線で、スタイリスト目線を中心軸に置く『株式会社彦田』だからこそ、時代に合わせて選ばれ続ける『彦田』であり続けるのかなと。彦田さんのことを後輩、後輩と何度も言ってしまいましたけれども、すごく勉強させていただきました。ありがとうございました。

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