前編

配電盤の製造を軸にしながら、ニッチなニーズを幅広く探求。

第151回放送

株式会社大日製作所 代表取締役専務

永山領一さん

Profile

ながやま・りょういち/1983年、石川県金沢市生まれ。金沢大学附属中学校を卒業し、1998年に千葉県の私立暁星国際高等学校に入学。その後、成城大学に進学。2006年よりイギリスに留学。2008年、『三菱電機株式会社』に入社。2015年、『株式会社大日製作所』(創業は1937年。野々市市。配電盤キュービクル電子応用製品の設計・製造・販売など)に入社。

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Tad 原田さん、配電盤ってどんなものか、ご存じですか?
原田 配電盤? 名前は聞いたことありますけど。どんなものかと言われるとちょっと説明しづらいですね。
Tad ご自宅でブレーカーが落ちることって、ありますよね。
原田 いろいろな電気器具を一度にたくさん使ったりすると、ありますね。
Tad あれも実は配電盤なんですが、配電盤にも業務用というのがありまして、先ほどMROさんのこのスタジオのすぐ外にあった配電盤に、今回のゲストの方が所属される会社のロゴマークが入っていたのを確認しています。
原田 配電盤、ありましたか。
Tad ありました。配電盤とは一体、何なのか。今回のゲストは『株式会社大日製作所』代表取締役専務、永山領一さんです。永山さんは金沢大学附属中学校でわたしの一つ上の先輩だったんですが、在学中は全然会ったことがなかったですよね。
永山 卒業してから初めてお会いしました。
Tad 部活は何部でした?
永山 ハンドボール部でした。
Tad 僕はサッカー部で、隣でやってたはずなんですけど。
永山 必ず見てるはずですよね。人数も多かったわけではないと思うんですが。
Tad そんなわけで今回、初めて会社のお話をちゃんとお聞きします。『株式会社大日製作所』は配電盤キュービクルを作られているということですが、配電盤ってどういうふうに理解したらいいですか?
永山 通常、我々が作っているものはビルや商業施設、学校、工場などに置いてある大きな鉄箱です。先ほど原田さんがお話ししていたみたいに、ご家庭で電気を使いすぎた時にバンとブレーカーが落ちますが、あれも配電盤の一つなんです。家庭用を設計・製造されている会社もあるんですが、当社は家庭用ではなく、より大きな業務用を作っています。
原田 配電盤というのは、ついてないといけないものというか、ないと大変なことになっちゃうものなんですか?
永山 たとえば外を歩いていて空を見上げたら電線があると思うんですが、電線にはすごく高い電流、電圧が流れています。しかし、その電流、電圧というのは、通常の家庭用のコンセントが許容できる電流、電圧とすごく差があるんです。電線には2万ボルトくらい流れているんですが、それを変換してくれるものがいわゆる「配電盤」というものです。
原田 ということは、配電盤が家庭で電気を安全に使えるボルト数にまで落としてくれるということですか?
永山 そうですね、はい。
創業以来、『株式会社大日製作所』が手がけている業務用の配電盤。
原田 配電というのは「配る」という文字がありますが、これはどうやって電気を配っているんですか?
永山 箱を通じて、ご家庭や、たとえばこちらのビルの1階、2階、3階といったように電力を振り分けます。
Tad 電流を配布しているわけですね。
永山 それが身近なコンセントに行きついているというわけです。
Tad 家のブレーカーはよく見ますけど、ビルの配電盤って、中はどうなってるんですか?
永山 実は中は同じです。
Tad 同じ?
永山 はい。ブレーカーはよく見ていらっしゃると思うんですが、たとえばご家庭用に一つか二つあるのが一般的ですよね。それが業務用だと10個くらいになる。
原田 スイッチみたいなものがついてるあれですよね?
永山 はい。ビルにあるものは、ご家庭用のものが大きくなったというイメージでしょうか。
原田 なるほど。
Tad その配電盤の設計・製造・販売を『株式会社大日製作所』が手掛けていらっしゃるということですね。
永山 はい。「カスタムメーカー」と呼んでいますが、我々はお客様のご希望に沿って一品一様のものを作っています。社内で設計したのちに板金・塗装・組み立てをします。ものを作るのも出荷するのも、一貫して自分たちでやってる会社です。
Tad さっきMROさんで確認した配電盤も、きれいにその幅に収まって入っていました。
永山 はい。あれも実は当社のロゴがついてるレアものでして、今ですとロゴがついてないものが出荷されています。
原田 そうなんですね。
永山 もう20年以上、30年くらいの前のものだと思います。
Tad 結構長く使えるものなんですか?
永山 実は長く使えるんですが、電気製品ですので、よくご家庭でも電子レンジとか炊飯器とかは「そろそろ古くなってきたな」とこまめに交換されると思うんですね。それと同じように交換してくれるとうれしいですね。でも、値段もそれなりにしますのでそれほど気軽に交換できるものでないというのがネックではあるのですが。
Tad そろそろ替え時かもしれないということなので、MROさんぜひ……。
永山 ぜひ、よろしくお願いいたします(笑)。
原田 配電盤が急にぐっと身近に感じられました。ビルにいると「もしかしてあれが配電盤かな?」ってこれからはわかるかもしれないですね。埋め込み式や、外に出てるタイプもあるんですか?
永山 あります。
Tad ところでブレーカーが落ちるというのは、どういう現象なんでしょう? 電子レンジとドライヤーを一緒に使ったら落ちるというようなことがよくありますが。
原田 びっくりしますよね。真っ暗になって。
永山 場所によってもいろいろあるんですが、一度に使える電力量というのがそもそも決まってるんです。そこで、たとえば電力を500だけ使えるところを600も使っちゃうと、もう完全に使えなくなってしまう。それを防止するためにブレーカーが落ちるというわけです。
Tad その量を超えて使おうとしてしまうと機械の方が持たないんですか?
永山 それもありますし、もしくは出火の原因になったりすることもあります。電気を流してるので危険防止のために「ここまでしか使えませんよ」と知らせるんです。
原田 なるほど。ということは、これまではブレーカーが落ちると「困ったな」と思っていましたが、むしろ「ブレーカーを落としてくれてありがとう」って言わなきゃいけないわけですね?
Tad そうですね(笑)。ところで、カスタムメーカーとして、たとえばいろんな空間に収めなきゃいけないというような難しいお仕事もありますよね?
永山 時々あります。それこそビルの屋上や部屋の狭いところとか、いろんなものをくぐり抜けた奥の方に置いたりとか。わりと大きいので設置にかなり手間取ることもあります。
Tad 設置も施工も、メンテナンス性についても考えないといけないですし、いざブレーカーが落ちたときには利用者の方がちゃんと復旧できるようにとか、多分いろんなことを考えて設計されてるんですよね。ところで『株式会社大日製作所』は、創業当初から事業として配電盤を作る会社だったんですか?
永山 はい。創業当時から配電盤をメインにやっています。
原田 創業した方というのは永山さんから見てどなたにあたるんですか?
永山 曽祖父になります。わたしでちょうど四代目になります。
Tad ひいおじいさまが配電盤を作ることになったきっかけというのは?
永山 曽祖父は昔、大阪の方に住んでいまして、そこでネオン管を輸入して販売するという仕事をしていたらしいです。ビルやお店のネオンサインを作る会社だったと聞いています。実際資料は残ってないので詳細は分からないですが、そこから派生して配電盤にたどり着いたというところまでしかわかっていません。
原田 ネオンサインって、ちょっとレトロな懐かしいイメージですね
Tad 昭和のドラマとかでよく出てきますよね。ひいおじいさまの頃のネオンサインというと、まだ世に出始めという感じでしょうか?
永山 聞いたところによると日本で初めてネオンサインを輸入した会社だったみたいです。
Tad ひいおじいさまは大阪のご出身ではなく、金沢のご出身なんですか?
永山 もともと金沢出身で大阪の方に仕事をしに行って、やがてネオン管サインの会社を立ち上げて、それを全部たたんで金沢に戻ってきて配電盤事業の会社を始めたと聞いてます。
原田 ひいおじいさまのなかで、なにかあったんでしょうか。
Tad ネオン管を作ったり使ったりする上で、配電盤がちゃんと整備されて安全でないといけないとか、何かそういう気づきがあったのかもしれないですね。
永山 あるいは、電気にまつわる仕事がしたかったのか……。
原田 配電盤を専門に立ち上げられた当時は1937年ですから戦争中ですよね。そんななかで一念発起して仕事を新たに立ち上げるって結構大変なことだったのかなという気がします。それを、次におじいさまが後を継がれて、業務内容としてはどういうふうに発展していったんでしょうか?
永山 業務内容としては最初から今も一貫して配電盤がメインです。そのなかで電子応用製品といった小さい電子機器を作ってました。たとえば、これはかなりニッチなものになるんですが床暖房のコントローラとか。
原田 コントローラってスイッチを入れたりする?
永山 はい、オン・オフの切り替えや温度設定ができるもので、よく壁に付いていますが、あれも実は作ってました。マンションが建つときに床暖房が入るところであれば全戸に入れていただくものになります。
『株式会社大日製作所』の床暖房コントローラ。7種類の温度センサーに対応する。
原田 ニッチとおっしゃられましたが、『株式会社大日製作所』以外でそれをやってるところはそんなに多くないんでしょうか?
永山 日本であと一社しかないと聞いてます。
原田 そうなんですか!
永山 意外と作ってない、ニッチな製品ですね。
Tad 他にもニッチな製品はあるんですか?
永山 ニッチな製品はこれからどんどん探していきたいんですが、我々が作ってるもののなかで「押しボタン始動スイッチ」というものがありまして、普通にオン・オフのボタンだけのスイッチがあります。工業用ですが、たとえば大きい工場に機械があって運転のオン・オフをする、ただ機械を動かすためだけのスイッチです。それも我々とあと一社しかないとか。
Tad それは機械を電源につないだら動いてしまうようなものをスイッチで制御するためのもの、ということですか?
永山 はい。
工作機械や木工機械などに使用される『株式会社大日製作所』の「押しボタン始動スイッチ」。
原田 そういうシンプルなものっていろんなところが作ってるのかなと思っていましたが、案外少ないんですね。そういうところに目をつけて?
永山 そうですね。ニーズがそこにありますし、シェアを独占できますから。
Tad 『株式会社大日製作所』の工場がもし止まってしまったら、日本の半分ぐらいが困るということですよね。
原田 そうですよね。だって床暖房を採用しているご家庭はすごく増えてるし、絶対これからも増えるでしょうし、ないと困るというものでしょうから。
Tad ほかにはどんなものを作っているのでしょうか?
永山 コロナ禍に入ってテレワークだとかリモートという言葉が飛び交っていますが、テレワーク用ブースを今年から作り始めました。我々もそうですが、リモートで会議をする時ってありますよね。その時にイヤホンをするとどうしても自分の声が大きくなってしまう。すると周りで作業をされてる方に迷惑がかかってしまうというので、そのためのボックスを作りました。それは遮音性があり、自分だけのパーソナル空間で仕事をしてもらうような感覚で使っていただけます。
Tad オフィスや工場、図書館みたいなところにも合うのかもしれないですね。
組み立てるだけのWEB会議用個室ブース「D-BLOCK(ディーブロック)」。
原田 そのブースの『株式会社大日製作所』ならではの部分って、どういうところですか?
永山 我々は配電盤を作っていますが、配電盤の材料って実は鉄なんです。配電盤とは大きな鉄の箱です。その鉄の箱を利用してテレワークブースを作りました。我々は自ら設計・製造もしており、その箱は安易に曲がらないですし傷もつかない。耐震加工も含めて頑丈で強固なものを作ることができました。
Tad 中にいるときに潰れちゃったら身動きがとれないですもんね。
原田 カスタマイズできるというのが『株式会社大日製作所』の売りということでしたが、このテレワークブースに関してもカスタマイズできるんですか?
永山 はい。配電盤も、たとえばその企業のコーポレートカラーなど、お客様のご要望に応じていろんな色に塗る考えがありました。その技術を利用してテレワークブースにも好きな色を塗ることができます。ピンクや黄色、青といったオリジナルのテレワークブースをお届けすることができます。
Tad 最近このテレワークブースがメディアにも取り上げられ始めていると聞いてます。
永山 実は「日経トレンディ」という雑誌で掲載していただきました(2022年9月号)。
原田 なるほど。実物を見たい場合はどうしたらいいですか?
永山 石川県野々市市にある『学びの杜ののいちカレード』と『1の1 NONOICHI』の一角に置いていただいてます。
Tad 野々市市認定商品でもあるんですね。
永山 野々市市のPRの一環で置かせていただいてまして、今ちょうどそこで作業されている方とか、学生さん、勉強されている方にもよく使っていただいています。
Tad 『株式会社大日製作所』としては今後も新たなニーズを見つけてものを作っていくぞということですね。
永山 はい。我々の持っている技術を生かして、新しいものを作っていこうと思っています。

ゲストが選んだ今回の一曲

Hi-STANDARD

「STAY GOLD」

「シンプルに、世の中にある曲のなかで一番好きです(笑)。中学2年生の時に初めて聴きましたが、それから20年以上経っても未だにこれを超える曲はないです」

トークを終えてAfter talk

Tad 今回はゲストに『株式会社大日製作所』代表取締役専務の永山領一さんをお迎えしましたけれども、いかがでしたか、原田さん。
原田 配電盤一筋の会社でありながら、その技術を使って世の中のニーズに応える製品を作っていらっしゃって、応用力や目の付けどころがすごいなと感じました。
Tad おそらくというか絶対に『株式会社大日製作所』の技術を使って作れるものってたくさんあるはずですが、でも他社がなかなか目を付けない、けれども世の中に絶対に必要なものを送り出していくという話で、競争になりやすいものよりも、ニッチなニーズを確実に満たしていくんだという強い想いを感じました。
企業活動も長くなってくると何のためにやっているのかというところがあって、いつしか「新製品を作るために新製品を作っています」というようなことになりがちですが、企業戦略として今回のお話は大変参考になりました。
それと、目立ってはいけないという配慮からでもあると思うんですが、最近は配電盤にロゴマークを付けずに出荷されているというお話もありました。配電盤のありがたみ、ブレーカーが落ちてくれることへの感謝を忘れないようにしたいですね。

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