前編

“見えないけれど、あなたのそばに”ある原材料を開発。

第191回放送

大阪有機化学工業株式会社 常務執行役員兼金沢工場長

榮村 茂二さん

Profile

えいむら・しげじ/1966年、石川県金沢市生まれ。1985年、石川県立工業高等学校工業化学科(現・材料化学科)を卒業後、『大阪有機化学工業株式会社』(会社設立は1946年、金沢工場操業開始は1981年。本社は大阪府大阪市。金沢工場所在地は白山市松本町。特殊アクリル酸エステルの生産を手がける化学メーカー)の製造部門に入社。2016年に山形の酒田工場長、2018年には金沢工場長に就任。2019年からは常務執行役員生産本部長も務める。

大阪有機化学工業株式会社Webサイト

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Tad この番組では社長、会長、市長、それから副議長までいろんな「長」をゲストにお呼びしてきましたが、今回のゲストの方は工場長でいらっしゃいます。原田さんはいままでの人生で工場長という肩書の方に出会われたことはありますか?
原田 ちょっと思い出せないので、多分ないと思います。
Tad 大体の方が多分ないと思うんですが、今回のお話で、工場長というお仕事のイメージがきっと変わると思いますし、金沢にこんな工場があったのかと覚えていただければと思っております。今回のゲストは、『大阪有機化学工業株式会社』常務執行役員兼金沢工場長の榮村 茂二さんです。どうもこんにちは。
榮村 こんにちは。
Tad 北陸自動車道から見える「白山市へようこそ 大阪有機化学工業」と書いてある倉庫に、見覚えのある方も多分いらっしゃるのかなと思います。
北陸自動車道から見える「白山市へようこそ」と記された倉庫。
原田 そのときに「なんで大阪?」って思う方も多いんじゃないかなと。
Tad 大阪の会社なんですよね?
榮村 はい。弊社は大阪発祥でして、金沢は水資源が豊富ですし土地柄もよく、1981年に当地で操業を開始しました。まだまだ知名度の低い会社です。
Tad いえいえ。今回で一気に有名になると思います(笑)。さっそくですが、『大阪有機化学工業株式会社』は特殊アクリル酸エステルという生産品目がメインということで、僕も勉強してからこの収録に臨もうと思ったんですが、調べても自分ではちょっとよくわからなくて……ウェブサイトやパンフレットに「見えないけれど、あなたのそばに」というキャッチフレーズがありますが、これはつまり、どういうことなんでしょうか?
榮村 みなさまのお手元には「大阪有機化学工業」の名前はないけれど、実は身の回りの物には弊社の商品がすごくたくさんあるんです。たとえば自動車塗料。一部に弊社の商品が使われていますし、お手元の携帯電話の液晶画面の材料にも、大変多く使われております。ほかには髪を整えたりするような化粧品材料ですね。
Tad ワックスみたいな?
榮村 はい。お肌を整えるフェイスマスクの一部、防腐剤関係、そういうようなところに用いる安定剤を金沢工場では作っております。
原田 それ全部に特殊アクリル酸エステルというものが使われているということですか?
榮村 そうです。この特殊アクリル酸エステルというものは、ごく少量を入れるだけでものすごく性能を発揮します。これがないと、みなさまの手元には届きにくいと。
Tad 性質を変えてくれる機能があるんですね。
榮村 アクリル酸を主体として、もう一つの素材の骨格を変えることによって性能が変わります。すごく保湿力が上がったり、固める力が良くなったり。
Tad 加えるものは液体だったり個体だったりすると思うんですが、それぞれの性質を少し変化させてあげることで、整髪剤でいうとより髪が束ねやすくなるということですね。
原田 絶対必須の材料というよりも、それを加えることでその性能がぐっとアップするという感じですね。エッセンス的な。
榮村 まさに、エッセンスという感じですね。
Tad しかもこれはきっと化学品の種類の総称なんだろうなと思います。「大阪有機化学工業」でいくつもの製品を持っていらっしゃるので、この特殊アクリル酸エステルという言葉の中にいろんな型番がきっとあって、多分いろんなものの配合や濃度の違いによっていろいろあるんですよね。
榮村 そうですね。お客さまに提供してより良い商品にしていただいて、みなさまのお手元に届けるというのが私たちの使命です。
Tad なるほど。それはお客さまからの「こういう用途のもので、もうちょっとこうしたい」とか「性質をこういうふうにアップさせたい」といった課題をお聞きになって開発されるんですか?
榮村 会社の中で技術開発をして、その商品をお届けします。お届けしても性能が思ったように出ないときもあるので、そこは弊社の技術部門がいろいろ知恵を出して、改良していきます。
原田 そうすると、日々の生活の中で「大阪有機化学工業」の特殊アクリル酸エステルが入ってないものを使わない日はないぐらいに、私たちはその商品に日々接しているということですよね。
榮村 シェアが大きいもので言うと、半導体ArF(エイ・アール・エフ)レジスト 用原料は世界に出回っている7割が弊社の商品です。
原田 「世界の」7割ですか?!
Tad 我々は半導体に囲まれて生活してますからね(笑)。
榮村 お手元の携帯もそうですし、パソコンもそう。このスタジオの中にも使われているものが結構あると思いますよ。モニターとか。
原田 モニターとかも?
榮村 車の中にもあります。みなさんの日常のほとんどの場面で弊社の製品をお使いいただいているので、キャッチフレーズが「見えないけれど、あなたのそばに」なんです。見えるような商品は一切ございません。ちょっと寂しいですけど。
Tad 会社の中では金沢工場というのはかなり大きな存在なんでしょうか?
榮村 金沢工場で7割から8割ぐらいの売上と従業員を占めていますので、主力工場となっております。
白山市松本工業団地に位置する金沢工場。同社の主力工場にまで成長した。
原田 金沢工場ではどういうものを作っていらっしゃるんですか?
榮村 特に半導体の材料の、ほぼ世界シェアの7割を金沢工場で作っています。
Tad すごいですね。
原田 「白山市へようこそ」と書いてあるあの工場で作ってるわけですね。
榮村 結構プレッシャーを感じていますが、みなさんに喜んでいただいて、いろんな形でお手元に届けられるので、すごくうれしいお仕事をさせていただいてると思ってます。
Tad いろんなハードウェアや化学品、化粧品の分野なんかもそうですし、本当に日進月歩で新製品がたくさん出てくる中で、ものすごく多品種を生産されていらっしゃると聞いています。それだけ多くのものを作り変えていくというのは、やっぱり工場の機動性が高いということなんでしょうか?
榮村 工場の機動性というのは、製造部門はもとより、技術部門がスピーディーにいろんなことを改良して工場へフィードバックするという連携がやっぱり一番大事ですよね。あとはお客さんとのインターフェースは営業部門があって、それをインプットして、工場で作る。そのチームとしての連携が一番重要なところで、社風でもあると思います。日頃からフランクな会社でして。そういう仲の良さみたいなところが活きた工場というか、スピードにつながってるんだと思います。
原田 工場っていうと私の中で勝手なイメージですが、いろんな機械みたいなものがあって、職人さんがいてっていうイメージがあるんですが、きっと「大阪有機化学」の金沢工場はそうじゃないんだろうなって話を聞いて思いました。工場の中はどんな感じなんですか?
榮村 一般的な工場でスケールは大きいですよ。いろいろな設備が入っています。化学薬品を混ぜているところはほとんど人の手を入れてなくて、機械が全部やっているのを監視するという感じです。
金沢工場内の製造プラントの様子。制御装置により自動化されている。
原田 金沢工場の一番の特徴ってどういうところですか?
榮村 やはり少量多品種でいろんなものを作っているところでしょうか。お客さまのニーズに応じていろんな用途がありますので……例えば電子材料でしたらすごくクリーン度や品質の高さを要求されますし、化粧品関係は常にお肌に接するものですから原料の管理を厳重にしています。一方、化成品であれば大量生産なので、どちらかといえばスピードを重視するとか。お客さまのニーズに応えるっていうのがやっぱり大事ですね。
Tad 半導体に求められる化学品は、きっとものすごく精度が高いものですよね。世界の7割をあの工場で作ってるということであれば、管理レベルが非常に行き届いていらっしゃるのだと思います。高品質を実現する秘訣をちょっとだけ何か教えていただけませんか?
榮村 お料理をされる方は多いと思うんですが、例えばフライパンで野菜炒めを作るとすると、野菜を切って調味料も入れますよね。その調味料を入れる工程を常に数値化して、トレンドを見る。今回の味はちょっと濃いよね、薄いよねっていうことがあれば、入れる塩を常に計測してそこを一定にする。なおかつ、フライパンの温度、湿度も常にトレンドを見ておく。今日の作り方、明日の作り方、明後日の作り方を常にウォッチしながら、というのが品質の要です。当然、食材や原料関係の管理は厳重にします。
原田 工場自体が整然としていそうですよね。
榮村 そうですね。「整理・整頓・清掃・清潔・しつけ」という弊社の5S活動を基にしたOYPMという活動があります。大阪のO、有機のY、プロダクティブのP、メンテナンスのM。この四つの頭文字を取った生産保全活動の総称です。これがもの作りの基本であり、品質を守る基礎はそういうところにあると思ってます。
Tad やっぱり良い品質、良いもの作りは、整理・整頓・清潔から……
原田 たしかに料理もそうだなと思って聞いていました。どこに何があるかわからないような感じだと、いいものなんてできないですよね。そういう中で榮村さんは工場長として普段どんなふうにお仕事をなさってるんでしょうか?
榮村 私の仕事は基本的に、何もないです。
原田 ええ?! そんなことないでしょう(笑)。
榮村 (笑)。私は基本的には掃除するかゴミ拾いかという感じですよ。
原田 今日はジャケットを着ていらっしゃいますが、現場では作業着みたいなものを着ていらっしゃるんですよね?
榮村 そうですね。朝と昼から2回ぐらいは現場を回って、みんなとしゃべります。
原田 みんなとしゃべる?
榮村 はい。従業員というか仲間と一緒に製造してるので、しゃべるのがすごく楽しいですよね。
Tad どういうことをお話しされるんですか?
榮村 品質についてであったり、製造の工程だったり、家族の話だとか全然仕事とは関係ないこともしゃべったりしますよ。
原田 フランクな社風だとおっしゃられましたが、まさにそういう感じなんですね。
榮村 そうですね、むしろトラブルが起きたときによくしゃべります。やっぱり現場が命ですので、現場でみんなに作ってもらう商品が最後にお客さまに届きますから、空気作りが大事ですよね。

ゲストが選んだ今回の一曲

BILLY JOEL

「Honesty」

「小学校の頃に、兄がどなたかからいただいたこのレコードが自宅にあって、それを初めて聴いたのが印象的でした。その後はラジオ番組のベストテンをずっと聴いていました。私の洋楽のスタートはこれでした」(榮村)

トークを終えてAfter talk

Tad 今回はゲストに、『大阪有機化学工業株式会社』常務執行役員兼金沢工場長の榮村 茂二さんをお迎えしましたけれども、いかがでしたか、原田さん?
原田 はい。特殊アクリル酸エステルっていう言葉は私、今回初めて口にしたんですが、実はそんなにも私たちの生活の身近なところに使われているっていうことにすごく驚きました。整然とした工場から素晴らしい製品が生まれるということだったので、我が家のキッチンも片付けなきゃなと思いました(笑)。Mitaniさんはいかがでしたか?
Tad 現代のもの作りに欠かせない重要なアクリル酸エステルの、さらに高品質な特殊品を、しかも世界トップシェアの製品を作っているという工場ですし、本当にシビアな工場長さんですから、すごく厳しい方なのでは? という先入観を持つ方もいらっしゃるかもしれませんが、榮村さんは本当に優しくて穏やかで、温かい方だなと思いました。
そして、OYPM活動。工場をきれいに、整然と使いやすい状態を保つとか、もっと言うと、そういう環境を社員のみなさんが自分たち自身で作ることを日々楽しいこととして取り組んでいらっしゃるとか、それから現場の方々とプライベートなところも少し踏み込んでお話をして、いざ何か問題があったときにも話しやすいような雰囲気を作っているというお話もありました。「工場長の仕事っていうのは特にないんですよ」とちょっと冗談っぽくおっしゃっていましたが、もの作りの工場長が作っているものというのは、環境、雰囲気であったり、その先にある人なんだろうなというふうに感じました。

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