後編

チャンピオンカレー、次の50年へ。

第6回放送

株式会社チャンピオンカレー 代表取締役社長

南 恵太さん

Profile

みなみ・けいた/1985年、石川県金沢市生まれ。カリフォルニア大学サンディエゴ校経済学部卒業。2009年に証券会社入社。その後、東京都内の外食企業などを経て、2013年1月カリフォルニアチャンピオンカレーに入社。同年7月から常務、2016年10月代表取締役社長就任。創業3代目、趣味はネットゲーム。

チャンピオンカレーWebサイト

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Tad 前編では『チャンピオンカレー』の歴史や金沢カレーの成り立ちを伺ってきましたが、今回は企業としての『チャンピオンカレー』が、2013年に南さんが入社されて以降、どんな変遷を辿ってきたのかについて、もう少し深堀りしたいなと思っています。まず最初にシステム化や会社の体制を整えていくことに着手されたのは、客観的に見てそれが必要だと思われたからですか?
少々詳しい話をするとですね、僕は最初、工場長になるはずだったんです。工場長になって数年経験を積んで、という話でしたが、社内の会議に出席して話を聞いていると、「ちょっとこれ違うんじゃないのかな」、「これ、あまりにも抜けてないか」という事が色々とあって。当時、一般社員だったんですけど、工場で一緒に働いていた人に、なぜこうなったのかという経緯を聞いたり、問題だと感じることを言ってもらったりしながら、半年弱、会社を眺めている期間があって、徐々にこの会社をどうしていこうかなって考えていくようになりました。今、うちの中核メンバーには僕の入社後に入ってきた人間が半分ちょっといるのですが、彼らや、触発されて意識の変わったスタッフと、一緒に悩みながらここまで来ているようなカタチです。
流通する全量を製造する白山水島工場。SGS-HACCP規格を取得している。
Tad 社員さんにとっての、こんな会社でありたいというビジョンを共有しながらでしょうか。
実はまだビジョンを策定するような大きい話には至っていないんです。今、こういう働き方がしたいよねとか、お店って今はこうだけど本当はどうあるべきなんだろうかとか、どうしたらもっとお客さんに喜んでもらえるのかとか。僕たちのお客様って一般の方だけではなくフランチャイズのオーナーもお客様なので、彼らがどういう風に儲かるのかとか、バランスはどうするべきなのかとか、そんな話を繰り返して今に至っているような気がします。僕一人が変えたというよりは皆の話を聞きながらやってきたというのが実際のところです。
Tad 会社の社員さんたちとの対話の中で、課題のかけらみたいなものや、どうあるべきなんだろうという等身大の問題を共有して、南さんご自身がそこを拾いあげていくイメージですね。
はい。格式ばった会議はやらず、2週間に一度だけ、それぞれが今やっていることの棚卸しだけしようね、と言ってミーティングをするのですが、それも議題がなければ15分ほどで終わります。そういう風に行き着いたのも、改まって「経営会議を始めます。どういう課題があると思いますか?」とやっても、相当しっかりした会社ならいざ知らず、うちみたいな小さな所帯には、「あの話なんですけどー」みたいな気軽な感じの方が生の声を拾いやすいんです。僕たちの場合は、その時に出てくる意見の方が本質が見える気がしていて。
原田 発言しやすい状況の中で、本音が出るみたいなことでしょうか。
そうですね。僕が戻ってきた当時は、昨年同日対比で何%かずつ落ちていた時期だったんですね。飲食店って何も手を打たなければ最大で3%ぐらいのマイナスがずっと続いていく業界なので、これは販促の手を打たねばということで皆と話をしました。直営店もフランチャイズも構成比の7割はLカツで、ものすごく強いメニューなのですが、自分がお客さんの立場だったら、別のメニューもたまにあれば1回ぐらいは頼んでみようかなってなるじゃないですか。他社さんのお名前を挙げますが、僕たちがお手本にさせていただいているのがマクドナルド様。秋になると必ず月見バーガーが登場しますが、固定ファンなら、その時期、一回は月見バーガーを食べにマックに行こうかなってなる。もちろんマーケティング担当の方が意識的にされていることですが。その事例から、我々も、インパルシブというか、その情報に触れた瞬間に、あ、行ってみたいという衝動的にかられる強さがメニューには必要だよね、露出も増やさないとね、やっぱり目に飛び込んでくるような引っかかりのあるメニューがいいね、となるわけです。色々と試しましたが、Lカツが特別に強いので、新規メニューを出しても売り上げ状況が一変するほどには売れないんです。構成比で15%あればすごく売れた部類なので、まずそれをきっかけに来店していただいて、次にLカツも試していただいて、固定ファンになっていただければそれでいいじゃんという流れですね。
Tad なるほど。
写真を用意させていただいたのですが、このメニューは「ビッグなカツカレー」と言います。
「ビッグなカツカレー」。この後、本物の駄菓子のビッグカツを揚げたてトッピングしたメニューも実施。
子供の頃に食べたビッグカツって駄菓子があるじゃないですか。広島のスグル食品さんという僕たちよりずっと大きな会社が扱っている有名な駄菓子ですが、この商標を使っていいですかって聞いたら、いいよって言ってくださったので、じゃあビッグカツカレーをやってみよう、と。
なぜこのビッグカツを始めたのかというと、Lカツは脂身の少ない健康的なロース肉を使用しているのですが、僕は5回に1回くらいは脂がじゅわーっと出るようなカツを食べたいと思っていたんです。Lカツとの違いを出すために脂の多い部位を使用するとなると、バラ肉なんです。バラカツと銘打って新メニューで打ち出したら、脂も多いし、引っかかる人もいるんじゃないかと思って作ってみたところ、厚切りベーコンのような特徴的なカタチになると言われました。その時に、当社ではツイッターの広報活動に力を入れているのですが、スグル食品さんとうちの広報がビッグカツに似ていると盛り上がった様です。それをご縁にダメ元でスグル食品さんにビッグカツとつけて売っちゃダメですかと聞いたところ、いいよ、とご快諾のお返事をいただきました。先方のツイッター担当の方も当時27歳くらいで僕たちと同世代の方だった様です。ただビッグカツそのものではないので、「ビッグなカツカレー」と名称は少し変えてお出ししています。
Tad 確かに目を引くメニューです。他のメニューも一つひとつがとてもユニークですね。チーズフォンデュ風野菜カレーとか。
これはもう完全に女性のお客さんの反応を狙いました。
原田 グッときますよ。やっぱりこういうのを見たら食べてみたいなと思います。野菜カレーならヘルシーだよねとか、チーズフォンデュだなんていいね、絶対おいしいよねと話題になります。
そう思っていただきたいと狙ったりはしますね。「受験にカツカレー」というメニューも作ったんですね。これは、Lカツ、カツカレーって縁起がいいよね、と言ってくださる方が多いこともありますが、裏テーマもあります。本店は金沢工業大学の学生さんがいらっしゃることが多くて、以前は先輩年次の生徒さんが通過儀礼的として後輩の生徒さんを弊店に連れて来て頂くような、ある種の体育会系的な土壌がありました。ただし現在では生徒さん方の質も大きく変わり、そういった通過儀礼的来店は減少しています。僕たちは1回、2回食べてもらえば刺さる方は絶対にリピーターになってくださると自信を持って出しています。ただ、最近では、その1回、2回のトライアルが発生しづらいんですね。のぼりに「受験にカツカレー」と銘打って出せば、成人式が終わった頃から、センター試験を終えて、志望校に受験に来られる方々が来てくださる。そうすると、藁にもすがる思いで行ってみようかと思ってくださる方もいるわけです。来ていただければ晴れて合格された後も印象に残るんじゃないかと。これも企画会議というほどのこともない場で誰かが言い出して、こうかな、ああなんじゃない、と話が出てきた流れでしたね。
原田 先ほどツイッターの話がありましたが、SNSの活用も力を入れていらっしゃるのでしょうか。
はい、そうですね。会社としてSNSに力を入れていますと公言していますが、これもたまたまです。元々、前職で京都のベンチャー企業に勤められていた方が、今、うちの中核社員の一人なんですけど、彼がベンチャー企業時代に公式サービスのいわゆる中の人をやっていたんですよね。経験があるので、足しになるか分からないけどやってみよう…と始まった感じです。
Tad そういう偶然の出会いから。
僕の個人的な目標として、社員のこういうことをやりたいという自発的な思いに関してはできる限り尊重したいなと思っています。SNSに関しても本人がやりたいと思ってやっていることなので、僕は内容に対しては一切口を出さないと決めています。コンプライアンス上、差しさわりのあるよっぽどのことには気を付けて、ということと諸事情で止めてほしいです、ごめんなさいという時はあるかもしれないよ、というのは前もって言ってあるんですが、今までそれで止めたことはないはずです。
Tad 聞いていると自由な社風で、社員さん一人ひとりのこういうことをしたいという思いを汲み、形にするところをそっと支えてくれる社長さんっていう印象です。
そうなるといいなって思っています。すごく自発性の強い会社だとは思ってないのですが、一つひとつをきちんとカタチにしていくことで、後に続く社員が出てくるんじゃないかなという風には思っていますね。
Tad 社員の方々がうらやましいですね。
原田 そうするとまた新しいアイデアが出て、今後も一人ひとりのやりたい思いが採用されて、それをみんなが追うというようなことが起きてくるのかなと。
そうですね。今、『チャンピオンカレー』は50年を経て、次の50年をどうしていこうか?という問いをみんなで考えているところです。その中で方向性は一つではないと思っていますし、突発的に出でてきたものが実はすごく可能性を広げてくれる場合もあると思っているので。突発性、偶発性みたいなものを生かせるのがやっぱり中小の強みだと思います。これからも自由な発想を大切に成長できたらいいですね。

ゲストが選んだ今回の一曲

GRAPEVINE

「FLY」

「前編に引き続き僕の好きなGRAPEVINEの中から選びました。本当に勢いのいい曲で、好きな曲です。ちょっと破れかぶれ感もある。カオスを含んだまま、とにかく勢いだけは大切にしようという気持ちでこれからも突っ走っていこうと思います」

トークを終えてAfter talk

Tad 2回にわたってチャンピオンカレーの南恵太さんにお話を伺ってきました。社風や歴史などいろんなものが伝わってきましたね。
原田 そうですね。クールな分析をされる一方で、すごく人を大切にする方だなっていうのを感じましたね。お客さん、フランチャイズの方、社員さん、それぞれを尊重していらっしゃるなって。
Tad すべての従業員さんだけでない、フランチャイズの方だけでない、お客さんだけじゃない、全部を見ていらっしゃった、そんな感じがしましたよね。
原田 Mitaniさんは何か気づいたこととかおありですか?
Tad チャンピオンカレーのワクワクする、楽しいことが次々と起こっていく、そういうイメージを南さんご本人からも感じました。何か新しいことを始める時に、トップダウンで「社長がこういったからやるぞ」ではなくて、社員の皆さんの意見を尊重し、考えの深い部分を一緒に探っていく姿勢はなるほどと思うところがありました。偶発的な出来事や思いがけない出会いを生かしながら進まれる点は、まさに偶発的に始まった『チャンピオンカレー』という会社の根幹で、それが今も強く生きているんだなと感じました。またそういった姿勢は新世代の後継者のスタイルとして、新しい経営の一端を見せてもらったような感じがします。

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