前編
ガソリンスタンドの「エンジン」は、「人」である。
第84回放送
株式会社三谷サービスエンジン 代表取締役社長
本村幸宏さん
Profile
もとむら・ゆきひろ/1964年、石川県金沢市生まれ。1983年、石川県立金沢西高等学校卒業。1991年、『三谷石油サービス株式会社(後の『株式会社三谷サービスエンジン』。創業は1963年。石油および車両保険等の販売)』入社。ガソリンスタンドのマネージャーを歴任し、2003年、取締役部長に就任。2008年に専務取締役、2012年より現職。
三谷サービスエンジンWebサイト
Tad | 今回のゲストは『株式会社三谷サービスエンジン』代表取締役社長、本村幸宏さんです。『株式会社三谷サービスエンジン』といえば石川県内でもENEOSを多数手がけていらっしゃいますが、どのくらいのガソリンスタンドを……これは「SS(サービスステーション)」と言ったりもしますが、どのくらいの数のSSを運営されているんでしょうか? |
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本村 | 現在は16のSSと整備工場を1つ運営しています。 |
Tad | なるほど。ガソリンスタンド業としての存在感でいうと、石川県内だとそれなりに大きいのでしょうか? |
本村 | そうですね。規模数で言うと1、2を争うような数になっていますね。 |
Tad | 会社創設が1963年ですから長年続けていらっしゃるということになりますが、ここまで大きくなっていく経緯を教えていただけますか? |
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本村 | セルフスタンドの解禁とともに「SSをとにかく作れ」という時代が平成10年以降にありまして、全体的にかなり増加した時代がありました。その時に当社のSSも24まで伸びましたが、そこから5年ぐらい経ってガソリンの販売量のピーク期が来まして、以降は減少していく時代になりました。それに伴って、不採算のSSは閉めていって現在に至ります。 |
Tad | 全国でもある時期にガソリンスタンドがたくさん作られましたが、車の燃費が良くなったり、車の数そのものが減っていったりして、SSも最盛期ほどの数ではなくなりましたよね。 |
本村 | かつては全国に6万SSがありました。現在は3万を切っています。 |
原田 | もう半分以下ということなんですね。 |
本村 | この15年の間でです。 |
Tad | ところで、御社以外のガソリンスタンドも、同じENEOSの看板を掲げているわけですよね。売り物も同じと言えば同じ、という中で、『株式会社三谷サービスエンジン』らしさというのは、どういう部分にあるんですか? |
本村 | そうですね、やはり「人」でしょうか。 |
原田 | 人? |
本村 | はい。人を介したサービスを提供していくというところが、他社との大きな違いだと思います。といっても、他社にももちろん人はいらっしゃいますが、コミュニケーション能力という点においては当社がずば抜けていると自負できます。 |
原田 | 御社のスタンドには、セルフサービスのスタンドと、そうじゃないスタンドがあるということですか? |
本村 | そうですね、セルフサービスのスタンドの他に、従業員が接客を行うフルサービスのスタンドも運営しております。 |
原田 | なるほど。ガソリンスタンドの所で「いらっしゃいませ!」と元気よく声をかけて下さる方がいて、「どうしましょうか?」って聞いて下さるようなスタンドですね。 |
本村 | 当社としては、フルサービスのSSもセルフサービスのSSも形態が違うだけで接客は変わらないんです。「すべてはお客様のために」という企業理念があり、フルもセルフも、サービス内容はまったく変わりません。 |
原田 | 私の体験としては、セルフのスタンドに行くと、ほとんどスタンドの方とは顔を合わせることがないのですが、そうじゃないということですね? |
本村 | そうですね。フルもセルフも必ず人がお客様の元へ行ってご要望にお応えするというのが、当社のスタイルです。 |
原田 | 使い方がわからないとか、こういうものが欲しいんだけど、とかそういったことにも対応していただけるんですか? |
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本村 | そういう体制を取っております。 |
原田 | そうなんですね。 |
Tad | 「人」という強みはどういうふうに表れるのでしょうか? |
本村 | お客様からの信頼度と言いますか、いろんな面でお客様から「ありがとう」と言ってもらえる機会が多いということを常々感じています。一時期は「ありがとうキャンペーン」という取り組みをしたこともありました。お客様に「ありがとう」といかに言っていただけるか──言葉で言っていただけることもですが、手を上げて態度で示すお客様もカウントしていきましょうとチャレンジしたこともあります。どうお客様に満足度を提供できるかを常に考えて行動するというのが弊社のスタイルなのかなと思っています。 |
Tad | 例えば、どういうところでお客様は満足されるんですか? |
本村 | 洗車の仕上がり具合でしたり、あとはコミュニケーションをとって、最後に笑って帰っていただくところを一番重視しています。ありきたりの接客ではない、お客様の懐に入るような接客を行うように心がけていますし、その観点で言えば、当社はずば抜けているのかなというふうに思っています。 |
Tad | どれだけずば抜けているのか、やはりお聞きしたいですね。 |
原田 | 例えば、私がガソリンスタンドに来たとしましょうか(笑)。来店したらまずは迎えていただいて、そこで一度、笑顔がありますよね。いつもの知った顔であればさらに笑顔になると思いますが。それから、どういう感じでサービスが続くのでしょうか? |
本村 | それなりにご来店の回数を重ねていただいていたら「この前はこうでしたよね?」という形で提案をさせていただくことがあります。 |
原田 | 以前のことをインプットして、このお客さんにはこういうニーズがあるなというところまで提案できるということですか? 例えばタイヤもそろそろ減ってきている感じだなとか、そういうあたりを見ていたり? |
本村 | はい、もちろんです。お客様のことを理解して、その繰り返しで、スルメイカのように「噛めば噛むほど味が出る」というのが当社のサービススタイルです。 |
Tad | 車のことばかりじゃなくて、例えば家族構成とかも結構、頭に入れているセールスの方もいらっしゃるそうですね。「お子さんの受験、どうだったんですか?」とか。 |
原田 | そんなことまで? |
本村 | ええ。お客様のご趣味まで。はた目には無駄話に思えるかもしれませんが、給油や洗車の間でも、私たちにとっては情報収集させていただける時間でもあります。その積み重ねですよね。 |
原田 | なるほど。そういう人なら車に関することも信頼して、例えばこれを変えた方がいいよと言われると、「あ、そうだろうな」と思えるところはありますね。 |
本村 | そうですね。そこがやはり他とは違うのかなというふうに自負しているところです。 |
Tad | 石川県内、北陸、中部地方というエリアにおいては、『三谷サービスエンジン』は『ENEOS株式会社』にも認められていますよね。聞くところによると、『ENEOS株式会社』が何か新しい取り組みを始める時には、必ず『三谷サービスエンジン』に最初に声をかけていただけるそうなんです。 |
原田 | そうなんですか! それはもう絶対的な信頼を得ていらっしゃるということですよね? |
本村 | 今まで培ってきた実績と信頼、そういったものを踏まえて、最初に声をかけていただけているというのは、本当にありがたいですね。 |
Tad | それから、日本各地でサービスのレベルを競うコンテストがあるそうですね。コンテストでは優勝常連だとか? |
本村 | 最近はコロナの影響でコンテストがないんですが、それまではほとんど入賞、優勝を繰り返していました。5連覇させていただいたこともありますね。 |
Tad | 他社がビデオカメラを持って撮影に来て、研究されているらしいですね。 |
原田 | 多分、本村社長にとっては当たり前のサービスなので、特別なことと思っていらっしゃらないかもしれませんが、そこはやっぱり差があるわけですよね、きっと。 |
Tad | 何かあるんでしょうね。 |
原田 | ところで本村社長が最初に『三谷石油サービス株式会社』に入社されて、その後、2001年に『株式会社三谷サービスエンジン』に社名変更していますが、いずれも社名には「サービス」というのが共通していますね。これはキーワードになっていますか? |
本村 | 当社の社名は、もともとは『三谷石油サービス株式会社』で、創業者である三谷進三前会長が付けました。社名を変更するにあたり、この「サービス」を入れるか否かさまざまな案があがりましたが、お客様に心地よい「サービス」を提供し、「納得」して頂き、利益を得て企業の「なりわい」としていく。有償無償のサービスがありますが、お客様に「本物」を提供していく。この事が当社の掲げる「すべてはお客様の為に」の企業理念に繋がっており、まさにこの「サービス」と言うキーワードを残した社名に意味があると思っています。 |
Tad | ところで、ガソリンはCO2を排出するということで、今の社会ではすごく悪者になっていますよね。このままガソリン車が減っていく未来が来るかもしれませんが、それでも大丈夫なんでしょうか? |
本村 | そうですね、ここ十数年に亘って「近い将来、そんな状況になるだろう」と予想して企業体質の強化、改善に取り組んでいます。 |
Tad | ガソリン車がなくなっても車自体は使われていくわけで、そこに対してカーケアと言いますか洗車や保険、タイヤのことなど、いろんなサービスをしていくことが軸なんだということが社名に表れているのかなと思いました。 |
原田 | ガソリンスタンドって「ガソリンを入れるところ」という意識が私たちの中にはメインとしてありますが、それにまつわるものっていろいろあるわけですね。そのうち世の中は電気自動車がメインになっていくんでしょうか? |
本村 | 全部が電気自動車になることはないと思いますが、これから起きるであろうことが発表されています。例えば「2050年カーボンニュートラル」という問題もありますし、「グリーン成長戦略」の中では2035年にはガソリンエンジン単体での新車販売を中止するということが決まっていますから、それに向けて今後どうして行くかということも視野に入れた展開をしていかなければいけないですね。 |
原田 | 設備とかもすべて変わってきますもんね。随分前から見据えて準備してこられたんですか? |
本村 | 今後の展開というのは変わっていくだろうし、それに対して我々はどう準備していくかということにも今まさに取り組んでいる最中です。 |
ゲストが選んだ今回の一曲
サザンオールスターズ
「東京VICTORY」
「実はデビュー当時から衝撃を受けてサザンオールスターズのファンクラブに入っております。会社の経営者としてどうモチベーションを上げたらいいのかと悩んだ時に、毎朝これを聴いて通勤していた時期があったんです。本当に拳をふり上げて、やるぞっ!という気持ちで出勤していました」
トークを終えてAfter talk
Tad | 今回はゲストに『株式会社三谷サービスエンジン』代表取締役社長、本村幸宏さんをお迎えしましたけれども、いかがでしたか、原田さん。 |
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原田 | ガソリンスタンド選びと言うと、ガソリンの値段が安いとか家から近いとか、そのくらいしか選択肢がなくて、サービスで選ぶということを考えたことがなかったんです。でも、サービスのコンテストで5連覇するというお話を聞いて、それは体験してみたいなと思いました。Mitaniさんはいかがでしたか。 |
Tad | ガソリンスタンドの業界には『ENEOS』とか『出光』といった会社がありまして、それは「元売り会社」と呼ばれるんですが、やっぱり油をたくさん売りたいわけですからセルフサービスのお店を増やす政策を取ったんですね。セルフだとお客様との接点が薄くなってしまうのが当たり前と思われますが、でもそれは、本当は当たり前ではないんです。セルフかフルサービスかではない。『株式会社三谷サービスエンジン』はセルフの人材もフルの人材も、普通に異動があるそうです。業界では当たり前でないことでも、『株式会社三谷サービスエンジン』にとっての当たり前を作ってこられたから今の存在感があるのかなというふうに感じました。 |