前編

ありそうでなかった未来をつくる。

第94回放送

株式会社コネル金沢

代表取締役 宮田 大さん

Profile

みやた・だい/1985年、石川県金沢市生まれ。大学時代の友人とともに、2011年、『株式会社コネル』を設立。2018年から同代表。ブランディング、デザイン、広告、自社アート制作のクリエイティブディレクション、アートディレクションなどに携わる。主な受賞歴として、グッドデザイン賞、ACC賞、金沢ADC新人賞など。

インタビュー後編はこちら

Tad 今回のゲストは『株式会社コネル金沢』代表取締役、宮田 大さんです。まず、何をやっている会社なんでしょうか?
宮田 ひと言で表すのがすごく難しいんですが、「未来のことを作っていく」ということをキーワードにしています。「まだ世の中に存在していないようなものを、未来にこういうものがあったらいいよね」ということを作っていく、ということをやっています。
Tad 一般的にはデザイン会社のようにも見えるし、広告会社のようにも見えるし、はたまたアーティスト集団にも見えるし、いろんな側面があるような感じがしますけれども、確かに一般的な言葉では表現できないですね。
宮田 そうですね。昔はよく「ヘンテコデザイン事務所」なんて言ってましたが、いろいろメンバーで話し合った末に、「僕たちがやってきたことは未来を創ることだよな」というところにたどり着きました。主に3つのスタイルがありまして、まず1つがブランディング、もう1つがR&D(Research and Development)、もう1つがアート。その3つとも「未来」をキーワードに、いろいろなモノづくりをしています。
Tad お客様は企業ですか?
宮田 企業が多いです。
Tad 企業だけではないということでしょうか?
宮田 お客様がいないけれどもやってることもあります。
原田 3つの中でわからないものが1つありまして、「R&D(Research&Development)」というのはいったい何でしょうか?
宮田 Research&Developmentの略語で、平たく言うと研究開発です。
原田 研究開発。なるほど。未来のもの、今はないものを作り出していく、ということでしょうか?
宮田 はい。R&Dは基本的に未来のことが多く、一緒に取り組ませていただくことが多いです。
Tad 携帯電話のメーカーだったら、例えば新しいデザインをどうしようか、形をどうしようか、どういう機能にしようか、みたいなことを研究開発されていたりしますよね。おそらく御社の研究開発、R&Dって、まったく違うような、もっと「未来デザイン」みたいなものになるんじゃないでしょうか?
原田 「思ってもみないようなこと」ってことでしょうか?『株式会社コネル金沢』は、いろいろなところに拠点があるんですよね。
宮田 はい。国内では東京と金沢の2か所で、あとはベトナムのカントーという、ホーチミンからバスで3時間ぐらい行ったところにある町と、ベルリンにも拠点があります。
原田 というのは、それぞれの地にスタッフの方がいらっしゃるということですか?
宮田 そうですね。ベトナムに関しては、投資させていただいていて、そこにラボがあります。
原田 ラボ、研究所みたいな?
宮田 モノづくりのラボがありまして、うちでインターンをしていた者がそこで代表をしています。
原田 いろんな方が集まっている会社なんですね。
宮田 そうですね。いろんな国籍で、年齢も若い子だとたぶん20歳くらいでしょうか。大学のインターンの子がすごく若くて20、21くらい。上は大体、最年長で40才ぐらいです。
原田 もともとは3人の大学の友人同士で作った会社なんですね。それぞれにいろいろな得意分野をもっていらっしゃる方たちなんでしょうか?
宮田 僕はデザイン、アートディレクションが得意ですが、例えばビジネスが得意な者がいたり、おもしろいところでいうとYouTuberがいたり、洋服を作る子もいたり。
Tad 様々なバックグラウンドの方がいらっしゃるんですね。例えば、どういうものを作っているんですか?
宮田 先日、「サイバー和菓子」というの作らせていただきました。
Tad サイバー和菓子?
宮田 低気圧とか高気圧というものを和菓子として3Dプリンタで作っていくというものです。
気候データ連動型3Dプリント和菓子「サイバー和菓子」
原田 なぜ和菓子なんですか?
宮田 日本って四季がありますよね。和菓子は季節を楽しむために生まれたというような説がありまして。
原田 四季を写し取ってるような感じがしますよね。季節にぴったりのモチーフで。
宮田 そうですよね。それを「2020年のテクノロジーを使っておもしろいものを作ろうとしたらどうなるんだろう」と考えたことが発端です。
原田 何を感じ取ってもらおうと作られたんですか?
宮田 地球の温暖化が叫ばれていますが、それを耳にするだけではあまりピンとこないですよね。例えばデータさえあれば80年後に巨大な台風が来るかもしれないということがわかり、それをなおかつ和菓子で形作ることによって食べることにより、さらに具体的に思いを馳せることができるという感じです。
原田 なるほど、目で見て「うわっ」と驚くようなインパクトがありますよね。
宮田 さらに、食べるとおいしいんですよね。
Tad 和菓子の持っていた意味を現代の気候問題、環境問題にすごくうまく結びつけて、ちょっと「うまい」感じですよね。
原田 そして美しいですしね。
Tad 「サイバー和菓子」屋さんではないですよね?
宮田 そうですね、創作のうちのひとつです。
Tad ほかにはどういったものがありますか?
宮田 「ゆらぎかべ」というものを作っていまして、外の風が入ってくるときにカーテンが揺らぎますよね。ああいうような形で外の風に反応して家の壁自体が揺らぐっていうような壁を作ったりしています。
部屋の外を流れる風に反応する「ゆらぎかべ Breathing Wall」
原田 壁といえば、硬くて外の暑さや寒さから身を守るみたいな意味合いがありますが、ガラッと意味合いが変わりますよね。
宮田 そうですね。これは未来から逆算して考えています。未来の生活者のことを考えると、例えば50階、60階の高層階だと窓がどうしても開けられないとか、あとはシェルター、はたまた宇宙、宇宙ステーションに行ったときに壁を開けて風を感じることってできないので、すごく閉鎖的で自然を体感できなくなってしまうと思うんですが、こういうものがあれば、自然を体感できますよ、というものです。実家の風を宇宙に転送して、実家では今こういうふうに風が吹いているんだということを感じたりもできます。
原田 えっ、それはデータみたいなもので送信するんですか?
宮田 風が吹いていて、それを受け取って、データにすることさえできれば、どこにでも転送することはできるという仕組みにはなっています。
原田 そのとき実家で吹いている風速や風の感じ方を、そのまま宇宙で再現できるということですか?
宮田 そうです。
Tad おもしろいですね。風を宇宙に転送だなんて。今のお話は「コネル」としてのアート作品というよりは、クライアント企業がいらっしゃるようですね。
宮田 クライアントというより、協働ですね。例えば今回の「ゆらぎかべ」に関しては「パナソニック」と一緒に作らせていただいてます。
Tad 「パナソニック」側の狙いはなんでしょうか?
宮田 これは「Aug Lab」っていうプロジェクトです。機械などの拡張性をどんどん深めていこうというようなプロジェクトで、私たちとしてはそういった形で人間の生活の拡張というところに合わせていけないかということで、このようなことを考えたわけです。
Tad それで未来を想定してみると、壁が開けられない世界だったりするから、自然を感じられるような原材や壁、建築を、ということですね。おもしろいですね。
原田 すごいですね。未来の話もあれば、すごく身近な話題もあって。私はWebサイトを拝見したときに、「オノマトペのおやつたち」がすごくおもしろいなと思いました。音が出るということに特化した切り口でお菓子を考えられたんですね。
全国の生産者とオノマトペを商品名にしたおやつを開発した「オノマトペのおやつたち」
宮田 スタッフにやんちゃ盛りの子どもが二人いる女性がいまして、おやつを子どもたちと一緒に食べる時間がいつも楽しみだって言っているんですが、現実はそううまくいかないらしくて、おそらくあんまり楽しくないようなんです。いろいろ話を聞いていくと、どうやら本当だったら一緒にホットケーキなんかを作ったりして楽しむようなのが理想だけど、現実は泣きわめいたりしちゃってうるさいから、とりあえず何か食べさせておこうか、というような状況のようで全然楽しくないと言うんです。
おやつってもともとコミュニケーションをとる時間のはずなのに、全然そうじゃなくて、むしろコミュニケーションがなくなっていると。そこで、お互いにコミュニケーションが取れて楽しくなるようなおやつがあるといいよねという話で生まれたのが「オノマトペのおやつ」なんです。一説によると、人間が最初に話すのがオノマトペなんじゃないかと言われていますよね。
原田 繰り返し言うような言葉ですね。
宮田 オノマトペを使えば、小さい頃からコミュニケーションがとりやすいというのを切り口にして作ったんです。
原田 なるほど。だからこれは「カリポリ」だよ、だとか、食べた時の音がそのままそのお菓子の特性になっている。子どもは喜びますよね。
宮田 喜んでくれるといいなと思っています。
Tad 変わった音感だったりもするんですか? 
宮田 基本的には僕たちが試食しておいしかったものを商品化しようということにしているんですが、僕たちの中で「カリカリ」候補のお菓子がありまして。豆菓子を食べていて、僕たちは「これはカリカリだね」というふうに、「カリカリ」で行こうかなと考えていたんですが、先ほどのスタッフの子どもに食べてもらったところ、「これはカリカリというか、これはカリコリだね」みたいなことを言っていて、あ、なるほど、僕たちも食べてみたらこれはたしかに「カリコリ」かもしれない、となったんです。それで、さらに話をしていくと「カリコリ」というよりもこれは「コルコル」だねと。
Tad 初めて聞きました。「コルコル」。
宮田 そんなふうに新しい擬音語が生まれたのがおもしろくて、この変わった聞き覚えのない擬音語自体を商品の名前にしてしまおうということで、その豆菓子の名前は「コルコル」になったんです。
原田 「コルコル」(笑)。気になります。すごく食べてみたいです。
Tad 未来を切り取って、先に体験させてもらっているみたいな、そんなお話を聞かせてもらいましたね。ブランディング、それから未来の研究開発(R&D)と、アートという多様なスキルを持っている人たちがそれぞれ力を掛け合わせて・・・「何の会社」って言ったらいいんでしょうね(笑)。
原田 一括りにもできないですよね、広がりがあって。
宮田 そうですね。なんて言えばいいのだろうというのはあるんですが、僕たちは未来とか未知というのをキーワードに、今までにないもの、未来にありそうなものを作っていく、ということを一つのオリジナリティとして持っています。
Tad ありそうでなかった未来を作っていくというような感じでしょうか?
原田 『株式会社コネル金沢』自体がそういう会社ですね!

ゲストが選んだ今回の一曲

Mf Doom

「DOOMsday」

「高校生の時にこの曲を聴いて、すごくかっこいいなと思っていました。昔DJなんかをしていたこともあって、こういう曲をかけていたんですけど、最近このMfDoomっていうラッパーが亡くなりまして、最近、聴き直してみるとやっぱりすごくいい曲だなと。こういう機会なのでみなさんに聴いていただけたらなと思いました」

トークを終えてAfter talk

Tad 今回はゲストに『株式会社コネル金沢』代表取締役、宮田 大さんをお迎えしましたけども、いかがでしたか、原田さん。
原田 お仕事の具体例をお聞きして、本当にもう、これまでにないようなおもしろくてワクワクするものばかりで。そのワクワクは何というか知的好奇心を掻き立てられるような感覚でした。未来に対して私たちに問いを投げかけてくるような内容だったなと思いました。
Tad 新しい製品というのは既存の製品のニューモデル、改良版でしかなくなっちゃうから、企業っていうのは未来の生活、未来に必要なものを考えて製品づくりをしていかないといけません。むしろ新しいカテゴリーの製品づくりをどの企業もやっていきたいわけです。その中で、『株式会社コネル金沢』のような会社と手を組んでいく必要があると思うんですね。「そもそも和菓子ってなんだっけ」とか「どういう意味を持っていたっけ」。「そもそも住まいってなんだっけ」、「おやつの時間ってなんだっけ」。まあそういった本質を追求していく中で、あってほしい未来の体験や、未来の生活を考える仕掛けを作っていらっしゃる。そんな感じがしますよね。その「答え」を作っているのではなくて、「問い」を作っている会社がこの石川県にあるっていうことは、私たちがすでに未来の入り口に立たされているということを意味しているのかなと感じます。

読むラジオ一覧へ