前編

一つのアイデアでドーナツにイノベーションを起こす。

第52回放送

株式会社ウフフ 代表取締役社長

志賀 嘉子さん

Profile

しが・よしこ/1983年、石川県珠洲市生まれ。ウエディングプランナーや出版社の編集長を経て、2015年、『株式会社ウフフ』を創業。「ママが子供に食べさせたいドーナツ」をコンセプトに、オリジナルドーナツを製造・販売する。一児の母。

ウフフドーナチュオフィシャルサイト

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Tad 今回のゲストは「ウフフドーナチュ」を作っていらっしゃる『株式会社ウフフ』代表取締役社長、志賀 嘉子さんです。僕も実は「ウフフドーナチュ」の大ファンなんですよ。東京出張がある時は『紀ノ國屋』で必ず買います。
志賀 ありがとうございます。うれしいです。
原田 『紀ノ國屋』にあるというと、「東京のドーナツ屋さんかな」と思う人も多いんじゃないんですか?
志賀 お店に来られたお客様から「東京のドーナツ屋さんが金沢にできたって聞いたんですけど、ここですか」って言われることも多いんです(笑)。逆輸入感を覚えながら、すごくうれしいなと思っています。
Tad 全国でも百貨店を中心に販売していらっしゃるということですが、「ウフフドーナチュ」の特徴はどんなところでしょうか?
志賀 1番の特徴はママの愛情がたっぷりなところです。
原田 完全に手作りということですよね。
志賀 はい。愛情たっぷりで手作りさせていただいています。
原田 母親って子どもに手作りのお菓子を食べさせたいと思うんですよ。憧れるんですけど、なかなか時間がなかったりして、そんなときにせめて手作りのものを食べさせてあげたいなっていうときに、この「ウフフドーナチュ」はいいなと思います。
志賀 ありがとうございます。昔と比べると共働きの家庭が増えて、お母さんの手作りのおやつを食べる機会がすごく減ったと思うんです。ウフフドーナチュは、スタッフ全員が主婦、その中のほとんどが子育て中のママなので、「ママの温かな手作りのおやつを子どもたちに届けたい」そんな思いで作らせてもらっています。
ママの愛情がこもった手作りドーナツが魅力。
Tad 東京でも普通に手にしていましたが、ドーナツは揚げ物ですよね。どうやって東京に送っているんですか?
志賀 揚げた後に冷凍をかけて、「焼成冷凍」の状態のものを出荷させていただいています。
Tad 金沢で作って、それを東京や全国に送られているということですね。
志賀 冷凍することで、賞味期限が延びるということが一つ、あとは解凍した後にしっとりして食べやすくなるという特徴もあります。
Tad あのしっとり感は焼成冷凍によるものなんですか?
志賀 そうなんです。しっとりとして食べやすいから好きだと言ってくださる方がすごく多いです。
Tad 僕もそうです。
志賀 ありがとうございます。冷凍しているからだというと、少し驚かれちゃったりするんですが。
Tad 不思議ですよね。
原田 ドーナツって揚げたてのイメージがあるから、ある意味、冷凍して解凍したおいしさがあるっていうのはなんだか不思議ですね。
志賀 揚げたてが好きという方ももちろんいらっしゃるんですが、必ず一回冷凍した後に食べるという方もいらっしゃるぐらいなんです。
Tad そして、種類が多いですよね。
志賀 150種類ぐらいあります。
Tad 150ですか!それは管理しきれないんじゃないですか?
志賀 忘れちゃうことが多くて、お客さんから「そろそろレモンの時期だから、あのドーナツ出ないの?」と言われて、「どんなのでしたっけ?」って聞くことがあります。「グレーズのコーティングで…」と言われて「そんなのありましたっけ?…あ、思い出しました!!近々作りますね。」ということもあります。
Tad 季節によって旬なものを盛りこんでいるんですね。
数ある種類のなかの一部、小さなスティックタイプのドーナツ「ミニドーナツバー」。
Tad 地元のお野菜や食材も使われていると聞いています。
志賀 そうですね。いろんな食材を金沢から発信していけたらと思っています。
原田 食材を利用するにもトライアンドエラーがあったんじゃないですか?
志賀 いま、多いもので生地の約40%に野菜を使ったドーナツがあるのですが、ドーナツを作るまでに1年ぐらい試行錯誤して全然上手くいかなかったのに農家さんからヒントをもらうことで製品化できたということがありました。野菜の火の入れ方とかいろいろなことを教えてもらって、やっとドーナツの生地の味に負けない素材の味を出すことができました。
地元野菜を使った「ベジタブルドーナツ」。
Tad 1年かけて商品開発、150種類もあるとは知りませんでした。
原田 まだ制覇してないですね。
Tad まだ5種類ぐらいですね。好きなものを選んで同じものをずっと食べているんですが、東京の『紀ノ國屋』みたいな小売店や、聞くところによると海外の百貨店・デパートでも取り扱っているということですが、これはやはり焼成冷凍だからこそ、遠隔の離れたところでも売ることができるということなんでしょうか?
志賀 はい。やはり海外だと半年ぐらい賞味期限が持たないと流通することができないので、冷凍だからこそですね。
Tad 焼成冷凍だと賞味期限はどれくらい延びるんですか?
志賀 半年間、日持ちします。
Tad やっぱり油の酸化が一番問題なのでしょうか?
志賀 酸化を防ぐこともできますし、あとは油が回ってしまうとおいしくなくなってしまいます。経験されたこともあるかと思うんですが、2日目のドーナツってあまりおいしくないですよね。
原田 油が全体に回ってビショっとしていて、油っぽくて。温めてもダメなんですよね。なんか悲惨なことになりますね。
Tad フニャっとしすぎちゃう。
志賀 そうなんですよ。そういうことなく、鮮度よく届けることができるんです。
Tad ドーナツって焼成冷凍に適したもののようにも感じてしまうんですが、これまで、ほかに焼成冷凍していたドーナツ屋さんってなかったんですか?
志賀 当時は冷凍している商品はほとんどなく、他のお菓子でも冷凍の流通自体が少なかったのではないかと思います。
原田 冷凍っていうと「できたてのものよりも味が落ちちゃうんじゃないの?」っていう先入観もありますよね。
志賀 「冷凍でしょ」っていう少し残念な感覚があると思うんですが、今は「このお菓子を冷凍で東京まで持っていきたい」と言われる時代になってきていると思うので、これからまだまだ伸びていく市場なんだろうなと思います。
Tad 冷凍だからこそメリットがあるんですね。
志賀 取扱店さんにとっても冷凍でお届けすることで賞味期限を伸ばすことができるので食品ロスを減らすことができますし、その上、解凍するだけですぐに販売できるので機会ロスがないというメリットもあります。スーパーなどを思い浮かべていただくとわかると思うのですが、夕方になると売り場が空いてきますよね。他の商品が売り切れて空いてしまった売り場にドーナツを並べていただくことで新たに売上がたつのですごく重宝されています。
Tad お店にとっての機会損失というか、売り物がなくなっちゃったから陳列台を空にしたままにするのではなくて、「ウフフドーナチュ」を置けば仕入れたのと同じですもんね。ますます冷凍すべき食品だったように思えます。今聞いただけでもメリットがたくさんありましたよ。賞味期限が延びる、30分で自然解凍できるから小売店も機会損失しなくて済む、すぐに商品陳列できる、それからロスがない。賞味期限が長いからね。しっとりおいしくなる、日本中、世界中、どこでも売ることができる…すごいですね。
志賀 ママさんたちが働きやすい働き方を考えたときに、「卸販売しかない」と思いました。そこでいかに鮮度よく届けるかっていうことを考えて、最初からこのやり方にしました。
原田 それにしても販売先も多いですし、1日どれぐらいのドーナツを作っているんですか?
志賀 1日3000~4000個を作っています。
原田 そんなに!1か所で、ですよね。
志賀 そうです。全部手作りしています。
石川県金沢市内の工房兼ショップで作られている。
Tad 15人の方々って女性が多いんですか?
志賀 全員主婦で、女性ばかりでやっています。みなさん経験値が高いので、飲みこみも早いですし、それぞれ経験してきたことを活かしながら働いていらっしゃるので、一人入ってこられるごとにプラスして能力が上がっていると思います。
Tad 東京はもちろん、全国でも認知されていますよね。
志賀 東京駅と大阪駅の『紀ノ國屋』、『ルクア』に置いていただいたことが大きいなと思っています。全国のバイヤーさんが『紀ノ國屋』や『ルクア』に視察に行った際に手に取ってくださったようで、様々な地域から「ドーナツを取り扱いたいんです」という問い合わせをいただいています。実はウフフドーナチュにはいわゆる営業マンがいないんです。お客さまからのお問い合わせで商品を展開しています。
Tad 向こうから気づいてくれているんですね。
志賀 本当にありがたいことに。
原田 そうすると作ることにも集中できますよね。
Tad いろいろなコラボレーションもされていますね。
志賀 そうですね。アニメ『ワンピース』とコラボしてドーナツを作らせていただいたり、「サマンサタバサ」の春夏コレクションの時に商品を展示させていただいたり、韓国のトヨタのCMのロケ地に使ってくださったりとか。
原田 お店でですか?
志賀 そうなんですよ。わたしたちのエコなイメージ、例えば食品ロスが少ないというようなエコなイメージがエコカーのイメージと合うということで採用していただいて、韓国からクルーがたくさん来て撮影していただきました。
Tad 金沢の会社ですよ。びっくりしますよね。いずれ日本中で有名になった「ウフフドーナチュ」が、実は金沢発だっていうことに、金沢、石川県の方も驚かれる日が来るだろうなと思います。
志賀 みなさんに驚いていただくのもうれしいんですが、スタッフが喜んでくれることもとても嬉しく思っています。金沢の小さなお店ですが、わたしたちの作っているものが、今だったら全国で、海外でも手に取っていただけるとか。さまざまな企業とのコラボレーションなどもスタッフが毎回喜んでくれて、モチベーションにつながっているのが嬉しいなと思っています。
Tad 創業初期から順調にビジネスは展開されてきたんですか?
志賀 立ち上げから3年ほどは苦しい時期がありました。
Tad 苦しいっていうのはどんなふうに?
志賀 妊娠と同時に事業をスタートしているので、自分自身の出産も控えている中で事業を伸ばせない時期もありました。出産後、順調に発注をいただけるようになってからは、とにかく製造体制を整えるためにスタッフを増やしたり設備を増やすところにどんどんお金をかけていったので、私にとっては苦しい時間が3年以上あった感じですね。
Tad 銀行の残高もどんどん減っていって…
志賀 そうですね。本当に苦しかったです。
原田 すぐに思うように動けないことも多いですよね。もしかしたら赤ちゃんを抱えて?
志賀 そうですね。2歳まではうちのお店で面倒を見て、営業や納品にも一緒に行っていました。
原田 ドーナツとお店とともにお子さんも成長されて。この「ウフフドーナチュ」という名前とロゴがぐっとくるんですよね。
「ウフフドーナチュ」のロゴマーク。
志賀 最初の3年間は違う商品名で展開させていただいていたのですが、気づけば来てくださっているお客様のほとんど、9割ぐらいの方がお子さんを連れていたり妊婦さんだと気づきました。自分たちのやっていることがちゃんとお客さんに届いていたけれど、自分たちの商品名や発信が追いついてなかったことに気づきリブランドを決意し、「ウフフドーナチュ」という、わたしたちのやりたいことのメッセージ性を持った名前に変えさせていただきました。
原田 それが2018年。
Tad 名前とかロゴもすごく大事ですね。
志賀 すごく大事だと思います。風向きが変わったと思いました。わたしは今までと同じことを言っているのに、商品名が違うだけで足を止めていただいたり、話を聞いていただいたりするようになりました。あとはもちろん、インスタグラムで発信してくれる人も格段に増えたので、全国の方に目に留めていただけるきっかけになったと思います。
Tad 石川県にお住まいの方も「ウフフドーナチュ」を食べたことのない方がいれば、ぜひお手に取っていただければと思います。
志賀 ありがとうございます。

ゲストが選んだ今回の一曲

JUJU

「奇跡を望むなら…」

「以前、出版社で編集長をしていた時、ニューヨークにいるデザイナーのチームと一緒に仕事をしており、デザイナーたちがよくこの歌を歌っていました。新しい出版社を立ち上げ、初めて本を出すという仕事で苦労の連続でしたが、JUJUもニューヨークで下積みをして夢を掴んだ人だと聞かされていました。当時わたしは日本時間で、金沢や北信越で営業させていただいて原稿を作り、今度はニューヨークのデザイナーたちが出勤してきたら、その時間に合わせて原稿のやり取りを・・・という感じで1日20時間労働をしており、自分の中でもハードワークだった時期の思い出なので、今でも限界を感じる時にこの曲を聴いて自身を奮い立たせます」

トークを終えてAfter talk

Tad 今回はゲストに『株式会社ウフフ』代表取締役社長、志賀 嘉子さんをお迎えしましたが、いかがでしたか、原田さん。
原田 揚げて冷凍するドーナツがいろいろなことを叶えてくれるということにびっくりしました。
Tad 揚げたてを冷凍する焼成冷凍っていう方法を用いていらっしゃいますよね。ドーナツほど冷凍に適している食品はなかったんじゃないかと思えるぐらい、たくさんのメリットがありました。まず生地がしっとりしておいしくなる、保存料も余計なものを使わなくて済む、冷凍で180日持つから廃棄が出にくい、フードロスも対策ができる、在庫もしやすい、欠品もしにくいので機会損失が起きにくい、それから日本中、世界中に出荷ができると、本当に事業製品づくりのプロセスをたった一つ変えるだけでこれだけの効果が生まれて全国的で世界的なブランドを目指すことができるって、すごいことだと思います。まさにイノベーションといえると思います。ドーナツみたいにこれ以上進化がないかもしれないと思えてしまうようなものでも、オセロの角をとったようなイノベーションを起こせるということに学んで、自分自身も何か新しいことを取り入れてみたいなと思わせていただきました。

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