後編

七尾・能登を明るく照らす。

第49回放送

七尾自動車学校 代表取締役社長

森山明能さん

Profile

もりやま・あきよし/1983年、石川県七尾市生まれ。2007年、慶応義塾大学総合政策学部を卒業、同年に『株式会社ナナオ(現・EIZO株式会社)』入社、国内および海外営業に従事。2010年より、地元・七尾の民間まちづくり会社『株式会社御祓川』に参画。家業である『七尾自動車学校』(1958年設立)の取締役社室長を兼務。2018年、代表取締役社長に就任。近年は数々の能登活性化プロジェクトにも従事。内閣府地域活性化伝道師の肩書きも持つ。

七尾自動車学校Webサイト

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Tad 今回のゲストは前回に引き続き、『七尾自動車学校』代表取締役社長、森山 明能さんです。突然ですが森山さんのお名前、能登を意識されていますよね。
森山 実はそうなんです。
Tad 明るいという漢字に能登の「能」ですね。
森山 父がつけてくれましたが、父が七尾のまちづくりに熱くなっていた時期に私が生まれたんです。
Tad そうなんですね。
森山 「能登を明るくする男」というのが私の命名理由になっています。
Tad なるほど。プロフィールに関しても、いろいろ気になるところがあるんですが。
森山 突っ込みどころが満載ですよね。
Tad 「内閣府地域活性化伝道師」、これってどういうものなんでしょう?
森山 内閣府で全国区の地域づくりに関わる方を登録して、専門家としてアドバイスを必要としているところに派遣できるというものです。
Tad 公的な立場であられるわけですね。
森山 そうですね。こういった内閣府と名がつく肩書きでも、いろんな仕事をさせていただいています。
Tad 森山さん自身が七尾のために何ができるかという点でのお仕事なんですね。
森山 はい。そういえば、小学校6年生の時に、将来の夢を書く時間がありまして。大人になってから同窓会があり、当時の担任の先生が夢のメモを持ってきてくれたんです。「お前の夢は、これだったんだよ」と披露してくれたんですが…
原田 粋なことをしてくださる先生ですね。
森山 僕は「七尾のまちをより良くする」って書いていました。
原田 すごい! 小学校6年から。
森山 そうなんですよ。ある種、名前による親からの刷り込みと言いますか。
原田 親御さんからのメッセージを受け取ったわけですね。
森山 そんなふうに幼いころから、私も七尾のまちづくりに携わるというのが夢のようなものだったんです。それで社会人として一般企業に勤めた後、Uターンするタイミングで、たまたま、姉が地元のまちづくり会社の社長をしていまして。
Tad それが『株式会社御祓川(みそぎがわ)』ですね。
森山 はい。七尾に実際に流れている川の名前をいただいています。1999年に設立しまして、御祓川の周りの賑わいづくりや人材育成の仕事をしてきた会社なんです。今は事業ドメインがぐっと広がっています。能登を飛び越える事業も実はあるんです。2007年3月に能登半島地震がありました。僕はちょうど大学4年生の卒業間近というタイミングだったんですが、地震で能登が大きな打撃を受けました。そこで七尾だけじゃなくて、能登全体が一緒になって地域づくりをしなきゃだめだということで『株式会社御祓川』のドメインが能登全域に広がりました。その後しばらく、「能登○○」みたいな仕事が増えまして。今の仕事がそれに繋がっているんです。一つは「能登スタイルストア」というECサイトの運営。ここでは地域商社として地域のいろんな素材を全国の人にお届けしつつ、その地域のいいものをアレンジして新しい商品を作り、お届けするようなことに取り組んでいます。もう一つ、いま力を入れているのは『能登の人事部』という取り組みです。
Tad原田 『能登の人事部』?
森山 はい。『七尾自動車学校』もそうなんですが、実は能登の中小企業には人事部がないところがけっこうあるんですよね。
Tad 会社に人事部自体がない?
森山 社長が人事も兼ねているような。
原田 なるほど。
森山 中小企業でよくあるスタイルかと思うんですが、昨今、人材をどう活かすかというのは会社にとって重要課題ですので、そういったところで社内の人材育成の研修や、採用のお手伝い、はたまた最近の流行で言いますと、副業のマッチングなどもやっています。
能登の人事部のインターン生たち。若い力が地域と企業に元気をもたらす。
原田 そんなことまで。
森山 そんなことも含めて、人事部として中小企業のみなさまをお助けしますという事業をしています。
Tad いろんな会社にサービスを提供されているわけですね。
森山 そうですね。地元の中小企業のみなさまに支えていただきながら、この事業を運営しています。私も『七尾自動車学校』の代表をしながら、『株式会社御祓川』の方ではシニアコーディネーターという肩書きを頂戴して、いろいろな企業にうかがって、ヒアリングさせていただいたり、今後の戦略についてのお手伝いをさせていただいたりしています。
Tad 地方の会社が副業を活用してどんなことができるようになるんですか?
森山 副業がブーム的になりつつありますが、地方の中小企業っていろいろな課題がありまして、社長が忙しすぎて手に負えないというか、やってみたいんだけどできないということも、けっこうあるんですよね。よくあるのが新規事業の領域。あとはウェブ関連のような専門性が必要な領域。そのあたりを一つずつプロジェクトとして携わってくれる人を副業で募集するんです。フルタイムで人を雇うのは企業として体力が足りないけれども、副業がうまく回り始めたら、それをフルタイム化して、新たに人を雇って事業を拡大していこうと、そういったお手伝いをさせていただいています。
Tad 『七尾自動車学校』自身も閑散期、繁忙期があったりしますよね。
森山 そうなんですよ。『七尾自動車学校』でも、全国に先駆けて副業指導員という制度を取り入れています。社内では「パラレル社員」といって、暇な時期には週に1回から4回の間で勤務量を自分で選べます。忙しい時期はできるだけ毎日来てほしいというふうにして、自動車学校の繁忙期と閑散期の波に合わせて仕事量を調節してもらいます。そうすると暇な時期なら週4、5日で他のことができるようになりますので、その時間をたとえば個人事業主として何かしたいことがあればそれをやってもらってもいいですし、もし他の企業で副業を認めてくれるところがあれば、そちらに働きに行って、自分の研鑽をどんどんしていただいて、『七尾自動車学校』に戻っていただくというような形ができたらいいなということで、一昨年くらいから、この取り組みを始めています。
Tad 人材の流動性を高めるのではなくて、柔軟性を高めるようなイメージですね。
森山 兼業の指導員は二人いるんですが、一人は副業指導員兼時短社員、実はママさん指導員なんです。お子さんもまだ小さいので、家庭のことも大事にしつつ、かつ、お仕事も、そして自分のやりたい領域も大事にしつつ、いいとこ取りをしてもらいながら、バランスをとってやっていこうという取り組みをしています。
Tad そうした能登の地域の企業に向けたサービスに取り組まれている領域もあれば、地域の市民に向けた取り組みもされているのでしょうか?
森山 私は公益社団法人七尾青年会議所というところで、今年度は副理事長を拝命しております。いわゆるJCと言われる活動なんですが、こちらでいろいろなイベントを開催したり、市民に直接訴えかけるようなイベントをさせていただいたりしています。最近ですと七尾JCは「SNGs」というものを掲げています。七尾を持続可能にする7つの目標、「Sustainable Nanao Goals」です。去年JCがちょうど60周年だったので、それに合わせて策定をさせていただきました。今年はそれを広げていく活動をしていますので、「SDGs」、「SNGs」の勉強会を市民向けに開いたりもしています。
Tad 「SNGs」特有の項目というのはどういったものがあるんですか?
森山 「SDGs」だと海と山の項目に分かれているんですよね。「SNGs」の方は、やはり能登ですから里山里海の豊かさといったところを未来に繋ごうということが掲げられていますし、働き甲斐を持ってもらう、そして産業育成していくといった視点も大事にしていますので、そういったことも目標にあったりします。
Tad 森山さんたちの『株式会社御祓川』も『七尾自動車学校』も同じだと思うんですが、事業活動そのものが「SNGs」に繋がっているわけですね。
『株式会社御祓川』が運営する御祓川大学メインキャンパス。地域の担い手支援・育成に関する企画や運営などを行っている。
森山 そうですね。我々世代の一つひとつの活動が七尾や能登という地域をより持続可能にしていく、そういったことに携わって生きていきたいなと私自身も思っていますし、そういう人がどんどん増えていく地域はすごく大事だと思っています。最近、新型コロナの影響でいろんなことがあるなかで、七尾で一つ、よかったなと思っていることがあるんです。それは、このコロナ禍で、いわゆる団塊ジュニアの世代、私もそうなんですが、その世代が集まって、みんなで何とかしようよといろんな新しいプロジェクトが始まったんです。こういった経緯を見ていると、いよいよ新しい時代になっていくな、と感じますし、そんなふうに自分のまちは自分たちで何とかしなければと思う人が増えていくことこそ、まちづくりの本質だろうなと思っています。だから、人口が減ったって別に問題ないと思っています。人口が減っても、まちのことを思っている人の割合がどんどん増えていけば、その地域は幸せで豊かなんじゃないかと思うからです。そうやって自分のまちを“自分ごと”として捉えられるようになればいいですし、それは会社経営にも通じると思っています。自分の勤めている会社で仕事を“自分ごと”にして働ける方が増えると、その会社もいい会社になるんじゃないかと。実は今年の当社のテーマがそれなんです。標語は「仕事を“自分ごと”にしよう」。
原田 毎年標語を掲げていらっしゃるんですね。
森山 はい。63期のテーマは「仕事を“自分ごと”にしよう」。地域でいえば「まちのことを“自分ごと”にしよう」と思いながら生活する七尾の方が増えると、より良く、楽しいまちになっていくんじゃないかなと。
Tad いいですよね。都市圏だとご近所づきあいも薄くなっていたり、マンションも増えたりしていても町内会があるようでないような、そういうものになりつつあるなかで、やっぱり七尾・能登という…
森山 そう、コミュニティがあるんですね。僕も今、2歳と0歳の子育てをしている最中なんですが、2歳の子も地域の人に名前を覚えてもらっていて、朝から「おはよう」って声を掛け合うような環境です。そんな地域で暮らしていけるってすごく嬉しいし、やさしいと思います。そういった豊かさこそ、持続可能になっていってくれたらな、なんて思いますよね。
地域コミュニティの象徴でもある祭り「青柏祭」。写真は日本最大級の曳山である「でか山」。「でか山のために生きています」と森山さんは語る。

ゲストが選んだ今回の一曲

カガノトーンズ

「イーガニ」

「石川県外のリスナーの方も、『いいがに』と言われるとなんとなくイメージがつくと思うんですが、『いいがにしといてくだいね』という方言から、カタカナで『イーガニ』と書いています。何でも『いいがに』なるように、ということで。新型コロナなんかで先の見えない世の中ですが、この先が『いいがに』なるようにと願いをこめて、こちらの曲をお届けします」

イーガニ(カガノトーンズ)Youtube

カガノトーンズWebサイト

トークを終えてAfter talk

Tad 前回に引き続き、ゲストに『七尾自動車学校』代表取締役社長、森山 明能さんをお迎えしましたけれども、いかがでしたか、原田さん。
原田 まちづくりに取り組んでいらっしゃるお父さまを見て、小学校6年から「能登をよりよくする」という夢を持っていらっしゃったというのがすごいなと思ったのと、今も夢に向かって、本当にいろんな活動をなさっていて、森山さんたちが盛り上げるというよりも、住んでいる人が主体的にまちに関わって、どういうふうにしていくかを考えていけるような流れを作っているのがすごいなと思いつつお聞きしていました。Mitaniさんは、いかがでしたか。
Tad まちづくりの本質って人口の増減じゃない。「人口が減ったって別にいいと思うんです」とおっしゃっていましたけど…
原田 はい。一瞬びっくりしましたね。
Tad 100の人口がいたら80になってしまうのを、どうやって90で食い止めようかとか、どうやって105に持っていくかとか、そういう話ではなくて、まちのことを真剣に“自分ごと”にできる人の割合が100人中100人になることを目指していくんだよということ、これが本質だというふうに言われました。たしかに人口減というのはあるかもしれないですが、地域ぐるみで互いに現代の環境に順応していく副業のお話や、地域全体の人事部を引き受ける『能登の人事部』のお話もありましたが、日本政府が副業の推進や奨励をしている意味が今日、やっとわかった気がします。すべての人がフルタイムで専業でなければならないというのも、それ自体が思い込みといえばそうですよね。前回の自動車学校のお話もそうでしたが、森山さん自身もいろんな形でパラレルワーキングをしている感じがします。新しい働き方や本当の働き方改革っていうのは、石川県で七尾から発信されていくんだと、そんなふうに思わせる方でしたね。能登を明るくする森山さんの活躍には今後も目が離せませんね。
原田 そうですね。私たちもわがまちについて考えないと、という気持ちにもなりました。

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