前編

自動車教習学校から、安全を学ぶ学校へと進化する。

第48回放送

七尾自動車学校 代表取締役社長

森山明能さん

Profile

もりやま・あきよし/1983年、石川県七尾市生まれ。2007年、慶応義塾大学総合政策学部を卒業、同年に『株式会社ナナオ(現・EIZO株式会社)』入社、国内および海外営業に従事。2010年より、地元・七尾の民間まちづくり会社『株式会社御祓川』に参画。家業である『七尾自動車学校』(1958年設立)の取締役社室長を兼務。2018年、代表取締役社長に就任。近年は数々の能登活性化プロジェクトにも従事。内閣府地域活性化伝道師の肩書きも持つ。

七尾自動車学校Webサイト

インタビュー後編はこちら

Tad 原田さんは自動車の免許ってどんなふうに取りました?
原田 学業の合間に自動車学校に通って取りました。
Tad 周りには合宿に行くような人もいました?
原田 いましたね。夏休みに、観光地のような自然豊かな所に合宿に行こうという人たち。
Tad 羨ましかったですね。
原田 私も行ってみたかったなと思いました、その時。
Tad 人口減少という社会課題や自動運転などの自動車の機能もどんどん変化していくなかで、地方都市の自動車学校は率先して変化しなければならない時代です。そんな時代において、いろんな取り組みをされている自動車学校の代表をお招きしております。今回のゲストは『七尾自動車学校』代表取締役社長、森山 明能さんです。森山さん、『七尾自動車学校』って、ひと言で言うとどんな特徴がありますか?
森山 「森の中の自動車学校」というのがテーマです。実は当校は、神社の、いわゆる「鎮守の森」の一部を拝借して教習コースの運営をさせてもらっているんです。ですから、コースの真横が「鎮守の森」ということで、「森の中の自動車学校」というふうに謳っております。
Tad 神社の土地の一部が教習コースに?
森山 そうなんです。
七尾自動車学校。七尾の城山のふもと、森の中の自動車学校をテーマに運営している。
原田 「守られてる感」がすごいですね。
森山 そうなんですよ。当然ですが、春祭りや秋祭りの時は、私たちの自動車学校内に御神輿もやってきます。
Tad 『七尾自動車学校』の今の生徒さんというのは、どういう人たちが多いんでしょうか?やっぱり地元の方が多いんですか?
森山 実は、すでに地元の方よりも合宿で遠方からいらっしゃる方が多くなっています。数年前に、通学のお客様と合宿のお客様の割合がついに逆転しまして、普通車の免許を取得される6割方が、合宿のお客様です。
Tad 合宿にはどのような地域からいらっしゃるんですか?
森山 意外と県内の方も多くて、金沢エリア、加賀エリア、奥能登から七尾にいらっしゃるパターンもあります。次いで東京方面。当然、関西ですとか東海圏からもいらっしゃいます。
Tad 東京や関西圏からも『七尾自動車学校』にいらっしゃるというのは、なぜなんでしょう?
森山 自動車学校っておそらく人生で通うことは一度しかないですよね。だいたい18歳くらいの時に行って、その後は高齢者講習の時まで、自動車学校にお世話になることってなかなかないものです。そういった意味で言うと、私たちの業界はリピーターが「ない」とよく言われるんですが、我々としてはリピーターは「存在している」と捉えています。たとえば大学のサークルの先輩が「行ってみたら良かったよ」みたいな話が、入校の、特に合宿を希望される一番の理由なんです。それはある意味でリピートをしてくれているというふうに我々は思っています。そういった繋がりで入って下さるお客様がたくさんいらっしゃるんです。
Tad 今も大学で告知をされるのですか?
森山 それはさすがに行きます。僕も地元に戻って最初の頃、ちょうど東京の業者さんとの付き合いが始まりまして、大学の構内に入って、一日1000個のティッシュを配ったりしました。今は社員が率先してそういった大学生へのPRをしてくれています。
原田 そうやって「良かったよ」と口コミが伝わっていくからには、その「良かった理由」があると思うんですが、心当たりはありますか?
森山 一番よく言われるのは、実は「食事」なんです。
原田 食事、大事ですよね。
森山 実は自動車学校の真横に合宿寮がありまして、その名も「ブッブーイン」と言います。「ブッブー」は車のクラクションのイメージです。そこでの宿泊時の食事が楽しかったという声は多いですね。料理は合宿所のおばちゃんたちによる手づくりなんですよ。
原田 いいですね。七尾ですし、海の幸もふんだんにいただけるのでしょうか。
森山 そうなんですよ。実は合宿って2週間あるんですが、2週間のうち一度だけ、必ず海鮮丼が食べられます。
原田 いいですね。
森山 そういったところが好評でして、食事は喜んでもらってるなと思います。また七尾は観光するところもありますので、そういった点を楽しんでもらうとか。七尾といえば、やっぱり和倉温泉ということで、実は旅館に泊まって免許取得できるプランというのがあるんですよ。
原田 温泉旅館に?
森山 ええ。14泊連続、温泉旅館に泊まるプランです。
原田 ちょっと夢のような話ですね。
森山 湯治に行くような感じですよね。そういった合宿プランを持っていまして、温泉プランと呼んでいます。10年ほど前からスタートしましたが大好評で、温泉プランで入ってくる方もたくさんいらっしゃいます。
Tad そう考えると七尾にあるということで、他と圧倒的に差別化できているということですね?
森山 そうですね。自動車学校の魅力だけじゃなくて、地域の魅力といったものを併せてお伝えして、ぜひ七尾を楽しんで、そして運転の技術も学んで卒業してもらえればと思っています。
通学・合宿の両方に対応。教習生と指導員の距離が近い自動車学校だ。
Tad そのような合宿スタイルを始めたのはいつ頃ですか?
森山 父が社長だった時代ですが、僕が覚えているのは先ほど申し上げた「ブッブーイン」を作った頃ですね。僕が幼稚園くらいの頃に作っていますので、1980年代の中盤くらいから合宿免許への取り組みを進めたということですね。
Tad それ以前は通って取得するプランしかなかったのでしょうか?
森山 そうですね。石川県内でも早めに合宿免許を始めた自動車学校ということで、かれこれ30年以上、合宿での免許取得サポートに取り組んでいます。我々の自動車学校は60数年やっていますが、歴史の半分以上は合宿とともにあります。
Tad やはり県外のお客さんも取り込んでいく、ニーズを広げていくという意味で、合宿のスタイルを始めたんですか?
森山 はい。地方の自動車学校ということで、どうしても人口減少は避けられないということが分かっていましたし、我々、実は「18年後を読める」んです。要は出生率、出世数を見れば18年後の地域内の需要ってだいたいわかるんですよ。
Tad なるほど。
原田 自動車学校に通うのは、だいたい18歳頃っていうのが分かってますものね。
森山 そうなんです。ですから、18年後に向けて手を打てる。すごくロングスパンで事業構築ができるということでもあります。
Tad なかなかそういう考え方はできないものだと思います。
森山 そのあたりは父に先見の明があったんだなと思います。裏を返せば我々『七尾自動車学校』が今あるのは、合宿あってこそですから、父に感謝しながら、今、事業引き継ぎをしています。
Tad そうは言っても、やはり人口減で若者全体が少なくなっていく中で、今言われたような差別化のポイントがあったりしますが、『七尾自動車学校』としてはどんな変化を作っていますか?
森山 自動車学校って、みなさんのイメージがあんまり良くないんじゃないかなと思っていまして。
Tad 辛い目に遭って…
原田 厳しい教官に怒られたとか…
森山 「鬼教官に怒られた」、「ハンコ押さないぞ」というようなこととか。映画にも昔ありましたよね? そういったイメージがあると思うんですが、やはり教習の中身を充実させていくという意味で、近年はコーチングの教習もしています。コーチングっていうのは、要はティーチングとは別で、たとえば「今日はこういう講習をしましたが、何点ぐらいだったと思います?」というふうに教習生に問いかけをして、「6点ぐらいかな?」と答えたら、「あと4点、どうやったら良くなるかな?」というように。
Tad 本人に問いをかけるような?
森山 そうなんです。教習生自身がどういうふうに上達していくかを考えられるような問いかけをして能力を引き出していくということを「コーチング教習」という形でやっています。もちろん、ティーチングも大事なんですが、そのバランスで、教習をしていくことに今、取り組んでいます。
Tad たしかに、すごく凹んだ記憶がありますもん…。こういうふうにしないとダメだぞって怒られて。
森山 けっこう圧がかかってきますよね。
原田 問いを受けて自分で考えることで、これからの運転の仕方や交通安全を、ちゃんと考えられるようにもなってくるのかもしれないですね。
森山 そうなんですよね。コーチング教習の良い所は、自動車学校を卒業した後にどういう運転をするか、自分自身がどういう運転者になるのかっていうことを自分の言葉で表現して、それを次の教習の時間に体で表現して、といったことが繰り返しできるようになります。やはり卒業した後に事故を起こさない運転者になってもらいたいというのが我々の願いですので、コーチングの教習はそういった点ではとても良いように思います。
コーチング教習で、教習生自身がどういう運転者になるのかを考えられるように導いていく。
Tad 聞くところによると、自動車運転以外のテクニックも教えていらっしゃるというふうに聞いていますが、「空」の方も…
森山 実はですね、ドローンをやってるんですよ。
原田 走るんじゃなくて飛ばす方ですね?
森山 陸じゃなくて空の交通安全をと。
Tad たしかに言われてみると同じカテゴリーではあるんですかね?
森山 実は全国の自動車学校で、ちょっと流行ってるんです。
原田 そうなんですか?
森山 ドローンもいわゆる「資格もの」ですので、自動車学校と親和性が高いというのがあります。自動車学校って、指導員が技術を教えますよね。技術があって、広いコースという空間と、教室がありますよね。外の広い空間、教室、そしてそこで教える人っていうのが揃っている場所って、意外と世の中には少ないんです。そうすると、そこでドローンの授業をやってみてはどうかということで、全国の自動車学校でドローン教習とかドローンスクールということで運営されているんです。我々も『能登七尾ドローンスクール』という名で、教習をスタートさせました。
ドローン事業も展開。スクール事業・機体販売・保守整備を行っている。
Tad おもしろいですね。
原田 そうすると、自動車学校とはまた違う年代の人が来てくださることになりますよね。
森山 自動車学校は先ほど言った通り18歳以後の方々、20代前半ぐらいまでがメインのお客様になるんですが、ドローンはお仕事でも使えるものなので、非常に幅広い年齢層の方に来ていただいております。
Tad ドローンも最新のテクノロジーとして紹介されることが多いと思いますが、やっぱり車と最新テクノロジーというと自動運転というのも見えている時代です。自動車学校にとっては、それは少し不安な未来であったりしないんでしょうか?
森山 極端に言うと、10年以上前、大学生だった頃に周囲から、「世の中、自動運転が主流になったら、自動車学校ってなくなるでしょう?」ってよく言われたんです。でも、自動車学校に入ってこの仕事をするようになって、「あ、ちょっとそれは違うかもな」と思うようになりました。たしかに、運転はなくなる可能性はあるなと思ってるんですが、やはり交通はなくならないんですよ。必ず交通はあって、そこに安全が求められます。最近は自動車学校を「安全を学ぶ学校」と捉えています。もちろん交通の安全がメインではありますが、最近は自然災害が多かったりもしますから、そこで自分の身を守れるような、安全に対しての考え方を学べる場所になっていけばいいのではないかと思っています。
当校は3年前に60周年を迎えましたが、その時に社員と社内に向けて3つ指針を出しました。そこには「自動車学校というところから、“自動車”の文字がなくなる未来に向けて」というような内容がありまして、「安全の学校になったらいいんじゃないか」というようなことを考えています。ですから、ドローンの空の安全もそうですし、その他にも法人向けにいろんな安全のコンサルティングも始めています。最初は交通安全のコンサルとして入るんですが、結局、交通だけでない安全の部分にまで話が及ぶことが多いですね。
Tad というと?
森山 交通安全を突き詰めていくと、「安全に運転する」ということなので、労務管理、働く時間の管理も含めて、危険な場所をどんなふうに次の世代に伝えていくかという教育の話になったりもします。ですから、安全を学ぶという概念をこれから『七尾自動車学校』で広げていけたらおもしろいかなと思っています。自動運転の未来はそういった意味で言うと、怖くはないですね。
高校においてドローン体験会も実施している。
Tad むしろポジティブに捉えているんですね。
森山 そうですね。かなりポジティブに捉えていますし、これから10年、20年くらいでおそらく手動運転から自動運転への切り替えの時期になるので、むしろその切り替えの時には手動運転も勉強しなきゃいけないし、はたまた自動運転も勉強しなきゃいけないということになっていくでしょうね。

ゲストが選んだ今回の一曲

カガノトーンズ

「金沢かぞえうた」

「実は私が歌っております。完全に趣味なんですが、実は大学時代にアカペラサークルに所属していまして、それがご縁で、社会人になってもアカペラを続ける機会を得ました。実は自動車学校でもアカペラ免許合宿ということを毎年やっています。合宿は免許を取得するまで2週間ありますので、余暇の時間を使って即席のバンドを組んでもらって、最後にライブで発表してもらうというものです。中型車の荷台をステージにして、そこでの発表会を他の教習生に聞いてもらいます。カガノトーンズは『加賀と能登を世界に届けよう』というコンセプトで活動しています。実はオリジナル曲を作ってはいろんなところで歌わせていただいてるんです」

金沢かぞえうた(カガノトーンズ)Youtube

カガノトーンズWebサイト

トークを終えてAfter talk

Tad 今回はゲストに『七尾自動車学校』代表取締役社長、森山 明能さんをお迎えしましたけれども、いかがでしたか、原田さん。
原田 私、免許を取るためだけに自動車学校に行ったんだな、もったいなかったな、こんなに楽しく学ぶことができるところがあったんだなと思ってしまいました。Mitaniさんは、いかがでしたか。
Tad 「18年後の売り上げが見えるんですよ」っていう話がすごく印象的でした。地域の出生数から市場規模が計算できる。だからこそ免許合宿という新たなチャレンジをして、地域の観光や名産品と組み合わせて合宿自体を魅力的にしてこられたということでした。現代の自動運転技術の発展もむしろポジティブに捉えていらっしゃって、自社の強みが発揮できるところへちょっとずつ、でも大胆にシフトされていこうとしている。手元足元の数字や予測を見て悲観的になるんじゃなくて、自分たちが事業を営んでいる環境全体を見渡してみようよっていうふうに言われているような気持ちになりました。

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