前編
斬新な発想のゲームでプログラミングの楽しさを伝える。
第74回放送
ハックフォープレイ株式会社 代表取締役社長
寺本大輝さん
Profile
てらもと・だいき/1994年、石川県金沢市生まれ。石川工業高等専門学校在学中の16歳でプログラミングと出合い、面白さに感動。その楽しさを広げるために、2014年、プログラミング学習サービス「ハックフォープレイ」を開発。「CVCK Award(クリエイティブベンチャーシティ金沢ビジネスプランアワード)2014」で受賞したことをきっかけに金沢市で起業。同年、「NICT起業家甲子園」で総務大臣賞を受賞。2015年度「IPA未踏スーパークリエータ」に認定された。
Tad | 今回のゲストは『ハックフォープレイ株式会社』代表取締役社長の寺本大輝さんです。「ハックフォープレイ」というサービスを展開されているということですが、これはどういうものなんでしょうか? |
---|---|
寺本 | “遊べるプログラミング”というサービスなんですが、「ハックフォープレイ」というのは僕が開発しているゲームの名前なんですね。ゲームなんですが、ただのゲームではなくて、モンスターが出てきて倒していくんですが、普通に遊んでいても絶対にクリアできないように作られているんです。 |
原田 | わざと? |
寺本 | はい。例えば、モンスターの体力が9999万9999だったりとか。 |
Tad | 敵わなそうですね。 |
寺本 |
はい。進まなきゃいけない道に明らかに通れない壁があって、何をしてもそこを通れないとか。それをどうやって攻略していくかというと、「魔導書」という特別なアイテムがあって、それを使うとプログラムそのものを自在に書き替えることができるんです。 ゲームは元々プログラムで作られているんですが、そのプログラムをプレイヤーがそのまま変更することができるというわけです。敵の体力を1にしてしまうこともできるし、通れない壁があったら、自分の現在位置の座標を書き換えて、その先に行くこともできる。 |
Tad | なるほど。 |
寺本 | チートみたいな形になりますが、そうしないと絶対クリアできないのです。プログラムを書き換えることでしかクリアできないRPGなんです。 |
Tad | 面白いですね。 |
原田 | そんなのないですよね、基本的には。すでにプログラムされているものをクリアしていくのが普通のゲームですよね。 |
寺本 | ないですよね。そんなことをゲームの会社にされたら、ちょっと困ります。 |
Tad | そうですね。まあ、ゲームデザインがしっかりあって、その上で遊んでもらうのが普通のRPGですよね。 |
寺本 | はい。 |
Tad | 寺本さんの「ハックフォープレイ」というのは、ゲームプログラム自体を子どもたちが書き換えることによって、遊び方そのものを作っていくということになるでしょうか? |
寺本 | そういうことです。 |
原田 | ある意味では「これはプログラミングされたものなんだよ」と気づくことができるということですね。 |
寺本 |
まさにそうなんですよ。それを意識して遊んでいるという方は少ないと思うんですが。ゲームの中にはいろんなパラメータがあります。たとえば敵の体力が500とします。それというのは、「このゲームを面白くするためには、この敵の体力は500がいいだろう」と人間が決めて、最初にプログラムとしてパソコンに教えるわけです。それを僕たちはゲームとして遊んでいるのですが、そこを書き換えてしまえば、何でもできるということです。 書き換えるのが楽しいという体験から、ゲームというのはプログラムや、いろんな数字で作られているんだと気づいてもらう、それが「ハックフォープレイ」の狙いです。 |
原田 | なるほど。 |
Tad | 子どもたちにとってプログラムを自由に操るというゲーム体験になってほしいですね。一から勉強していくというよりも、今あるものを改造したり、自分なりに面白くしたりすることを、まずこの「ハックフォープレイ」で学んでもらう、そんな感じですかね。 |
寺本 | はい、そういうことです。 |
原田 | なるほど。寺本さんご自身も石川高専に在学されていた16歳でプログラミングに出合い、その面白さに感動して虜になったということですが、これはどのような体験だったのでしょうか? |
---|---|
寺本 |
石川高専の1年生の頃、「プログラミングⅠ」という授業を受けていました。それまでも僕はすごく“パソコンっ子”で、ネットゲームに夢中でした。小学生、中学生の頃も学校から帰ってきたらまずパソコンを立ち上げてネットゲームをし、お小遣いはすべてウェブマネーに替えていました。今でいう“課金”ですね。 そんなふうに、恥ずかしくてあまり表では言えないような小中学生時代を歩んできましたが、パソコンゲームがとにかく好きだったんです。ただ、それを作るというのはあんまり自分の中でまだピンときてなくて、どうやって作るのかというのを考えたこともあんまりなかったんです。高専のプログラミングの最初の授業の時に、ボタンを押していくとWindowsのフォームアプリケーション――Windowsの窓みたいな画像が出てきて、「最小化」と「最大化」と「×」が表示されたあのフォーム、あれがポーンと出てきて、そこに自分の書いた「こんにちは」という文字が映し出されて、それを見た瞬間に「パソコンのゲームって作れるんだ」と思ったんです。 それにすごく驚いて、休み時間もずっとプログラミングばかりして、ひたすら自分でゲームを作り、友達に「ちょっとこれで遊んでみてくれよ」と渡して。当然、素人が作ったゲームだから全然面白くないんですが、友達が作ったゲームだというと話のネタにはなるので、みんな休み時間中に遊んでくれるんですね。そんな様子を見ながらにやにやして「もっと難しくしてやろう」と考えながら、プログラミングにのめりこんでいきました。 |
Tad | 寺本さん自身も、体系的に言語の書き方や文法を学ぶ面白さよりも、やはり最初にプログラミングすることそのものの驚きやワクワクのほうが勝ったということでしょうか。あとは、友達に「ひっかけ問題を出してやろう」というようないたずら心と言いますか、そういう気持ちのほうが前面に出ていたところもあるでしょうか。 |
---|---|
寺本 | そうですね。プログラミングに関する文法ももちろん学校で教えてもらっていたので、それも大事ではあったんですが、やはりのめりこんだのは、友達に自分のゲームで遊ばせて、クリアできない様子を見て楽しむことが大きな理由になったと思います。 |
Tad | プログラミングを学習するということをイメージするだけでもすごく難しそうですね。 |
原田 | そうなんですよね。「小学生にプログラミングなんてわかるのかな? 大人の私もよくわからないのに」という思いが、正直あります。 |
寺本 | 逆に、大人だからわからないというのも、あると思うんですよね。例えば「絵を描けますか?」と尋ねられた時に、自信をもって「描けます」と答えることは、大人になると意外とできないのではないでしょうか。 |
原田 | 「下手なので」とか「うまく描けるかな?」と、大人だから思ってしまう。 |
寺本 | そうなんです。「絵が描ける」というのは、大人は「絵がうまい人のこと」を言うと思っているから、「(自分はうまく描けないから)描けない」なんて答えてしまう。でも、子どもに「絵を描けますか?」と聞いたら、多分「描けない」って言わないと思うんですね。きっと「お絵描きは楽しい」、「お絵描き好きだよ」と答える。すごく自然なんですよね。それと同じで、プログラミングにも、子ども向けに単純に作られているサービスはたくさんあって、そういうのを使えば自己表現は簡単にできる。小学生にとって、プログラミングというのは実はとっても簡単なことなんです。 |
Tad | 「ハックフォープレイ」を開発したのは2014年でしたよね。それから「CVCK Award(クリエイティブベンチャーシティ金沢ビジネスプランアワード)」や「NICT起業甲子園」で受賞されていますが、こんなふうに注目されるサービスになるというのは、事前にどのくらいイメージされていましたか? |
寺本 | 僕自身としては「ハックフォープレイ」のアイデアが思いついた時点で、これは面白いに違いないと信じて疑わなかったですね。東京でベンチャーのインターンシップをしていた帰り道の夜行バスでこのアイデアについて考えていたんですが、興奮して眠れないぐらい、「こんなに面白いアイデア、思いついちゃったよ!」と思いました。ただ、実際作ってみて他の人たちに見せてみると「なるほどね。そんなに流行らないよね」と、そんな反応だったんです。 |
---|---|
原田 | そうだったんですか。 |
寺本 | どちらかというとあまりよくないリアクションのほうが大きかった。だけど自分の中では「どうしてプログラミングって面白いんだろう?」、「なんで僕はプログラミングを面白いって思ったんだろう?」と考えた時に、やっぱりゲームを作って、そのゲームを改造して友達に遊んでもらって、もっとこういうふうに改造してやろうとか、ちょっとパラメータを間違えて入れてしまったときによくわからない物理的強度にしたり、ありえない動作が起こったりした時が面白い、という原体験がまずあると思ったので、その体験をゲームとして提供できたら絶対にハマるに違いない、という確信は持っていました。 |
原田 | それが起業に繋がるわけですが、まだ学生の時に起業されたということでしょうか? |
寺本 | そうです。石川高専在学中ですね。家族にはものすごく反対されました。「一回就職しなさい」と。「あなたがいきなり会社を作って、うまくいくわけがないでしょう」と言われました。 |
原田 | 社会人の経験もなくて、いろいろなことがわからないんじゃないかと心配されたのでしょうね。 |
寺本 | そうですね、アルバイトはしたことがあったんですが、僕が「正社員として働くこと」は両親にとってのあたりまえだったので、「あなたは仕事をしたことはないでしょう?」と。今となっては両親の気持ちもすごくわかるんですが、僕としては「今やらないと、逆によくないだろうな」と思っていて。 |
Tad | 作りたい衝動に駆られてしまったんですもんね、バスの中で。 |
寺本 | そうですね。 |
Tad | 私も実は「ハックフォープレイ」のことは寺本さんにお会いする前から存じ上げていたんですが、小学生のお子さんのいる友人によると、「ハックフォープレイ」でゲームを作るというのを子どもたちがものすごく楽しみにしていて、自分もいつかゲームを作りたいと言っているそうです。なぜなら、自分たちも日々ゲームで楽しく遊んでいるから。そんなふうにのめりこんでいく子どもたちも多いと思うんですが、実際サービスを展開されて、子どもたちのプログラミングがうまくなってきたなとか、自分の作ったサービスを入口にしてもっと高いレベルの学習をしてくれるようになったなとか、そういう実感はありますか? |
寺本 | ありますね。かなり、あります。『ITビジネスプラザ武蔵』で「コーダー道場(CoderDojo)」という無償のプログラミングの寺子屋みたいなものを5年くらいやっていて、長く通っている子がいるんです。「ここで初めてプログラミングをやります」と言っていた子が、変数や関数も使いこなしていて、石川高専1年生の頃の僕よりも彼のほうがずっとできるな、という感じです。 |
原田 | 何年生くらいの方ですか? |
寺本 | 今、高校1年生くらいです。3年くらい通っていて驚くほど成長している子もいますね。「ハックフォープレイ」というゲームを、遊んでもらうだけじゃなくてゲームそのものを作るサービスも提供しています。本筋はそっちなんですが、作ったゲームをインターネット上に投稿できるようになっています。サービス自体はインターネットで全世界に公開しています。どこに住んでいるのかはわかりませんが人気のゲーム製作者さんがいまして、その人は「どうやってプログラミングを学んだらこんなに短期間にできるようになるんだろう?」というぐらいにすごい。その人のプログラムを読むと「なるほど、こんなやり方があったんだ」と思わされます。実はまだ小学5年生だったりして驚くんですが。 |
Tad | 「天才、現る」みたいな感じですね。 |
寺本 | そうですね。 |
Tad | すごいですね、やっぱり「ハックフォープレイ」が入口になっているというのはうれしいですよね。 |
寺本 | すごくうれしいですね。最近うれしかったのは、「ハックフォープレイ」をしばらくやってくれていた子が、ある時期ログインしなくなったんですよ。作品を公開しなくなったんですね。どうしたのかなと思っていたら、「Progate」という大人向けのプログラミング学習サービスがありまして―― |
Tad | ありますね。 |
寺本 | 日本の若い方によるすごく面白いベンチャー企業のサービスですが、どうやらその子が「Progate」でJavaScriptの勉強をしているようなんです。どうして「Progate」を頑張っているのかと訊いたら「ここでJavaScriptを学んだら『ハックフォープレイ』でもっと面白いゲームが作れるようになる」と言うんです。 |
Tad | それはうれしいですね。 |
原田 | 私もいまゾクゾクっとしました。すごい。 |
寺本 | 感動しました。 |
Tad | 企業として、今後どういうふうに展開していきたいとお考えですか? |
寺本 | 僕のやるべきことは、プログラミングには本来、「ハックフォープレイ」のような、こういう楽しさがあるんだということを伝えていく。それをソフトウェアに落としこんでいくというのが社会に対する自分の役割ではないかというふうに考えています。これをビジネスにするのは僕やパートナーがやっていけたら一番いいんですが、将来は他の人たちがやってくれてもいいのかなと思っています。それよりも今の自分が、世の中にまだないプログラミングの楽しさを感じられる新しい仕組みを今後作っていけたらなというふうに思っていて、そのために会社を存続させたいという思いがあります。 |
Tad | 利益は活動のための原資という感じですね。 |
寺本 | そうですね。 |
ゲストが選んだ今回の一曲
Bon Jovi
「It’s My Life」
「元々は父の大好きな曲で、車の中でよく聴いていました。中学校3年生の受験の時にも、毎日勉強しながら聴いていました。その時もすでに僕はパソコンが大好きで、パソコンに関係する仕事に就きたいというふうに漠然と思っていて、でも受験勉強をしないといけない、勉強したくない、と思いながら聴いていて、自分の背中を押してくれた曲でもあります。“今じゃなきゃダメなんだ”という歌詞が僕の中でジンときました。勉強そっちのけでパソコンにのめりこんでいましたね。あまりほめられたことではないですが(笑)」
トークを終えてAfter talk
Tad | 今回はゲストに『ハックフォープレイ株式会社』代表取締役社長の寺本 大輝さんをお迎えしましたけれども、いかがでしたか、原田さん。 |
---|---|
原田 | 寺本さんの“好き”というパワーのすごさや勢いが道をパッと開いてきたんだろうなと感じました。 |
Tad | そうですね。 |
原田 | Mitaniさんは、いかがでしたか。 |
Tad |
「ハックフォープレイ」は今、人気のサービスで、全国的にも有名になってきているんですが、最初のアイデアを人に伝えても、なかなかご自分の興奮が伝わっていなかったというのが印象的でした。それでも頭の中にあるアイデアを形にしたいという欲求を、ある意味、正直に表現できるプログラミングという方法によって実際に形にし、様々なコンテストで賞を獲得されて、起業に繋がったということですよね。 「ハックフォープレイ」自体が「プログラミングのスキルを持つ人を増やす、というプログラミング」になっているのがすごい。石川県にこういう人物がいたんだなと驚きました。「ハックフォープレイ」出身の子どもたちが今後、大人になっていくのも楽しみですね。 |