後編

プログラミング教材が、子どもたちの自由なプラットフォームに。

第75回放送

ハックフォープレイ株式会社 代表取締役社長

寺本大輝さん

Profile

てらもと・だいき/1994年、石川県金沢市生まれ。石川工業高等専門学校在学中の16歳でプログラミングと出合い、面白さに感動。その楽しさを広げるために、2014年、プログラミング学習サービス「ハックフォープレイ」を開発。「CVCK Award(クリエイティブベンチャーシティ金沢ビジネスプランアワード)2014」で受賞したことをきっかけに金沢市で起業。同年、「NICT起業家甲子園」で総務大臣賞を受賞。2015年度「IPA未踏スーパークリエータ」に認定された。

インタビュー前編はこちら

Tad 今回のゲストは前回に続きまして、『ハックフォープレイ株式会社』代表取締役社長の寺本大輝さんです。「IPA(独立行政法人 情報処理推進機構)」が認定する「未踏スーパークリエータ」のお一人。毎年度の認定者は日本に何百人といないんですよね(註:2000年度から2019年度分までで344名が認定)。
寺本 「ハックフォープレイ」というゲームを開発することでプログラミングを学べるというプロジェクトを採択していただきました。(註:「ハックフォープレイ」の概要は第74回を参照)
「IPA(独立行政法人 情報処理推進機構)」による、ITを駆使してイノベーションを創出できる突出した人材を発掘・育成するための「未踏事業」で、2015年度の「IPA未踏スーパークリエータ」に認定された。
Tad 「ハックフォープレイ」って、裏ワザを自分で作っていくようなイメージですね。
寺本 そうですね。
原田 そこが子ども心をくすぐるらしくて、私の息子も書き換えることが楽しいと言って、とんでもない数字に書き換えて大爆笑していました。私だったらつい考えて立ち止まってしまうようなこともどんどん体験していっちゃうんですね、子どもって。何の疑問も持たずに。すごいなぁと思いました。
Tad いわゆる「メタ」っぽいんですね。例えば演劇でも、観客に向かってしゃべってしまったり、シーンが暗転して主人公が観客目線になってしゃべったりというのがありますよね。そこから一歩はみ出たところの世界を体験できるといいなと思うんですが。これはゲームの中で遊んでいるけれども、その遊んでるゲーム自体を書き換えろというふうに示唆されるわけですよね。それもすごくユニークですよね。
寺本 まさに僕が面白いと思っている部分はそこで、ゲームって「遊ばされてる」と感じることが多いんですよ。誰かが作ったゲームに自分が遊ばされていると。別に悪いことじゃないんですが、でもそれはあくまで誰かが面白いゲームを作ってくれて、その面白い体験をさせてもらっているだけなんだと。けれど「ハックフォープレイ」はメタに捉えるので、どういうふうにそのゲームが作られているかというのを考えざるを得ないんですね。その体験を通じて「ゲームを作ることができるんだ」ということを体感してほしいというのが「ハックフォープレイ」の狙いなんです。
Tad 前回のお話にもありましたが、ゲームを作って実際に投稿するというのが「ハックフォープレイ」のサービスの中にあるんですね。
寺本 はい。それがまさに「未踏」に採択していただいて開発した部分なんですが、プログラミングが初めての方であっても、簡単にゲームを作ることができるようになる統合開発環境をブラウザ上で作って、ウェブサイトとしてそれを開発し、提供しています。
「ハックフォープレイ」の中で自分がプログラミングして作ったゲームを投稿して、他のユーザーと見せ合うことができる。
Tad ブラウザがあればということはパソコンが1台あれば、特別な環境の整備やソフトウェアのセットアップなどはいらなくて、ブラウザの中でプログラムを作れてしまうと。それでゲームができてしまうような仕組みなんですね。これまでにどのくらいの数になりますか?
寺本 件数でいうと、何度かサービス自体を作り直していて、その度にデータベースをまっさらな状態から「ハックフォープレイ」を始めます、というふうに言っているんですが、直近で始めたのは2017年くらいからの累計で10万ステージくらい。
Tad ちょっと想像外の数ですね。10万件ですか?
寺本 そうですね。今日はどういうゲームを作ろうかなと、毎日のように子どもたちが来るので。毎日2つ、3つと投稿する子もいますね。
原田 「ハックフォープレイ」を知ったきっかけというのは人から聞いてだとかパンフレットを見てだとか、いろいろあると思いますが、「ハックフォープレイ」を知ってもらうためにはどういった宣伝をされているんですか?
寺本 サービス自体はウェブサイトにアクセスすれば使えるようにはなっていますが、ワークショップの活動をいろんなツテで、草の根的に進めています。
Tad ワークショップというと小規模の教室を開くというような感じでしょうか。
寺本 そうですね。そういったところに自分たちが出向いて使わせていただくというのと、あとは僕が金沢市で「コーダー道場(CoderDojo)」というのを開催させていただいてますが、元々「コーダー道場」というのは、子どもたちに無料でプログラミングを教えてあげようという、アイルランドで始まった運動なんですよ。今、全世界で2000以上の道場が存在していますが、国内にも200以上の道場があって、実は『一般社団法人 CoderDojo Japan』と提携し、「ハックフォープレイ」の有料部分を「コーダー道場」に通っている皆さんに無料で使っていただけるようにしています。「コーダー道場」に来ている方たちは「ハックフォープレイ」をやろうという仲間がたくさんいるので、そこでみんなでやっているというような感じですね。
金沢市の『ITビジネスプラザ武蔵』で開催している無償のプログラミング教室「コーダー道場(CoderDojo)」の様子。
Tad ユーザーは金沢出身の方が多いんですか?
寺本 いや、全国ですね。東京が一番多いです。
原田 「ハックフォープレイ」には無料の部分と有料の部分があるんですね。
寺本 そうです。ゲームを作るときに必要な画像や素材などがすべて使えるようになるサービスを有料プランで提供しています。
Tad もっとリッチコンテンツにしたいなら有料プランで、子どもたちのほうで、それぞれ遊びあっているということでもあるんですね?
寺本 そうですね。
Tad それってSNSっぽいですよね。ネット上でゲームを介してコミュニケーションが行われているような感じだと思うんですが、それもやっぱり狙ってそういうふうにしようと思われたんですか?
寺本 そうですね。プログラミングって書いて学ぶものだというふうに思われがちなんですが、読むことのほうが多いんですね。
原田 どういうことですか?
寺本 プログラミングを学ぶときに、教科書に書いてあることを読んで理解して書くというのは、もちろん学び方の一つとしてあるんです。しかし、これは多くのプログラマーさんが言っていることですが、うまい人が書いたコードを読みながら「なんでこの人はこんな書き方をしたんだろう?」と考えながら読み進めるほうがずっと勉強になるんですね。「ハックフォープレイ」に投稿されているゲームというのは、ゲームとしての価値ももちろんありますが、無料のゲームって世の中にたくさんありますよね。それだけを価値として投稿サービスを提供しているのではなくて、「そのソースコードが読める状態でインターネット上にはたくさんゲームがありますよ、しかもそれは自分たちと同年代の子どもたちが書いたソースコードなんですよ」と、お互い誰でも見せ合う場を作るというのが、元々の目的だったんです。
原田 ソースコードというのは?
Tad コンピュータに対する命令を文章みたいに書いていくことですね。
原田 ゲームもやりつつ、その指令内容も同時に見られるということですか?
寺本 そういうことです。
原田 なるほど、こういう指示を出しているからこういう動きをしているんだなというのが一緒に見られるんですね。
Tad 勝手にみんなが上達しあっていくみたいなことですよね。この先「ハックフォープレイ」をどのように展開されたいのかをうかがいたいんですが、今のソーシャル要素であったりとか、「ハックフォープレイ」自体の機能をどう活かしていきたいですか?
寺本 これから取り組みたいことの大きなポイントとしては、やはりソーシャル要素なんですね。でもソーシャル要素というのは、平たく言えばSNSに近づけていくことなんですが、どうしてSNSに近づけていきたいかというところが重要なんです。自分がプログラミングを「楽しい!」と思った原体験を振り返ってみました。
石川高専の授業でプログラミングを習ったり、放課後にゲームを作ったりして、ゲームを作るだけでは物足りなくて、パソコン持って行って「これ、ちょっと遊んでみてよ」と友達に見せるとプレイしてくれる。それを僕が後ろから「なるほど、ここでつまずくんだ」とにやにやしながら見る。「クリアできないよ」と言われたら僕がその場でプログラムを改変して、「これならどう?」というふうにしたり、あるいは友達からもっとこういうふうにしたらいいんじゃないかとアドバイスをもらったりして、それでどんどんのめりこんでいって――。
原体験を振り返って気づいたのは「ただ一人でゲームを楽しみ続けていたわけではなかったんだな」ということでした。「ハックフォープレイ」にはソースコードを共有するという価値があると先ほど言いましたが、もう一つの価値として、自分が面白いと思ったゲームを友達に見せられる場でもあるというのがあるなと、最近すごく実感したんです。
その理由は「コロナ禍」にありました。学校が休校になりましたよね。その時に「ハックフォープレイ」のログイン数が一気に急増したんです。アクセスする時間帯もわかるんですが、朝の8時頃からユーザーがずっといるんです。学校に行けないとわかったらずっと居続ける。同時に投稿作品もこれまでと変わってきているのがわかりました。
Tad 増えたのではなく、変わってきたと。
寺本 そうなんです。例えば、あるユーザーが陸上のステージを作って、「オリリンピック」という名前を付けたんです。「オリリンピック」というのはその人の創作で、みんなでスポーツのゲームを作って盛り上げようというムーブメントを、彼は起こそうとしたんです。他の子たちも暇なのでそこに乗っかってきて、「じゃあ、僕はこのスポーツを作る」、「私はこのスポーツを作る」というふうにどんどん拡散されていって、みんなが「オリリンピック」というタグを作って盛り上がっていくというムーブメントが、僕たちの全く意図していないところで生まれていたんです。
それって、子どもたちのプログラミングを学ぶ理由が変わっていった瞬間だったのかなと僕は思っていて、それまでは純粋にプログラミングを学びたかった子たちがやってきて、プログラミングを学ぶためにゲームを作っていた側面が強かったのが、友達と一緒に、みんなでこれを作ろうと決めてやっている。みんなで見せ合って、それがきっと楽しいんですよね。
Tad 面白いですね。
原田 そうですね。寺本さんが思いもよらなかった展開が生まれたってことですよね。
寺本 これは休校の影響で見えたことです。それに対して僕たちは「ハックフォープレイ」をもっと子どもたちにとって友達との絆を感じられるものにしたり、一緒に楽しんでいるような感じが出るようなサービスにしていこうと決めました。いろんな機能の追加を考えたり、もっと根本的に、リアルタイムで、同時に、複数人でゲームが作れるような環境を一から作れないかと。
Tad 一人じゃなくて、同時にみんなでコードを書いていくということですね。
寺本 そうです。それって大人のプログラマーの世界では「GitHub」が最近「Codespaces」というサービスをローンチしましたが、つまりソースコードがリアルタイムでクラウド上にあるということですね。
Tad ソースコードの塊みたいなものを投稿できる、大人用の、と言いますか、仕事でその製品を使ったりだとか、オープンソース的に誰でも活用できるようなサービスがありますね。
寺本 そうです。だからこれからこういうものがどんどん来るだろうなとわかっていることでもあるので、これはプロダクトを作るために大人が使うためのものだけでなくてもいいんじゃないかなと思っていて、子どもたちが楽しむためにプログラミングをしたいと思ったときに、リアルタイムに同時編集ができたらそれって楽しいんじゃないかなと。
Tad なるほど。運営側が想像もしてなかった楽しみを子どもたちが勝手に見出すとは、すごくポテンシャルを感じます。

ゲストが選んだ今回の一曲

HY

「モノクロ」

「MP3プレイヤーを買ってもらった小学生の頃によく聴いていた曲です。当時、プレイヤーをどうにかして学校に持ちこめないかと考えていて、胸ポケットに入れて、イヤホンのコードをスーッと一方の袖に通して、袖口からちょろんと出しておいて頬杖をついているようなスタイルでこっそり音楽を聴くというのを、今考えると何が楽しかったのかよくわからないですが、当時の僕にとってそれはすごく楽しいことだったんです。思い出の曲です」

トークを終えてAfter talk

Tad 今回は前回に引き続き、『ハックフォープレイ株式会社』代表取締役社長の寺本大輝さんをゲストにお迎えしましたけれども、いかがでしたか、原田さん。
原田 「ハックフォープレイ」って子どもたちが集えるウェブ上の公園みたいだなというふうに感じました。しかもそこで楽しく学べるわけですよね。すごく可能性が広がっているなと思いました。Mitaniさんは、いかがでしたか。
Tad たまたま私も公園のような話をしますが、プログラミングの世界ではプログラマーが自由にコードを書いて、それを試せる場として「サンドボックス」というものがあるんですが、もしエラーがあって想定外の動きをしても、システムが壊れないように柵で囲ってあるような環境のことを言うんですね。子どもたちにとってはまさに、原田さんが公園とおっしゃいましたが、サンドボックスとしての「ハックフォープレイ」だったはずなんだけども、寺本さんたちでさえ想定していなかったような遊びができるくらい、自由度の高いプラットフォームになってきている、そんな感じがしました。
プログラミング学習教材というのはオンラインの場合、国内外にいろいろあります。ただ、こういう「エコシステム」というか、バーチャル空間上で生態系ができているようなプログラミング教材サービスって他にないと思うんですよね。もちろんバーチャルでの交流も楽しいはずなんですが、日本中の中学・高校に「ハックフォープレイ」ができる場所ができてもいいなというくらいに思いました。全国の教育機関の関係者の方々、もしこのラジオを聞いてくださっていたら、ぜひご検討ください(笑)。

読むラジオ一覧へ