後編

目指すは「食パンの遊園地」。

第31回放送

SHINDEX株式会社 代表取締役社長

新出純一さん

Profile

しんで・じゅんいち/1976年、石川県金沢市生まれ。高校卒業後は家具製造・取り付け大工や、自動販売機のルート営業を経て、2003年頃よりいくつかの店舗にてパン作りを学ぶ。2011年7月、金沢市神宮寺に『新出製パン所』を個人で開業。2014年、『SHINDEX株式会社』を設立。

インタビュー前編はこちら

Tad 今回のゲストは前回に引き続きまして、『SHINDEX株式会社』代表取締役社長、新出純一さんです。工場兼本社の建物がすごくかっこいいんですが、やはり何かこだわりがおありなんでしょうか?
新出 私は工業系の高校にいたので自分で図面が引けるんですよ。最初の職も大工でしたから。120%思い通りの会社が出来ました。
原田 こちらも新出さんの作品だったんですね。『SHINDEX』という社名もすごくかっこいいと思うんですが、これは何か由来はあるんですか。
金沢市疋田にある『SHINDEX株式会社』工場兼本社社屋。新出社長みずから設計に携わった。
新出 由来、言ってもよろしいでしょうか?「X(エックス)」をつけただけです(笑)。
原田 「SHINDE(新出)」プラス「X(エックス)」で「SHINDEX」、なるほど。今、ふと思いついたんですが「SHINDE(新出)×(掛ける)」とも読めなくもないので、いろんな方との掛け算をこれからしていくのかなと思ったんですが、そういった意味付けはいかがでしょうか?
Tad いい深読みですね。
新出 これからそうします(笑)。
Tad いろんな方とコラボレーションされていますね。御社のWebサイトにも『あめの俵屋』や『ヤマト醤油味噌』、『福光屋』のロゴが並んでいますが、あれは食パンの生地に練りこんでいるような形でコラボされているんですよね。
新出 そうですね。ありがたいことに老舗さんの方からお声がけいただきました。素材を「生地に練りこみタイプ」、もしくは固形物があれば「巻きこみタイプ」といったようにいろんな製法があります。当社はほかのパン屋さんとは違って、1つの生地に1つの材料を練りこむ「1ひねり」じゃなくて、3つの要素を入れる「3ひねり」まですることで差別化しています。
さまざまな素材を練り込んだり巻き込んだりして、多彩な食パンを展開している。
Tad 例えばどのようにですか?
新出 『圓八』のあんころの食パンを作ったときは……そもそも、あんころに食パンって、想像つきますか?
Tad お餅も入っていますしね。
新出 それを生地に巻き込んだんです。ただ巻き込んだわけではなくて、1ひねり目にあんころを入れて、2ひねり目は次の生地に入れ込んで生地を四分割にして割くタイプにしたんですよ。説明が少し難しいですが。
Tad あ、手で割いて食べるタイプですか?
新出 上から割くタイプ。食パンにしたら斬新でしょう?スライスしてしまうと、あんころも餅も「ぐちゃっ」としちゃいますからね。
原田 潰れてしまいますね。
新出 そうなんですよ。それが「2ひねり」の食べ方。「3ひねり」は竹皮で包んだ、というところにあります。
Tad あんころ餅入りの食パンを?
新出 そうなんですよ。
Tad めちゃくちゃいいじゃないですか。
新出 ここまでするんですよ。
Tad すごいですね。今日から『SHINDEX』の「X」は、やはり「掛ける」を意味するコラボレーションの「X(エックス)」にしましょう!
新出 今日からはその引用も加えさせていただいて、社名を説明するようにします。
Tad 新出さんの食パンが人気になり、生産能力を拡大されて本社の工場を新しくされたと思うんですが、工場もどんどん大きくなっていってるんでしょうか?
新出 工場は本社兼工場だけで大きさは変わりません。現時点で工場のキャパの5割ぐらいが稼働していて、あと5割はこれからですよね。無理はしないという形をとっているのでこれから5割をやっていくという感じです。
Tad 新出さんの食パンを売っているお店が増えてきていると思うんですが?
新出 ちまたでいうFC展開ですが、「分所」として石川県は能美市、富山は高岡市、福井は福井市大和田、今後またさらに目の届く範囲でやっていきます(※2021年7月現在、分所は4店舗、分家は2店舗)。
北陸エリアに広がりを見せる分所や分家の数々。
Tad それらをフランチャイズと呼ばずに「分所」と呼ぶのはなぜですか?
新出 横文字が苦手なもので(笑)。『新出製パン所』と銘打ったのも、開店当初は「〇〇ブーランジェリー」みたいなおしゃれな名前のパン屋さんが多かったんですよ。でも恥ずかしながら自分はそういう名前を覚えられないんですよ。読めないですし。それなら日本名にしよう、縦文字にしようと。
原田 逆にそうすることで目立ちましたよね、きっと。
新出 目立ちましたね。縦文字にすると今度は店の構えも和風にしなくてはならない。逆にやりやすかったですよ。
Tad そういうことだったんですね。
原田 食パンの名前も漢字を使っていて、印象に残るネーミングですよね。
Tad 焼き印も「新」という漢字を崩したようなものですね。
新出 あれは「新出」と書いてあるんです。昔使っていた銀行印を大きくモチーフにして、焼きゴテにしました。
Tad 店名自体も当時、画期的だったでしょうね。分所を拡大される傾向はどこまでという思いでいらっしゃいますか?
新出 エリアがかぶらないようにという感じですね。あとは目の届く範囲、配達ができる範囲で。出店は一時間半で配達できる範囲でと決めています。ですから広げたとしても北陸三県ですよね。その先は考えていません。
原田 あくまでも今は工場で作って、配達をしてということですよね。
新出 はい。工場で100%一括生産です。工場で、衛生面も考えて袋詰めまで徹底しています。それが一番の安心材料です。私が安心できないと出荷できないですから。
原田 ところで新出さんご自身は、「パン派」ですか、「ごはん派」ですか?
新出 ごはんを食べますね。毎日、ごはんです。
原田 そうなんですか。意外な言葉が出てきました。逆にパンに対する目が厳しくなるものでしょうか?
新出 確かに、パンを客観的に見ることができる。そこはいいことだと思います。
原田 自分が好きだから、というわけではなくて、純粋に「これはおいしいかどうか」を測ることができると。
Tad 好きすぎると一人よがりみたいなものが出てしまうものでしょうか?
新出 そうですね。結果論ですが。
原田 ちなみに、新出さんのパンを一番おいしく食べるにはどうしたらいいんでしょうか?
新出 その質問は一番難しいですね。いろいろな種類の食パンがありますが、プレーンなタイプは、その日お買い上げいただいたものはその日のうちに生で一度食べていただきたいですね。その次の日はお好みで。ただ、トーストはしてもいいですが、あくまで軽めにしてください。あんまり焼きすぎると本来の食パンの味や風味も飛んでしまいますし、固くなるだけなので。本当に軽めに、表面だけ焼く感じで。
原田 少し余熱したところへさっと入れて出す感じでしょうか。
新出 そうですね。私は食べないのでやりませんが(笑)。
原田 意外な話がいっぱい出てきましたね(笑)。
Tad 私は食パンというのは日本だけの文化に思えるんです。もしかしたら海外でもウケるんじゃないかなと思ったりするんですが、どうですか?
新出 海外も考えてはおります。
Tad 食パンで海外にもうじき進出すると。
新出 もちろん。食パンというか『新出製パン所』ですね。『新出製パン所』が海外に行く。そういうイメージです。食パンはうちの子どもたちなんです。
原田 なるほど。一つのファミリーのような。
新出 ファミリーで行くんです。
Tad 結果的に食パンだったわけで、ジャンルとしては『新出製パン所』であると、そういう意気込みを持って行かれるんですね。海外はどの辺に進出されるんですか?
新出 まずベトナムです。私はすべてにおいて直感で動くタイプなんです。店を立ち上げる場所もそうです。ベトナムは研修生を雇い入れるためだったんですが、現地に足を踏み入れた瞬間、「成功できる」という確信を持ちました。
原田 ベトナムの研修生の方が働いていらっしゃるんですね。
新出 はい、それがきっかけです。
Tad パン作りをどんどん分所化されて、海外進出もして、というふうに夢が叶うと、この後『新出製パン所』はどこまで行くのでしょうか?
新出 はい、それが私の一番言いたかったことです。目指す最終形態は、「食パンの遊園地」です。
Tad 食パンの遊園地?
原田 えーっ! 今までにないですよね。聞いたことがないです。
新出 今、原田さんが「えーっ!」て言ったでしょう? 私、その「えーっ!」っていう反応が大好きなんです。
原田 見事にはまってしまいました。
新出 これで本当に実現させたら最高じゃないですか。
Tad 想像がつかないですが。
新出 私も想像がついてません。
原田 ご自身もワクワクしている?
新出 ワクワクしていますし、今こうやって言葉にしたので、近い将来に必ず実行させます。
Tad 「パンの遊園地」というのは、新しい言葉の組み合わせですよね。何をきっかけにそういうコンセプトを練られたんでしょうか?
新出 分所のメンバーは異業種の社長さんたちが担ってくださっているのですが、例えば私の食パンのように、他の社長さんたちにもいろいろな得意分野がある。それを組み合わせて、力を合わせて、というものです。遊園地って、大人から子どもまでが一日中楽しめるエンターテインメントですよね。それを作りたいです。
Tad ワクワク、ハラハラ、ドキドキっていう感じがしますね。
新出 最高じゃないですか。こういうのって金沢にないじゃないですか。
原田 そこでは当然、パンを食べられるんですか?
新出 もちろん。
原田 もしかしたら食パンだけじゃなくて?
新出 先ほど「食パンの遊園地」と言いましたが、その時は総合的なパンの遊園地にしたいですね。今は作ってませんが、いろいろなパンも作れますから、その時はおいしいパンをフルラインナップでやりたいなと思っています。
原田 聞いただけでパン好きはワクワクしますね。
Tad パンに囲まれていたいですもんね。
原田 囲まれていたいです。
新出 そういう場所が一つあってもいいじゃないですか。私が一番ワクワクしてますもん。
原田 それがやっぱり原動力なんですね。

ゲストが選んだ今回の一曲

THE BLUE HEARTS

「情熱の薔薇」

「歌詞を聴くと、いつも奮い立つような感覚があります。自分の気持ちを奮い立たせる時は、常にこれを聴きます」

トークを終えてAfter talk

Tad 今回はゲストに『SHINDEX株式会社』代表取締役社長、新出純一さんをお迎えしましたけれども、いかがでしたか、原田さん。
原田 新出さんが「『新出製パン所』は家族で、パンは子どもたちだ」というお話をされましたが、「ごはん派だよ」と言いながら、やっぱりパンでこれからも勝負していくんだという決意を感じました。Mitaniさんは、いかがでしたか。
Tad 真面目なお話かと思えばズッコケさせられるとか(笑)、「遊園地をパンで作る」といったこととか、実は「ちょっと外す」というのも新出さんの計算なのかなと思えてきました。また、『圓八』のあんころ餅と食パンなんて嘘みたいな組み合わせですが、老舗とのコラボ、二分野の結合によって新たなイマジネーションが広がっていくというのが『新出製パン所』の強烈な、新しいコンセプトになっていますよね。異分野の才能を持った人たちが集まってきて、新しい分野同士を結合させるということが、新出さんの冗談みたいな雰囲気と真剣さを行き来することによって、本当に形になっていくのかもしれないなと思いました。
原田 どこにもないものが出来上がるんでしょうね。
Tad 何年後かの石川県に「パンの遊園地」ができていると思いますね。

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