前編

『PHAETON』という表現の“カテゴリー”。

第173回放送

株式会社Phats Square Company 代表取締役

坂矢悠詞人さん

Profile

さかや・よしひと/1981年、石川県小松市生まれ。大聖寺高等学校在学中からアメリカへ、ヴィンテージの洋服の買い付けに行き、フリーマーケットで販売するように。高校卒業後、駒澤大学に進学。2010年、セレクトショップ『PHAETON(フェートン)』を加賀市にオープン。現在、『Phats Square Company』(創業は2014年。加賀市伊切町)の代表を務め、金沢市内にアパレルショップを4店舗、フレグランスショップを2店舗と、加賀市の本店横の紅茶専門店『TEATON(ティートン)』を運営。

Phats Square Company Inc.Webサイト

インタビュー後編はこちら

Tad 数年前のことですが、片山津インターを降りてすぐのところに、とっても素敵なお店があって、何のお店だろうと思って吸い寄せられるように入ったんですよ。そしたら、ほかに見たことのない洋服とか、ヴィンテージの眼鏡とかがある、すごく素敵なセレクトショップで、一体どんな方がセレクトしているんだろうとずっと思ってたんですよ。そしたら、ある方のご紹介で、その方に出会えてしまったんです。
原田 ご縁がつながったんですね。
Tad 今回はその方をみなさんにご紹介したいと思います。『株式会社Phats Square Company』代表取締役の坂矢 悠詞人さんです。恐る恐る「ラジオに出ていただけませんでしょうか」と聞いたところ、いいですよと。
坂矢 ありがとうございます。
原田 醸し出す雰囲気がなんとも素敵ですね。肩からかけていらっしゃるのは何でしょうか?
坂矢 これはエクスプローラースカーフ、いわゆる「探検家のスカーフ」です。雨が降ると傘代わりになります。
原田 結構大判なんですね。
坂矢 はい。僕は傘の代わりに使ってます。
原田 さりげなく首にかけていらっしゃいますが、すごくおしゃれ。
Tad めちゃくちゃかっこいいです。坂矢さん、『PHAETON』というお店を音声だけで表現するとしたら、どうなりますか?
坂矢 ……どんなお店、というよりも、『PHAETON』という“カテゴリー”なんですよね。オープンしたのが2010年ですが、最初から香水、いわゆるニッチフレグランスを20種、インポートの洋服とヴィンテージの眼鏡を扱っています。それがいわゆる『PHAETON』というカテゴリーなんです。いままでなかったことをやっているので。
原田 『PHAETON』に行かないと手に入らない商品を扱っていらっしゃるんですね。
坂矢 そうですね。香水もそうですが、2010年に1950年代のヴィンテージの眼鏡フレームが並んでるお店はなかったと思うんですよ。
PHAETONの一角の眼鏡コーナーには、欧州のヴィンテージフレームが揃う。
Tad 『PHAETON』という名前の由来は?
坂矢 僕はすごく車が好きで、「フェートン(phaeton)」というのは昔のオープンカーの一形式を指す用語なんです。主にホロつきの車ですね。オープンカーというと、イギリスではロードスター、アメリカだとコンバーティブルという言い方があると思いますが、昔は全部「フェートン」と呼んでいたんです。僕はそのツードアのオープンカーが大好きで。車としてはすごくリッチですよね。人を乗せるために走るのではなくて、自分自身が運転して好きなように走る、そういう車が好きなんです。輸送する車じゃなくて、移動手段以上のものというか、趣味性が高いものですよね。
Tad そういう名前を付けたのは、お店のイメージをそこに乗せたかったからですか?
坂矢 そうかもしれないですね。好きなものをそのまま屋号にしたっていう感じだったかもしれません。
原田 主力として置かれている商品は坂矢さんご自身が選ばれて、自信を持って「これだ」というものを販売されているわけですよね。
坂矢 そうですね。僕は自分が着ないような服を売らないですし、自分がつけない香水も売らないです。紅茶専門店も運営していますが、僕はコーヒーを飲まないんですよ。かつては一日に20杯ほど飲んでいたんですが、あるネパールの紅茶にはまって、そこから紅茶一本になってしまって。それで紅茶の専門店を作りました。ですから、コーヒーは出しません。自分が着ないもの、食べないものは売りません。
原田 なるほど。坂矢さんのフィルターを通ったものがお店に並んでいるんですね。お洋服とか香水とかは、事前に坂矢さんが実際に身につけられてから売っているんでしょうか?
坂矢 そうなんです。ブランドを取り扱う理由はいろいろあると思いますが、僕の場合は、まず自分が一年くらい、そのブランドの服を着ます。一年着てみてから、初めてデザイナーに会いに行きます。だから、うちではブランドは増やしません。基本的にはあんまり多くはないんですよ。そのかわり、一つのブランドがフルラインで並びます。
Tad そのシーズンに出ているラインアップを全部、そろえていらっしゃると。
坂矢 そうです。いわゆるセレクトショップって、あるブランドの何アイテムかを並べてセレクトするものなのかもしれないですが、うちはそれとは違います。ブランドというか、デザイナーの思想や哲学そのものをセレクトしていると思います。
原田 選んでいらっしゃるものは、やはり作り手の思いやストーリーが強いものが多いのでしょうか?
坂矢 そうですね。だからうちでは、セールは一切しません。
原田 たしかにセールをすることは、作った方に失礼と言いますか……
坂矢 そうですよね。5万円のシャツはやっぱり5万円なんですよ。それを、たとえばセールで1万円にして売っても誰も得をしないと僕は考えます。着る方が安く買えて良いんじゃないかという人もいますが、ちょっと違うんですよね。波動も良くないですし、そのデザインに込められている思いもありますし、そのシャツが5万円という価格だからブランドが存続できるんですよ。
Tad そういうことですよね。
坂矢 安く売るっていうのは、僕はデザイナーに失礼だなと思います。
原田 それだけの価値があるものだから、それでこの値段で売ってるんだということですよね。
坂矢 それに対する自信もありますし、僕も5万円のものを1万円で売るっていう行為自体がもう理解できないんですよ。
原田 県内外からお客さんもいらっしゃるわけですよね。
坂矢 7割以上が県外の方なので、ちょっと特殊かもしれないです。
Tad 県外の方は何を見てお店にいらっしゃるんですか?
坂矢 SNSの時代なので、インスタグラムを見て、という方もいると思いますが、ほかには『大勉強』という本を作っています。
Tad 雑誌ですか?
坂矢 はい。石川県で全ページを撮影していて、それを見て来られる方も非常に多いです。
Phats Square Companyが発行する雑誌『大勉強』。vol.5では椎名林檎さんが表紙とインタビューに登場した。
Tad どういう雑誌なんですか?
坂矢 これもお店を説明するぐらい難しいですが、テーマを決めて、僕がいま「大勉強していること」がメインになって、チームで作っています。タイトルの『大勉強』という言葉には由来がありまして、10年来の付き合いになる手書きのサインペインターがいるんですが、ある日、彼から「大勉強の店 PHAETON」っていう看板が届いたんですよ。「これ、なんですか?」って電話しました。
Tad その方が勝手に作られたんですか?
坂矢 はい、勝手に。そしたら「なんかいつもめちゃくちゃ大勉強するじゃん? だから」って言われて。実際に、僕はわりとこれだと思ったものにはのめり込むんですよ。紅茶もそうです。紅茶にはまって、自分で紅茶を淹れて、お客さんに出していたんです。それからお店の洋服を全部よけて、お店の中でお茶会を始めて。その延長で「いっそ紅茶専門のお店を作っちゃおう」と。それで紅茶のお店ができました。香水のお店もそうです。僕は中学1年生のときから香水をつけています。ですから、「なんで香水のお店を作ったんですか?」と聞かれることもあるんですが、自分としては全然唐突じゃないですよ。香水の銘柄を数百種そろえていますが、僕が一本一本選んでいます。
ニッチフレグランスや紅茶にのめり込み、専門店を構えるまでに。
原田 全てを勉強した、というか、調べ尽くしたり、極め尽くしたり、味わい尽くしたっていう意味の「大勉強」なんですね。
坂矢 そうです。
Tad そこから雑誌のタイトルにしたということなんですね。せせらぎ通り沿いの香水のお店にも紅茶のお店にも、たまに行かせていただくんですが、実は、紅茶のお店は会員しか入れないんですよね。
原田 会員制のお店ということですか?
Tad はい。カードキーがあって、それをかざすとやっと扉が開くんですよ。
原田 一見さんは、入れないわけですね?
坂矢 そうなんです。一見の方でもテイクアウトはできるんですが、イートイン、店内の利用は会員様じゃないとできないんです。
会員制の紅茶専門店『TEATON』。石川県加賀市の『PHAETON』に隣接する。
原田 それは何か思いがあってのことなんでしょうか?
坂矢 立地があの場所で、紅茶の専門店で、さらに言うと香料を使った紅茶は出さずに、シングルの茶葉、いわゆるダージリン、アッサム、ブレックファーストを出すんですが、会員制にした理由は、お客様と「両思いになりたいな」と思ったからなんですよね。
原田 両思い?
坂矢 お客様もそこまで行って紅茶を飲みたいと思って来てくださいますし、私たちもそういう人に紅茶を飲んでもらいたいな、ということで会員制にしました。
原田 お店としても本当にお店に行きたい、このお店で紅茶を飲みたいと思う人とつながりたいと。
坂矢 そうです。『TEATON』の隣が『PHAETON』なんですが、ありがたいことにお客様の客層がすごくいいんですよ。ある日、香港から「ずっと行きたかった『PHAETON』にやっと来れた」という方が数名いらっしゃって、彼らは買い物が終わったらお店の写真を撮って、タクシーに乗って金沢に向かいました。次の日に、フランスからも10名くらいいらっしゃって、その時は僕もたまたまお店に居合わせたんですが、やはりお買い物をされてからタクシーで金沢に……というのが、ずっと続いたんですよ。買い物って30分から1時間くらいはおもてなしできますが、せっかく遠くから来ていただいたのに、あまりゆっくりしていただけないことがなんだか申し訳ないなと思い始めて、『あともう一時間アテンドしたいな』という思いがずっとあって。そこで紅茶が結びついたんです。ですから、そもそも金沢市内で紅茶の専門店をやろうとは考えてなくて、『PHAETON』の隣に作ったというわけです。
美しい自然と上質なインテリアに囲まれた『TEATON』。感性を味わえるような空間だ。
Tad いわゆる中心地からはすごく離れているし、それを目的にアクセスしないとたどり着けない場所でもありますよね。私はふらっと入ってしまったんですが、ずっとリピートされるお客様というのは、まさに『PHAETON』、『TEATON』に行かなきゃいけない、行きたいという思いで足を運ぶわけですよね。すごく幸せなことですよね。
坂矢 本当に幸せなことです。『大勉強』も実はここにつながるんですが、お買い物の後に行っていただく温泉や、ごはん屋さんを紹介したいなと思ったんですよ。実際にお昼ごはんはどこに行けばいいですか、夜のおすすめはありますかと結構聞かれるので。それを『大勉強』でも紹介しています。ですから、どれも唐突なことではなく、ちゃんと理由があるんです。
原田 つながってますね、全部。
Tad なるほど。おもてなしの思いがこもっていたんですね。
坂矢 そうですね。ですから、『大勉強』には広告が入っていません。本当に自分たちがおすすめしたいところだけを紹介しています。

ゲストが選んだ今回の一曲

坂本龍一

「Merry Christmas Mr.Lawrence」

「中学生の頃の曲ですが、初めて聴いた時に衝撃を受けました。この曲を弾きたいと思って、友人の母がピアノの先生だったので習いに行って、弾けるようになって辞めました。音符のことはよくわかりませんが、これだけは弾けます」(坂矢)

トークを終えてAfter talk

Tad 今回はゲストに『株式会社Phats Square Company』代表取締役の坂矢 悠詞人さんをお迎えしましたけれども、いかがでしたか、原田さん。
原田 坂矢さんは自分の好きなものや心惹かれるものに本当に真剣に向き合って、それを掘り下げて発信していらっしゃいますが、これってなかなかできそうでできないことなんじゃないかなと思いましたし、それが『PHAETON』そのものであり、その魅力につながってるんだなと感じました。Mitaniさんはいかがでしたか。
Tad 印象的だったのは「5万円のシャツは5万円なんです」というお話。セレクトショップというのはデザイナーの哲学とかコンセプトをセレクトさせてもらっているということでしたが、作り手に対する敬意の払い方っていうのは本来そうあるべきだったのかなとも思いました。でも法律上は、所有者が転移すればセールや安売りの対象になってしまうこともあるわけですよね。近代以降の経済学は利益や便益を最大化するというのが前提条件ですが、坂矢さんが作られているお店や空間というのは、儲けるとか儲かるとかっていうことよりも、自分や自分たちがどうありたいのかという表現活動を優先していますよね。本来、すべての経済参加者が大切にしなければいけないことではないかと思いました。

読むラジオ一覧へ