後編

“コミュニケーションの手段”としてのマナーを伝える。

第105回放送

株式会社北国販社 代表取締役社長

田川ひとみさん

Profile

たがわ・ひとみ/1974年、石川県金沢市生まれ。北陸学院短期大学英文科を卒業後、アメリカに留学。ヤマノ・ビューティカレッジ アメリカロサンゼルス校、GOWOWメイクアップスタジオ ロサンゼルスハリウッドを卒業。1995年、『株式会社ノエビア』に入社し、教育部で活躍。その後、『日本航空株式会社』を経て、父が経営する『株式会社北国販社』(創業は1980年。金沢市入江。事業内容は企業向けの教育事業、コンサルタント、メンタルヘルスハラスメント企業外部カウンセラー、化粧品卸売販売所)に入社。2017年、代表取締役に就任。

インタビュー前編はこちら

Tad 今回のゲストは前回に引き続き、『株式会社北国販社』代表取締役社長、田川ひとみさんです。最初は化粧品「ノエビア」の販売を行っていた『株式会社北国販社』ですが、今では研修、教育の事業も展開されているということでした。
田川 はい。
Tad 化粧をして自信を持つことができて、きれいになって結婚できました、とか、お客様の人生が変わるというエピソードに、僕は「なるほど」と思いました。マナー研修をされることに関しても、社会人として一人前になりたくてもその方法がわからないという人に、寄り添っていらっしゃるのかなというふうに感じました。
田川 『株式会社ノエビア』に入社したとき、まわりの人たちは就職活動をするときに大学でビジネスマナーを習っていらっしゃったんですが、わたしはまったくそういったことを学ばずに入社してしまって、実は恥ずかしい思いをたくさんしました。電話の出方も分からず、名刺交換も分からず…だから自分が人よりも自信がなくて、電話もつい気後れするんだなと思い知ったんです。知っていれば社会人になったときに自信が持てるので、せめてそこだけでもと思ってマナーからお伝えしたいなということで始めました。
『株式会社ノエビア』に勤務していた頃の写真(写真左)。同社の教育部で活躍。
原田 田川さん自身もそこからマナーについて学び始めたということですか?
田川 そうですね。実はマナーも航空会社在籍時に上の方から「いま、こういう事業をして協会を立てているんだけど、一緒に学んでみませんか」とお声をかけていただいて、そこでもう一度学びなおしました。いま現在は日本サービスマナー協会というところで本部講師として研修も担当しております。
Tad なるほど。マナーって、騙し騙し自分も確かめながら、多分こうだったかな、というふうに消化しちゃっている気がします。
田川 そうなんですよね。昨日も電話応対の研修でお伝えしていますが、マナーってどこまでが正しいか、変わっていくものなんです。礼儀作法というのは決まった作法ですが、マナーというのは目的が違っていて、コミュニケーションの手段なんですね。ですから、時と場合によって変えていいものなんです。相手が望むことや思いやりの気持ちを形に表したものがマナーであり、どんどん変わっていくものなんです。「わたしもまだまだ勉強途中なので、一緒に考えて学んでいきましょう」と、いつもみなさんに伝えています。
Tad なるほど。目から鱗な感じがしました。
原田 「マナー=礼儀作法」と思っていたので、そうじゃなくて人と人とのコミュニケーションのなかで相手に心地よく感じてもらうものなんですね。
田川 そうなんです。礼儀作法は、例えば畳の縁を踏まないとか、襖の開け方とかがありますが、極端なことを言うと、人間って一人だけだったらマナーっていらないんですよね。誰も見てないですから洋服だって着なくていいし(笑)、食べ方がどうであれ関係ないんですが、自分とは別の他人がいるから、そこにマナーが存在して、相手にとって自分が喜びの種になるようなことができたら…っていうのがもともとのマナーのスタートなんですよ。
Tad 企業向けに新人の方や社会人の方にマナーの研修をされていると思うんですが、受講生の方々が意外と知らないマナー分野というのはあるものなんですか?
田川 毎回お願いされるのは、やはり名刺交換ですね。習ったことがないと言われます。あとは得意先に訪問した時のマナー。例えば名刺交換の順番、名刺の置き場所、退室の仕方とか。あとは席次も聞かれますよね、上座下座はどこなんですかとか。
原田 わたしもちょっとあやふやですね(笑)。
Tad 入口から向かい側のどっちが上座だろうとか(笑)。
田川 そういうことも知っているとスムーズに仕事の話ができるじゃないですか。でも、そこが分からずにドキマギしてしまうと、結果的にハードルが高くなってしまう。
原田 それで自信がなくなって…
田川 そこは本当に、一回知ると、もう覚えてしまうことなので。
原田 時代的に目上の人とお話する機会が学生時代にあんまりなかったりして、突然そういう方と接するときに、ただでさえ気後れするなかで、どうやってそういった方と接したらいいかというのもありますよね。
田川 もちろん言葉遣いや敬語の使い方も研修でお話しするんですが、その前に、人と人なので、目上の方であってもちゃんと敬意を持って接していれば、多少敬語を間違えたところで「それよりも“心”が大切ではないですか」とお話しさせていただいています。
Tad 最終的には縛られてもいけないものっていう感じですよね。
田川 そうですね。それよりも相手を思う気持ち、敬う気持ちというのが先にこないと、形ばかりできていてもすごく冷たい感じがありますよね。敬語はすごく上手なんだけど、敬語が上手くなればなるほど距離感が生じるということ、ありませんか?
原田 なんだか線を引かれている感じがしたり…
田川 「かしこまりました」とか「承知しました」とか。どんどん距離感が…(笑)
Tad 丁寧すぎちゃって。
田川 そうなんです。だから時には「わかりましたー!」って感情を入れてしまって、ちょっと失礼になったかなと思っても、やっぱり気持ちがこもっていればマナーはコミュニケーションなのでいいかなとは伝えています。
Tad 企業のなかで実際に講座を受け持つ場合は、どんなふうにされているんですか?
田川 オンラインもありますし、実際に研修室を持っていらっしゃる企業であれば、いま換気システムや感染予防の対策をされている企業に対しては集団研修を行っていますし、そうでない企業に対してはオンラインで対応しております。
Tad オンラインでも支障はないものなんですか?
田川 オンラインはオンラインでまた良さがあるので、支障はないですね。
石川県の『国際高等専門学校』でのオンライン研修の様子。
原田 田川さんご自身がいろいろ学んでいるなかで、礎にしている部分や、田川さんの先生のような存在の方っていらっしゃるんですか?
田川 他の企業での学びを経て、父の経営する『北国販社』に戻ったときに「話道(わどう)」というものを日本で作った喜田寛先生という方がいらっしゃって、その方から「人の生き方、心構えというのはすべて、話し方や話に言霊が出てくるんだよ」と学びました。先生は35年に亘ってそのお仕事をされていて、どの企業に行かれても必ずまずは挨拶、笑顔、感謝、謙虚であること、時間を守ること、これしか言わないんです。その先生の下にずっと通って勉強しているので、そこがいま、自分自身の基礎になっております。
原田 たしかに「声は人なり」と、わたしたちアナウンサーの世界でも必ず言われるんですが、話し方とか声とかそういうもののなかに、その人の積み上げてきたものや人格が全部出ると言いますね。
Tad すごく反省しなきゃいけない気がしてきました…
原田 そんなことないですよ(笑)。
田川 Mitaniさんのお声は、とても落ち着いていらっしゃいますよ。
Tad いやいや、眠くなる声ですみません(笑)。「話道」っていうんですか。
田川 そうなんです、本当に当たり前のことなんですが、でも当たり前のことほど続けるって難しいですよね。「ありがとう」とか「おはようございます」とか、挨拶一つにしても自分からするということでしたり…喜田先生は、そういう当たり前のことを企業で教えていらっしゃる先生なんです。
原田 ずっとやっていらっしゃるということは、それだけ企業さんの方でも「やっぱりこれがいい」と継続されているんでしょうか?
田川 そうですね。先生も一つの企業さんで35年とか継続されていて、一社たりとも1回で終わる企業さんはなくて。わたし自身も先生からの教えで、1回きりになるような仕事はしないということと、毎回必ず初心を大切に、今日が初めての日だと思って毎日毎回研修しなさいと言われます。
Tad そうすると『株式会社北国販社』のお客様も、長年のお客様はたくさんいらっしゃるんですか?
田川 多いですね。おばあちゃんの頃から三世代でという方もいらっしゃいます。みなさん、お付き合いは長いですね。
原田 研修においても、継続して何年も続けているような企業が多いのでしょうか?
田川 そうですね。長い企業では今年で10年ですね。
原田 研修は毎年行うのですか?
田川 毎年というか毎月ですね。
原田 毎月?! 新人だけじゃなくて、リーダーになっていかれるような方も対象になるわけですか?
田川 そうです。いまは年間で毎月支援させていただいている企業さんは、社内に人材育成チームといって企業内で研修をするチームがありまして、その人材育成チームの6名の方のトレーニングを行っています。今年で3年目になります。本当に一番いい教育っていうのは、企業が外注してわたしみたいな講師を呼ぶのではなくて、自社で社員同士で行うのが一番いいと思うんです。企業のなかでそういうことができる人をもっと増やしましょうというご提案をしています。
Tad 「研修課の社員です」みたいな人ばかりじゃなくて、「自分は営業マンなんだけど」っていう人も…
田川 いらっしゃいます。先の人材育成チームの6名も、もともとは営業とか、経営管理室、総務、店舗にいたりと、いろいろですね。
Tad 実体験に基づいていれば、やっぱり説得力が出ますよね。
田川 わたし自身も研修講師だからではなくて、同じく会社で化粧品の取り扱いをしながら、一緒に実践していきたいなと思って化粧品販売も続けております。
Tad なるほど。この番組は意外と経営者のリスナーが多いんですが、経営者に向けた研修プログラムなどもございましたらぜひ教えてください。
田川 はい。経営者向けの研修ということですと、いまはコロナ禍ということで難しいですが、経営者は上になればなるほど社交の場が増えるので、社交的なマナー研修を個人的に行ってほしいというお話をいただきました。会食のマナーですとか、お土産はどう渡したらいいか、袋から出せばいいのか、とか。あとは、これから始まる県内企業様では、まず自社の企業理念、経営資源の見直しをして、社員がどれだけ自社の良さを分かっているかという「会社の棚卸し」をするということで…
Tad ちょっとドキドキしてきましたけども。すごいですね。
田川 まずは会社の実態を全部「棚卸し」してから研修プログラムを組みましょうと。そうしたことにいま、取り組んでいます。
原田 すごい。
Tad 経営者のリスナーの方はぜひ、『株式会社北国販社』にご連絡ください(笑)。
田川 ありがとうございます(笑)。お待ちしております。
田川社長の趣味は、バレエやジャズダンス。「2017ビエンナーレいしかわ秋の芸術祭」では
娘さんとの共演も。写真はその舞台裏にて。

ゲストが選んだ今回の一曲

エリック・クラプトン

「Wonderful Tonight」

「主人もわたしも、お互い自営業でして、主人はゴルフ関係の仕事をしていまして、なかなか共通の趣味や話題が少ないんですが、以前、いしかわ総合スポーツセンターにエリック・クラプトンが来まして、そのときに主人と始めてコンサートに一緒に出かけたという思い出の曲です」

トークを終えてAfter talk

Tad 今回は前回に引き続き、ゲストに『株式会社北国販社』代表取締役社長、田川ひとみさんをお迎えしましたけれども、いかがでしたか、原田さん。
原田 マナーに正解はないというお話がすごく印象的でした。心地良いコミュニケーションのための心の配り方、それを追求していくことは終わりのないことなんだろうなと感じました。
Tad そうですね。時代によっても変わっていくということでしたね。「マナーはコミュニケーションの手段ですよね」とおっしゃったことが心に残っています。相手を慮る行動・態度・姿勢、人対人もそうですが、企業対企業もコミュニケーションの仕方が大事だと思うんですよね。例えばベンチャー企業と大企業で、面会のアポの取り方とか、手土産があるのかないのかとか、全然違ったりするんですよ。
原田 そうなんですね。
Tad 文化的な共通項を押えておくことで、実はお互いのストレスってすごく小さくなるのかなと思いますし、なんとなく不安を抱えながらですと、人も企業もパフォーマンスを最大限に発揮できないということであれば、実はマナー研修が売上アップに一番貢献したというようなことも、すごくあり得る話だなというふうに実感しました。

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