後編

環境への配慮や安全性の追求で顧客ニーズの一歩先へ。

第109回放送

ホクショー株式会社 代表取締役社長

北村宜大さん

Profile

きたむら・たかひろ/1975年、石川県金沢市生まれ。1999年、近畿大学商経学部経済学科卒業後、実家である『ホクショー株式会社』(創業は1952年。金沢市示野町。物流自動化機器の製造販売およびメンテナンス)に入社。2004年、取締役に就任。常務・専務を経て2013年9月、代表取締役社長に就任。 公式サイト

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Tad 今回のゲストは前回に引き続き、『ホクショー株式会社』代表取締役社長、北村宜大さんです。座右の銘は「人生陶冶」とのことですが、どういった言葉なんでしょうか?
北村 これは当社の創業社長である、わたしの祖父が遺した言葉なんですが、「陶冶」という言葉、あんまり普段の生活では使わないですよね。人間そのものとか、人間が持っている性質を成長させるというような意味を持ちます。人と人が集まって企業を作っていますし、企業もまた仕事を通じて人を成長させていくという、そういった大切さを説いた言葉です。
Tad なるほど。金沢青年会議所の理事長をされていたということですが、それはどんなお仕事なんでしょうか?
北村 実は祖父もそうですし、現会長である父も金沢青年会議所の理事長をしていました。
Tad 親子三代に亘って。
北村 当社は7月決算でして、わたしは2006年7月から3年間、東京支店長に就いていましたので、最初に青年会議所に入ったのは東京だったんです。その間にリーマンショックなどいろんなことがありましたが、東京支店長を終えて金沢に帰ってくることになって、金沢青年会議所からお誘いを受けました。金沢に転入会という形で入ることになったんです。
原田 2015年度は理事長を務められたということですが、大きなイベントがあった年ですよね?
北村 はい。JCI(国際青年会議所)という組織がありまして、この前身となる組織ができたのが1915年だと言われています。アメリカのミズーリ州、セントルイスで立ち上がったんですが、その運動が始まってからちょうど100周年記念の世界会議というのを金沢で開催することになりました。2020年は横浜で世界会議を開催しましたが、これまでは国内で開催するというと東京や横浜、札幌、名古屋など、基本的には政令指定都市ばかりでした。政令指定都市ではない地方都市の金沢で開催するというのはこの時が初めてでしたが、2015年はちょうど北陸新幹線が開通したので国内外から人が集まりやすい環境ではありました。
原田 理事長として、どういったお仕事をされていたんでしょうか?
北村 町づくり、人づくりというところですが、当時は青年会議所の仕事が忙しくて、ほとんど会社の仕事をしてなかったですね。
原田 当時はまだ社長に就任されてからそんなに年数が経っていない頃ですよね?
北村 社長に就任して2年くらいでしょうか。とにかく2015年までの3年間は、ほとんど仕事をしてなかったです。
Tad いや、そんなことないと思いますよ(笑)。
北村 というのは、JCI世界会議というのは、金沢で開催するというのが2年前に決まったんですよ。2013年の世界会議はブラジルのリオデジャネイロで開催されまして、そこで2015年は金沢で、と決まったんですね。
Tad オリンピックの開催地決定みたいな感じですね。
北村 リオデジャネイロって金沢から行くと片道30時間くらいかかるんですよね。
原田 ほぼ地球の裏側ですもんね。
北村 そのPRに山野市長も一緒に来てくださいました。山野市長は一泊三日くらいのスケジュールで。
原田 そうでしたか。
北村社長が金沢青年会議所の理事長を務めていたときに開催された「2015年JCI世界会議 金沢大会」にて。金沢青年会議所メンバーの集合写真。
Tad 大変なお仕事をされたんですね。先ほどリーマンショックというキーワードも出ましたが、今もコロナ禍という意味ではかなり社会的には大きなクライシスにあると思います。会社の経営状況はいかがでしょうか?
北村 リーマンショックと今回のコロナショックで言うと、コロナショックがリーマンショックを上回るというふうに当初は言われてましたよね。2008年のリーマンショックの時は東京支店長でしたが、リーマンショックが来る前は戦後最長の好景気だと言われていて、2008年7月決算から2年後、2010年の7月決算で40%減収になったんです。
原田 40%!
北村 当時、我々のお客様は製造業が多かったんです。工場にお納めする物件が多かった。この時は特に製造業が大きな打撃を受けましたので、すでに受注していた物件のキャンセル処理などもあったんです。うちの場合はすべて受注生産になりますので、景気が良くなって上向くのも、景気が悪くなって業績が下がるのも、若干遅れてくるんです。ですから、2年かけて40%ダウンになった中にはその受注物件のキャンセルもありますし、新規の受注もそれまでの半分になりました。
原田 そうだったんですか…
北村 一方で今回のコロナショックですが、2019年の7月決算は当社としては過去最高の売上高だったんです。その2年後の2021年7月は10%ダウンくらいで済んでいます。
Tad それはなぜでしょうか?
北村 コロナっていろんな業界に影響を与えていますが、たとえば飲食、旅館業、空運といった人の移動が伴う業種はとりわけ打撃が大きいですよね。ただ、逆にコロナで忙しくなっている業種もあるわけです。これはeコマースもそうですね。
Tad はい。
北村 リーマンショックの時と今回を比べると、当社のお客様もリーマンショック当時は製造業が主流でしたが、今は流通業をはじめ製造業以外のお客様のウエイトが大きくなっているんです。それで今回は10%ダウン程度で収まっていて、リーマンショック前よりも今のほうが仕事は忙しい状況になってますね。
Tad なるほど。
原田 インターネットの販売もずいぶん増えましたし。
Tad そちらは好調だったりしますもんね。作るものがカテゴリーとしては同じであっても、お客様が少し変容されたことで景気の波に強い会社になっているとも言えるんですね。
北村 そうですね。当社の場合は製造業だけでなく、あらゆる業種・業界も対象になり、特定の製造業や流通業向けの仕事だけではないので、比較的、好不況の波には強い業種と言えるかもしれませんね。
Tad 前回のおさらいになりますが、『ホクショー』は工場や物流センターの中で、重たい荷物や製品、パレットに乗った大きな箱、あるいはカゴ台車を、フロアを越えて上下に動かしていく自動垂直搬送機を製造されているということでした。物流の自動機のトップシェアを『ホクショー』が取ったその背景をぜひうかがいたいです。トップシェアに上り詰めるまでの経緯、過程というのは?
北村 前回お話ししたとおり、石川県でチェーンを作る産業が盛んだったということと、機械産業が盛んだったということで、コンベヤのビジネスを始めやすかったというのは間違いないです。あと、当社の場合は工場からの出荷段階でコンベヤという完成品ではなく、お客様の工場や物流センターに運んで、そこで据え付け工事が発生するわけです。それで、一つの製品を送るのに10トントラックが2、3台、場合によってはもっと多くなるんですが、つまり陸送があるんです。そういったことを考えると、北海道と沖縄を別にすると、石川県というのは本州の中で東西南北ほぼ真ん中にあるわけです。国内のものをトラックで運ぶ上では地の利があると思いますし、当社の海外のビジネスは韓国・中国、ASEANが主流ですが、やはり日本海側に港がありますので、韓国向けなんかは100%、金沢港から釜山行きの船に乗せています。
原田 競合他社なども当然ある中で、他との差別化というのはすごく大切になってくるかと思うんですが、そのあたりは?
北村 昔からQCDとよく言われますよね。品質(Quality)のQ、コスト(Cost)のC、納期(Delivery)のD。これが全部備わっているというのも大事なことなんですが、日本製である以上、海外で海外のメーカーと戦う時も、国内で競合他社と戦う時も、QCDっていうのはあって当たり前なんですよね。これをどう差別化するかというところになってくると、最近はこれに安全(Safety)のSとか環境(Environment)のEをつけて、SQCDEというような言い方をします。わたし自身、QCDっていうのは日本のメーカーである以上、当然のことだと思っていますので、他社と差別化をするためにキーワードとなるのは安全のSと環境のEだと思っています。そのSQCDEのカテゴリーで、お客様のニーズの一歩先に挑戦していくっていうのが大事かなと思います。
Tad 具体的に新商品に反映していらっしゃるんですか?
北村 安全に使っていただくコンベヤを開発したり、当社の従来比で40%から50%省エネになる、環境性能に優れた商品をお客様におすすめしたりしています。こういったところが他社との差別化になってきますね。
原田 省エネっていうのは?
北村 我々の商品で大型オートレーターという垂直往復搬送するコンベヤがあるんですが、これは力行運転と回生運転というのを繰り返すんです。回生運転というと、新幹線とかがホームに向かって減速して止まる時にタイヤが回転させられて、その時に電気を発生します。プリウスが減速する時になるような。
Tad なるほど。
北村 あの時は回生エネルギーをバッテリーに蓄電するんです。それと同じような機構なんですが、我々の垂直搬送機でも回生運転の時にモーターが回転させられて発生した電気を一旦リチウムイオンキャパシタっていう蓄電池に貯めます。これが次にモーターが起動するときにアシストするわけです。モーターって起動する時が一番、電気を消費するので、電気をアシストすることで、従来比で40%から50%省エネになるというわけです。
Tad 半分も省エネって、すごい。ものを持ち上げるときにエネルギーがかかるならば、下げるときには逆回転をしたり、あるいは車でいうとブレーキの状態だったりが、そこで発電しているってことですよね?
北村 そうですね。2011年に東日本大震災がありましたよね。その時、我々の垂直搬送機を使っていただいてるお客様も多くの方が被災されたんです。でも、こういう災害の時って被災して停電になってしまうと、当然ながらエレベーターも動かないですし、我々のコンヤも動かないんです。災害の時っていうのは新しい荷物を倉庫に入れるという仕事ってあんまりないんですが、特にライフラインに関わる医薬品や食品、飲料などを出庫したいっていうニーズは当然あるわけです。すると一次電源が停電になっても、上の階から重い荷物を我々のキャレッジコンベヤに乗せて下の階に降ろす時は回生運転になります。ですから回生エネルギーを一旦蓄電池に貯めてそれを二次利用することで、仮に一次側の電源がなくても、出庫作業だったら繰り返し電気をもらわなくても動くというものを製品開発したんです。こういったものが他社との差別化にもなってますし、売れ筋商品にもなってます。
石川県金沢市示野町にある『ホクショー株式会社』の本社。
石川県白山市にある、主要生産拠点の白山工場。

ゲストが選んだ今回の一曲

チューリップ

「サボテンの花」

「1975年生まれですので、1975年の邦楽のヒット曲から選びました」

トークを終えてAfter talk

Tad 今回は前回に引き続き、ゲストに『ホクショー株式会社』代表取締役社長、北村宜大さんをお迎えしましたけれども、いかがでしたか、原田さん。
原田 環境に配慮した製品づくりということで40%も省エネができるシステムのお話がありました。災害にも強いということで、これからも益々ニーズは高まるだろうなと感じました。
Tad これからの時代はQCDだけじゃなくて、特に他社との差別化においては環境(Environment)のEと安全(Safety)のSが重要になってくると断言されていましたが、お話を聞いてとっても納得しました。今回はコンベヤ向けの起動電力アシストシステムのお話をお聞きしましたが、電気で動く機械って電気がなかったら動くはずがないと思ってしまうのが普通だと思うんですが、災害発生時でも医薬品や生活物資に関連するものは特に事業継続しなければいけないということをヒント、あるいは課題として捉えて、見事差別化を実現されています。北村社長の目線の先にある「E」と「S」が、この先の『ホクショー株式会社』をどんどん変えていく、そんな未来を感じさせていただいた気がします。

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