後編

障害者雇用の課題に向き合うための垣根を超えた場づくりを目指す。

第123回放送

ヴィスト株式会社 会長

奥山純一さん

Profile

おくやま・じゅんいち/1984年、岐阜県生まれ。静岡大学教育学部を卒業後、外資系人材サービス企業『アデコ』に入社。2012年、『ヴィスト株式会社』(金沢市広岡。石川、富山、神奈川を拠点として障害者就労支援事業、発達に特性のある児童向け支援事業を展開)を設立、就労移行支援事業である「ヴィストキャリア」を立ち上げる。2017年、放課後等デイサービス「ヴィストカレッジ」を開始。2019年より障害者雇用等のコンサル事業を行う『株式会社ヴィストコンサルティング』を本格始動。

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Tad 今回のゲストは前回に引き続き、『ヴィスト株式会社』会長の奥山純一さんです。奥山さんは岐阜県のご出身で、静岡大学を卒業されて、金沢で起業されているんですね。
奥山 大学卒業後に就職したのが東京の会社で、それから名古屋、金沢と転勤のサイクルが早かったんです。入社したその年にはもう転勤で金沢にいたんですよ。
Tad 一年目にして。
前職から人材に関わる企業の課題解決に取り組んでいた奥山会長。
奥山 実はそうなんですよ。導かれるように。
原田 なるほど。起業された場所も金沢だったんですね。
Tad 最初に「ヴィストキャリア」を立ち上げられた時は、障害のある方向けの就労支援事業ということでしたが、何かきっかけがあって起業されたんですか?
奥山 まず、人材紹介会社の営業職として5年間の経験があるんですが、その中でプライベートの時間を使ってNPOを立ち上げて運営している期間がありまして。
Tad 奥山さんご自身が?
NPO団体を立ち上げ、カンボジアに学校を設立した経験のある奥山会長。
カンボジアに設立した学校に通う子どもたち。
奥山 そうです。わたし自身が仲間と共に立ち上げたNPOで途上国に学校を作ったりしたんですが、事業の継続性っていうのがなかなか難しくて、サラリーマンとして働きながら、お金もそっちに回したりしていました。それで、自分に力をつけたいという思いがあって、まずは起業をしたいということでスタートしました。
前職の『アデコ』という会社では、いろんな企業から人事・採用部門のご相談を受ける役割でした。新卒採用や、派遣で人を入れたいといったご相談があるわけですが、障害者雇用についてや、メンタル疾患になられている方のご相談も受けていました。障害者雇用に関しては当時の会社も、周りの人も、地域の人も、誰も答えを持っていないというか、相談先をうまく見いだせなかったんです。そこに引っ掛かりと言いますか、モヤモヤがありました。また、わたしには難病のためにメンタル疾患を患う家族もいましたので、そういう意味でもすごく身近なテーマでした。社会とつながるにはいろんなハードルがあって、人のサポートがないとつながれない仕組みになっていることにもモヤモヤしていました。そういういろんなことが合わさって、今の事業としての立ち上げ、起業になっていったかもしれないですね。
Tad 前回も「株式会社としてのやり方しか知らなかった」とおっしゃってましたが、事業として持続する必要性を、NPOをご自身で立ち上げた時に痛感されているということでもあったわけですね。株式会社として持続的に社会課題に取り組むことについて、これでよかったんだなという手ごたえも感じていらっしゃいますか?
奥山 なかなか正解はないなと、すごく思います。株式会社として立ち上げることで、企業のみなさんとは連携しやすいという部分はあるんですが、同じ福祉の分野や医療機関からのご紹介でわたしたちの施設につながる場合もありまして、もしかしたらそういったところからすると連携しづらさがあるかもしれないですし…。そこに正解を見つけるのは難しいのかなとは思っています。
Tad あるべき姿を模索されているんですね。2019年に『株式会社ヴィストコンサルティング』を設立されましたね。
奥山 『ヴィスト株式会社』は福祉の事業を中心に展開してきましたが、あれこれやってみて思ったのは、福祉以外の必要性もどこかでずっと感じていました。それで、別の法人で今までの枠組みから外れて、働くことに“づらさ(〇〇し辛さ)”を感じているみなさんに対してできることをもっと増やしていきたいなと思ったんです。
Tad いろんな枠組みを超えていくっていうのは、どういうことなんですか?
奥山 たとえば福祉の事業でいうと、病院に行くと、医療費って今は3割が自己負担、7割は保険から出ますよね。わたしたちの事業も、1割はご本人様の負担で、9割は国民健康保険組合の方から出るというシステムをベースにした事業なんです。ただ、対象になる方々に制限があります。今までやっていた事業というのは、企業からは費用をいただいていなかったのですが、会社のみなさんからすると、費用を払ってもいいからもっと促進していきたいかもしれないですし、もしくは、すでに雇用してるみなさんの中からも、もしかしたらサポートしてほしいとか、そういったニーズもあるかもしれないので、福祉以外のニーズに対応していくためには、その枠組みを超える必要があったわけです。
Tad なるほど。企業向けに環境、職場、仕事、人間関係みたいなところの幅広いアドバイスをしたり、コンサルティングをする意味では、従来の枠組みを超える必要があったということなんですね。奥山さんとして、この『ヴィスト株式会社』を今後はどういうふうに運営されていこうとしていらっしゃいますか?
奥山 それも模索中なんですが…実は社内でも、まだ言ってないことなので、今回、少しご相談しながらお話しできたらなと思っているんですが…いいですか?
Tad はい。もちろん。
原田 ぜひ。
奥山 わたしたちだけでできることっていうのも限界があると思うんです。今、会社が直面している問題、課題というのは、もしかしたら地域社会の問題かもしれないと。だから僕たちだけでは限界があるし、それだったら法人の枠組みも超えて、福祉、医療、教育、企業みたいな分野さえも超えて、ちょっと抽象度を上げて、みんなでコミュニティなのか集まりなのかわからないですが、そういった場や機会があれば、自然とつながっていけたりするんじゃないかなと、少しイメージしているところなんです。
Tad それってどういうイメージですか? いろんな企業、医療関係者、教育関係者が同じ場にいて、何か一つのテーマで話をしたりというような感じですか?
奥山 そうですね。たとえば、会社でいうと人事部に障害者雇用の担当をしている人がいるとします。石川県でいうと、そういう部門を担当している人って結構少なくて、孤独な場合もあると思うんですよ。相談したいことがあってもしづらいかもしれない。そうしたときに横でつながれたとしたら、結構相談しやすいんじゃないかなと。
Tad 違う会社の人事部の方々同士で、「実際、障害者雇用ってどういうふうにしてるの?」みたいな相談ができたり?
奥山 それもあるかもしれないですし、福祉の事業所のみなさんも、企業とつながりたいけど少しハードルが高く映る場合もあって、もしそういう機会や場があれば、もうちょっとアプローチしやすいかもしれないと思うんです。
原田 イベントという形にしなくても、その人たち同士で話をする中で、人と会社がつながったり、そういうことが自然にできていくような…
Tad コンソーシアムみたいな?
奥山 そうですね。勉強会や、県外への視察、もしくは実習とか、福祉についてのそういう機会についてもいろんな取り組みはされてはいるんですが、もう少し促進した方がいいかもしれないですよね。実習先として受け入れたいっていう会社と、送り出したいっていう事業所をつなげるような機会を、今以上に活性化させたりだとか――そういったことを運営できるような一つのコミュニティのようなものがあったらいいのかなと。
Tad とてもいいと思います。企業の経営者としては、人事部の人に対して、障害がある方でも障害をなるべくクリアして雇用促進していこうとか、活躍してもらおうという思いを持っていても、経営者自身もどうやったらいいかわからないとか、まして人事の担当の方なんて、その人だけで悩みを抱えちゃったりするわけですよね。それが同じ立場の企業の人事部同士で、あるいは、実際に福祉の関係者の方から「この人たちにはこういうふうにしてあげた方がいいですよ」とか「もしかして、こういうふうにしちゃってませんか?」というような刺激を得るというのは、お互いの学びにもなるし、それが実際に就労支援を促進していくことにもなりそうですよね。
奥山 そうなんですよね。考える機会やきっかけにもなりますしね。
Tad どういう人たちがいて、どういう能力を持っているというのも、企業側ってまだまだ知らないだろうなと思います。
原田 “づらさ”って一人ひとり違うわけですもんね。できることもあれば、ちょっと苦手なこともあって。一括りにはできないですもんね。
奥山 そうなんですよ。それでいうと、わたしたちにとってもすごく身近だと思うんですよ。実は誰もが「づらさ」を感じているんです。
原田 そうですね、多かれ少なかれ。
奥山 それがもう少し身近に感じられて、そういったことに取り組んでいると、今いる社員のみなさんにとっても働きやすい会社になるんじゃないかなとも思うので、もっと取り組みを加速させられるといいなと思いますね。
Tad 「障害者にとって優しい会社や職場は、みんなにとって優しい職場でしょう」っていうのは結構よく言われることではあると思うんですが、これって「きれいごと」だと言われることもありますよね。
奥山 いろんな見方があるとは思うんですが、誰かの“づらさ”って、きっとほかの誰かの“づらさ”でもありますよね。
Tad ほかの誰かも同じ“づらさ”を抱えている?
奥山 そうです。誰かの“づらさ”って、ほかの誰かの“づらさ”と同じである可能性って結構高いと思うんですよ。“づらさ”100%だから言わざるを得ない人もいれば、“づらさ”70%で口には出さないけど“づらさ”を感じているということもありうる。
原田 潜在的な?
奥山 はい。それが障害として一部に表出してるだけかもしれない。
Tad なるほど。確かに「生きづらさ」、「働きづらさ」、「暮らしづらさ」などに組織や会社、集団として、一人ひとりが向き合えるようにするっていうこと自体がすごく必要な時代なのかもしれませんね。画一的ではなく。
奥山 ただ「きれいごとだよね」って言われる一つの視点としては、たとえば経営・運営側からすると、一人ひとりに対応を変えていくと工数がかかりますし、効率を求めることが経営のすべてだというふうに考えると、どちらかというとネガティブに映ってしまうんだと思うんですよ。ただ「本当にそれでいいんだろうか?」と長期的な目線で見ると、これからは一人ひとりが働きやすい環境の会社が求められていく社会になっていきそうだという大きな流れってあると思うんですよね。資本主義ってこれからどこまで続くんだろうという文脈もありますよね。そういう時代の流れにすでになってるんじゃないかなと思います。
利用者もスタッフも、「あらゆる人が心豊かに働く社会」を目指す。
Tad ぜひコンソーシアムを立ち上げましょう。金沢からやってください。
奥山 金沢から。そうですね。また相談させてください、ぜひ。

ゲストが選んだ今回の一曲

久石 譲

「アシタカせっ記」

「前回に引き続き映画『もののけ姫』の曲です。映画は1000年くらい前の描写ですが、今の世界、状況でもあるというか、現代の僕らの抱える葛藤がうまく描写されてるなと感じます。アシタカの『曇りなき眼で見定め、決める』っていうセリフがあるんですが、その『曇りなき眼』っていうのがキーワードだと思うんです。誰もがそういう視点で物事に関わっていくと、みんなが共存していける社会を作っていけるのかなと思います」

トークを終えてAfter talk

Tad 今回はゲストに『ヴィスト株式会社』会長、奥山純一さんをお迎えしましたけれども、いかがでしたか、原田さん。
原田 誰しもが抱えている“づらさ”を、横のつながりで共有して回収していきたいという奥山さんのプランが素晴らしいなと思いました。
Tad 前回の放送と合わせて、奥山さんのこれまでの事業展開と今後のビジョンを振り返ると、常により上位の、より根本的な課題解決へとご自身の視座をアップデートされ続けているように感じます。今、原田さんが言われたポイントも、わたしが勝手に「コンソーシアム」呼ばわりしてしまいましたが、社会全体で組織の垣根を越えて、障害者雇用やその環境整備について、立場の違う人同士で同じ課題に向き合う機会や場づくりを、ぜひ金沢から実現してほしいなと思いました。

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