前編

社労士事務所の仕事領域を超え、サービス開発を模索。

第128回放送

株式会社MAKING THE ROAD 代表取締役

吉村千春さん

Profile

よしむら・ちはる/石川県加賀市生まれ。石川県立大聖寺高等学校卒業後、青山学院大学文学部に進学。大学卒業後は出版社、建設会社、放送局の勤務を経て、2007年、社会保険労務士の資格を取得。会計事務所、社会保険労務士事務所などに勤務後、2013年、『三谷山社会保険労務士事務所』を開業。2015年、『株式会社MAKING THE ROAD』(金沢市もりの里。主な事業は、人事・採用コンサルティングと採用に関する動画制作)を設立。2022年、行政書士の資格も取得。

インタビュー後編はこちら

Tad 今は働くということの価値観や考え方がすごく大きく変わっていこうとしている時代です。
原田 たしかにそうですね。
Tad テレワーク、副業、定年の延長、人材不足など、いろんなテーマがありますが、そんな中で、「仕事をおもしろく、働くをたのしく」というコンセプトを打ち出している会社があります。今回のゲストは、『株式会社MAKING THE ROAD』代表取締役の吉村千春さんです。吉村さん、こちらはどういうお仕事をされている会社なんでしょうか?
吉村 主に人事と採用のコンサルティング、それから採用に関する動画を作っています。
Tad 『三谷山社会保険労務士事務所』の代表であり、一方で『株式会社MAKING THE ROAD』の代表でもいらっしゃるということですよね。人事や採用っていうと、ちょっと社会保険労務士事務所とは少し方向が違うのかもしれないんですが、人事管理から採用、研修まで幅広くサービスを提供されているということになるのでしょうか?
吉村 そうですね。社会保険労務士っていうと、労務管理がメインのように思われる方が多いと思うんですが、例えば、ハローワークに求人票を出しますよね。
原田 はい。
吉村 そういう採用の場面にもわたしたちの業務はつながっていますし、どうやったら社員が辞めずに長く勤めてくれるのかというような相談が人事制度や研修につながったりもしますので、労務管理を軸にはしていますが、人事・採用にも派生していく業務だと思います。
Tad どんな動画を撮られているんですか?
吉村 主に採用に関する企業のPR動画を作っています。今までいろいろな動画を撮らせていただいたんですが、従業員の方のインタビューを中心に、その企業はどのような企業なのか、どんなお仕事をされているのか、大変なこともあればそれもうかがって、それをどのように乗り越え、どんなやりがいがあるのかを聞く、というものが多いですね。
Tad なるほど。それが採用コンテンツになったり、社内の他の方も「あっ、この人たちってこういう仕事だったんだ」とあらためて気付かされたりする、ということもあったりするんですか?
吉村 そうなんです。最初はやはり「会社をアピールしてほしい」、「たくさん採用したいので、みなさんが興味を持ってくださるような動画を作ってほしい」というようなオーダーをいただくんですが、わたしとしては企業の課題も含めて今の企業のありのままの姿をお伝えすることが、長い目で見て最もその企業のためになると思っているので、インタビューではいろんな質問をさせていただきます。それに対して従業員の方がお話ししてくださることを編集して、最後に納品します。そうすると、経営者の方は、「あっ、この人はこんなふうに思って仕事をしてくれていたんだ」とか、「こんなふうに支えてくれていたんだ」と気づかれて、「それだけでも作った価値があった」と言ってくださる企業がすごく多いです。
Tad なるほど。
仕事や働くことに関する動画を制作。写真は工場での仕事に密着撮影している様子。
インタビュー動画では、クライアント企業がPRしたい部分だけでなく、課題なども幅広くヒアリング。
原田 それはその会社を受けたいなと思う方に見ていただくような、ホームページ用の動画ということですか?
吉村 そうです。基本的にはどこで使っていただいても大丈夫ですとお伝えしています。
Tad 現代っぽい事業内容ですね。どうしてここに至ったのかを教えていただけますか
原田 そうですよね。まず大学は文学部に在籍されていたということですが、何を勉強されていたんですか?
吉村 わたしは英米文学科だったんですが、本当は日本文学科に入りたかったんですよ(笑)。なんでかというと、子どもの頃なんですが、実は小説家になりたくて。
Tad へぇ~!
原田 そうなんですか!
吉村 それで日本文学科を受けたんですが、そっちは落ちてしまいまして(笑)。結局英米文学科にしか受からなかったので、英米文学科に行って、英語も得意だったのでまあいいやと。そのあと、やはり文章の勉強とか文章に触れる仕事をずっとしていきたいなと思っていたので、出版社に勤めたくて、出版社に入社したというのが最初です。
原田 出版社ではどういうお仕事をなさっていたんですか?
吉村 当時、その出版社がWebサイトを立ち上げたばかりで、雑誌の編集をしたくて入ったんですが、わたしはずっとWebサイトを作っていました(笑)。
原田 結構夜遅くまでかかりそうな…しかも立ち上げたばかりのお仕事だったら大変だったでしょうね。
吉村 そうなんですよ。始業は一般的な会社と同じ9時だったんですが、その日のうちに帰れるということはほとんどなくて、深夜12時を回るという日が続いていました。それでも翌朝は9時に出勤しないといけなくて、ちょっと体を壊してしまったんです。それでお医者さんには「悔しいだろうけれど、(会社を)諦めようか」と言われちゃったので、出版社のほうは退職させていただきました。
Tad それが労務管理につながってるんですね。
吉村 やっぱりその時、仕事をするにも体調やモチベーションも含めて管理は大事で、健康じゃないとやっぱり働けないというのをすごく感じました。
Tad その後は建設会社、放送局に勤務ということですが、その放送局というのは、聞くところによるとMROさんだったと。
吉村 そうなんです(笑)。
Tad いろんな事情があって転職されてると思うんですが、2007年に社労士の試験に合格されたというのは、そこが転機でもあるんですか?
吉村 転機ですね。
原田 どういった経緯で資格を取られたんでしょうか?
吉村 まさにMROさんにお世話になっているときに、お昼はこちらで役員室の秘書をさせていただいて、夜はそのまま予備校にまっしぐらで自習室で勉強してっていう生活をしていたんですが、なんでその資格を取ろうと思ったかというと、母に諸事情で税理士の資格を取らないかっていうふうに言われたんですね。それで「分かった。じゃあ勉強しよう」と思って、予備校の資料を取り寄せたりしてやる気満々だったんですが、実は、わたしには受験資格がなかったんですよ。
Tad 何でですか?
吉村 大学卒業っていうのはもちろんあったんですが、大学の中で経済とか経営の単位を1つでも取ってないと受験資格がなかったんです。今はどうなのかわかりませんが、当時はそうで、わたしは文学部だったので、全くそんな単位をとっていなかったんです。それで、新たに受験資格を得ようと思ったら、簿記の1級もしくは社労士という、何らかの資格をどうしても取らなければいけなかったんですね。その中で「どれを取ろう」となったときに、「社労士だったら力尽きてもここで一応、完結できるな」と思ったんです。「もう勉強するのは大変だから、税理士の試験を受けられなくても、とりあえず社労士を取ったらここでストップできるかも」という気持ちがあって、それで社労士の資格取得を最初に目指しました。
Tad なるほど。それで会計事務所と社労士事務所で勤務されたと?
吉村 はい。
Tad その後、晴れて合格して、2013年に独立し事務所を開業されて、2015年に『株式会社MAKING THE ROAD』設立ということですが、このきっかけは何だったんですか?
吉村 はい。まず2013年に結婚を機に独立をしたんですが、自分でやってみようと思ってやったはいいけれども、「わたし、経営のことなんて何も知らない」と、開業してから気が付きまして(笑)。社労士の仕事は経験を積みましたので、お仕事をいただければいくらでもと思っていたんですが、そもそも経営ってしたことがないなと思ったので、経営を教えてくださるスクールみたいなものに入りまして、そこでビジネスモデルを1つ作るっていう課題があったので、それを作ったら、実際にやってみたくなっちゃって、それで会社を作りました(笑)。
Tad 事務所を開業したはいいけど、自分は代表として経営をやったことがないから、経営を勉強しようと、行った先のスクールで出た課題で作ったビジネスモデルを実践するために『株式会社MAKING THE ROAD』を作った、ということですね。それは、どんな課題だったんですか?
吉村 ジャンル問わず、どんなビジネスモデルを作ってもいいと言われまして、元々社労士がベースなので、人が働くこと、採用というものに貢献できるようなサービスを作りたいなと、まず発想しました。今の採用の課題って何だろうと考えたときに、社労士として、経営者側と雇用される側の方と両方から受ける相談で多かったのが、「面接と違う」ということでした。両方がおっしゃるんです。
原田 両方ですか!
吉村 そうです。会社側は「面接で、その人はすごく感じがよかったし、あんなこともこんなこともできるって言ってたのに、実際に働いてもらってみたら、あれ? あんまりできないな」と。一方、雇用されている側の方も「面接で聞いてたのとちょっと違ったな」と。それはどう解決したらいいですか、というご質問やご相談が結構多かったんです。あ、これって採用の問題、課題だなと思いました。なるべくミスマッチがない、お互い気持ちよく仕事がスタートできて、仕事が続けられるという状態を作れないかなと思ったときに、入口でミスマッチを防げれば、全部は解決できないかもしれないけど、何パーセントかは解決できるんじゃないかと思って、そこから発想してみたんです。
わたしが一番うらやましいなと思ったのは、自分が大学を卒業した当時はインターンシップなんてものがほとんどなくて、もちろん、されていた方もいるとは思うんですが、あんまり浸透していなかった。今の方ってみなさんインターンシップに行かれて、どんな会社なのかを見てから就職されますよね。そのシステムを中途採用の方にもご提供できないかなと思ったんです。そしたらミスマッチも減るんじゃないかなと思って、それで「WORK QUEST」と名付けて、ビジネスプランを作りました。
Tad 転職してみないとミスマッチかどうかわからないっていう課題ですよね。転職活動の中に、インターンシップの要素を織り交ぜていくと、実はミスマッチが減るかもしれないと。
吉村 はい。
Tad それはスクールの課題として作ったわけですよね。でも、それをやってみたくてこの会社を作ったと。
吉村 はい、やってみたくなっちゃいました。
Tad 次回、もう少し深く「WORK QUEST」のことを聞いていきたいと思います。

ゲストが選んだ今回の一曲

Hi-STANDARD

「Stay Gold」

「社名はHi-STANDARDというバンドの『MAKING THE ROAD』というアルバムからいただいたものでして、実は『使わせていただきます』とお手紙も送りました。お返事はなかったんですが。このアルバムは全部いい曲で、捨て曲なしだと思います。捨て曲なし、コンテンツも全部楽しいという会社を、自分も作れたらいいなと思っています」

トークを終えてAfter talk

Tad 今回はゲストに『株式会社MAKING THE ROAD』代表取締役の吉村千春さんをお迎えしましたけれども、いかがでしたか、原田さん。
原田 はい、吉村さんは目標を見据えながら、足元もしっかり見ていらっしゃる方だなという印象がありました。種を蒔くための土地選びと耕すことをしっかりなさる堅実さ、それがご縁にもつながっているのかなと感じました。
Tad まさしく導かれるように社労士事務所を開業されて、吉村さんご自身もそうやっていろいろな事情で何度か転職経験をされていますが、社労士としてのお仕事を通じて、会社と人材の不幸なミスマッチや、実際に働いてみないと職場・会社が合うかどうかわからないという課題に向き合い、社労士事務所のお仕事領域にとどまらずにサービス開発を模索されてきたわけですよね。こういう柔軟性があってもいいんだなと。会社の枠を決めて、その中でやらなきゃいけないということはないんだなと気づきをいただきました。新しく開発されているサービスでもある「WORK QUEST」について、次回、詳しくうかがっていきたいと思います。

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