前編
壊すことによって価値を作る『宗重商店』。
第143回放送
株式会社宗重商店 代表取締役
宗守重泰さん
Profile
むねもり・しげやす/1974年、石川県金沢市生まれ。神戸学院大学経済学部で規制緩和を学び、卒業後は金沢の大手百貨店に入社。1999年、『宗重商店』(創業は1939年、株式会社としての設立は2007年。金沢市畝田。解体を中心に、リユース、リサイクル、不動産、幼児教育など各分野で事業を展開)に入社。2007年、法人化とともに代表取締役に就任。
株式会社宗重商店Webサイト
Tad | 原田さん、この番組では今までいろんなものを作る会社をたくさんご紹介させていただきましたが、今回は、「作る」のではなく「壊す」プロフェッショナルの企業の方をお招きしています。 |
---|---|
原田 | そのような方には初めてお越しいただきますね。 |
Tad | そうですよね。壊すことによって作る価値とは、いったいどんなものなのでしょうか。今回のゲストは『株式会社宗重商店』代表取締役の宗守 重泰さんです。ようやくお呼びできました。 |
原田 | お二人のお付き合いは長いのですか? |
Tad | もう4、5年くらいでしょうか。時々食事をさせてもらって。まじめな話をしたことは一回もなかったと思うので(笑)、今回はぜひそういう機会にさせていただきたいと思います。ところで、『株式会社宗重商店』について、冒頭で「作る」ではなく「壊す」と言い切ってしまったんですが、それには留まらない、いろいろな活動をされていらっしゃいます。とはいえ、やはり解体業が中心なんですよね。 |
宗守 | もちろんです。 |
Tad | ところが我々は「解体」と言われてもどういうお仕事なのかという全容がわからないんですよね。 |
原田 | そうですよね。もしかしたら身近に見たこともないのかも…。 |
Tad | どういうお仕事をされているんでしょうか? |
宗守 | あらゆる建築物、構造物は、新しく建ったとしても何十年も経てばいつか必ず老朽化します。その最後の後始末、いわば「お片付け」を担ってきた会社です。 |
原田 | 「壊す」と言ってもいろんな理由がありますし、いろんな建物がありますよね? それに合った解体をしなければならないということですか? |
---|---|
宗守 | そうです。木造、鉄骨造、鉄筋コンクリート、いろんな構造がありますが、それに応じた機械を使ったり方法を用いたりしながら、臨機応変に解体をしています。 |
Tad | すごく大きな重機や、ものを挟んで壊していくようなアタッチメントのついた機械で、コンクリートの建物も壊されていたりしますよね。 |
宗守 | そうです。昔は「ブレーカー」と言って、カンカンカンカンと音が鳴るような粉砕機を使っていたんですが、最近ではクワガタのような圧砕機、いわゆる「クラッシャー」というものを用いながら、できる限り静かな音で近所の方にご迷惑をおかけしないような工法が主流となっています。 |
原田 | なるほど。建物を建てるのも大変なお仕事ですが、壊すって、もっと大変なイメージですね。危ないですし、しかも高いビルだったらどこからどういうふうに壊していくかというのも想像がつかないんですが。 |
---|---|
宗守 | 石川県内で高層ビルというのは少ない方だと思うんですが、5階建てや6階建て以上の建物になると、屋上に重機をレッカーで吊り上げて、屋上から壊しながら降りていくという手法をとります。 |
Tad | なるほど! |
原田 | 壊しながら降りてくるんですか!? |
宗守 | はい、「階上解体」と言いますが、解体というのは建設業のなかでも唯一「ものを不安定にする」業種なんです。安定しているものを不安定にしていくという仕事内容ですから、マニュアルだけではない経験値というものが大事になってくる仕事だと思っています。 |
Tad | 手順の設計を、ものすごく慎重にされているんですね。 |
宗守 | もちろんです。補強もそうですね。とにかく事故を避けなくてはいけないので。屋上から壊す解体の場合は、必ず下の2フロアに「サポート」というものを支保工(対象構造物が崩れないように支える仮設構造物)に設置して、床が抜けないように、大事故が起きないように補強しながら、解体する事例があります。 |
Tad | そもそもちゃんと構造が成り立っている建物の解体もあれば、朽ちてしまっていたり、壊れかけたりしている建物を解体することもありますよね。それってさらに難しいですよね? |
宗守 | ほとんど壊れているような廃墟のなかには、ちょっと触れるだけで崩れてしまうようなものもあります。そういったときにはロープで回りを巻いて壁が倒壊しないようにしたり、鉄骨造のものでも、外壁が外側に倒れると大事故になりますので、必ず内側に荷重をかけるようにワイヤーで引っ張ったりしながら、安全に壁を倒していく工法をとっています。 |
原田 | 周りの建物はそのまま普通にあるわけですから、周りに影響が及ばないように、また解体なさる方も安全に、そして周りに迷惑が掛からないようにと…なかなか大変なお仕事ですね。 |
Tad | たしかに。でも、壊さないと新しいものを建てられないということでもありますよね。創業は1939年ということで、当時はあまりビルみたいな建物ばかりではなくて…というより、むしろそういった建物は少なくて、いわゆる日本家屋のような建物が多かったと思うんですが、創業当時から解体の事業をされていたのですか? |
宗守 | 解体ではありませんが、昔の、たとえば小学校の校舎や体育館は木造でできていましたよね。「生かし解体」と言いまして、その建築資材全部、つまり柱・梁・屋根瓦などをそのまま手で材料をばらして、次の住宅や工場などの建物につなげていくという役割を担っていました。 |
原田 | 資材として壊したものの一部分あるいは全部を、また別の建物に使っていくっていうことですね? |
宗守 | 戦前・戦中ですから、日本ではまだ建築資材というものがとても貴重だった頃です。建築資材をすぐに買えないときに、古い資材をまた次の建物に使うということで、いま思えば100%リサイクルをしていた時代があったと思います。 |
原田 | 創業なさったのは、おじいさまになるんですね。その後も解体を中心にお仕事をされながら時代はどんどん移っていくわけですが。 |
宗守 | 大量生産・大量消費の時代に入ってくると、海外などから安い建築資材が入ってくるようになって、これまでのリユースの需要が少なくなってきまして、徐々に解体専門業に移り変わっていったという歴史があります。 |
原田 | なるほど。とにかく壊して、それをリサイクルするというところから、それを捨てて、廃棄するようになっていったわけですね。 |
---|---|
Tad | 今の事業内容にはリユースやリサイクルも入っているわけですが、やはり壊すだけではなく、「生かす」ということも意識されて活動されているんですか? |
宗守 | はい。最近特に思うのですが、解体をしていると、まだまだ使えるものを処分される方や、「もういらない」と言われる方が多くいらっしゃいまして、この仕事をしながら「もったいないなぁ」と思うことがすごく増えてきました。まだ使えるものであればそれを必要とされる方につなげていくということも我々がすべき仕事なんじゃないかなと思って、国内でも海外でもまだ使えるものをつなげていくというプラットフォーム的な役割になれればと頑張っている最中です。 |
Tad | それがリユースショップ『ラクマル倉庫』の事業につながったわけですね? |
---|---|
原田 | なるほど。解体の現場などで出たものを次の方につないでいく。 |
宗守 | はい。一人暮らしでもご家族でお住まいの方でも、ご家庭で使えるものがなんでも揃います。 |
原田 | たとえばどういうものがあるんですか? |
宗守 | 家具、家電、食器、衣類、レジャー用品、子供用品など…なんでもあります。 |
原田 | ちょっとお安く買えたらいいなっていう方もいるし、限られた期間だけ使いたいんだけど…っていう方にとっても、リユースショップで見つけることができるとすごくいいですよね。 |
---|---|
宗守 | 一人暮らしをされる学生さんにもおすすめです。 |
Tad | 一つのものを作って使い捨てにするのではなくて、リサイクルとかリユースのように繰り返し使えるようにとか誰かの手に渡るようにという、循環している経済、いわゆる「サーキュラーエコノミー」ですね。社会・地球的な文脈で言っても、時代にあった取り組みだと思います。 |
宗守 | 国内であまり需要がないものは、コンテナ便に積んで、今はタイに輸出しています。今後はタイだけでなく、輸出をする販路も拡大していこうと思っています。海外では日本では絶対に使わないようなチェーンブロックや工具のようなものが非常に人気で、取り合いになるんです。多少壊れていた電動工具でも、自分たちで直して使うようです。日本ですと、新しいものを買う方が多いのですが、東南アジアでは直して使うのが当たり前ですので、人気が高いです。 |
原田 | 我々が学ぶ部分もありますよね。そういったことをはじめたのは、宗守さんが三代目になられてからなんですか? |
宗守 | そうです。この10年以内の話です。 |
原田 | 元々は百貨店に就職なさって、それから家業に入られて、いろいろなことを変えていかれたんですか? |
宗守 | そうですね。百貨店にいたころはサービス業の神髄というか、良くも悪くもお客様ありきの、「お客様は神様」という精神を学ばせていただきました。その後、事情があって家業に戻ることになったんですが、マニュアルもマナーもあまりないような状況で、すごく衝撃を受けた記憶があります。建設業、とりわけ解体業っていうのはどちらかというと「ヤンチャ」というようなイメージを持たれている業種かと思います。当時は特にそういう感じだったので、時間がかかってでもサービス業化に向けてやっていくことが生き残っていくための方法かなと思って、そこから20年以上、取り組んでいるところです。 |
Tad | 「サービス業化」というのはどういうことですか? |
宗守 | メインの解体事業の話ですと、我々の仕事というのはご近所の皆様に対して粉塵や振動や騒音といったようなことでご迷惑をおかけしてしまう仕事になります。でも、たとえば毎日近隣を清掃して帰るとか、前を通られた方には「おはようございます、今日もご迷惑をおかけします」と声掛けをするとか、それだけで近所の方々の理解は変わってくると思っています。「ただ更地にすればいい」というだけではなくて、引き渡すものは更地かもしれないですが、とにかくそのプロセスというものがとても大事だなと思っておりますので、こういった面で社員教育を真剣にやらせていただいております。 |
原田 | 近隣の方って直接のお客様というわけではないですが、しっかり配慮なさっているんですね。 |
宗守 | もちろんです。挨拶回りも念には念を入れて、向こう三軒両隣のレベルではなく… |
原田 | ではなく!? |
宗守 | はい(笑)。工事前にはトラックが通る道の角まで、ご説明にあがっています。 |
原田 | 周りがどんなふうに思っているかって、ある意味気づかない部分かもしれないですが、そこを客観的に見て、ご説明なさっていると。 |
宗守 | たとえば隣や向かいの家を解体していて、騒音などがあれば、本来は我慢するものではないと思っているんですよ。近隣の方が「いつのまにか終わっていた」と感じるくらいにスムーズに終えることが我々の究極の理想なので、それを目指していきたいなと思っていますが、まずはそういう状況をご理解いただくための努力はしているつもりです。 |
Tad | 「サービス業化」というと解体そのものというより、それに関わっている方、その周辺の方も含めてのサービス精神という感じですね。それはすごく意外なポイントでした。 |
原田 | イメージが変わりますよね。職人さんって、お声がかけづらいみたいなイメージですけど、そういうふうに来てくださったらぐっと距離が近くなって、お仕事を理解しようという気持ちになります。 |
宗守 | 工事完了後には近隣の方々にアンケートを配布しています。うるさかったとか、トラックが停まって迷惑だったとか、そういった忌憚のないご意見も当然受けますが、そういうこともサービスの改善につなげています。 |
Tad | そこまでやっている解体業の方ってなかなかいないんじゃないですか? |
宗守 | そうですね。そう自負しております。 |
ゲストが選んだ今回の一曲
玉置浩二
「田園」
「玉置浩二さんの大ファンで、安全地帯のころから好きなんです。金沢で開催されるコンサートやディナーショーに行ったこともあるんですが、イントロだけでも元気が出ますし、何より歌唱力が圧倒的で、ここ一番というときに聴きたくなります」
トークを終えてAfter talk
Tad | 今回はゲストに『株式会社宗重商店』代表取締役の宗守 重泰さんをお迎えしましたけれども、いかがでしたか、原田さん。 |
---|---|
原田 | 解体現場というと、これまではもうもうと粉塵があがるなかで作業している方を遠巻きに見ている感じでしたが、今回のお話で解体の方法も含めて、いろんなことがよく分かりました。宗守さんが目指している解体って、壊すというよりもそれにまつわるいろんなもの、その人の心も含めて大切にするっていうことにつながっているなと感じました。 |
Tad | そうですね。解体って騒音とか粉塵が出て当たり前のものというような感じもありますが、でもやっぱり近隣の方からすると「たまったもんじゃない」っていうような面もあったりするんでしょうね。終わった後にアンケートまでとっているというお話もありました。すごく重要なことだなと思ったのは、近隣の方に不満があればそれを伝えられる相手がいるということ。その不満をため込むだけであれば、おうちが建ったときに、その不満が施主さんに向いてしまう可能性もあるわけですよね。「近くに引っ越してきました。これからよろしくお願いします」というタイミングで、「いや、あなたのところの工事のせいで昼寝もできなかったよ」などと言われてしまうようなことだってあるかもしれない。家を作る人、建物を建てる人、持ち主も、実はなかなか自身では気づけないところで『株式会社宗重商店』の社員さんたちが細かい気配りや心配りをされている。『株式会社宗重商店』はまさに石川県が誇る解体業であると感じました。 |