後編

これまでの常識にとらわれず「Re」をクリエイトする。

第144回放送

株式会社宗重商店 代表取締役

宗守重泰さん

Profile

むねもり・しげやす/1974年、石川県金沢市生まれ。神戸学院大学経済学部で規制緩和を学び、卒業後は金沢の大手百貨店に入社。1999年、『宗重商店』(創業は1939年、株式会社としての設立は2007年。金沢市畝田。解体を中心に、リユース、リサイクル、不動産、幼児教育など各分野で事業を展開)に入社。2007年、法人化とともに代表取締役に就任。

株式会社宗重商店Webサイト

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Tad 今回のゲストは前回に引き続き、『株式会社宗重商店』代表取締役の宗守 重泰さんです。前回は、解体業ってそういうことなんだ、というような話をうかがいました。極めつけは「解体業はサービス業です」と。とてもコンセプチュアルなキーワードをいただきましたが、宗守さん自身が会社に入られたときは、今とはまた違う意識でいらしたんでしょうか?
宗守 そうですね。当時の『宗重商店』は「職人集団」という感じで、ノーヘルは当たり前、くわえタバコで作業して、というのがスタンダードというような感じでした。それは当社だけではなく、建設業界全般にそういうのが当たり前だった時代でした。びっくりしました。これはいかんだろうと思って、一つずつ社員さんに「ここはだめだよ」「ここは頑張ろうね」と伝えるところから始めたのが二十数年前ですね。
原田 働いている方の意識改革という感じでしょうか。
宗守 現場は“魅せる“ものだと思っておりますので。
原田 「みせるもの」?
宗守 はい。魅力の「魅」を使って当社では“魅せる”と言っているんですが。
原田 あ、そちらの「魅せる」なんですね!
宗守 はい。現場での作業と言いますか、解体をしている社員さんの背中は、社長として見ていても「かっこいい」と思うんですよ。
Tad なるほど。
宗守 すごくかっこいいなと思うので、塀などで隠すのではなく、子どもたちに憧れられるような仕事なんだと思ってほしいですし、社員さんにも誇りをもって仕事をしてもらいたいという思いがあります。
Tad 何十年か前の状態から今に至るまで、どういうふうに変わりましたか?
宗守 先ほど原田さんがおっしゃられた「意識改革」というところが非常に大事かなと思うんですが、たとえば「お店があまり清潔ではないラーメン屋さんと小綺麗にしているラーメン屋さん、自分だったらどっちに行く?」みたいなところからです。すると皆さん、「小綺麗なラーメン屋さん」と必ず言うわけですよ。
原田 なるほど。
宗守 「髭がぼさぼさで、ピアスをして、ヘルメットもかぶらない職人さんに自分の実家を解体されるのと、ちゃんと身なりの整った、安全装備を身にまとった職人さんと、どっちが安心する?」といったような話とか。そうすると、各々が自分で「変わらなきゃ」と思うわけです。そういうところに20年以上時間をかけているわけですが、やっと今につながってきているような感覚です。
Tad 会社としては2007年に法人化されていますが、この前後に、やはりいろんな変化を実感できたということですか?
宗守 はい。たとえばお子さんが現場の前で工事の様子を見ているとします。昔ですと、見て見ぬふりというか、全く気付かないように作業優先で進んでいたと思うんです。ですが、現場の状況を確認しながらになりますが、以前、そういう状況で社員さんが「重機に興味ある?」とか「乗ってみる?」とお子さんに声をかけて運転席に乗せてあげるというようなことがあって、後日、お母さまから感謝の言葉を頂戴しました。そういった話を聞くと、それはその社員さんがやるべきことだったと思いますし、当然、安全はつきものですが、そういったことを自主的にしてくれたのはうれしいなと思います。
原田 子どもたちって働く車が大好きですからね。安全に注意しながらそういう体験をさせてもらうのもすごく貴重な体験だと思います。でも、職人さんの世界って、変わることがなかなか難しいんじゃないかというイメージがあります。時間がかかったとおっしゃられましたが、最初は職人さんたちの反応ってどうだったんですか?
宗守 やはり変化というものは誰しもが嫌うものだと思いますので、最初は今までのルーティンを変えたくない部分もありましたし、いろんな反発もあったかと思います。ですが、わたしがあまりに執念深い性格なので、1回でだめなら10回、10回でだめなら100回と、辛抱強く説明し続けてきたことが今に結びついたのかなと思っています。
Tad 先ほども触れた2007年の法人化ですが、創業が1939年で、会社として設立されたのが2007年ということですよね。これはなにかきっかけがあったのでしょうか?
宗守 祖父と父がそれまで60年以上に亘って個人商店として事業を営んできたわけですが、家業から企業に変えていきたいとうのは、わたしがずっと思っていたテーマでした。たとえば、昔は社員さんの健康保険証が国民健康保険証のままで、他の会社のスタンダードが、我々の家業のスタンダードではなかったということもいろいろありました。わたし自身、8年間社員さんと同じ立場で仕事をしていたということもありますので、やっぱり長く安心して働ける環境に、他の業界のスタンダードに、我々も近づいていかなくてはいけないと思いました。そのためにも、まずきっかけとして当たり前のように法人化が必要だということで、自分が代表取締役就任と同時に会社にしたというわけです。
2007年に法人化。これまでの解体業のイメージを一新している。
Tad なるほど、業界的には早い方だったんですか?
宗守 解体業のなかではまだ早い方ではないかと思います。
原田 先ほどから宗守さんが「社員さん」と「さん付け」で呼んでいらっしゃって、すごく社員のみなさんを大切にされている気持ちが伝わってきます。
宗守 実際に、そういう気持ちが大事だと思っています。お互いが労使という関係ではありますけれど、尊重し合えるパートナーだと思っていますし、自分は社長という呼称がついていますが、代表社員なだけで、みんなで一緒に宗重を盛り上げていこうと思っています。どうせ仕事をするのであれば、自分たちの会社を自分たちで良くしていくのが理想だと思いますので、それに向かって進んでいる最中です。
Tad 「働く社員がかっこいい」と言う宗守さんも、かっこいいです。
宗守 ありがとうございます。古くは、「きつい、汚い、危険」という3Kの代表格と言われたような仕事が建設業であり、建設業のなかでも特に危険だと言われているのが解体業でしたので、同じ3Kと言われるのであれば、「きつい、汚い、危険」ではなくて、僕のなかでは、「給料が高い、休暇が取りやすい、かっこいい」、この3つの3Kを社内に浸透させていきたいという思いでやってます。
Tad原田 なるほど。
原田 働く環境づくりもいろいろなさったわけですね。
宗守 はい。石川県経営者協会が、働きやすさ、働き甲斐の改善を遂げた企業を表彰する「かがやきカンパニー大賞」といったものがありまして、おかげさまで先頃受賞することができました。非常に大きな企業さんもエントリーされたなかの3社に選ばれたということは、わたし自身もうれしかったですし、今までやってきたことを多くの方に認めていただいたということで、本当に励みになる出来事でした。
Tad 社員のみなさんにも、「いい会社に入ったな」という実感をだんだん得ていただいているんですね。
宗守 そうですね、少しずつだと思いますが、そう思っていただければいいなと思っております。
「かがやきカンパニー大賞」を受賞した同社。社員運動会を開催し、絆を深めている。
Tad 会社の事業内容として解体、リサイクル、リユース、不動産、このあたりというのは解体業にまつわることなんだなとわかりますし、内容についても前回うかがいましたが、「幼児教育」というものもありますけれども、こちらは一体どういうことをされていらっしゃるんですか?
宗守 石川県で唯一なんですが、フルタイムで『カサ デ バンビーニ』という「モンテッソーリスクール」を運営しています。
原田 「モンテッソーリスクール」ということは、イタリアのモンテッソーリ教育を軸にした?
宗守 はい。自立、つまり自分たちでやりたいことを自分たちで選ぶという教育です。ですから、たとえば読書、外遊びとか、子どもたちのやることがここでは決まっていないんです。モンテッソーリでは遊ぶことを「お仕事」と言うんですが…
原田 お仕事!
宗守 はい。「お仕事」を子どもたち自身で決めるのです。一日中、教具で遊んでいてもいいですし、一日中、本を読んでいてもいいですし、自分たちで自分のやるべきこと、やることを決めます。今年で7年目になります。
『カサ デ バンビーニ』という名称の「モンテッソーリスクール」を運営している。
Tad 東京の方だと「モンテッソーリに入れたい」というような話を聞くんですが、金沢では…
宗守 フルタイムではうちだけですね。
Tad でも、『株式会社宗重商店』は解体業ですよね。
宗守 そうなんです。8年ほど前でしょうか、モンテッソーリ教育をフルタイムで独立開業したいという先生と、その先生がモンテッソーリについて教えているワークショップを聞きに来ている保護者さんが話す場に呼ばれたことがありまして、先生は独立してマネジメントをしてくれる人がほしいと。保護者さんは、もしそういったことができるなら、うちの子どもたちを預けたいと。そういう場に、たまたま居合わせまして、両者が僕の方を見るわけですよね。
原田 「宗守さん、なんとかしてくれないか」と…(笑)
宗守 はい。「いや~、解体工事を生業としてる者ですけれど…」というのはあったんですが、できることであればやってみましょうということでやり始めました。今は順調に事業が成長してきているなと思います。校長先生という役職もいただきまして。
原田 そうなんですか! 全然違う業界ですが、『株式会社宗重商店』本体の方に活かしていける何かを得られるということもありますか?
宗守 20人ほどの小さな規模でやっているんですけれども、モンテッソーリは縦割りなんです。だから、学年ごとや年少・年中・年長と分けることなく、年長さんが年中さんを助けたり、年中さんが年少さんのお手伝いをしたりする。そういった世界というのは、会社にとっても組織にとっても理想的だと思うんです。会社も当然縦割りであるべきだと思います。ですから、モンテッソーリの世界、子どもたちの世界を宗重の会社の中に入れることができれば、自分の中では最強だと思っていますが、それはこれから少しずつ、そういったメソッド、文化、風土を宗重の本体の方に入れていきたいなという思いは持ってます。
Tad 入れていきたいエッセンスとしては、自立的に運営することや、先輩が後輩を助け合う、ということなんですね。今は直接的に何かフィードバックがあるというよりは、『カサ デ バンビーニ』というこの施設で起きていることを、解体に取り組まれている宗重の社員さんに「こういうことが起きてるぞ」「こういう教育の方法だぞ」みたいなことが参考情報のように伝わって、「そうなんだ、いいね」というふうに刺激を受けていらっしゃるという状況でしょうか。
宗守 そうです。ちょうど昨年、『モンテッソーリカサデバンビーニ』の先生方に、講師になっていただいて、解体工事の職人さんや社員さんの前で「モンテッソーリとは」というところから、普段どんなことを子どもたちの世界でやっているのかということについてセミナーを開催しました。そうすると、それまでは、もしかしたら「社長が勝手にやってる」、「何やってるかわからない」というのが本音だったと思うんですが、すごく勉強になったとか、逆に言えばその社員さんにも家族がいて、自分たちの家族や子どもにもそういったことを意識してやってみようとか、そういった感想をいただきました。やってよかったですし、年に一度くらいは、それぞれの事業部を知り合うような勉強会が必要かなと思っています。せっかく、いろんな事業に触れていますので、みんながつながるようなことがしたいですね。
仕事って楽しいものだと僕は思っています。頑張ったことでお客様にありがとうと言ってもらえますし、解体事業部では、不安とか困りごとをたくさん持つお客様に対して我々がお手伝いする、お助けすることによって、笑顔になってもらえる、喜んでもらえる。それってなんていいことなんだと思いながら仕事をしています。事業部が増えることによって宗重が提供できる商品チャンネルも増やせると思いますし、みなさんの人生のさまざまな重大な転機において必要とされる会社に成長していきたいというふうに思っていますので、社員さんには「みんなで一緒に頑張りましょう」と言えたらいいなと思っています。

ゲストが選んだ今回の一曲

ONE OK ROCK

「Wasted Nights」

「今から3年前、コロナ前ですが、創業以来、初めて周年事業を行いました。80周年ということで式典と祝賀会を行ったのですが、その時の最後にエンディングソングとしてエンドロールとともに流した曲です。僕にとっても80周年事業が今もフィードバックする思い出の曲です」

トークを終えてAfter talk

Tad 今回はゲストに『株式会社宗重商店』代表取締役の宗守 重泰さんをお迎えしましたけれども、いかがでしたか、原田さん。
原田 お話をお聞きして、これからの『株式会社宗重商店』が解体業としての専門性を極めつつ、宗守さんはすごく視野が広いので、次のステップに業界ごと進んでいくんじゃないかと予感しました。
Tad 解体現場は、近隣に迷惑をかけるものとか、解体業は3K職場であるとか、そういった解体業として当たり前とされていたことにも「本当にそれでいいのか」という目線で改革を根気よく続けられて、理想の解体業への進化を目指して来られたと思うんですが、進化っていうと突然変異っていう言葉もありますが、ご縁で始めることになってしまったモンテッソーリ教育の事業のお話をうかがううちに、『株式会社宗重商店』がさらに進化するきっかけにもなっていくようにも感じられました。経営というと、計画ももちろん大切だと思うんですが、いただいたご縁をうまく取り込んでいく包容力と、取り込んだもの、取り込まれたもの、その両方を活かすんだという意識の力の大切さを感じたお話でもありました。

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