前編
学年もカリキュラムもない、“自由”な学校 。
第147回放送
パトリ合同会社 代表
南手骨太さん

Profile
なんて・こった/1969年、石川県金沢市生まれ。高岡中学校在学中に高峰賞(※)を受賞。金沢大学附属高等学校から1988年、東京大学工学部に進学。1992年、『三菱商事株式会社』に入社、都市開発を担当。1996年に教育業界に転身。1999年に金沢に戻り、フリースクールを立ち上げる。2011年、『パトリ合同会社』(金沢市保古)を設立。小中学生のフリースクール、通信制の高校、大学、放課後等デイサービス、学習塾、ICT事業などを展開。
※高峰賞:金沢市内の各中学校(国・公・私立)に在籍し、特に理科、数学に興味・関心が強く、且つ、優秀であり研究意欲に富む生徒に授与される(金沢市ホームページより)。
パトリ合同会社 Webサイト
Tad | 原田さん、フリースクールってご存じですか? |
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原田 | 聞いたことあります。最近だいぶ増えてきた印象ですよね。 |
Tad | フリースクールっていうと、「何らかの理由で学校に通えない子どもたちのための“学校代わりの場所”」という理解が一般的かもしれないんですが、今回のゲストのお話を聞けば、それも先入観だったと気づくかもしれません。今回のゲストは『パトリ合同会社』代表の南手 英克(みなみて ひでかつ)さん、通称「なんてこった」さんです。 |
原田 | な、なんてこったさん?! |
Tad | 南に手、骨に太いと書いて、通称「南手骨太(なんてこった)」さんということで。 |
南手 | 子どもたちを相手に仕事をするときに「南手(みなみて)」は呼びにくいので、彼らが呼びやすいように。今は「こったさん」と呼ばれています。 |
Tad | ということで今回はわたしも普段どおり「こったさん」と呼ばせていただきます(笑)。ところで「パトリ」という名前には由来があるんですか? |
南手 | 長男が高校で合唱部にいて、家で「パトリパトリ」と言うので、「パトリって何?」って聞いたら「パートリーダー」のことだと。それ、かわいいんじゃない?と思って、そこから会社名を付けました(笑)。 |
Tad | なるほど。パートリーダーのような会社に、と。 |
南手 | そうです、そんなふうに子どもたちを育てたいなと思っています。 |
Tad | 「パトリ」では、いろいろと教育関係のお仕事をされていると思いますが、なかでも主力はやはりフリースクールなんでしょうか? |
南手 | フリースクールから事業をスタートしました。経営的に見ればフリースクールの占める割合は小さいんですが、もともとはフリースクールをすることでいろんな子どもたちを育てたいという思いで事業を始めています。 |
Tad | 冒頭でもフリースクールの一般的な認知についてお話しさせてもらったんですが、こったさんが思うフリースクールというのは、どういうものなんですか? |
南手 | 日本においては「学校に行けなくなった子が代わりに行く場所」というような扱いですが、僕が海外で見たのは、むしろ公立学校を選ばずに、フリースクールのほうがいい教育が受けられるということで、あえて選択している子が結構いるんです。そういう学校を作りたいなと思ってスタートしています。 |
Tad | 一般的にいう義務教育の学校とフリースクールって、どう違うものなんでしょうか。 |
南手 | 日本で教育を受けるというと、あくまで学校に行くのが基本ですが、海外では、学校に行ってもいいし、家で勉強(ホームスクール)してもいいし、フリースクールに行ってもいいしと、結構選択肢がいろいろあるんです。日本では2016年に教育機会確保法ができるまでは、学校でしか義務教育は受けられないという法律になっていました。 |
Tad | 今はもうフリースクールに通うのも義務教育の一環と認知されたわけですね? |
南手 | 今はそうなっています。まだ世の中的にはそれほど知られていないと思います。 |
Tad | 1999年にフリースクールを立ち上げられたということでしたが、この頃って今ほどフリースクールもないですよね。 |
南手 | 石川県ではまだなかったですが、東京とか関西にはすでにたくさんありまして、フリースクールに通う子どもたちもたくさんいました。ただ当時は、「登校拒否」という言い方をされていましたが、フリースクールは「学校に行けなかった子たちの世話をする場所」というようなところから始まっています。 |

原田 | なるほど。実際、海外のフリースクールではどういうスタイルで教育をされているんでしょうか? |
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南手 | 僕が一番感動したのは、アメリカのとあるフリースクールなんですが、ものすごくデモクラティックスクール、つまり民主的と言われていて…… |
原田 | 民主的? |
南手 | はい。通常、校則とか「子どもはこうあるべし」というようなことって、先生だとか、いわゆる大人が決めるものじゃないですか。ところがそこでは、何かルールを決めるときは子どもも大人も「同じ1票」で、決まるんですよ。 |
Tad | 校則がですか? |
南手 | そうです。 |
原田 | すごい! |
南手 | それどころか、その先生に来年もこの学校にいてほしいかどうかも投票で決まるんです(笑)。 |
Tad&原田 | えぇ~!?(笑) |
原田 | それ、先生たちは結構必死じゃないですか? |
南手 | なかなかシビアですよね(笑)。そんなふうにして、本当に子どもたちにとっていい環境を作ろうとしている学校がありまして、こういうのは日本にはないけれども、これがあったらおもしろいなと思って、フリースクール設立に向けて活動を始めたわけです。 |
Tad | なるほど。フリースクールでの日々の勉強というのは? |
南手 | 基本的にカリキュラムはなく、自由なんです。でも、自由だからずっとみんな遊んでいるかっていうとそうではなくて、やっぱりある時期になると勉強したくなってくる。そうすると、たとえば「数学を習いたいなぁ」と思ったら数学の先生に「毎週何時から授業をしてほしい」と子どもたちが何人か集まって頼みにいくんです。それで「やりましょう」と先生が約束する。子どもは自分から言い出したことだし、先生とも約束しているので、遅刻せずに必ず来るんです。でも、「何限からは数学だよ」って言われたものについてはなかなか自発的には行きにくいみたいなところがあるんですけど(苦笑)。 |

原田 | そうですよね。そんな気分じゃないとかね。そういうときもありますよね。 |
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南手 | はい。勉強がしたくなったらやればいいし、学校内に先生がいなかったら郊外に先生を求めてもいいわけです。たとえば家を作りたいというときには外の大工さんに頼んで、「家を作りたいから教えてくれ」と。 |
原田 | え!! |
Tad | すごいですね。 |
南手 | 費用がかかるんだったら、昼休みにアイスクリームを売ってお金を作って、「先生、教えてください」って子どもたちが頼みに行くんです。そうやって身につけた知識や技術は、やっぱりなかなか忘れられないですよね。 |
Tad | そうですよね。でも「家を作りたい」という生徒さんがいて、それを叶えてあげるというか、「どうやったら叶えられるのかな」ということを一緒に考えてあげるっていうのは、確かに普通の学校ではありえないかもしれないですね。 |
南手 | そうですね。自立して、自分の頭でものを考えて行動できる子が育つという環境、これは、日本にはないなと思います。 |
原田 | そうですよね。家づくりからだんだん派生して、実現するために「こういうことも必要だな」っていう気づきもきっと出てきますよね。 |
南手 | 家を作ることをきっかけに、いろいろな材料について知らなきゃいけなかったり、屋根の勾配を計算するのに数学が必要だったりしますから、そういうふうにしてちょっとずつ世界を広げていくというか、勉強の幅を広げていくというやり方です。日本だと本当は小学校1年だったらここまで勉強しているべきだろうというのが決まってるんですが。 |
Tad | 我々も何の役に立つのかわからないと思いながら、ずっと勉強させられてきましたよね。でも、これをしたいから化学や算数や物理を学ばなきゃいけないとか、お金が必要だから稼ぐ方法を考えようっていうほうが、学び方としては自然ですよね。 |
原田 | 本来はそうですよね。今の教育のシステムだと、わたしも含めて世の中のお母さんは、決められたところまでお子さんができていないと、すごく劣等感を持つというか、できていないんだっていうことで親子ともども落ち込むっていうことが結構あるんです。でも、その子のやりたいことを突き詰めていけるというのは、「それぞれの子の度合いで進んでいっていい」ということなんですよね? |
南手 | はい。それぞれに興味の対象も違いますし、そこを軸にいろんな世界が広がっていくという教育の在り方があってもいいように思います。 |
Tad | そうですね。一方で、やっぱり「普通はこれを知っておいてほしい」というものもあると思うんですが、その辺はどうなんでしょう? |
南手 | フリースクールにはいろんな子どもたちがいるので、それぞれみんな違った興味を持っていろんな勉強をしています。そうやってお互いを間近で見ていると「あ、こういうのも面白いね」とか、「こういうこともわかるんだね」という感じで横のつながりが生まれて、より幅広く成長できるんじゃないかなと思っています。 |

Tad | 時々「もしかしたらこれも興味があるかもしれないよ」という刺激を与えてあげたりもするんですか? |
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南手 | 大人が介入する場合もあるし、子ども同士で高めあっていく場合もあると思います。とにかくそういう環境を作ることができているフリースクールがあるというのが、最初はすごいなぁと思ったんです。 |
Tad | 僕も勉強していた時、必然性がほしかったんですよ。 |
原田 | なぜこれを学んでるのかと? |
Tad | はい。その時は、この勉強が何の役に立つということを知りたかったですし、「これを将来やるからこういう勉強をしよう」という感じで取り組みたかったです。 |
原田 | 「一般常識としてこれは知っておくべきだよね」なんてよく言われますけど、それって誰が決めたんだろうって、今ふと思いました。 |
Tad | それは……文部科学省が……(笑)。 |
原田 | (笑)そっか!そうですよね。 |
Tad | それも必要なことだとは思うんですが、でもそれだけではないっていうことですよね。 |
原田 | 逆に言うと研究を突き詰めていくような人たちって、とらわれずに突き詰めたからこそ世界一になれるということもありますよね。 |
Tad | やっぱり類まれなる才能を発揮する生徒さんもいらっしゃるんでしょうか? |
南手 | そうですね。たとえば世の中の偉大なる数学者は数学以外のことが全く何もできなかったりしますよね。だけど、「本当はなんでもまんべんなくやらなきゃいけない」というような圧力って、日本のなかにどうしてもあります。とはいえ、実際に大人になった我々が全てまんべんなくできているかっていうと、そうではないので、子どものそういう好奇心を摘まないように、「子ども時代」を育てるというか、そういう環境を作ってあげるのが大事かなと思ってます。 |
原田 | 「パトリ」として、フリースクール以外にもいくつか事業内容をご紹介しましたが、今一番のメインはどこになるんでしょう? |
南手 | 通信制高校になりますかね。今度フリースクールを卒業する、あるいはフリースクールに来られなかったけど中学校でなかなか学校になじめなかったり、中学校に行けなかったという子たちが、やはり全日制高校にも行けなかったりするんです。もしくは全日制高校に行ったけど続かなかったとか。そういう子たちが通信制高校だと通えるということで、わりとうちにも来てるんですが、そこが一番大きいですかね。 |
原田 | なるほど。 |
Tad | そういう日本にあまりないタイプの教育機関・教育施設を作られるにあたって、いろいろご苦労をなさったんじゃないかなとも思います。 |
南手 | まず、子どもが義務教育で学校に行っていれば、保護者にはお金は1円もかからないですよね。給食費はかかるけれど、基本的に授業料とか教科書代っていらないですよね。だけど、フリースクールはそういうものが何もないので、保護者に月々いくらか出していただいて、そのなかで運営をしなきゃいけない。ですから、最初の頃はスタッフのところにお金が残らないというか、経済的な面は非常に厳しかったですね。スタッフみんなが月給2万円とかで子どもたちの面倒を見ていて、ボランティアみたいな感じの時代が長く続きました。今はそうやって通信制高校や、発達障害の子も多いということで放課後等デイサービスもやっていて、ちょっとずつ経済的な基盤ができて、お金が回るようになってきましたが、それまでは非常に苦しい時代でした。 |
Tad | 2016年に教育機会確保法が施行されましたが、それ以前はフリースクールの扱いって全然違ったんですか? |
南手 | 学校とか教育委員会に話しに行っても、「フリースクールにおいで」って言うこと自体が結局は「違法行為の手伝いをしている」ことになるわけですよ(苦笑)。 |
原田 | 法律が施行される前は? |
南手 | そうなんです。そういう意味では非常に肩身の狭いというか、子どもたちのためにやってるんだけど、世間的には「違法行為のお手伝い」という扱いで……。保護者は納得していても、おじいちゃんやおばあちゃんは「いや~、うちの子がそういうのに行くのは認められない」とか、おじいちゃんやおばあちゃんには内緒だとか。そういう意味では細々とやらなきゃいけない感じでしたね。 |
原田 | そんななかでもこったさんがブレなかったのは、なぜですか? |
南手 | あまり計算ができないので(笑)、目の前にあることをしているだけというか……。先が読めないというか(笑)。 |
Tad | そんなはずはないと思いますが(笑)。 |
原田 | 子どもの教育ってこうじゃないものもあっていいはずだという思いが絶対大きくあったわけですよね。 |
南手 | そうですね。うちも子どもが4人いるんですけど、それぞれに4人とも違っていて、それぞれに面白く、よく育っているんですが、世の中を見渡してみると、学校になじめないがゆえに親からも学校の先生からも小言を言われ、おじいちゃんやおばあちゃんからも言われて、「自分はダメな人間だ」というふうにどんどんエネルギーをすり減らしていく子がいるんです。そんな子たちをまず、救わないといけない。将来、社会に出て活躍してくれる宝がこんなところで潰されちゃもったいないですから、そこは本当に何とかしたかったですね。 |
ゲストが選んだ今回の一曲
The Beatles
「Hey Jude」
「高岡中学校時代に下校の音楽で毎日流れていた懐かしい曲です」(南手)

トークを終えてAfter talk


Tad | 今回はゲストに『パトリ合同会社』代表の南手 英克さんをお迎えしましたけれども、いかがでしたか、原田さん。 |
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原田 | フリースクールっていうのをわたしたちが理解しづらいのは、自分たちが教育の場で自由な場面が少なかったからなのかなと感じました。でも、わたし自身も子育て真っ最中なので、学校が、「決められた授業を受ける」という受動的な形だけじゃなくて、学ぶことに能動的に取り組める場になったら……それってどんな学校なんだろうって、すごくフリースクールに対して興味がわきました。 |
Tad |
一般的な義務教育のカリキュラムと違って、今おっしゃったように何をするのも何を学ぶのも自由なんだけど、「自分はこれをやりたい」、たとえば「家を作りたいから勾配を計算する三角関数を勉強するぞ」なんて、本当に目的意識が明確になりますよね。僕のように、何に使うかわからない三角関数をテストのためだけに覚えてすぐ忘れるよりも(笑)、もしかしたら何倍も価値のある「生きた知識」や「生きた経験」なのかもしれないなと思いました。 2016年に法改正があってから、フリースクールは正式に国も認める選択肢の一つとなったわけですが、まだまだ従来のイメージが払拭されていないということでした。でも「なんてこった」さんたちの活動によって、次世代の子どもたちがもっと目的意識を明確に持って、もっと生きた知識や経験を身につけて、フリースクールが一般的な選択肢に含まれる未来もあるんではないかなと感じました。 |