後編

IoT技術で地下タンクの遠隔管理を可能に。

第14回放送

タマダ株式会社 代表取締役社長

玉田善久さん

Profile

たまだ・よしひさ/1976年、石川県金沢市生まれ。金沢工業大学 経営工学科を卒業後、自動車部品会社に就職、北アイルランド、ルーマニアでの勤務経験も持つ。『玉田工業株式会社』(現・タマダ株式会社。ガソリンスタンドの設計・施工、地下タンク製造。1950年創業)に2005年に入社。取締役営業本部長、常務、『タマダベトナム』社長、『玉田工業株式会社』専務を経て、2019年6月より現職。

タマダ株式会社Webサイト

インタビュー前編はこちら

Tad 今回のゲストは前回に引き続きまして『玉田工業株式会社』(現・タマダ株式会社 以下『タマダ株式会社』)代表取締役社長、玉田善久さんです。ガソリンスタンドの地下タンクの製造・販売については国内70%ものシェアを誇るということですが、そうなるとこの先、その事業をどんなふうに成長させていけるのかと、勝手ながら思ってしまったところもあるんですが、会社としては事業を伸ばしていくか、維持していくかというところはどんなふうにお考えですか?
玉田 我が社としては70年ずっとガソリンスタンドにかかわることをやらせていただいて、特に地下タンクの分野ではトップシェアをとれるようになりましたので、これからもその分野において製造・メンテナンスの事業で頑張っていきたいなと思っております。
Tad 今の時代に合わせた新製品やサービスも開発していらっしゃるんですよね?
玉田 はい。2019年から非常に注目を集めるようになってきた事業があります。それは、タンクの在庫量をIoTの技術を使って遠隔から管理・監視するというサービスを提供するものです。
Tad タンクの在庫量をインターネット経由で確認したり、IoTでということは、タンク自体がもうインターネットに繋がっているということですよね?
統計学的漏えい管理+在庫管理システム「TAMOS」。地下タンクの油量を常時監視し、微少な漏えいをチェックする。
玉田 そうですね。
原田 なるほど。そうすると遠くにいながらにして、その場の状況をすぐに把握できるということですか?
玉田 そうです。日本全国には、設置済みの地下タンクが30万本弱、埋まっているんですが、それらは現在3年に1回の圧力検査が義務付けられています。それはタンクに圧力をかけて漏れていないか検査をするものなんですが、健全性に問題がなければ、法律ではまたそこから3年使えるということになっています。
Tad なるほど。地下タンクがもし壊れてしまうと、ガソリンを入れているタンクですから危ないですよね。
玉田 そうなんです。ガソリンが流出すると土壌汚染に繋がりますし、それを回収するということになると非常に莫大な費用も発生します。
Tad 土をすべて入れ替えなければならないということにもなりかねないわけですね。
玉田 微生物を使って時間をかけて土を戻す方法や、土自体を入れ替えてしまう方法もありますが、いずれにしても費用と時間がかかりますし、何より環境破壊に繋がります。
原田 今はもう3年に1度、誰かが現場に立ち会って圧力検査をしているということですが、その3年の間に何かがあった場合は、どうなるんでしょうか?
玉田 運よく見つかればいいですが、それが見つからずに汚染事故に繋がってしまうというケースが近年日本で増えてきているというのが実情です。
原田 そういう中で、遠隔で管理・監視できるこのシステムは非常に有益ということですよね。
玉田 はい。実は法律で、こちらのシステムを導入することによってタンク検査を免除されるということになりました。法律の変わり目というのが、このシステムを導入していただく動機になっています。
Tad 長さ12mのタンクですから人が入って検査しないといけないくらいのサイズですよね?
玉田 いや、人は入れないので、地上からタンクの中にガスを注入しまして、そのガスが漏れているかどうかで、タンクが大丈夫かどうかをチェックするというわけです。
モニタリングシステム「TAMOS」では同社独自開発の統計学的在庫チェック手法によって、熟練したアナリストが監視分析を行っている。
Tad なるほど。このIoTのシステムを入れることによって、その3年に1回の大掛かりな検査が必要なくなるということですね?
玉田 そうです。大きなメリットの一つですね。
原田 今、地震などの災害が多くある中で、このシステムがちゃんと機能していればタンクの安全性もしっかりとチェックすることができるわけですね。
玉田 はい。このシステムのもう一つの大きなメリットとして今、注目されているのは、東日本大震災の時に映像でも流れていましたが、ガソリンスタンドの前に車が大行列になって営業が再開できないということがあったかと思います。あれは地震があってから施設が正常に運営できる状態かどうかを確認するために、時間を要していたからだったんですね。
原田 確認のために営業をストップしていたんですね?
玉田 そうなんです。施設が壊れているところにまた油を入れてしまうと、漏洩を引き起こしてしまいます。東日本大震災の時は本当に広範囲だったので、復旧に時間がかかりましたが、日本国内では毎年なんらかの災害がいろんなところで起こっている状況で、災害があった時に速やかに生活の必要物資の一つである燃料を販売再開できる体制をとることは、インフラの一つとして非常に重要なことだと思うんです。このシステムは24時間365日、施設の様子を撮影し続けていて、ある災害が起きる前と後でどのような状況の変化があるかということを遠隔地から確認することができるわけです。
Tad タンクの在庫量を確認することができると、もし漏れていた場合は、在庫量が意図せず減っていることになりますよね?
玉田 はい。その時に漏れているかどうかも確認できますし、施設が動き出せば、それ以外のところからの異常もチェックすることができます。
Tad なるほど。遠隔からでも漏れているか、タンクが壊れているかなどが分かればすぐに営業再開ができて、あのような車の行列はなくなるということですね?
玉田 そうですね。速やかな油の供給インフラの復旧に寄与するのではないかと考えております。
原田 災害ということでは以前、断水が長く続いたこともありましたよね。貯水タンクも手掛けていらっしゃいますから、そういった技術も災害に備えて進めていらっしゃるんでしょうか?
玉田 当社では、飲料水を溜めておくタンクを、実は金沢工業大学と共同開発して全国で販売しております。このタンクというのは、水道管にタンクを繋げることによって、何かあった時に生活用水を必要な分だけ確保するというものです。大きいものは1万2千人から1万6千人分という規模でありますが、最近注目されているのは家庭向けの飲料水を溜めておくタンクです。日本でも、ペットボトルに水を溜めておくというのは結構当たり前になってきていますよね。しかし、一人の人間が災害に遭った時に1日に必要な水の量は約3リットルと言われていて、実際、家族分の数のペットボトルを常備しておくというのは結構大変だと思うんですよね。
原田 場所をとりますしね。それに期限が切れたらまた買い換えないといけない。
玉田 そうなんです。最近は大量の廃棄物が出ていることから、ペットボトルの使用量を減らしていこうという考え方も強くなってきています。そういった点でも、我々の提案するタンクというのは水の入れ替えをしなくていいですし、基本的にタンクに触らなくてもいいんです。
原田 それは水道管に繋いであって、その中の水が常にきれいな状態を保つことができるということなんですか?
玉田 タンクの水が中で循環して、古い水が新しい水にどんどん入れ替わっていくような構造となっていますので、基本的に触る必要はありません。災害の時には家族が生活用水をそこから取り出せるようになっているというわけです。
災害時や断水時に水の供給を確保する貯水機能付給水管「アクアインピット」。水道管に直結して常時、水が循環する。
Tad 普段の水道の大元がタンクにくっついているような感じですか?
玉田 そうですね。水道管の途中にタンクを入れておくということです。
原田 普段から水を使いながら溜めることもできるということですよね?
玉田 そういうことですね。
原田 家庭用だとどのくらいの量の水を溜めることができるんですか?
玉田 300リットルですね。
Tad わたしは断水の経験がありませんが、断水に向けてペットボトルに水を溜めておいたけれどすぐなくなっちゃったという人がいて、水道が開通しているところまでもらいに行ったり、車でポリタンクを運んだりという話を聞きました。かなり大変なことですよね。
原田 水はもちろん、トイレの水なども全部なくなるわけですから、やっぱり備蓄してあれば、安心感はありますよね。
Tad これだけ災害の多い時代ですから、たしかに一般家庭向けの用途はすごく求められているような気もしますね。ちなみに、それもインターネットに繋がっているんでしょうか?
玉田 インターネットを活用しているものは、当社としては先ほどご説明したタンクの在庫量を遠隔から管理・監視する「TAMOS」という名称のサービス、これが初めてのものになります。
Tad 家庭用の貯水タンクが、スマホで「容量はこれだけありますよ」だとか「シャワー何回分です」というようなことがわかるとよさそうですよね。すみません、勝手なことを言ってしまいましたが、つまりは、同じ「タンク」というものの中にも、新しい領域が生まれつつあったり、時代によって考え方が変わって必要なものが違ってきたりしつつあるということですよね。
玉田 そうですね、当社はタンクメーカーとして油のタンクの取り扱いから始まっていますが、水のタンクも扱うようになって、最近では食品関係のステンレスのタンクなどにも積極的に取り組んでいます。
2019年の10月に、ステンレス専用のタンク工場を栃木に作りまして、これもまたニッチな領域ですが、そこでは納豆を作るための、五俵釜と呼ばれるサイズの釜をたくさん作っております。
Tad なるほど、聞けば聞くほど予期しない、と言いますか、前回もピッチングマシーンの話がありましたが、今回もまさか納豆の話を伺うとは思いもよりませんでした。
ガソリン用タンクから貯水用のタンク、食品用のタンクまで、従来のタンク製造にとどまらず製缶加工を国内外に幅広く展開している。

ゲストが選んだ今回の一曲

THE BLUE HEARTS

「夢」

「なかなかやりたいことが見つかりにくい時代だと思いますが、一度きりの限られた人生の中で自分が本当にやりたいことを見つけられたら、本当に素晴らしいことだと思います。そういう内容の歌詞に共感して選びました。大好きな曲です」

トークを終えてAfter talk

原田 今回も玉田さんのお話を聞いて、一つの技術って、こんなに広がるんだなというのを実感しました。ガソリン用のタンクから貯水用のタンク、納豆の釜まで! 一つの技術にアイディア、発想、時代を読む目を合わせて進んでこられたんだなということと、これからもそうやって会社を引っ張っていかれるんだろうなと思いました。Mitaniさんはいかがですか?
Tad 人手不足という背景から、インターネットに繋がったタンクによってガソリンスタンドのメンテナンス、点検を大幅に改善していくだとか、これだけ多くの災害をはじめとした不便をより実感をもって感じられることが増えた近年だからこそ、家庭用の貯水タンクを手掛けられるなど、玉田さんは時代のニーズをうまく掴んでこられたのだと思います。選曲してくださったTHE BLUE HEARTSの歌詞にもあったように、『タマダ株式会社』のアイディアのタンクにはまだまだたくさんの夢が詰まっているんだろうなということがわかりました。

読むラジオ一覧へ