後編

ゴールキーパーのように会社全体に目を配り、社員を支える。

第18回放送

サイバーステーション株式会社 代表取締役社長

福永泰男さん

Profile

ふくなが・やすお/1974年、石川県金沢市生まれ。高校卒業後、大手家電量販店に就職。1998年、『株式会社ドリームワークス』を創業し、ソフトウェアの受託開発を中心に事業を展開。2000年、『サイバーステーション株式会社』設立、代表取締役に就任。2009年より、現在の主力製品であるデジタルサイネージ「デジサイン」の販売を開始。

インタビュー前編はこちら

Tad 今回のゲストは前回に引き続きまして『サイバーステーション株式会社』代表取締役社長、福永泰男さんです。
原田 前回もちらっとお話に出ましたが、小学生からずっとサッカーをしていらっしゃるんですね。現在は一般社団法人を設立され、部員70人を抱えるジュニアユースサッカーチームの代表も務めていらっしゃるとか。
Tad サッカーは最近もなさっているんですか?
福永 そうですね、どちらかというと教えることのほうが多いですが。
原田 インターネット関係のこととサッカーという体を動かすこと、幼い頃からどちらもお好きでいらっしゃったんですか?
福永 そうですね。パソコンとサッカーを愛するというところは今も変わらない部分ですね。
Tad 聞くところによると、実はプロサッカー選手を目指されていたそうですね。
福永 はい。高校を卒業して、恩師から「プロにチャレンジしてみないか?」と言われまして、挑戦したんですが失敗しました。しかし、良い恩師に出会えたというのは、自分にとってすごく大きかったですね。
原田 サッカーを通してどんなことを学ばれましたか?
福永 それはたくさんあります。気合、根性はもちろんのこと、今の子たちには非常に少ない部分かもしれないですが、我慢すること、団体での競技になりますから、周りをしっかり見ることでしょうか。私はゴールキーパーで、後ろから皆を支えることが仕事でもありました。自分の心配よりも周りの心配ばっかりする、それがある意味、今の私に通じる部分でしょうか。
ジュニアユースサッカーチームの「FCサイバーステーション金沢」も運営している。
Tad 会社全体を見る目に繋がっているのかもしれないですね。前回は、我々もよく見かけるデジタルサイネージとはどういうものなのか、電子看板、電子広告、お知らせ、店舗の商品紹介、いろんなところにディスプレイが使われているというお話をうかがいました。今回は、『サイバーステーション株式会社』が次なる時代に向けてどのようなチャレンジをされているのか、お聞きしたいと思います。
福永 いくつかチャレンジしている項目はあるんですが、やはり大きいのは裾野を拡大することです。全国に自社製品が3万台導入されているとはいえ、「まだ3万台」だと私は思っています。国内のデジタルサイネージの市場はだいたい3千億円くらいというふうに言われていますが、比較するとまだ全然、数が届きません。もっとお客様に必要とされるようになっていかなければならない。最終的にはこの3年以内に10万台を目指したいですね。
Tad デジタルサイネージの新しい用途を見つけていくということでしょうか?
福永 そうです。前回もお話させていただいたように、金融機関と店舗というのが我々の今の主なターゲットになりますが、もっともっと広げていきたい。例えばオフィスや工場といった、「貼り紙文化」が非常に根強いところです。
Tad たしかに、貼り紙だらけですね。
福永 そうなんです。生産の目標や業務指示といったものを全て紙に書いて、壁にべたべた貼っているんですよね。貼り替えることを考えても、特に大きな工場では非常に大変だと思います。
Tad 貼り紙が多すぎて、誰ももう見てないよというぐらいありますよね。
福永 でも、やっぱりそれがないと作業ができないわけです。そういった部分もデジタル化できるんじゃないかと思います。「貼り紙文化」を変えていくことと併せて、生産性を高めていくということをご提案できるのはないかと思い、チャレンジしています。
ホワイトボードや貼り紙を使用していた工場で、デジタルサイネージを導入した事例。仕事の生産性や業務効率のアップを実現。
原田 今、ふと思い浮かんだんですが、自宅の部屋の壁も子どもの学校の予定などのいろんな貼り紙だらけなんですよ。どこに何があるかもわからない状態です。家庭にもそれがあったらいいんじゃないかなと思いました。
福永 おっしゃる通りです。スマートフォンだけではなかなか解決できない部分です。何か作業をしながら、例えば家事をしながらでもすぐ情報を見ることができるものが、やはり家庭の中でももちろん必要になってくるし、マンションだったらごみの日ですとか、いろんなコミュニティでも必要になってくると思うんです。
Tad 情報を取りに行くのではなく情報が配信される、その強みを活かすということですよね。スマートフォンだと、画面を点灯させるところまでは自分が能動的に行動をとらなければいけませんが、デジタルサイネージは空間に溶けこんでいるから…
福永 振り向けば、情報が見えるというわけです。カレンダーを見るような感覚ですよね。そういうところで我々としてもいろいろと市場を作っていきながら、お客様のお役に立つことで10万台という目標を何とか達成したいなと思っています。
Tad 高い目標だと思いますが、実現しそうですね。経営者として今、どんなことを意識されていますか?
福永 ここ数年で意識することは変わってきています。受託をやっていた当初は自分で、つまり社長自ら営業に行き、トップセールスをしていました。今はしていません。そのかわり、導入10万台を達成するための環境、あるいは、従業員に仕事を長く続けてもらうため、彼らの健康面を考慮した環境を作ることに、私は今、一番力を注いでいます。
Tad 環境というと、具体的にはどういったことになりますか?
福永 一つはやはり健全でスピーディーな経営というところです。まず、いらないものは全部捨てるところから始めました。例えば、会議。役員会は月一回やっていますが、それ以外の部会や部門会議、現場の調整会議、そのあたりは全て廃止し、その数は10分の1になりました。他にも細かな無駄は探せばいっぱいあるので、そういったことを従業員の皆さんと一緒にやると彼らの業務が遅れてしまいますから、あくまで私の役割として、彼らのためになること、彼らが仕事をしやすいような環境を作っていくことに全面的に取り組んでいます。
Tad 会議をなくしても仕事は回っていくものなんですか?
福永 回ります。それには情報共有のためにITを導入するというところがやはり重要で、コミュニケーションは全てITツールを使って進めています。前よりかなり生産性は上がりました。「情報共有力」で事業が回っています。
Tad そうやって生産性が上がっていけば、社員の皆さんの健康を保つこともできますね。
福永 そうですね。
原田 今ってどんどん忙しくなってしまう時代ですよね。そんな中で「捨てる勇気」というのは結構思い切る必要があると思うんですよね。
福永 いりますね。最初は大反対されました。でも、やってみると意外と「ああ、いいもんだな」というふうに皆さんに思っていただけているようです。そうしたチャレンジのおかげで、例えば、お子さんがたくさんいらっしゃるようなご家庭の女性従業員の方が早く帰ることができるようになったり、健康面においても、今まで夜中まで仕事をしていたような子が、フィットネスに通ってダイエットして10kg痩せることができたり。そんなふうに自分の時間を作ることがリフレッシュになって、次の仕事の活力へと繋がっているようです。
原田 残業はなくす方向でしょうか?
福永 残業は今、かなり少なくなりまして、最高潮の時から見ると10分の1くらいに下がっていますね。
原田 それでいて、生産性自体はアップしているんですね。
福永 そうです。我々はメーカーなので、わかりやすく言ってしまえば、人が作るソフトウェアをコピーして売っているわけです。コピーして販売しているということは、特に大きく手をかける必要性もないわけです。
Tad ベースを作ってしまって、それがいいものであれば、そうなりますね。
福永 同じものが売れていくというスタイルですから。ものを作るとなると、どうしても「生産」というものが絡むわけですが、その生産をほとんどしないまま商品としてお客様にご提供できるので、そういう意味ではまず利益率は上がります。また、従業員の方の時間を削減できますし、削減した分、別のチャレンジをすることができます。
Tad お話を伺っていると、最初は導入台数10万台というお話もありましたが、ベンチャースピリットと会社の健全性、社員の皆さんの健康、そういったことをいいバランスで両立している会社なのかなというふうに感じました。
福永 そうですね。まだまだの部分も大きいですが、成功している経営者について冷静に考えてみたんです。本ももちろん読みますし、これまでにたくさんの大手企業の経営者の方にお会いしましたが、皆さん、信念や考え方に一貫したものを持っていますよね。ぶれないもの。経営者自身が明確な経営マインドをもって体現していると言うべきでしょうか。そこがまず、私に足りなかったところでした。それを体現するということから入っていったんです。体現できると、最大のメリットは何かというと、従業員の皆さんに私の信念がわかりやすく伝わり、浸透しやすいということです。だから、私自身がそれを示していく、従業員の皆さんのためにそうした時間を作っていく。それはつまり会社のために時間を作っていくこと、またはそれが最終的にお客様のためになるというふうに考えていけば、私が外に出ている場合じゃないだろうと思ったのです。従業員との接点を、今はたくさん持つことができているように思います。
Tad なるほど。ご自身のサッカーチームの活動も、プライベートの時間が充実してこそということですね。
福永 そうですね。例えば、常に従業員とのコミュニケーションをオープンにしていれば、お客様の声もすぐに入ってきます。そこでお客様の声を形にしていくということを優先すれば、それが採用されていくことに繋がっていきます。
Tad プライベートの、会社での活動ではないところでの刺激がまたいいアイデアに繋がっていくような感じでしょうか。
福永 そうです。私自身がサッカーチームを持ってやっているのは、子どもたちから学べたり、ゲームの中で選手たちが苦しんでいることからすごく刺激を受けたりするからなんです。「違う脳が動く」ような感じです。

ゲストが選んだ今回の一曲

スガ シカオ

「Progress」

「スガ シカオさんも好きですね。前回ご紹介させていただいた山崎まさよしさんと同じ事務所だったということもあって、よく聴いていました。この歌の最大の魅力は、自分の理想の姿とのギャップにいつも苦しみながら一歩ずつ前進していくという部分ですが、ある意味、経営というよりも私自身の人生に結構似ているのかなと共感します。詞をぜひ聴いてみてください」

トークを終えてAfter talk

Tad 今回は前回に引き続き、ゲストに『サイバーステーション株式会社』代表取締役社長、福永泰男さんをお迎えしました。いかがでしたか、原田さん。
原田 個人的な視点になりますが、福永さんの経営者としてのお話は子育てにも通じるように思いました。福永さんが社員の皆さんの幸せを考えて、多くの会議をなくしたように、私も子どもの幸せを願っていろいろ見直したいなと、ちょっと反省もいたしました。Mitaniさんは、いかがでしたか。
Tad 自ら体現することによって、あるコンセプトを会社組織に浸透させていくという、とても大事なお話をうかがったと思います。多分、営業されるのはとってもお好きなんだと思うんです。製品のお話をされているときの福永さんの目の色が違いましたから。でも自分自身によるトップセールスでは、10万台という目標がありましたが、さらにもっと必要とされる未来を待たずにおそらく自身の限界がきてしまう。だからチームとしての営業活動に切り替えていった。ゴールを決めるのは自分自身ではなく、チームとして勝っていくことを選んで、自分はゴールキーパーのように全体を俯瞰しながら、ピッチの上を社員の皆さんが走り回る様子を温かく見守っていらっしゃるのかなと思いました。福永さんの思いきる部分と大事にする部分の両方を感じ取りました。

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