前編

プラスチックのイメージを覆すブランド・製品開発。

第76回放送

石川樹脂工業株式会社 専務取締役  

石川 勤さん

Profile

いしかわ・つとむ/1984年、石川県加賀市生まれ。東京大学工学部を卒業後、世界最大の一般消費材メーカー『P&G』に入社。日本で数年間の勤務の後、シンガポールに転勤。帰国後、日本のCFO(最高財務責任者)の右腕として従事。2016年、『石川樹脂工業株式会社』入社。『石川樹脂工業株式会社』は1947年創業で、樹脂製の食器雑貨、工業部品、仏具などの商品の企画製造・販売を手掛ける。

Plakiraの「ゆらぎタンブラー」。
Tad 原田さん、このコップをご存じですか?「Plakira(プラキラ)」という製品で、いま人気沸騰中なんです。ガラス製と何ら変わりない機能と見た目ですが、実はプラスチックでできていて絶対に割れないという保証がついています。これを作っている会社が石川県にある『石川樹脂工業』なんです。今回のゲストは『石川樹脂工業』専務取締役の石川 勉さんです。
石川 よろしくお願いします。
Tad これ、すごいですね。私もたくさん持っています。まるで陶器のように見えるプラスチックのお皿の「ARAS(エイラス)」というシリーズもあるんですよね。
原田 持ってみると軽いですね。見た目と持った時のギャップがすごい。でも、ちゃんと安定感がありますね。
Tad 本当にプラスチックなんですよね?
石川 本当に、プラスチックです。車で踏んでも割れません。
Tad え?! 実験したんですか?
石川 はい。実際に僕が自分の車で踏んでみました。
原田 さすがにそこまでの衝撃は日常生活ではないから、生涯保証がついているというわけですね。
Tad 『石川樹脂工業』は元々どのようなものを作っていらっしゃったのでしょうか?
石川 曾祖父の代まで遡りますが、曾祖父は山中漆器の木地職人をしておりまして、その木地を産地だけではなく全国に売りに行こうとしたのが弊社の始まりです。そこから時代の変遷とともに木地だけではなく、いわゆるプラスチック、樹脂の素地を作ってみようということになりました。つまり元々は山中漆器の素地作りから始まっています。
Tad そうでしたか。自社商品を持つ前はOEMを中心になさっていたそうですね。
石川 2016年に僕が石川県に戻ってくるまでは、当社の業務の9割以上がOEM関連だったかと思います。いわゆる下請けという形でお客様から要望を受け、食器、仏具、新幹線の枕木なども作っていました。
原田 え! 枕木って木材だと思っていました。
石川 樹脂は強度もそこそこありますし、金属と違って電気を通さないことが多いので、強度を保ちつつ絶縁するということで枕木に採用されているんです。
原田 なるほど。ニーズに合わせていろいろなものを手掛けていらっしゃるんですね。
石川 そうです。素材から提案するということが多いですね。
Tad プラスチックでどのように食器を作るんですか?
石川 今は完全に機械化されています。成形機というプラスチックを作る機械がありまして、燃料を温かいうちに流し込んで、金型で冷やして固めるんです。イメージとしてはチョコレートを作るような感じですね。
成形のみならず、切断加工や仕上げ加工なども社内で手掛ける。
Tad 樹脂製品はとても便利ですよね。子どもの食器プレートのようなものも、軽くて質感もいいですし、割れないので私もすごく重宝しています。
石川 ありがとうございます。プラスチックには「安いもの」あるいは「偽もの」というイメージがあるんじゃないかと思いますが、当社は「なるべく長く使われるような商材」を手掛けることが特徴かと思います。
原田 たしかに、プラスチックって「いずれ捨てるもの」や「使い捨てのもの」というようなイメージがありますね。石川さんとしては悔しい想いはあったんじゃないですか?
石川 幼い頃から、「ゴミを作っている」と思われることが結構辛かったです。ゴミを作っているんじゃなくて、残るもの、少なくとも何年も使ってもらえるようなものを作りたいなと、子どもの時から思っていました。他にはない技術はあるし、他にはないものを作っているという実感もありました。
原田 お父様の代で変わられたことはあったんでしょうか?
石川 漆器から仏具や工業部品、開発系のOEMなどでどんどん事業を広げていったのは父親の代だったかなと思います。
Tad 山中漆器から工業部品を扱われていた時期もありましたが、それでも今、『石川樹脂工業』の自社製品として、この「Plakira」や「ARAS」というシリーズで、もう一度食器に戻ってきたというところがあるのかもしれませんね。
石川 そうですね。それこそ元々漆器屋だったということもあるので、家にいろんな食器があるんです。プラスチックの食器だけではなくて、輪島塗の立派なものから九谷焼など、いろんな焼き物を幼い頃から見たり触ったりしていたので、食器や食体験への愛着は昔からありました。
Tad OEM中心だった会社が、自社製品として「Plakira」や「ARAS」のようなものを手掛けるようになったのはなぜですか?
石川 OEMだけではなくて、自社製品や自社ブランドを作るということが父親の一つの夢だったそうです。下請けになると、お客さまの要望で厳しいことを言われてしまったりして儲からないということもあったみたいです。自社製品や自社ブランドを作るなかで「試してみるけれどもうまくかない」ということを何度も繰り返していたそうです。
Tad 「Plakira」は、私はとある食器屋さんで見かけて「いいな」と思い買った商品なんですが、いま日本中で売れていると聞いています。
石川 「ARAS」のほうは4月と8月にクラウドファンディングを行いました。その時は大成功しまして、4月と8月でそれぞれ1,500万円、2回で3,000万円くらい集まりました。僕が想像していた以上に使っていただき、とても喜んでいただけたのでうれしかったです。
「ARAS」の深皿スクープ・スプーン・フォーク。
原田 「ARAS」はどのような意味ですか?
石川 「ARAS」のアルファベットを逆から読んでみてください。
原田 「SARA(サラ)」ですか?
石川 そうです。「ARAS」のロゴマークは漢字の「皿」をひっくり返したデザインです。「お皿の概念をひっくり返したい」という思いが込められています。
原田 「Plakira」と「ARAS」はどのような違いがあるんですか?
石川 「Plakira」はグラスもので、飲食店やホテル向けに開発された商品もあります。形もさまざまで、コラボレーションもしているブランドです。透明でキラキラしているというところも特徴です。「ARAS」はまさに「お皿の概念をひっくり返す」ということで、お皿全般、食体験全般のブランドになります。すごくこだわって作ったカレースプーンやレンゲなど、「お客さまは絶対に、ここまでの要望は言わないよね」というようなところを突き詰めているのが「ARAS」です。
Tad 「ARAS」の特にこだわった部分をお聞きしてもよいですか?
石川 例えば、カレースプーンは0.5ミリの厚さにすると口当たりが滑らかになり、スパイスや食材の味がまるで溶けるようにして口の中に入ってくるんです。これが金属のスプーンになると、この薄さでは刃物になってしまいます。つまりプラスチックでしかできない薄さ、プラスチックだからできる口当たりというところにこだわっています。さらに僕が気に入っているところは、金属のスプーンだとちょっと金属臭がしたり、カチカチっと歯にあたる感じが嫌だったんですが、プラスチックだとそういったこともなく、においもしないし、食材の邪魔をしないんです。いいスプーンができたなと思っています。
原田 使った人は驚きますよね。
石川 使ってみると、一口目に「今までと違うな」という感覚が得られると思います。
Tad 私は割れないのでキャンプの時に持っていきます。
原田 それはいいですね。軽いですし。プラスチックにはいろんな素材があるんでしょうか?
石川 はい。プラスチックにはいろんな素材がありますが、「ARAS」に関しては全て同じ素材で揃えています。本当はいろんなプラスチックを使ったほうがいろんなメリットが出てくるのですが、あえて単一素材にすることによってリサイクルしやすいようにしているんです。複数の素材が使われていると分別というコストが生まれます。10年後、20年後のことを考えてリサイクルできるようにしているというわけです。
Tad そこまで考えていらっしゃるんですね。
原田 「捨てられないものにしたい」いう想いが、まさに形になっていますね。
石川 ブランドがもう少し大きくなって実店舗が持てるようになった時には、回収ボックスを設けて古くなった「ARAS」を交換できるようなことができたらいいなと思っています。
Tad 回収やリサイクルのことまで考えて商品づくりをされているというのは、すごいことですよね。
石川 プラスチック自体がその歴史を紐解いていくと、人類が作った素材の中で最も歴史の短い物質で、誕生して60~70年くらいの素材なのでまだ進化も途中の素材なんです。発展の余地がありますし、まだまだ考えられていないこともあります。例えばガラスは2000年~3000年の歴史がある。金属に関しても2000年くらいの歴史があるなかで、樹脂はまだまだ可能性がある素材。そこを突き詰めて表現できたら、と思っています。

ゲストが選んだ今回の一曲

ケツメイシ

「トモダチ」

「ちょうどこの時期(放送時は3月)は大学の卒業式を思い出します。友人たちと送別会みたいな感じで、これまで一緒だったのに、これからまたお互い別のところで働くことになるけど、また会おう、とよく歌っていた曲で、3月になると思い出す曲です」

トークを終えてAfter talk

Tad 今回はゲストに『石川樹脂工業』専務取締役の石川 勤さんをお迎えしました。いかがでしたか、原田さん。
原田 プラスチックってすごく身近な物質のようでいて、知らないことがたくさんあるんだなという驚きがありました。レジ袋をなくそうとか、水筒を持ちましょうとか、プラスチックをなくす方向で動いているかと思いきや、これからの生活を豊かにしてくれるようなプラスチックもあるということを知って、考えが変わったような気がします。
Tad 「ARAS」を反対から読むと「SARA」になる。お皿の概念をひっくり返すという面白いネーミングでしたが、石川専務の根底にあるのは、プラスチックといえども使い捨てやゴミになってしまうようなものではなく、大切に使ってもらえるようなものづくりをしたいというお話だったかと思います。最近は何かと悪者にされてしまいがちなプラスチックですが、優れたデザインや素材を前提としたプラスチックや、そういった考え方によるものづくりを通じて、プラスチックに人々が抱いているイメージそのものをひっくり返してくれるような、そんな印象を受けました。

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