後編

柔軟なアイデアで時代の移行期のニーズを捉える。

第27回放送

株式会社アイ・オー・データ機器 代表取締役会長

細野昭雄さん

Profile

ほその・あきお/1944年、石川県金沢市生まれ。1962年、石川県立工業高等学校 電気科を卒業。『ウノケ電子工業株式会社』(現:株式会社PFU)に入社。1965年、金沢工業大学 情報センター職員などを経て、1976年、『株式会社アイ・オー・データ機器』(パソコン、家電、スマートデバイス周辺機器の製造・販売)を設立。経営の傍ら、1986年、一般社団法人『石川県情報システム工業会』を設立。会長として、地元IT産業の発展にも寄与する。2017年、ICT分野研究者の支援と地域スポーツの振興を目的とした公益財団法人『アイ・オー・データ財団』を設立。2017年9月より現職。
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Tad 原田さんは、今も音楽CDを買うことはありますか?
原田 買います。CDジャケットを手にしたいので。先日、娘がとあるミュージシャンのCDを楽しみにしていて届いたんですが、ポータブルオーディオプレーヤーで聴きたいという時に、パソコンにCDを一度取り込んで、そこからデータをポータブルオーディオプレーヤーに入れなければならなくて、それがいつも遠回りだなと思うんですよね。
Tad 音楽を聴くのは、やっぱりスマートフォンとかポータブルオーディオプレーヤーになるんですね。
原田 はい、持ち運びやすいものになりますね。
Tad 今回のゲストの方なら、音楽とスマートフォンやポータブルオーディオプレーヤーを繋げてくれるかもしれません。前回に引き続きまして『株式会社アイ・オー・データ機器』代表取締役会長、細野昭雄さんにお越しいただいております。
前回は細野さんにストレージ、ハードディスク、液晶モニターといったパソコン周辺機器のお話をうかがいました。今、パソコンというと、もしかすると一般のご家庭に一人1台ではなくて、一家族につき1台くらいになっていて、段々と個々にスマートフォンやタブレットを持つようになっていると思うんですが、御社の事業内容もそれに伴い、変わってきているのではないでしょうか?
細野 14、15年ほど前からパソコンの周辺機器だけでは数字の伸び、比率が下がっていて、場合によってはスマートフォンやタブレット系に数字が移ってきています。テレビもそうです。パソコン用のハードディスクをテレビの録画用にしたのも14、15年前だと思いますが、そういう具合に今ではパソコンだけではなくてスマートフォンの周辺、テレビの周辺、あるいはインターネット上にあるいろんなサービスを駆使していきましょうという感じになってきました。そのあたりをここ4、5年に亘って強化している最中です。
Tad 先ほど原田さんから、CDを買ってからパソコンに取り込んで、それをポータブルオーディオプレーヤーやスマートフォンに落として、というようなお話がありましたが、こういう手間を解決するような新製品を御社でご用意されていた気がするんですが?
細野 はい。パソコン用にCDを取り込むものは、以前はパソコンに当然、付いていました。パソコンに付いてなくても外付けのものがあって、それを20年近く販売していたんですが、ちょうど6年ほど前からスマートフォンに繋げるものに取り組んでおります。つまり、CDのデータを、パソコンを経由せずに直にスマートフォンに取り込むものになります。「CDレコ」という商品です。
パソコンレスでiPhoneやAndroidスマートフォン、「ウォークマン®」に音楽CDの曲を入れられるスマートフォン用CDレコーダー「CDレコ」。アプリで歌詞を表示することも可能だ。(イメージ)
Tad 元々CDドライブは製造されていて、パソコンにUSBで繋いだりしていましたよね。
細野 そうですね。元々はパソコン用の装置だったんです。相手を変えると言いますか、繋ぐ対象をスマートフォンにするということです。多分、このままいけばテレビにもいずれ付くと思います。ご存じかもしれませんが、テレビもアンドロイドTVになってきて、ネットに繋がるようになっていますよね。当社でもすでにテストに取り組んでいます。若い頃にやりたかったことを会長になったんだからと言って、今、やらせてもらっています(笑)。
Tad なるほど(笑)。元々お持ちだった自社の強みが発揮できている製品の、繋げる相手をパソコンからスマートフォンに替えた、というところがミソですよね。
細野 はい。スマートフォンでしたら曲をクラウドから落として聴くのがほとんどだと思うんですが、これは各家庭にあるCDをスマートフォンに取り込めるというものです。さらに、クラウド上に歌詞データを提供している会社があるので、スマートフォンとクラウドを繋げば、曲に合わせて歌詞が出てくるというアプリケーションも作りました。出来てから3年ほど経ちます。
Tad 単純に曲のデータをスマートフォンに入れるだけではなく、インターネットの向こう側にあるデータを持ってきて、それも入れてあげるということですね。
原田 ニーズがあるわけですよね。
細野 すごくありますね。クラウドに繋いでいますので「CDレコ」のアプリで毎月聴いている曲数が1500万再生くらいされています。「CDレコ」のユーザーだけでも60万ダウンロードまで来ていますから。
Tad 今、「CDレコ」は家電量販店で売っているんですね。
細野 はい。レンタルCD屋さんにも置いてあります。パソコンで光ディスクの使用頻度が少なくなってきたので、今までパソコンに繋いでいたドライブをスマートフォンの周辺機器に切り替えていこうとなったわけですが、それが割とうまくいったということです。クラウドに繋げば歌詞が出てきますから、カラオケの練習にもなります。
Tad 「CDレコ」自体もスマートフォンの周辺機器というふうに見ることもできると思いますが、一種のIoTであると思うんです。今、御社ではIoTという切り口でいうと、どんなふうにビジネス展開されているのでしょうか?
細野 特に農業系、農業を事業べースにされている方と一緒に、例えばイチゴの栽培や稲作も大規模化していますので、人手不足をカバーするためのセンサーを水田に置くなど、県内でも3、4年前くらいからいろんなことが実施されていますが、その一部を、一緒になって取り組んでいます。
Tad IoTというのは現代のキーワードだと思いますが、やはり人手不足というのがその一番の起点なんでしょうね。
細野 例えば昔から、エレベーターやエスカレーターなどは大手がリモートで監視していましたが、あのような仕組みで、当社製品でも、ネットワークに繋がるハードディスクなどは8年ほど前からリモートで常時監視しておりまして、当社製品に対するIoTはすでに経験があるんです。どのドライブが故障しただとか、今ですとAI的に「故障しそうだ」というようなこともわかるところまできています。地元の『株式会社小松製作所』が十数年前からコムトラックで世界中のブルドーザーやパワーショベルをIoTで見るということを実践されていて、それがIoTの縮図みたいな感じになっていますよね。
こんなふうに地元の大手が世界的にも早く取り組んでおられて、これはいずれできたらいいなというふうに思っていたので、当社製品でもその手を使おうとなったわけです。先ほどお話ししたように、当社自身は農業をやっているわけではないんですが、農業にも使えるようなネットワーク機器やセンサーを接続することにも取り組んでいます。
Tad 遠隔での監視や故障情報などが瞬時にセンサーで管理できると、複数のデバイスがたくさんある時代ですからすごく管理がしやすくなったり、必要に応じてハードウェアを変えるということにも繋がっていきますよね。
細野 そうですね。あと「CDレコ」の派生で昨年取り組んだプロジェクトで「PlatCast(プラットキャスト)」というものがあります。例えば、昨年(2019年)はラグビーが話題になりましたが、試合を観に行った人たちが全員、ルールや選手の諸々を知っているわけではないですよね。しかも今のスマートフォンはテレビの機能がほとんどない。なおかつ、現場ではスマートフォンで観るんじゃなくて、やっぱり試合は直に観るわけで、耳だけは空いているという状態になりますよね。そこでこの「PlatCast」で観客のスマートフォンにIT放送を流すというのを1年くらいかけて取り組みまして、この2月から商用のものをスタートしたところ、非常に今、問い合わせが多い状態です。これは間違いなくIoTとも言えますし、クラウドを使ってのサービス、ある意味、デジタルとアナログの融合みたいなところかなと思っています。
Tad 現場でライブ感を楽しみたいけれど、テレビの方が得られる情報や解説が多いということはありますよね。
細野 そうなんです。実際に球場へ行ってみると意外と情報不足になるものなんです。
原田 そうですよね。
細野 それだったらテレビの前にいた方がいい、というような事になりかねない。
音声配信サービスの「PlatCast」。例えばスポーツの試合会場では、インターネットを通じて実況解説を聞きながら観戦を楽しむことができる。(イメージ)
Tad いろんな新しい事業を、今の「CDレコ」や中継のシステム等も含めて進めていらっしゃると思いますが、石川県内だけでなく、全国のベンチャー企業が日々、いろんなサービスやデバイスを出していますよね。そうした新しいベンチャー企業に対しては、脅威と感じていらっしゃいますか? それとも別の受け止め方をされていらっしゃるのでしょうか?
細野 当社の流れから言っても、規模は多少大きくなりましたが、マインドは当社自身もベンチャー企業そのものです。どういうベンチャー企業と組み合ってお互いに発展するか、だと思います。30年前、40年前と違って、一社が強ければその企業は伸びる、という分野はほとんど今、なくなってきています。日本の家電の大手もそうですし、ある意味、自動車メーカーもそうですよね。大変な投資をして、それを何社かで使いましょうとか、そういう形で、事業連携そのものがこの10年、15年ほど前からすっかり変わって来ていると思います。いかにお互いの強みを、1+1を2どころか3以上にするかということです。それを5、10にする可能性すらあるわけですから、最重視していくしかないと思います。
Tad プロフィールのご紹介の時に触れました『アイ・オー・データ財団』ですが、この財団ではどんなふうに活動されていらっしゃるんでしょうか?
細野 二つの分野があります。一つはIT系の開発をしている人の支援です。こちらの対象は石川県内だけではなく、全国から年一回、応募を受け付けて秋に締め切って、これで3回目が終わったところです。もう一つは石川県内のスポーツ及びスポーツに関連する文化、例えば応援団も入りますし、スポーツの選手、あるいはチームだけではないところも含めた支援です。今は全く技術的に追いつきませんが、若い頃にオーディオのアンプも作ったことがありますので、高級オーディオのオーディオサーバーもやっていたりして、音楽系の支援も結構やっています。音楽の分野というのは人間の感性に関わるところで、アナログとデジタルが合わさった典型だと思います。これは石川県内を中心にやっています。
『アイ・オー・データ財団』として『石川県野球協会』へ助成。上の写真は、同協会に所属する『ダラーズ』が全国大会優勝の際、その報告のために来社したときのもの。

ゲストが選んだ今回の一曲

ゆず

「栄光の架橋」

「この曲は懇親会などの締めで合唱するのに結構良い曲の一つだと思っています。例えば5人いる時に、誰かが“親”になって歌詞を他のメンバーのスマートフォンに転送するという機能を『CDレコ』に付けてあるんですが、それを思いついたのが仙台営業所のメンバーなんです。3年ほど前になりますが、『CDレコ』で歌詞が出るようになったというので、私のスマートフォンでゆずのこの曲を流すと、周りのみんなには歌詞が出ないので、歌詞を見るのに私のスマートフォンを覗くわけです。有名な曲だけど歌詞は意外と覚えてないものです。だったら、みんなにその歌詞を転送しようということで『歌いまっし』という金沢弁丸出しの機能を付けたというわけです。そのきっかけを作った曲として、非常に思い入れがあります」

トークを終えてAfter talk

Tad 今回はゲストに『株式会社アイ・オー・データ機器』代表取締役会長、細野昭雄さんをお迎えしましたけれども、いかがでしたか、原田さん。
原田 印象的だったのが、デジタルの会社の会長さんなのに持っていらっしゃった筆記用具が鉛筆だったんですね。「CDレコ」も今までのCDをデジタルにどう活かすかということで出来たものですし、そんなところからも原点みたいなものを、いつも大切に持っていらっしゃるのかなと感じました。
Tad そうですよね。今回は「CDレコ」のお話を中心にうかがいましたが、今、いろんなクラウドの音楽配信サービスがあって、クラウド時代と言われているものの、やっぱり今まで持っていたCDが各家庭に何百枚とあって、それは一体どうするんだというふうになりますよね。もしかしたらこれからは販売形態がクラウド中心になっていくかもしれないけれど、その移行期として、時代と時代を繋ぐ会社として『株式会社アイ・オー・データ機器』があるんだなというふうに思いました。また、革新するところと時代の継続性とのバランス、例えば「CDレコ」のような革新的な商品の開発の背景に、合唱、カラオケといったお話がありましたよね。そういうところのバランスがとっても素敵な会社だなと、私自身は感じました。

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