前編

屋根の瓦を、美しく保水性の高い歩道の舗装材にリサイクル。

第32回放送

株式会社エコシステム 代表取締役社長

高田 実さん

Profile

たかた・みのる/1979年、石川県能美市生まれ。星稜高等学校を卒業後、1998年、成蹊大学法学部政治学科に進学。在学中に環境NGOのスタッフになり、フジロックフェスティバルなどの屋外音楽フェス会場でごみゼロナビゲーションの活動などに携わる。卒業後、環境関連の会社『栗田工業株式会社』に入社、2006年、『株式会社エコシステム』(創業は1994年。土木、舗装事業と産業廃棄物の中間処理業を手がける)に入社。2018年4月より現職。公式サイト

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Tad 今回のゲストは『株式会社エコシステム』代表取締役社長、高田 実さんです。実はこの番組にも来ていただいた『コマニー株式会社』の塚本社長に先日、高田さんをご紹介いただいたんです。塚本社長もSDGsの話をされていましたが、高田社長もSDGsのバッジをつけていらっしゃいますね。やはり熱心に取り組まれていらっしゃるのでしょうか?
高田 はい。このバッジも実は『コマニー』さんから頂いたものなんです。
原田 ご縁が繋がって、このバッジが連なっている感じですね。
Tad 土木、舗装事業、産業廃棄物の中間処理業というのは具体的にはどういうことをなさっているのでしょうか?
高田 私どもの会社では、屋根瓦をリサイクルするということをやっているんですが、不要となった瓦を砕いてそのまま砂利として販売したり、それを使って舗装材を作って施工したりしています。
Tad 舗装材というのは、道路の舗装ということですよね?
高田 歩道の舗装材に使っています。
『エコシステム』の破砕前の廃瓦置き場。受け入れした廃瓦を山のように集積している。
原田 瓦を使うことによって何かメリットが生まれるのでしょうか?
高田 瓦は中身が非常に多孔質で、たくさん水を吸って保水する効果がありますので、それを舗装材にすることで、夏場でも熱くなりにくいのです。これを保水性舗装と言います。
Tad 蒸発する効果で気化熱を奪って舗装面が冷えるということですか?
高田 打ち水効果が非常に長持ちします。
瓦を2000倍にした電子顕微鏡写真。多孔質のため、保水性が高い。
原田 リサイクルというのは、そんなに昔からやっているものではないんですか?
高田 リサイクルで瓦そのものを扱い始めたのは、弊社が創業し始めた頃からだと思います。
Tad 『株式会社エコシステム』の創業が1994年ですから、それ以前は、瓦の最後はどんなふうになっていたんでしょうか? 捨てられていたということですか?
高田 ほとんどが安定型処分場という所に埋められていました。
原田 瓦って自然なものというイメージがあって、土に還るんだと思っていました。
Tad 土でできていますものね。
高田 いや、それが土に還らないんですよ。
原田 還らないんですか?
高田 縄文土器をイメージしてもらうとわかりやすいんですが、今でも発掘されていますよね。
原田 そうですね。形が残ったまま。
Tad なるほど。瓦も何千年も残ってしまうんですね。それがさっきの打ち水効果や、単にエコロジーということでなく、快適さをプラスする新しい舗装材として使われているということなんですね。
高田 そうですね。また、意外と瓦はたくさん、世の中に出てくるものなんです。だいたい毎年日本で100万トン分ぐらいのゴミになってしまうんですが、それが今までは全部埋められていて、埋め立て場の逼迫要因の一つにもなっていました。硬くて、ちょっと曲がっていたりするので、埋め立て効率が悪いんです。これをリサイクルすることで埋め立て処分場の長寿命化にも繋がっており、そういった点でも貢献できていると思います。
Tad 限りある埋め立て処分場を長く使うということですね。
原田 お話をうかがっていると、いろいろな面で「良いこと尽くし」という気がします。
高田 そうですね。
Tad 例えば「瓦でできた道」と言っていいものかどうかわかりませんが、石川県内だとどのあたりで使われているんでしょうか?
高田 一番たくさん使ってくださっているのは、木場潟公園ですね。こちらの周遊園路は全部、瓦の舗装材になっています。
石川県小松市の木場潟公園。周遊遠路はすべて瓦舗装材が使用されている。
Tad 木場潟公園というと桜がきれいなところですよね。その歩道が『株式会社エコシステム』による瓦舗装材でできているんですね。意識したことがなかったです。
原田 雨が降っても吸収がよいと言いますか、土のような舗装の路面になっているということですね。そういう意味では散歩される方にとっても、とても優しい感じがします。
高田 普通のコンクリートよりもソフトな歩行感になります。
原田 ちょっとクッション性があるような。
Tad 言われてみたらそんな気もしてきました。走っても膝が悪くならなそうな感じですね。ちょっとだけ足が沈むような感じがしますね。
原田 これからどんどん増えていくのでしょうか?
高田 そうですね。いろいろなところで採用していただいております。これからもどんどん広めていきたいという思いがあります。
Tad これから使われる予定というのはあるんでしょうか?
高田 一応予定としては石川県の金沢城公園の中にある鼠多門ですね。そこで使われるという計画がございます(註:2020年5月現在)。
『エコシステム』の瓦舗装材を使用した金沢城公園鼠多門。
Tad 観光客も増えていますから、たくさんの方がその上を歩くことになりますね。舗装材というのは、瓦だけが材料ではないと思うんですが、そもそもどんなふうに作られているんですか?
高田 実は舗装材ってたくさん種類がありまして、一番多く製造している舗装材は、主にセメントで固めるものです。セメントで瓦を砕いた砂利状のものと砂状のもの、そういったものをミックスしてコンクリート系の舗装材にして提供しております。
原田 何かきっかけがあって瓦を舗装材として使うようになったんですか?
高田 創業からの話になりますが、弊社の創業者である私の父が、地元寺井町で元々建設会社を営んでいまして、創業した1994年よりちょっと前の頃に、これからの建設業はもっと環境に対してアクションを起こしていかなければならないというふうに考えて『株式会社エコシステム』という会社を作りました。
『株式会社エコシステム』では固化材を研究していて、日本各地からいろいろな固めるものを仕入れていました。それで、当時石川県内で困りものとされていた浄水場の沈殿した砂の廃棄物をリサイクルしたいという声がありまして、その声を受けて、浄水場の土による固化材を使った舗装材を作っていました。
さらに、1997年にナホトカ号の重油流出事故がありましたよね。タンカーが座礁して、重油が日本海に流れ出てしまい、日本海側はすごいダメージを受けましたが、砂浜もかなり重油にまみれてしまって、石川県の小舞子海岸も結果的にすごく被害を受けました。そこで、この大量に出た重油まみれの砂利をどうにかしてほしいという声があったんです。それを従来の固化技術によって固めて無害化して舗装にしたということがありました。
こうしたアクシデントは滅多に起こるものではないので、仕事として舗装工事をしていくにはどうしたらいいかなと、他に何かないかなというのを考えた時に、元々の親会社とも言える建設会社の現場で瓦がたくさん出てくるということでひらめいたみたいなんです。それで瓦を調べてみたところ、先ほど言ったように多孔質であったり、水を吸ったり、少し見た目もきれいな感じなので、これはちょっと面白いぞということで、これを使った舗装材を作ってみようというところがスタートだったんです。1998年ぐらいから瓦のリサイクルに着手してきました。
Tad それでは、最初はとにかくこれからの建設業はエコを考えなくてはいけないという責任感から会社ができて、当時持っていた固化材の技術で何ができるかということで最終的に瓦に行き着いたということなんですね。
瓦もある一定周期で葺き替えますし、立て壊されてしまう家もありますが、瓦だけが燃やせないし、埋めないといけない。そういった背景で、この事業をなさっているんですね。
原田 お父様がその事業をなさっていて、その姿をまだ若き高田さんは当時、どんなふうにご覧になっていたんですか?
高田 ちょうどナホトカ号の事故があった当時、瓦のリサイクルを始めた時ですが、私はまだ高校生でして、父は毎日生き生きと働いていて、楽しそうにしていたんです。ある時、仕事について話をすることがあって、仕事は楽しいかと聞くと「楽しいよ、とっても楽しい」と言っていました。リサイクルという仕事で人の役に立って、それによって売り上げが上がって、利益になって会社が回っていく――世のため人にためになるのはとてもやりがいがあって楽しいという話を、その当時聞いて衝撃を受けたんです。仕事というと辛いものだと思いこんでいたのに、「楽しい」と言うわけです。「そういうものなんだ」と思った記憶があります。
原田 高田さん自身も大学時代から環境問題に興味を持たれたというのは、そういう流れがあってのことだったのでしょうか?
高田 そうですね。行った大学の学部や学科は環境とは全然関係ないんですが、卒業論文も政治と環境を関連づけて書きました。さらに、やはり環境問題の最前線に行ってみたいという思いもあって、フジロックなどで環境活動をやっている環境NGOのスタッフとして入って、ゴミ処理問題の最前線も見てきました。
Tad 高田さん、今実際に2018年から社長になられて『株式会社エコシステム』のお仕事をし、経営されてみて、どんな実感がおありですか?
高田 非常に楽しく、やりがいのある仕事だと思っています。瓦って、日本の他の地域でもまだ埋められているところは多いんです。それを弊社ではほぼ全量をリサイクルしているわけですが、こういった会社は珍しいみたいです。中間処理業ってだいたい減容化、つまり小さくして次の最終処分に持っていくことが多いんですが、うちは全部売りさばいて全部リサイクルしてしまうので非常に珍しいとお褒めの言葉をいただいたりもして、大変やりがいはあります。

ゲストが選んだ今回の一曲

佐藤直紀

「倒仰」

「2011年、東日本大震災の直前に、右手の指を失うという大けがをしてしまいました。入院している時に取引先の社員さんが“頑張れよ、クヨクヨするなよ”とたくさん音楽をくれたんです。その中の一曲だったんですが、大河ドラマの『龍馬伝』で使われていた曲で、混沌とした中で新たな旅立ちがあり、そこからどんどん伸びていくぞというような、まさに明治維新を想起させます。当時、非常に落ち込んでいたのですが大変な勇気をいただいて、すごく好きになって、今でも聴いています」

トークを終えてAfter talk

Tad 今回はゲストに『株式会社エコシステム』代表取締役社長、高田 実さんをお迎えしましたが、いかがでしたか、原田さん。
原田 高田さん、すごく目がキラキラしているんです。イキイキとしていて、お仕事が楽しくてやりがいがあるとおっしゃっていましたが、表情からすごくそれが伝わってきました。こんなに身近な瓦が、家が壊された後にそうなっていたんだと知ることができて、すごく興味深かったです。また、意外と身近なものに変化していたことも知って、いろいろな発見がありましたね。Mitaniさんは、いかがでしたか。
Tad サステナビリティとか持続可能性の高い社会を実現する――これは時代のキーワードになっていますが、瓦のような自然に優しそうなものでも数千年も残ってしまうかもしれないんですよね。今まではただゴミを見えなくして誤魔化しているだけだったんだなと思うと同時に、地球に使う分だけお借りして、使った後はなるべく元の形に戻すというのが本当の意味での持続可能な社会なんだろうなと改めて感じました。瓦って実は、長年土に埋まっているだけというのは知りませんでした。
原田 リサイクルの仕方次第で、環境に対する負荷を減らすような働きまでしてくれるんですね。
Tad 日本だけじゃなくて、実は世界でも需要があるかもしれないですね。

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