後編

首都圏のエキスパートが副業で参画する、四十萬谷本舗の新たな働き方。

第37回放送

株式会社四十萬谷本舗 専務取締役

四十万谷 正和さん

Profile

しじまや・まさかず/1983年、東京都生まれ。幼稚園時に金沢へ。2002年、金沢大学附属高等学校卒業後、慶應義塾大学経済学部に進学。少林寺拳法にも打ち込む。2006年、『ハウス食品株式会社』入社。採用・労務・人事制度など、一貫して人事関連に携わる。2017年、『株式会社四十萬谷本舗』(創業は1875年。発酵食品の製造販売を手がける)入社。2019年、専務取締役に就任。

四十萬谷本舗Webサイト

インタビュー前編はこちら

Tad 今回のゲストは前回に引き続き、『株式会社四十萬谷本舗』専務取締役、四十万谷 正和さんです。現社長のお父様が5代目、そして正和さんで6代目になられるということですが、6代続く中でお客様のお漬物や、かぶら寿しに対するイメージ、考え方というのも変わってきているんでしょうか。
四十万谷 そうだと思います。世の中的に漬物の位置づけも結構変わってきています。昔は、やはり漬物でごはんをたくさん食べるというような、少しのお漬物でごはんをかきこむイメージがあったと思いますが、最近は、おかずもたくさんありますので、ごはんとおかずがある中に、さらに追加するものとしてお漬物がある。お漬物という観点で捉えているものが変わってきている気もしますね。
Tad 確かに言われてみるとそうですね。かきこむイメージがありましたよね。
原田 ちょっと味が濃い目で。
四十万谷 今もそういうものがありますが、いろんなバリエーションが出てきているという気もします。
Tad 味が少し薄くなったりとか。
四十万谷 そうですね、塩分が控えめな商品を増やしたりもしています。昔はかなりしっかりと発酵させた製品をお届けすることが多かったですが、最近は少し浅めの発酵であっさりと召し上がっていただけるものがお客様に求められている感じはしますね。
原田 確かに、漬物が苦手な方って、古漬けのようなすっぱい感じが苦手で、浅漬けなら食べられるというのは聞いたことがありますね。そういうニーズはあるのかもしれない。サラダ感覚のような。
四十万谷 そうですね。サラダ感覚で野菜を摂るための一品として、お漬物を召し上がる方が増えていますね。
原田 なるほど。
Tad 商品ラインナップという意味でもいろいろと変化しているとは思うんですが、『四十萬谷本舗』として、何かの変化を認識して打ち出しているような商品はありますか?
四十万谷 今回、コロナの件もあって、やはりお客様がご自宅で、しかも健康にいいものを召し上がりたいというニーズはすごく増えているなと思います。実際に通販で発酵食品をご購入いただく方もかなり増えている印象です。そのような中で発売した新製品が「生きている糀床」です。これはご自宅でお野菜を切って漬けていただくだけでおいしい糀のお漬物ができるという商品です。
自宅で簡単に糀のお漬物を作ることができる「生きている糀床」。
Tad 「糀床」というんですね。
原田 糠床というのもありますが、こちらは糀の床なんですね。
四十万谷 そうです。「生きている」と謳っているだけあって、麹菌や良い酵素をたくさん、生きた状態でお届けしますのでご自宅でお野菜を漬けて、健康にも良くておいしい糀のお漬物が楽しめるというものです。
原田 自分の好みの漬かり具合も試していただけますね。このぐらいでいいかなとか、もうちょっと漬けた方がいいかなとか。
Tad 「自分で作る」というニーズが高まっているんでしょうか?
四十万谷 ご自宅で食事をする機会が増えていますが、私の周りからは「3食の献立を考えるのが大変だ」という声をけっこう聞くんです。
原田 ええ、それはもう大変です。すごく頷いてしまいました。
四十万谷 特にお子さんがいらっしゃる方だと、朝ごはんが終わった瞬間に「お昼ごはんは何?」って言われるとか。
原田 言われます。下手すると晩ごはんまで訊かれます(笑)。
四十万谷 それがストレスだという声もいただいている中で、「生きている糀床」なら親子で簡単に作れますし、それが食卓の一品になり、健康的なお野菜の一品が加わるという意味で、結構楽しんでいただいていると思いますね。
原田 「作り方はこれでいいのかな」と悩む方もいらっしゃると思うんですが、漬け方もきちんと書いてあるんですね。
四十万谷 説明書に書いてありますし、最近は、糀床をお客様のお手元にお送りしてZoomを使ってオンラインで漬けこみ体験もやっています。本店にお越しいただいて、みんなで糀漬を作ったり、かぶら寿しを漬けるという体験メニューもあるのですが、このような状況になりましたので、ご自宅にあらかじめ糀漬のキットをお送りして、Zoomで繋がって、みんなで糀漬を作ろうと、そういったこともやっています。
オンラインで実施している「糀漬体験」の様子。Zoomを使って発酵や漬物の説明を聞きながら体験できる。
Tad 各ご家庭からご参加されるわけですね。
四十万谷 親子で参加される方もいます。
Tad いいですね。楽しそうですね。
原田 子連れでそういうところに行くと「子どもが騒いで迷惑かな」と思ってしまいがちなので、家にいながら参加できるのはすごくうれしいですね。
四十万谷 実際に参加者の方からそういった声を多くいただいてます。
Tad いざとなればミュートボタンを押せばいいですもんね。新しい形の体験講座ですよね。自宅に届いた糀床のキットを使って、お野菜は各自それぞれに用意して。
四十万谷 はい。一応事前におすすめのお野菜はこれですよとお伝えしているんですが、各ご家庭で「これを漬けてみたいな」というものをみなさん、準備されていますね。
Tad 「オンライン糀床漬物講座」ですよ。新しいですね。
四十万谷 「質問がある方はチャットに打ち込んでください」と言っておくと、声を出して質問はしづらいけど、チャットだと打ちやすいというようなこともあるようですね。
Tad コロナがあったからという部分はもちろんあったと思うんですが、苦肉の策というわけではなくて、このZoomというメディアをすごく活かしていらっしゃいますね。どういうふうにして着想が広がっていったんでしょうか。
四十万谷 元々対面でやっている講座がありましたので、そこで一回、オンラインでやってみようという声掛けをいただいたところもありますが、最近は、常にこれから先の世の中で当社が発酵食品を通じてお役に立つにはどうしたらいいんだろうというのを考えてやっています。それは私たちだけではなくて、実は外部の方の助けも借りながら一緒にチームを組んでやっています。だからその中で見えてきた部分もあるのかなと思いますね。
原田 外部の方というのは、どういう方々なんでしょうか?
四十万谷 実は今、首都圏、主に大企業で働いていらっしゃる方に、副業で『株式会社四十萬谷本舗』に関わっていただいておりまして、一緒に課題を解決したり、将来どうやってお客様のお役に立てるかを考えようというプロジェクトを走らせているんです。
Tad 大企業っていうと、例えばどんな会社にお勤めの方なんですか?
四十万谷 今、関わっていただいているのは、大手電機系メーカーの部長さん、あとは『P&G』で海外も含めてマーケティングをやっていたメンバーとか。一人は、私の先輩でもあり恩師のような方で、事業開発をやっている起業家。彼らとチームを組んでやっています。
Tad 思わぬ方向に話が向かっていますが、そもそも副業として、首都圏で働いている人を受け入れようという思いがあったんですか?
四十万谷 最初から思っていたわけではなくて、前職を含めていろいろな方と出会ってお話をする機会があったんですが、その中で、実は都市で働きながらも何か地域の役に立ちたい、地域のために力を尽くしたいという熱い想いを持っている方が一定数いらっしゃるなというのをすごく感じたんですよね。そのタイミングで、先輩から「実は都市の人と地域の人が共に価値を作っていくという新しい働き方を進めていこうと思うんだけど、一緒にやらないか」ということで、その会社と一緒に今、やっています。
Tad 電気系メーカーの方のようなテクノロジーに精通した方と、『P&G』で働いていらっしゃったようなマーケティングのプロ、テクノロジー×マーケティングですごく新しいものが生まれそうな予感がしますね。
四十万谷 そうですね。恥ずかしながら私自身にマーケティングの経験がなかったり、テクノロジーについてよくわかっていないところがあったりするので、そういう方々と一緒にできるというのは視野も広がるし、自分たちにはできないことができて、すごくいいですよね。
Tad 新しい体験づくりとか、新しい種類のお客様づくりみたいな、そういったテーマかなと思うんですが、自社の役割というのが中心軸なんですね。『四十萬谷本舗』が将来、どんな会社でありたいか、どんな存在でありたいか、というのが軸になっている。
四十万谷 『四十萬谷本舗』として将来、どうやってお客様や社会の役に立っていけるか、このプロジェクトを通じて私たちが感じているのは、実は都市と地域の在り方を少し変える可能性があるな、ということなんです。今回、関わってくれている方と話すと、意外とこのプロジェクトを通じて刺激を受けたとか、成長のきっかけになったという声をいただくんですね。
Tad 参加してくださる方から?
四十万谷 そうなんですよ。僕らとしては、自分たちで解決できなかった課題を解決できたり、自分たちが見えていないところがこの活動を通じて見えたりするんですが、彼らもすごくやりがいや意義を感じてくれています。実は都市にいる方が地域の役に立とうと思ったら、今までは実際に移住してその地域に住んで一緒に働かなければいけなったけれども、このやり方をすれば、いわゆる副業として都市にいながら地域の企業に関わったり、地域を良くすることに関われるというような、そんな流れができるんじゃないかなと思っています。
都市圏副業人材の方と打ち合わせをしている四十万谷さん。
Tad それも異分野で、ということでもありますもんね。新しい視点を『四十萬谷本舗』のみなさんも獲得されて、お手伝いをしていただいている方々も新しい視点を獲得されて帰っていくわけですね。
四十万谷 やっぱり、マーケティングのプロやテクノロジーのプロに正社員で来ていただくというのはなかなか難しいと思っていて、それだけの報酬がお支払いできなかったりとか、フルタイムで関わってもらえるだけの仕事がなかったりするんですが、そういう会社って地域に結構たくさんあると思うんです。でも、副業として関わってもらえれば、その力で良くなる地域の企業ってたくさんあるんじゃないかなと思うんです。ですから、これを大きく広げていくというよりは、まずは信頼をベースに志も実力もある方に来ていただいているので、これを数社で広げていって、それが将来的に金沢や石川と都市の関係をより良くして、どちらも活性化できるようなことに繋がったらいいなと思っています。
Tad そういったエキスパート、特にマーケティングやテクノロジーといったある分野に精通した方々が『四十萬谷本舗』に対してライフタイムコミットメントまでは期待はできないけれども、副業として参加していただいて、お互いに視点を借りあったり、新しいものを獲得して帰って行ったり、そういうものが会社や地域を変えていったりするということですよね。
四十万谷 その可能性があるんじゃないかなと思っています。
原田 そしてご縁が素晴らしいと言いますか、人と人との繋がりって大事なんだなと、お話を聞いていて思いました。
四十万谷 人柄や志もそうですし、実力ベースでも信頼できる方に来ていただけているというのがありがたいですね。それを汲んでくれているのが先輩の経営している『株式会社協働日本』という会社なんですが、ご縁の中で、ぜひ一緒にやろうというところから始まっています。

ゲストが選んだ今回の一曲

Jack Johnson

「Better Together」

「いつ聴いてもリラックスできる曲なんですが、歌詞も良くて、日々慌ただしく過ごしている中でも、本当に大事なものってなんだっけ、ということを思い出させてくれるような曲です。ちなみに海に遊びに行った帰り道にこの曲を聴けたら最高です」

トークを終えてAfter talk

Tad 今回はゲストに、前回に引き続き、『株式会社四十萬谷本舗』専務取締役、四十万谷 正和さんをお迎えしましたけれども、いかがでしたか、原田さん。
原田 以前は人事のお仕事を長くされていたというお話もありましたが、オンラインの体験にしても、『株式会社協働日本』のプロジェクトにしても、人と関わって人と人とを繋ぐような役割をなさっているんだなということを感じました。
Tad そうですね、まさか『株式会社四十萬谷本舗』に電機メーカーの方や、『P&G』出身のマーケターが関わっているなんて思わなかったですが、大都市で働いている分野のエキスパートが地域や地域企業の課題を共有する、一緒に解決することによってお互いに新しい視点を獲得すると、新しい商品やサービスに繋がっていく。これってコンサルティング会社に頼むのとも違うし異業種出身の人を社員として雇うのとも違いますよね。「副業である」ということも重要だと思いました。
前回は「老舗が一番、新しい」といったお話で締めくくったんですが、今回のお話を聞いても、伝統食に携わる『株式会社四十萬谷本舗』という老舗が一番、新しい働き方をしていることに驚きました。石川県内の経営者のみなさんにとっても参考になるお話だったんじゃないかと思います。

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