後編

日本茶のイメージを覆す新しい価値を創造。

第89回放送

株式会社丸八製茶場

代表取締役 丸谷 誠慶さん

Profile

まるや・まさちか/1978年、石川県加賀市生まれ。小松高等学校を卒業後、大阪大学基礎工学部に進学。2004年、大阪大学大学院を修了し、『富士通テン株式会社』(現『株式会社デンソーテン』)に入社、マイコンのソフトウェア開発に携わる。2008年、家業である『株式会社丸八製茶場』(創業は1863年。ほうじ茶を中心とした日本茶の製造・販売)に入社。2013年、代表取締役に就任。

Tad 今回のゲストは前回に引き続き、『株式会社丸八製茶場』代表取締役、丸谷 誠慶さんです。プロフィールに最初は『富士通テン株式会社』、現在の『株式会社デンソーテン』に入社されたとありますが、こちらは自動車部品を作る会社ですよね。工学系でいらっしゃったというのも驚きですが、さらに最初の就職先も、今のお仕事とかなりの距離がありますよね。
丸谷 そうですね。もともと理科系が好きで得意だったということもあり、そのまま理系で進学しましたので、就活は勉強もかねてやりたいことをやってみようかなと。
Tad 前回、車がお好きだったというお話がありましたね。そんな理由もあったんでしょうか?
丸谷 学生時代にガソリンスタンドでアルバイトするほど好きでした(笑)
原田 プロフィールにあった「マイコンのソフトウェア開発」というのは、具体的にどんなことをなさっていたのでしょうか?
丸谷 メインで取り組んでいたのはカーナビゲーションのバックライトの光量を調節することです。
Tad ちょっと意外なご経験ですね。
原田 理系でいらっしゃって何年かお仕事をして、『株式会社丸八製茶場』に入社されたわけですが、理系だったことやお仕事をされてきたことが今に活きていると感じることはありますか?
丸谷 お茶の業界というのは伝統的な産業ですので、ITなどにはあまり縁がない場面がたくさんありますが、個人的にはそのあたりのアレルギーがないので、弊社としてはデジタル化やペーパーレス化などに関しては積極的に取り組んでいるところです。
原田 ホームページもかわいくて素敵ですよね。
丸谷 ありがとうございます。
Tad 加賀棒茶のティーバッグのパッケージ(加賀いろはテトラシリーズ)もすごく素敵ですよね。
加賀いろはテトラシリーズ。一杯の湯のみで簡単に本物の茶のおいしさを味わえるティーバッグシリーズ。絵柄によって4種類の日本茶が楽しめる。
丸谷 私が会社に戻ってからスタートしたプロジェクトで、当時30代の女性社員を3人集めましてティーバッグの商品を作ろうというところから始まりました。お茶は仏事のイメージが強くて、実際に香典会社からの需要はすごく大きかったのですが、それだとやっぱり広がりがなくなってしまうので、あえて真逆の、例えば結婚式で配ることができるお茶にできないかなという発想です。
原田 ハレの日に、ということですね。
丸谷 そうです。そんな思いも含めてポップなデザインとして、九谷焼の「クタニシール」のプロジェクトのみなさんと作ったのがあの商品になります。
Tad そういうことだったんですね。いろいろなパッケージが新しくどんどん更新されていますよね。『株式会社丸八製茶場』のプロダクトをよく見るのが東山のお店(『一笑』/金沢市東山)なんですが、改装もされましたよね?
丸谷 3年前に喫茶と物販のスペースを全面リニューアルしました。
『一笑』の内観。町家を改装した店舗1階の喫茶では、ほうじ茶3種の香りをテイスティングし好みの1つを選んで味わうことができる。
原田 それは何かきっかけがあったんですか?
丸谷 東山のお店を出したのが24~25年前、父が立ち上げました。約20年経ったのと、北陸新幹線が開業したことで、東山に来るお客さまの数が相当変わって、以前のしつらいですとお客様をお招きする態勢にしっかりなっていないということが一番大きかったと思います。
原田 なるほど。喫茶のスペースが物販のスペースと一緒だったのを分けられたということでしょうか?
丸谷 そうですね。以前までは喫茶と物販が同じフロアにありまして、入口は一つでした。そうすると喫茶のお客さまが座っている中を物販のお客さまが通るとひっきりなしに人の動きがあって、喫茶を利用される方がゆっくりできなかったんです。北陸新幹線が開業してもそのままで、お客さまに対しても申し訳ないので、喫茶はあくまでゆっくりしていただきたいというのと、物販はもっと買いやすくできればいいなということで、喫茶と物販の入口を分けまして、当時社員の通路だった裏口を物販スペースにし、喫茶と物販を明確に分けたというのが今回のリニューアルになります。
Tad 店のしつらいもすごく素敵で、デザインされた良質な空間になっていますよね。2階も何か違うことをされているんですよね。
丸谷 はい。お店って何なのかということを考えたときに、地元や地域の方がどれだけ応援してくれるかというのはすごく大事だと思うんですよね。これは父が一生懸命、店を作った時も一緒だったはずなんですが、新幹線が開通してからは観光の方がほとんどになってしまって、地元の方向けということを忘れてしまっていたようなところがあります。一度、喫茶と物販をリニューアルした時もそこにすごく引っかかっていまして「ここだと地元の方が来にくい、何とか地元の方を呼べるスペースを作れないか」と思いリニューアルを進めていたんですが、その中で「お茶を飲んでもらうスペース」イコール、我々の発想だと「喫茶」というイメージしか当時はありませんでした。しかし、当時スタッフと話す中でひらめきみたいな形で「場所を貸す」という発想があるなと。東京だとコワーキングスペースが流行っているなと。それなら日本茶専門店・業界にコワーキングスペースを作ったらどうなるのか、ということで2階を思いきって場所貸しのスペースにしたんです。それが2階の『一笑+(プラス)』という空間です。
焙じ茶を飲みながら作業ができるコワーキングスペース『一笑+(プラス)』。ローデスクやソファなど好みに合わせて3部屋から選べる。
Tad ひがし茶屋街のなかということもありますし、その中でいつもと雰囲気を変えて仕事をしたり打合せしたりとか、そんなふうに使われているんでしょうか?
丸谷 そうです。2階は江戸時代の建物そのままの間取りだったので、畳の空間でお仕事や趣味に何時間か使っていただける場にしています。特に内装には手は付けていません。傍らにはドリンクスペースとして弊社の茶葉をいくつかと、急須や湯飲みなどの道具も一緒に置きまして、お客様自身で淹れていただいて、時間内であれば何杯でも飲んでいただいても結構というスタイルにしました。
Tad お茶は全種類を置いてあるんですか?
丸谷 3、4種類は置いてあります。
原田 3、4種類も!
Tad 私は前回の放送を経て、『株式会社丸八製茶場』のお茶の香りの違いなどをいろいろ感じたいので、そのためだけに借りますから(笑)
原田 そんな使い方されるんですか!?(笑)そんなサービスって他に聞いたことがないですね。
丸谷 あまり日本茶業界でコワーキングっていうのは聞かないので、これは自負ですけれど日本初・あるいは世界初だと、スタッフには言っています(笑)
Tad そこでお茶の違いを感じてもらったり、加賀棒茶っていいなと改めて地元の人にも思っていただける。そんなさりげない手法が『株式会社丸八製茶場』らしさなのかなと思います。
原田 本社のある動橋でも新たな取り組みをなさっているんですよね。
丸谷 もともと動橋の町内に私の祖父母の住んでいた家がありまして、そこに茶室があったんですが、なかなか使い道がなく、かなり老朽化してしまったんです。せっかくならそれを本社に移築して再利用できないかということでプロジェクトを進めまして、実際に茶室を解体したのですが、思いのほか劣化がひどく、復元するには高額な費用がかかってしまうということで復元はあきらめて、茶室の名前だけもらって一から新たな茶室を作りました。今、我々のメインはほうじ茶ですので、抹茶や煎茶ではなく、「ほうじ茶を楽しんでもらう茶室」というコンセプトのもと、作ったのが『双嶽軒』です。
『双嶽軒』では、献上加賀棒茶をはじめとする季節変わりの焙じ茶3種のフルコースが楽しめる。特別な作法はなくリラックスした空間で、ゆっくりと貸し切りのひとときを。
原田 お茶室の名前なんですか?
丸谷 はい。もとの茶室に丸い窓がありまして、そこから加賀市と小松市の間にある鞍掛山が見えたんですね。鞍掛山はふたこぶの山に見えるんですが、そこから「双嶽」という名前を付けたということですね。
Tad ほうじ茶を楽しむための茶室って、それこそ実は日本初、世界初なんじゃないですか?
丸谷 かもしれないですね!
Tad 先の3月に新商品の「焙茶noma(ノマ)」を発売されたということですが、これはどういったものですか?
年間を通して発売される「焙茶noma(ノマ)」シリーズ。パッケージや原料は春夏秋冬の季節の移ろいに合わせて変化する。
丸谷 我々はほうじ茶でいろいろな風味を表現できると思っています。だから年に4回、春夏秋冬に合わせたほうじ茶を提供できるんじゃないかと発想しました。茶業界って新茶が4月、5月くらいの時期になるんですが、これだけじゃなくて、ほうじ茶でも春夏秋冬で新しいものを作ることができるんじゃないかと、そんな思いを込めて作ったのが今回の商品です。この先、春に続いて夏秋冬と年に4回、この「焙茶noma(ノマ)」というシリーズを出していきたいと思っております。
Tad そもそも違った風味を出せるものなんでしょうか?
丸谷 はい。これがなかなか原料がピタッとすぐに手に入るものではないので、3年ほど前から製造のメンバーに月替わりのほうじ茶を出すという課題を出していたんです。そうすると毎月出さないといけないので、なにかしらの原料を見つけるんですよね。
Tad しかも違いを浮き彫りにしないといけませんよね。
丸谷 はい。そういった取り組みをする中で、季節に合ったものを探していけるんじゃないかなと思いまして、その取り組みもあって今、こうして商品化にこぎ着けられたように思います。
Tad 3月の第一弾はどのような香りになっているんですか?
Tad こちらは春に向けたほうじ茶ということで、お茶の品種の中で「クマリン」という成分を多く含むものがあるんですが、桜葉の香りがするんです。茶の木でありながら香りの強い品種でして、これをベースに作ったほうじ茶なので桜葉の香りを楽しんでいただけるものになっています。
Tad 春らしいですね。
原田 原料の旬ではなく、焙煎や作り方で旬を作っていくということなんですね。その時期にあった風味を作るということですか?
丸谷 そうです。
原田 なるほど、新しい発想ですよね。
Tad 「noma」というネーミングにはどういう意味が込められているんですか?
丸谷 お茶ってたしかに飲み物ではあるんですが、ただ単に喉の渇きを潤すためのものではないですよね。特に日本茶って昔から家族団欒の場所にありますし、例えばお客さんが来た時にお出しして、お客さんとの間を繋いだり、コミュニケーションのひとつのツールだったはずなんですよね。そういう意味合いをもう一度、お茶に取り戻したいなと思いまして、人と人、人と時間を繋ぐ、もちろん「茶の間」という言葉もあるように、何かと何かを繋ぐ位置づけの商品になればいいなということで、「~の間(~noma)」の語尾を取り、商品名にしました。
Tad 茶の間、人の間、季節の間、ということなんですね。コミュニケーションツールと言われると、たしかにそうだなと思いますね。

ゲストが選んだ今回の一曲

DREAMS COME TRUE

「何度でも」

「十数年前でしょうか、テレビ番組でこの曲をアコースティックで引き語るというのを見たことがありまして、そのバージョンがすごくかっこよくて、それからよく聴くようになりました。歌詞を読んでいくと、迷ったときにものすごく背中を押してもらえます。一万回失敗したっていい、一万一回目が来るかもしれないじゃないかと、そういったメッセージが非常に心に残ります」

トークを終えてAfter talk

Tad 今回は前回に引き続き、ゲストに『株式会社丸八製茶場』代表取締役社長、丸谷 誠慶さんをお迎えしましたけれども、いかがでしたか、原田さん。
原田 ほうじ茶の旬を作っちゃおうって、すごい発想だなと思いました。それが日本の茶葉作りにも何か変化が起きていくんじゃないかなと思ってすごく楽しみになりました。
Tad ティーバッグのシリーズを作るにあたっては結婚式の引き出物になるくらいのお茶を作ろうとか、ほうじ茶に旬を作ってしまおうだとか、加賀棒茶って、日本茶ってこういうイメージだよねというのをどんどんひっくり返して新しい価値を創造されていて、今回のお話もイノベーションと呼べるものばかりだったと思います。自社の提供している商品への可能性との向き合い方をちょっと学べたらいいな、と言いますか、自分も丸谷さんがほうじ茶に旬を作るかのような、そこになかった地理を形成することによる価値創造にチャレンジしてみたいなと、そんな刺激をいただきました。

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