後編

コロナ禍のニーズを形にした新商品開発。

第43回放送

桂記章株式会社 代表取締役社長

澤田 幸宏さん

Profile

さわだ・ゆきひろ/1965年、石川県金沢市生まれ。1983年、『桂記章株式会社』(創業は1948年。社章、学校章、メダル、バッジ、キーホルダーなどの企画、デザイン、製造)入社。製造や営業部で活躍後、21歳の時に岐阜の会社に出向して2年間修業。1988年、『桂記章株式会社』に戻り、2012年、三代目社長に就任。

桂記章株式会社Webサイト

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Tad 今回のゲストは前回に引き続き、『桂記章株式会社』代表取締役社長、澤田幸宏さんです。澤田さんの胸には、緑、赤、オレンジのバッジがありますね。こちらは桂記章さんの社章なんですね。
澤田 はい、会社のバッジですね。社章ですがなぜこのデザインなのかというと、緑は調和、赤が情熱、オレンジがアイデアを意味しています。これは会社の経営方針を具現化したものです。私がバッジをつけている皆さんに「バッジの意味を知っていますか?」と言うと、だいたい部長さんは「えっと…」と言う人が多いですが、本当はバッジというのは、会社の真意であり、方針であるわけです。ぜひバッジを付ける時はその意味も背負っていただきたいと思っております。
Tad 解説ありがとうございます。さて今回は『桂記章株式会社』の事業領域を教えていただけたらと思います。
澤田 大きく分けて三つの事業領域があります。一つは国の仕事。もう一つが表彰。もう一つがインバウンド向け。こういった商品の三本柱があります。国の仕事というのは例をあげると、防衛省・警察・消防を当社は得意としています。いわゆる警察官や自衛隊が付けているバッジとか、勲章などです。
Tad 階級章などですね?
澤田 そうです。階級章とか、部隊章とか、そういったものを作るのが私の担当ですね。消防ですと、操法大会のメダルですとか、いろんな消防における表彰、精勤賞だったり、そういった勲章類がたくさんあるので、国産のメーカーと言われると「桂記章だよね」とのことで仕事を頂戴しています。まして北陸でメーカーとしてやってるということが強みでもあって、金沢というステータスが高いですね。金沢というと、「ちゃんとモノを作る町だ」というイメージがあります。それが金沢の知名度・ブランドなので、金沢で作っているというブランドとコスト力、あとは製品力、これを合わせていくと私は無敵かなと思っております(笑)
Tad さすがですね。
澤田 二つ目の領域は表彰というもので、これは日本各地のスポーツ、文化における表彰品というものですね。例えば、スポーツではメダルですとか。東京マラソン、埼玉マラソンなどのメダルも作っています。金沢で作るというのが安心につながっているようです。もちろんコストもあるんですが、私がお客様に一番お伝えしていることは「安心」なんですね。『桂記章株式会社』で作る商品は間違いないと。そういう安心感から今でも当社に注文したいと言ってもらえるのだと思います。
最初に他社を贔屓にされることがあっても、私が「ともかく『桂記章株式会社』が安心ですよ」と言い続けますと、だんだんと当社の方に傾かれます。1年目は疑われていましたけど、2年目で「やっぱり『桂記章』だよね」と言われた時の「やっぱり」がね、すごくうれしいんです。
Tad 名実ともにトップブランドですよ。
原田 そうですね。金沢といえば工芸も盛んですし、そういう土壌があってここに任せれば安心だと。ダブルの安心感というか。
澤田 それはやはり金沢の先人たちが作ってくれた「工芸の力」というバックボーンがありますね。私も今、工芸の勉強をしているんですが、やはり金沢、石川のものというと、やっぱり「ものがいい」ということが関東の人には伝わってるのかなと思います。
Tad 三つ目の領域についてもお聞かせいただけますか?
澤田 三つ目はインバウンドですね。当社はもともと、前回お話ししたように観光の仕事をしていまして、北海道から沖縄まで、本当にいろんなお土産を作っているんですが、今の日本人は国内旅行をしなくなって、ハワイやグアム、韓国、ヨーロッパなど、海外旅行に行くようになっちゃいましたよね。しかし今度は日本に対してアジアやヨーロッパからお客様が興味をもって来日されます。招き猫なんて日本人は買わないけれど、外国の方は招き猫、好きなんですよね。
原田 そうなんですね!
澤田 浅草に行くと招き猫がすごく売れてますよね。招き猫とか扇子とか、一時期流行した鉄瓶とかも。外国の方は日本人が買わないようなものを買っていくんですよ。となると、当社が作るゴツゴツした金閣寺のキーホルダーなんかも売れ筋にまた上がってくるんですよね。
原田 なるほど。日本らしいとかそういうイメージで。
澤田 そうなんです。あとは「お守り」のようなもの。日本人はあまりお守りを買わなくなりましたが、インバウンドの方は「根付」みたいなものを買っていくんですよ。この小判なんかも中国の方に人気があるんです。
小判は中国人観光客からの人気が高い。
原田 輝いていますもんね。
澤田 キラキラした金色のものは、中国の方が好んで買って行きます。そういったインバウンドの訪日客の傾向からの商品開発を続けています。これも金沢、石川県というのがメリットで、手を伸ばせばすぐ金箔があって輪島塗があって山中塗があって、という環境なので、伝統工芸とのコラボ品を作って人気になったりもしています。ただ、今はコロナの影響でインバウンドが減っていますし、スポーツイベントも自粛になって、マラソン大会もどんどん中止になっています。ですが、打ち合わせしながら、今後のことを予測しながら企画しています。
Tad 確かにコロナの影響も受けておられるかと思いますが、でもそういう時代だからこそチャレンジされることというのも、やっぱりあるのではないでしょうか?
澤田 もちろん。当社は環境に合わせていくということが好きなんです。強いものが生き残るのではなくて、環境適応力のある会社が残るんだという考えです。このコロナの時代であるからこそ何が必要か? うちは何ができるか? そういったことを早々に考えていて、実際にいろいろ策を練りました。例えば「マルチタッチツール」という名称の商品を作りました。ドアノブとか、今、あまり触りたくないですよね。ハンカチで触ったりすることもあるかと思いますが、ハンカチの中ではコロナウイルスは生き続けるそうです。そこで、当社で何ができるんだということを考えました。当社は銅という材質を自由に扱える会社です。普通の会社ではなかなか銅という材質は手に入らないんですが、当社は非鉄の鉄工所なんですよ。非鉄というのは、鉄を扱わないんですね。
コロナ禍に何が必要で何が求められるかを考えて製品化した「マルチタッチツール」。
澤田 扱っているのは、主に銅と真鍮、あとは金銀プラチナですね。そういった鉄じゃないものをベースにバッジを作っているので、銅という材質が手に入る。コロナ禍に入ってから企画会議を行って、企画を10本立てて、今はこれが必要なんじゃないかというアイテムを10個作ってみた中の一つが、この「マルチタッチツール」なんです。
もとを言えばアメリカで同じような「ノータッチ」という商品があって、それは器具の穴に指を入れてドアに直接触れることなく引っ張ってドアを開けるものなんですが、この商品は大変素晴らしいのですが、安全じゃない。指を入れて扱った時に怪我をするのではないかとふと思ったんです。
原田 指が?
澤田 はい。そこで、ドアに触れないという点にももちろん気を付けましたけれども、その器具の持つところにもっと気を遣ったんですね。今、「非接触ツール」というものが、アマゾンや楽天にたくさん出品されていますが、だいたい指を穴に入れて使うものなんですよ。そうすると操作しやすいんですが、何かあった時に指に怪我をする恐れがあるし、もしかすると骨折だとかになりかねないので、当社は最初から指を入れないタイプで考えたんです。指を入れないで、いかに持ちやすいかというところをデザインしました。
Tad お借りしてもいいですか?
澤田 もちろん。指の部分の試作品をいろいろ作って、持ちやすさ、引っ張りやすさ、そういうところを考えました。実際、アメリカのものを真似している会社もありますが、当社は自分たちのデザインで、安全第一で。そこに「save your life」と書いてありますが、つまり「あなたの命を守りたい」、これが当社の商品コンセプトなんです。それで、もちろん非接触のこともあるんですが、持ち手のところも気を付けて、怪我をしないようにしたいと。これを(2020年)4月末にテスト販売したらすぐ売れまして、それから量産して5月には注文殺到でした。
原田 このツールでボタンを押したり、引き戸をガラガラ開けたり、ドアのハンドルも開けることができる。しかもこの銅という材質が大切なポイントなのですね。
澤田 そうなんです。銅の上ではウイルスが生き続けられないんですね。いろんな研究文献を拝見したり、試験場に行ったりして聞いたのですが、銅の上では銅イオンの影響で、ウイルスの細胞壁が破れるというのです。細胞壁が破れてしまうと細胞は生きていけないので、銅の上で30分は生きられないそうなんです。他社ではアクリルやアルミで作った商品もあるのですが、それらは非接触ではあっても結局ウイルスがそこで生き続けるので、ウイルスを携帯し続けることになります。当社の商品はまず安全性のために銅を使用しているのが特徴ですね。銅は鉄に比べて大変高いんですよ。しかし当社は銅を普段から使っているので、コストを抑えられて、デザインや操作性も考えて作っています。当社の商品は1980円で、同じような非接触ツールで500円の商品も300円の商品もあるんですが、やっぱり当社の商品を買ってくれたユーザーさんはそのあたりをよくわかっていらっしゃるんだと思います。
銅素材を使用して、持ち手の部分も工夫し、安全性を考慮した商品づくりを行った。
Tad なるほど。「マルチタッチツール」と言うんですね。
澤田 はい。この「マルチタッチツール」が今、人気ですが、これでボタンを押す時に女性の手だとボタンを押すのにはちょっと大きいんですね。
原田 ちょっと大きいですね。確かにね。
澤田 最初、初期版を売った時に女性の方から「大きいわ」という声をいくつかいただきまして、「小さくしてほしい」とのご要望がありました。そういう声を聞き入れて、単純に押すだけというものを作ってみたんですが、押すだけじゃつまらない。
それに、トイレの「サムターン」という鍵の回転式のつまみもずっと気になっていました。そこを触るのは自分でも嫌でしたし、直接触れずに回す機能をつけてほしいとのご要望がありまして、いろいろ考えてみました。最初はできないと思ったんですが、いろいろ絵を描きながら、最初は段ボールで切ってみて、トイレに行ってはめてみて、次は、当社の機械でアクリルを切る機械で作ってみて。そういうことを繰り返して、実際にトイレのサムターンを直接触れずに回せた時に、「やったーっ!」と喜びましたね。こうやって形状を取り、金属にして販売していくわけです。コロナがうまく終息してくれればいいんですが、また次の感染者増の波が来た時に需要が高まるのであれば、こういったもので少しでも社会の役に立ちたいなと思っております。

ゲストが選んだ今回の一曲

Kenny Loggins

「Danger Zone」

「映画『トップガン』のテーマ曲です。もともと飛行機の飛んでる姿を見るのが好きで、この映画を20歳ぐらいの時に見てすごく感激してしまって。飛行機がバトルするシーンなんて胸が熱くなってね。今でも仕事の時にこの曲を聴くと、テンションがぐっと上がります。今日はスタジオに自衛隊のメダルも持ってきたんですが、もう飛行機を好きすぎて、どうしても航空自衛隊に行って仕事をするんだと言って小松基地に行って中に入れてくれとしつこく言ったんです。それで本当に小松基地の仕事をさせていただきながら、今度は防衛省の仕事をしたいと思って、実際に実現しました。それから横田基地にももちろん足を運びました。米軍基地なのでハードルが高いんですよね。それでもどうしても行きたいんだと。言い続ければ必ず叶うんです。あきらめなければできる。どうしてもしたいと思えば、叶う。そうやって飛行機が好きすぎて叶えた話を、この曲とともにお伝えします」

トークを終えてAfter talk

Tad 今回は前回に引き続き、ゲストに『桂記章株式会社』代表取締役社長、澤田幸宏さんをお迎えしましたけれども、いかがでしたか、原田さん。
原田 コロナ対策グッズのお話もうかがいましたが、澤田さんからは、どんな時代であってもそれを必要としてくれるお客様のためにいいものを作るんだという、モノづくりの強い信念みたいなものを感じました。Mitaniさんはいかがでしたか。
Tad 僕も、エレベーターのボタンやドアのハンドル、コンビニの冷蔵庫のドアとかそういったものに触れずに操作できる「マルチタッチツール」のことが非常に印象的だったんですが、自社のことをバッジ屋さん、あるいはキーホルダー屋さん、メダル屋さんだと思っていたら到底出てこない製品企画だろうなと思いました。自社の強みというのは消費者の方が手にする金属製品の企画成形加工のすべての工程を持っていることで、その能力を使ってどんなことができるのか、人々のどんな思いを形にできるのかということを常にお考えになられているからできることなんだろうなと感じました。

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