後編

地元客が家族で楽しめる「みんなのバー」を開始。

第91回放送

オリエンタルブルーイング株式会社 代表取締役社長

田中 誠さん

Profile

たなか・まこと/1983年、石川県小松市生まれ。金沢大学附属高等学校を経て、慶應義塾大学理工学部卒業後、IBMで経営コンサルタントとして9年間勤務。業務改革を中心とした数々のプロジェクトに参画。31歳で金沢に戻り、結婚、退職。世界一周の旅に出る。旅先のスウェーデンでクラフトビールを学び、2016年、『オリエンタルブルーイング株式会社』(金沢市東町、ビール醸造および飲食店経営)を設立。

オリエンタルブルーイングWebサイト

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Tad 今回のゲストは前回に引き続き、『オリエンタルブルーイング株式会社』代表取締役社長、田中 誠さんです。田中さんのFacebookを見ましたら船の写真が出てきましたが、船を買ったそうですね。
田中 そうなんですよ。最近ちょっとご縁があって、知人が新しい船に買い替えるからということで、ありがたく格安で譲っていただきました。
Tad 釣りに行くそうですね。
田中 店長の一人が釣りが大好きでしょっちゅう行ってたんですが、冬の大雪で船が沈んでしまって、なくなったと言っていたところだったんです。そんな時に縁があって…、そういう縁ってちゃんと回ってくるんだなと思います。迷わず「ください」と言いまして、会社も船を一つ手に入れました。
社員と一緒に船釣りを楽しむ田中さん。
Tad 社員のみなさんと釣りに行って食材を手に入れて…
田中 つい先日もアカイカがたくさん釣れましたよ。
原田 そうですか。ビールとは違ういろんな展開もあるようですね。
Tad さて、『オリエンタルブルーイング株式会社』が提供されているのは、湯涌のゆずや能登塩、加賀棒茶、そういった地元の素材をうまく使った金沢らしいビールとのことなんですが、今度は醸造所を飛び出して、また新しいチャレンジをされているようですね。どんなことに取り組んでいらっしゃいますか?
田中 (2021年)7月19日に白山市に『イオンモール』がオープンします。その中で地元の飲食業を営む6社で新しく『株式会社フードホールSIX』という会社を作って、大きなフードホールを運営します。
Tad フードホールというと、フードコートとはちょっと違うんですか?
田中 ちょっとニュアンスが違うんです。フードコートというと、いわゆるたこ焼きとか、ちゃんぽんみたいな軽食がパッと食べられる場所をイメージされると思うんですが、フードホールというのは、例えばお酒を飲んだり、ちょっとしたお食事が提供されるような場所を想定しております。
原田 『イオンモール』のような大きなショッピングモールだと、全国展開してるようなチェーン店が入っていて、家族で行くようなイメージがありますね。
田中 そうですね。ナショナルブランドのお店ばかりだと画一的になってしまうからでしょうか。地元の名だたるお店とご一緒させていただく機会に恵まれ、新たにチャレンジの場をいただきました。
Tad 名だたるお店というのはどういうお店ですか?
田中 例えば、先頃、ミシュランの北陸版が新たに発表されましたが、『レスピラシオン』というスペイン料理のお店。ミシュランでは二つ星を獲得されました。そこが監修したパエリアと一緒にビールを出すとか、あとは和牛、能登牛とか、国内のいいお肉をたくさん扱っていらっしゃる『有牛(ありぎゅう)』というお店があるんですけれど、そこは鉄板焼を出されるので、そういうのと合わせてビールを一緒に提供させてもらいます。
原田 お店としては別々にあって、食べるコーナーとしては一括に広いスペースがあると考えてよろしいですか?
田中 6社でまず新しい会社を作って、ブースはいろいろ分かれているんですが、一つの会社が大きなレストランを経営する、そういうスタイルです。
Tad 名だたるレストランのシェフたちと共同経営している新しい会社があって、そこがフードホール全体をアレンジ、デザインされているという感じですね。
田中 そうです。
原田 新しいですね!
田中 そうなんですよ。会計も繋がっていますし、オーダーも個別に注文していただきますが、隣のレジの分もこっちで対応するというような頼み方ができたり、利便性も高いと思います。
Tad いわゆるショッピングモールのフードコートみたいなイメージとはやっぱり違うんですね。
田中 ちょっと違うと思います。まず、郊外型のイオンでお酒を出そうということ自体がちょっと新しいと思うんですね。みんなそれに合わせて料理も考えてくれて。夜まで楽しめるような、小腹を満たすというよりはそれを目的に出かけたくなるような、そういう場所を作ろうとしています。
Tad 金沢の名店揃いですね。ミシュランで星を獲得されているようなお店って、なかなかイオンの飲食店に出店するということも今まではあんまりなかったんじゃないかと思いますが?
田中 そうですよね。やっぱりコロナの影響もあって、今までは旅行客を相手に仕事をされていた部分が多かれ少なかれあったと思うんですが、もう一回、地元に目を向けるというか。コロナで強制的にそうなったところもあるんですが、やっぱり地元に目を向けることは大事だなと。イオンのお客様はほとんどが地元の方だと思うんですが、地元の方に向けてちゃんと価値を提供しようということも、一つのコンセプトになっています。
原田 ミシュランで星を獲るような、子連れだとちょっと行きづらいようなところでも、こういう形態だったら行きやすいし、その味をみんなで楽しめるのは嬉しいですね。
田中 あの場所であんなにおいしいものが食べられたら私も本当にハッピーで仕方ないですね。我々が提供するお店も「オリエンタルブルーイング」というブランドではなくて、「みんなのバー」という新しい屋号を作ったんですね。今までは地元の素材を使った観光客向けのビールだったんですが、今回はそうじゃなくて、お父さんがビールを飲んで、お母さんはノンアルコールで、子どもも一緒に乾杯できるような、そういう場所を作りたいということで「みんなのバー」という名前を付けました。
原田 ノンアルコールのメニューもあるんですか?
田中 はい。コロナの影響もあって、ノンアルコールメニューも一生懸命に開発したら、おいしいものができたんです。
Tad ノンアルコールのクラフトビールということですよね?
原田 あんまり聞いたことないですよね。
田中 作るのが難しいんですよ。ビールは発酵させるものなんですが、発酵と同時にアルコール度数が高くなっていっちゃうんですね。ノンアルコールにするにはそれを止めなきゃいけないんですが、これが難しいんです。
原田 絶妙なタイミングがあるんですか?
田中 そうなんです。ビールの発酵は麦を麦芽に変えて、酵素が働いてでんぷんを小さな糖に変えるんですね。それから煮出して、麦汁という麦のエキスを水に抽出します。麦汁は砂糖水みたいな甘い液体なんですけど、それを酵母が食べて分解する。分解が進むことで糖分が二酸化炭素とアルコールになって、炭酸とアルコールができあがるというのが発酵の過程なんですよね。
原田 なるほど、それを止めるというのは本当に難しそうですね。ビールとしてのおいしさも残っていながら、でもノンアルコールにすると。
田中 そうなんですよ。薄いビールになっちゃったり、アルコールができすぎちゃったりするんですよね。
Tad やっぱりそうやってご家族みんなで楽しめるビールやノンアルコールビールを含めた飲料づくりというのが、フードホールとかバーとか、地元の人たちとか家族向けとかというふうにターゲティングをし直しているということなんですよね。
田中 そうですね。やっぱり今までとは違ったお客さんに提供するということで、お店の名前から変えさせてもらいました。
原田 なるほど。やっぱりいろんな料理とも合うような飲料を作っていきたいだとか、そういう挑戦も出てきますよね。
田中 はい。おいしいものはたくさんあるので、ペアリングを考えるのは楽しいですね。その逆もあって、ミシュランで星を獲るお店がうちのビールに合わせてタパスを考えてくれたりもして、恐縮します。
原田 そうするとこれまで『オリエンタルブルーイング』だけではできなかったことが、何倍にもなってできるようになったということですね。
田中 そもそも車で行くことを前提にしたような立地ですし、自分たちだけだったらお店を出そうとは思わなかったんですけど、みんなで大きなチャレンジをしようということで会社を作って、新しいことが一つずつできそうだなという感触を得ています。
Tad 観光客向けに開かれた場所やお店って、地元の人からするとちょっとだけ距離を感じると言いますか…例えば近江町市場などはすっかり観光客向けの場所のようなイメージになりましたよね。地元の人も今は戻ってきているようですが、そういうことを考えると、ミシュランで星を獲るような飲食店が地元の人に対して価値を提供しようとなさるのは、大きな変化ですよね。
田中 そういったお店の方々や自分たちも、決して地元のことをないがしろにして観光客向けに、と考えていたわけではないんですが、やっぱり結果的にそうなりやすいんですよね。これまでのように一生懸命やると、観光の人ばかりが来て、お店が地元の人たちから離れて行く、というようなこともイオンという場では起こりにくいかなと思いますし、本当に新しいチャレンジだなと思います。
Tad 確かに東京の食通の方などは「このお店」と目がけて金沢に食べにくるくらいの人も結構いるみたいですから、地元の人向けに回帰していただけるのは、地元の人間としてはすごくありがたいなと思います。
原田 そうですね、しかも行きやすいし、駐車場の心配もしなくていいとなると。
田中 はい。ご家族でいらっしゃる前提で考えているので、気楽に来ていただきたいと思っています。
Tad ノンアルコールビールは何種類もあったりするんですか?
田中 まずは一つあって、もう一つ、ノンアルコールのレモンサワーも作っています。サワーって、ちょっとお酒が入ると苦みというか重さみたいなものを感じるんですね。我々も商品開発するうえでノンアルコールのレモンサワーと普通のレモンサワーを飲み比べてみたんですけど、重さというかビターな味わいが違うなと思っていまして。ビールの苦さ、ビターな部分ってホップから来ているんですけれども、ノンアルコールのレモンサワーにちょっとホップを隠し味に足してみて新しい商品を作りました。
原田 なるほど、苦みみたいなものを加えているんですね。
田中 そうすると飲みごたえが出てくるんです。我々にとっても面白い発見でした。
原田 今回、6人の侍たちによって新しいチャレンジが始まったわけですけども、今後もまたいろいろと展開されるご予定ですか?
田中 はい、遠くまで見据えて考えています。まずはイオンのお店を成功させないといけないんですけども、次の挑戦としては2年後には首都圏に進出しようと。その先はまだ僕の頭の中の妄想なんですけど、海外へ行きたいと。大きなフードホールをやろうと話しています。
原田 やっぱりせっかくなら首都圏のみなさんにもこの「石川の味」を知ってもらいたいというのもありますよね。
田中 そうですね。あとは各地のイオンにぜひ入れていただけたら…
原田 全国にありますからね。いろんなステージが用意されているというような気もします。
田中 食文化が豊かな金沢という場所からそういうスタイルを発信していけるのは面白いなと思っています。
Tad ぜひ先陣を切っていただきたいですよね。
原田 今までは来てもらう立場でしたが、今度は乗り込んでいくということですね。変わりますよね、ベクトルがね。
田中 次の展開としては、缶のビールも出してみたいと思っています。今は業務用の樽と、ギフト用の瓶ビールしかないんですけれども、クラフトビールというものをもっと日常的にもっと手軽に楽しんでいただきたいなと思うとやっぱり缶での提供が必須になってくるかなと思っています。
ギフト用の瓶ビール。次なる展開は缶ビールでの販売も目指している。
原田 缶の方が食卓で気軽に飲むビールとして浸透していきますよね。
田中 そうなんですよね。やっぱりちょっとは特別感があってほしいんですけど、普段から飲むようなものになっていってほしいなという気持ちもあるので、この形でも出していきたいなと思っています。
Tad 『オリエンタルブルーイング』のビールが日常の食卓に出てくる、石川県の人たちが日常遣いしているみたいな、そういうイメージができていくんですかね。
田中 そうですね、今はギフトショップというか、駅のおみやげ屋さんとか『香林坊大和』のお酒コーナーとか、そういうところでの取り扱いが中心なんですけど、普通のスーパーの普通の冷蔵庫に入ってるような感じもいいなと思っています。次の目標ですね。
Tad コロナで観光も形が変わってしまいましたし、消費の形も変わってしまった中で『オリエンタルブルーイング』のローカルな価値の提供というのが、ローカルの方々にも、県外の方々にも、そして海外の方々にも、とバランスが変化しているのが面白いと感じました。

ゲストが選んだ今回の一曲

ONE OK ROCK

「Change」

「冒頭に船を買ったという話をしましたが、その話を思い出したら、次は飛行機かなという夢が頭をよぎりました。この曲は『ホンダジェット』のCMに使われていた曲で、気に入っています」

トークを終えてAfter talk

Tad 今回は前回に引き続き、ゲストに『オリエンタルブルーイング株式会社』代表取締役社長、田中 誠さんをお迎えしましたけれども、いかがでしたか、原田さん。
原田 イオンのフードホールが楽しみですね。今度はあのお店であのビールを、って考えながらいろんな料理との組み合わせも楽しみたいですし、何度も通いたくなるなと思いました。Mitainさんは、いかがでしたか。
Tad コロナ禍を経て消費の形も変わってきていますが、地方においてはよりローカルに変化している中で、地元の人にしてみれば、逆にある種の非日常になってしまった、金沢を代表する有名レストランとか『オリエンタルブルーイング株式会社』のようなちょっと豊かな気持ちになれるクラフトビールとかが『フードホールSIX』という新しい形態になったり、『オリエンタルブルーイング株式会社』としてもノンアルコールのクラフトビールや手が届きやすくなる缶ビール商品を開発されたり…。これって我々石川県の人間にとっての日常と非日常の中間ではないかと思ったんですね。日常と非日常の間に次の消費や豊かな暮らし、より良い暮らしがあるのではないかと、大きなヒントをいただいたような気がします。

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