後編
「わたしじゃなくてもできる仕事」でママの働き方を変える。
第53回放送
株式会社ウフフ 代表取締役社長
志賀 嘉子さん
Profile
しが・よしこ/1983年、石川県珠洲市生まれ。ウエディングプランナーや出版社の編集長を経て、2015年、『株式会社ウフフ』を創業。「ママが子供に食べさせたいドーナツ」をコンセプトに、オリジナルドーナツを製造・販売する。一児の母。
ウフフドーナチュオフィシャルサイト
Tad | 今回のゲストは前回に引き続き、『株式会社ウフフ』代表取締役社長、志賀 嘉子さんです。ご経歴を改めてうかがいますと、ウエディングプランナーをされたり、出版社の編集長を経て、しかもご自身の妊娠中に起業もされているということですが、なぜ今ドーナツだったのかというところが気になります。 |
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原田 | もともとはウエディングプランナーを目指していらっしゃったということですね。きっかけがあったんでしょうか? |
志賀 | 能登出身の田舎の高校生が、就職や進学をしようと考えたときに、当時はホームページやインターネットもない時代だったので、どんな選択肢があるのかすらわからない状態でした。そこでいろんな学校の冊子を見ていて、ウエディングプランナーっていう仕事を初めて知り、こんなにキラキラした仕事があるんだと思ったことがきっかけです。 |
原田 | みんなの幸せのサポートをすると。そういう意味ではやりがいをもってお仕事をなさっていたわけですよね。それこそ志賀さんにぜひプランニングをお願いしますというご依頼も、あったんじゃないですか? |
志賀 | そうですね、そう言ってもらえるのはすごくうれしかったですね。わたしじゃなきゃだめな仕事というものを目指して、すごく頑張っていました。 |
Tad | 出版社で編集長をされていたということですが、どんなものを出版されていたんですか? |
志賀 | グルメ雑誌だったんですが、金沢から始まって、富山、新潟、長野、4県5都市で販売するまでに成長しました。 |
原田 | 前回の放送でも一日20時間くらい働かなければならないときもあったということでした。ハードワークで、しかも編集長はやっぱりオンリーワンのポジションですしね。そういう意味ではやりがいを感じるお仕事でしたか? |
志賀 | はい、自分じゃなきゃだめということに、当時はすごくこだわっていました。 |
Tad | なぜ、おなかに赤ちゃんがいるときに会社を立ち上げようと思われたんでしょう? |
志賀 | 会社を立ち上げたきっかけは、出版社の編集長をしていた時に起きた出来事です。会社は順調に大きくなっていたんですが、給料の未払いということがありまして、突然会社を全員クビになるというような事態になりました。当時、とても仕事ができる人たちと一緒に働いていたので、すごく楽しくて、やりがいをもっていたんですが、どんなに頑張っていても自分が会社のトップじゃないと、やっぱり大切なものは守れないということに気づいたんです。クビになると好きな仕事を続けることもできないうえに、お客様とも仕事ができないし、スタッフと一緒に仕事を続けることもできないということを実感したときに、「もう、雇われないぞ」と思って。そのときに初めて起業ということを考えました。 |
Tad | 「起業を目指して起業しました」という人もすごく多い中で、そういうご経歴だったとは、全然存じ上げませんでした。なぜドーナツを? |
志賀 | 自分じゃなくてもできる仕事をしたいなと思ったんです。今までは、「わたしじゃないとできない」ということに、ものすごくこだわっていたんですが、やっぱりキャパシティというものもあるし、わたしが幸せにできる人数ってすごく限られていると思うんですよね。かたや、わたしではなくてもできる仕事を立ち上げることで、よりたくさんの人を幸せにできる、喜んでもらえるという、そんな事業を目指して仕組みを作ることで誰でも同じクオリティで仕事ができる働き方に転換したいと思いました。その中で、せっかくママさんたちが集まるのだから子供達のためになるものを作ろうと思いドーナツにたどり着いたのです。 |
Tad | 県内の社長さんに今の言葉をしっかりと聞いていただきたいです。金沢で起業されて、いま「ウフフドーナチュ」というドーナツ屋さんも一日6時間限定の営業ですし、土日祝日はお休みということで、一昔前では考えられなかったスタイルですよね。 |
志賀 | そうですね、起業するときに考えたのが、ちょうど妊娠していたということもあったので、やっぱり土日は子どもと一緒に過ごしたいよねとか、子どもが帰ってくる頃には家にいたいよねとか。バリバリ働いていた時には自分が親になったらどうしたいということを考えたこともなかったんですが、やっぱり私も子供と過ごしたい。そんな気持ちになりました。ウエディングプランナーにしても出版社の編集長にしても、女性の多い職場で働いていたのですが、すごい激務だったので、出産してまた職場に戻ってくる人はほとんどいませんでした。当時一緒に働いていたバリキャリ系のお友達も、出産を機に会社を辞めて、子育てがひと段落して次の仕事を探す頃には、2、3年ブランクが空いてしまっていて、自分は必要とされていないんじゃないだろうかと、自分のことを過小評価しちゃうんですよね。すごくもったいないなって思いますし、あとは働く時間の制限によって、やりたい仕事を選べないというケースもすごくたくさん見てきました。今までのキャリアも全然活かせてないような、そういう仕事に就いている人がすごく多いのが、見ていて悔しいというか…。それで経験が活かせるような、そんな職場を作りたいと思ったんです。 |
原田 | すごく勇気づけられます。もともとバリバリだった方で、いまお仕事をお休みされている方で、このお話を聞くだけでも勇気づけられる方も多いんじゃないでしょうか。そういう職場が増えていけば、多くの方がまた輝ける場所を得ることができるわけですよね。 |
Tad | 従業員の方が15人いらっしゃるということですが、前回も女性が多いとうかがいました。やはりバックグラウンドとしてはいろんなご経歴を歩まれた方が出産を機に、といった形で転職をされてこられる方もやはり多いんでしょうか? |
志賀 | そうですね、そういう方もすごく多いです。パティシエさん、元役員秘書、栄養士さん、教員免許を持ってる人、有名百貨店のフロアマネージャー、ウエディングプランナー、証券マン…みなさん、華やかな経歴で、面接していてもすごくおもしろいんです。 |
原田 | アイデアや持っているものって、みんなそれぞれですし、お店の展開を考えるときも楽しいんじゃないでしょうか。 |
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志賀 | ちょうど新型コロナウイルス感染症の拡大の影響があって、うちの会社でも人手がちょっと余っちゃったんです。そのときに「なんかやろうよ、スタッフを休ませるんじゃなくて、せっかくみんないるんだから新しいことをやろうよ」ということで、「ウフフ食堂」というものをやらせていただきました。 |
Tad | 「ウフフ食堂」? |
志賀 | カフェやコミュニティスペースがある『1の1 NONOICHI』のシェアキッチンで週に一回食堂をやらせていただいたんです。最初はデザートを出さないかと言われたんですが、「いやいや、なんか新しいおもしろいことをしようよ」とスタッフを集めて、スタッフにやりたいことを聞いたところ「食堂をやってみたい」と。みんなの「やりたい」をちょっとずつ形にして、2週間くらいでお店を出しちゃいました。わたしはお金を出すだけと言ったら失礼ですが、食器や石川県産を中心とした食材を揃えて、完璧な場所を準備して、あとはメニューから何から全部、スタッフが考えてくれました。スタッフの力あってこそできたことなんですが、みんなすごいなあって思って、他人事のように見ていました。 |
Tad | 経営者ってどこか他人事みたいに捉えていかないといけないところもありますよね。 |
原田 | Mitaniさんもそうですか? |
Tad | 僕はただのTad Mitaniです。 |
原田 | そうでしたね(笑) |
Tad | ええ。 |
志賀 | 貫きますね(笑) |
原田 | スタッフに支えられていると感じることは多いですか? |
志賀 |
めちゃくちゃ感じます。最初の3年間がすごく苦しかったっていう話を前回させていただきましたが、その時にわたしの母親に「もう本当に辛いからやめたい」っていう話をしたときがあったんです。でも、スタッフにだけは、やめたいとは言えなかった。スタッフの存在があるからこそ、この事業を何とか続けていかなきゃいけないっていう思いがすごくあったので、その部分では逆に支えられたって思います。 わたしは経験がないなか手探りでやってきましたが、パティシエさんも何人かいらっしゃるので、入ってくるたびに、彼女たちの経験値を活かしながら新しい商品がどんどんできていきます。例えばおもしろい商品ができたらインスタにあげると、すぐ注文が入っちゃう。そんな感じでどんどん商品化せざるを得ないみたいな感じで商品が増えていくんです。そんなふうにみんなの能力に頼って、意見もいろいろ聞きながらやらせてもらっています。 |
Tad | インスタに載ってるのは、新商品だけじゃなくて試作品みたいなものも載せていらっしゃいますよね。 |
志賀 | そうです。またかわいいのを作ってしまった…と、そんな感じで載せたりして。 |
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Tad | 「またかわいいものを作ってしまった」とインスタにアップロードしたら、注文が入って、商品になっちゃう。 |
志賀 | そうです。それも個人のお客さんとかじゃなくて、ちゃんとした会社さんから「欲しい」と言われることもあります。 |
Tad | そりゃあ150種類まで増えますよね。 |
原田 | そうですよね。「オリジナルも作ってほしいわ」という声もあるんじゃないでしょうか? |
志賀 | 依頼を受けてオリジナル商品も作っています。例えば結婚式でオリジナルドーナツを作らせていただいたり。 |
原田 | お子さんの内祝いにもいいんじゃないですか?お名前が入っていたり…そんな希望にも応えてくださるんでしょうか? |
志賀 | そうなんです。それもスタッフに任せたら、コウノトリが赤ちゃんを連れてきたデザインのドーナツを仕上げてくれて。すごくかわいいんですよ。 |
原田 | 聞いただけで、すでにかわいいです。 |
志賀 | インスタにあげたら、全国から発注いただいて。 |
Tad | かつてはバリキャリだったけど、出産を機に生活と仕事のバランスを見直されてという方も社員の中にたくさんいらっしゃるということでしょうか。 |
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志賀 | そうですね。たくさんいます。子育てをしながら、どういうバランスで働けばいいかと悩みながら働いているスタッフもいるので、話を聞きながら、その人のペースに合わせて、仕事を振ったりします。 |
Tad | そういう方が、たくさん応募されているというのは、志賀さん自身が妊娠中に起業されて、そのときの思いをすごく大事にされているからなのかなと思うんですよね。 |
志賀 | ありがとうございます。わたしたちの会社が成長することで、たくさんの人が一緒に働きたいと言ってくださるのはもちろんうれしいんですが、わたしが雇う人数にも限りがありますので、そんなわたしたちの存在を知って、励みにしてくださる方が、「自分もできる」とか、「子育てしながらでもこんなこともできるんだ」というふうに刺激をもらってくれたら、すごく素敵だなと思っています。 |
原田 | その展開の一歩となるようなことが、2月にママのハンドメイドブランド「グッチュ」を立ち上げられたとか。 |
志賀 | そうなんです。全国のママさんの作品を「グッチュ」というブランドにして販売をスタートしたのですが、先ほどお話した全国のママさんと一緒に仕事をするための働き方の一つということでもあります。起業にあたって何が必要ですかって相談されることもすごく多くて、わたしはリブランドを経験しているのでブランディングを大切にすることや、情報発信することがすごく大事だと伝えはするんですが、起業してすぐの方に「ブランディングをしてください」と言ってもお金もかかりますし、なかなかハードルが高いと思うんです。なので、ママさん作家さんたちの作品を集めてひとつのブランドを作ることによって商品の価値を高めることで、一人でも多くのママさんが自分の好きなことを仕事にできるお手伝いができたらすごく素敵だなと思って、その第一歩としてまずスタートさせていただきました。 |
Tad | 『紀ノ國屋』にもうちょっと高い値段にしたほうがいいと言われたとお聞きしました。すごくうれしかったんじゃないですか? |
志賀 | そうですね。実際に紀ノ國屋さんの売り場で自分が思う以上の値段をつけて販売してくださったのを見て、最初はすごくどきどきしました。事業をスタートしたときは、ドーナツがコンビニに入り始めたタイミングだったので、営業に行くと「ドーナツって100円だよね」と言われて、もう値段を決められたような状況で… |
Tad | たしかにそういう時期でしたね。 |
志賀 | そうなんです。でも、いまは安いものでも190円台くらいと、当時の倍くらいの価格で手にとっていただけるブランドに成長できたことも、やはり『紀ノ國屋』の存在あってこそなので、そういうブランド価値を上げる体験をみなさんにもしてもらえると、その分の利益で事業にできる人もきっといると思うので、好きなことを趣味に留めず仕事にできる女性が増えたら素敵だなと思っています。 |
Tad | 「グッチュ」には、志賀さんがいいなと思うクラフト製品とかハンドメイドのアクセサリーを登録するんですか? |
志賀 | 最初は勝手ながら選抜させていただきました。子どものグッズなのでママさんたちが子どものために作っているものにこだわって選ばせてもらいました。 |
Tad | そこにたくさんの人が集まってくるような未来が見える気がしますね。 |
ゲストが選んだ今回の一曲
Mr.Children
「365日」
「ウエディングプランナー時代、かなり勢いのある上場企業で働かせていただいて、全国の社員が集まるような総会でよく流れていたのがこの曲でした。その会社の経営理念『人の心を、人生を豊かにする』は、今でもすごく大好きな言葉で、お客様に対する考え方の柱になっています。この言葉のおかげで、全国のお客様の大切なシーンに使っていただけるようなブランドに成長しているんじゃないかなと思うので、この曲を選びました」
トークを終えてAfter talk
Tad | 今回はゲストに、前回に引き続き『株式会社ウフフ』代表取締役社長、志賀 嘉子さんをお迎えしましたが、いかがでしたか、原田さん。 |
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原田 | わたしもかつて子育てと仕事のバランスで悩んだ経験があったので、今回はすごく元気をもらったというか、今度は『株式会社ウフフ』のような職場がもっと増えていけば、男女問わず、もっといろんな人が活躍できるのになと思いました。 |
Tad | 志賀さんは、すごく共感力の高い方なのではないかなと思います。1日20時間労働みたいな激務の時代を経て、「わたしじゃなくてもできる仕事」に向いていかれました。ライフステージの変化で価値観そのものが変わったわけですよね。そしていろんなバックグラウンドを持っている人たちが志賀さんのもとに集まってきているから新しいアイデアをどんどん作っていける。苦しい時期があって、ブランディングの仕方を変えたり、商品の価値づけをし直したりして事業も会社もよくなっていったことも、ほかの日本全国のママさんたちにも同じように味わってもらえるような、そういう施策をいま、行っていらっしゃいますよね。そんな志賀さんの考え方や社長としての在り方自体にも、共感してくれる人がたくさん、これからも集まってくるんじゃないかなと思います。すごい社長だと思います。 |