前編

大工から始まった建築施工の職人集団。

第96回放送

株式会社長坂組 代表取締役社長

長坂 慎太郎さん

Profile

ながさか・しんたろう/1974年、石川県金沢市生まれ。1990年、金沢市立工業高等学校建築科に入学。1995年、『みづほ工業株式会社』(金沢市)に入社、1998年、『株式会社長坂組』(1947年創立。建築工事請負、専門職種として型枠大工業を手がける)に入社。2019年、代表取締役就任。

株式会社長坂組Webサイト

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Tad 今回のゲストは『株式会社長坂組』代表取締役社長、長坂 慎太郎さんです。『株式会社長坂組』は、どういうお仕事をされているのでしょうか?
長坂 地上に建つものなら何でもですが、民間の仕事もあれば、住宅やアパート、店舗、老人ホームなどもあります。最近の公共工事ですと国立工芸館の一部、旧陸軍第九師団司令部庁舎の改修工事をさせていただきました。
国立工芸館。旧陸軍第九師団司令部庁舎の解体移築に長坂組が携わった。
Tad 木造だったりコンクリートだったり、両方ともされているんですか?
長坂 木造、鉄筋コンクリート、鉄骨工事、何でもできます。
Tad 地上に建つものなら何でもということですね。聞くところによると、この北陸放送の社屋も…?
長坂 当時、当社は型枠の専門として参加していると思いますが、そのように聞いております。
原田 コンクリートの柱みたいなものの型枠を担当されているということですか?
Tad そういうことですよね。『株式会社長坂組』がなかったら北陸放送は建っていないかもしれませんね(笑)。会社は1947年設立ということですが、どういう歴史を辿ってこられたのでしょうか?
長坂 私の先々代が創業していますが、当時は木造の大工で棟梁をしていたんです。戦後、金沢に戻ってきてからも、金沢で大工を営んでいたんですが、昭和30年代に入るとインフラ整備が加速してきて、その頃にお付き合いしていた大手のゼネコンさんから型枠大工にならないかというお誘いを受けて、それから一般の大工から型枠大工に業種転換して。
Tad 型枠大工というと、どういうお仕事なのでしょうか?
長坂 コンクリートを流し込む型を設置していく仕事です。鉄筋が建って、柱であれば柱の外側の形になるようにパネルの枠を当てていって固めていきます。
原田 枠というのは、素材としてはどういうものですか?
長坂 枠は一般的にはベニヤ板ですね。今、金属の型もあるし、私たちはよく樹脂型枠も使っています。ベニヤだと3回、4回転用すると壊れていくんですね。でも樹脂型枠だと繰り返し使えるので、環境的な負荷も抑えられるということで導入しています。
原田 見る機会はないですよね。
Tad 建物が建った後にはもう枠はないですよね。コンクリートが固まったらその型枠を外して完成に近づいていくということですよね。
原田 それ無くしては建たないですもんね、コンクリートの柱ができないですから。
Tad そうですよね。柱の大きさや形とか、柱だけじゃなくて壁、天井材だとかいろいろあると思うんですが、形に合わせていろいろな素材を組み合わせて型枠を作るのでしょうか?
長坂 そうですね。壁がずーっと続いてるようなところは樹脂型枠を使って、階段が出ていたり、柱との繋がりが細かいところはベニヤを工場で加工して、現場に搬入します。
Tad 型枠はどんな形でもご対応いただけるんですね?
長坂 はい。あまりにも細かいものは難しいですが。
原田 型枠をメインでされたのは、先々代の頃ですか?
長坂 そうですね。昭和30年代、40年代と型枠メインの仕事が続いて、昭和40年代後半から50年代ぐらいには落ち着きまして。その頃に自分の親である先代が、それだけでは仕事もだんだん下火になっていくということで、新たに建設事業を始めたんです。始めた当初は、やはり型枠の方が稼業として多かったんですが、今は建設の方が比重は大きくなっていますね。
Tad 建築工事はどんな建物でも請け負うことができるんですね。
長坂 そうですね。鉄筋コンクリート製の犬小屋を作ったこともあります(笑)。とある新築工事があって、鉄筋コンクリートのお家だったのですが、お客様が「庭先にも自分のペット用の家を作りたいんだ」と打ち合わせの時からずっとおっしゃられていて。実は冗談だと思ってたんですよ。でも、住宅が完成間際になって「あれ、ペットの家はいつ作るんだ?」とおっしゃられて。
原田 ミニチュアサイズの家みたいなものを作るということですよね?
長坂 はい、三角形の可愛いお家でした。
Tad 犬も近代的な生活でいいですね。
原田 地震が来ても安心ですね(笑)。
Tad 先ほど国立工芸館をご担当されたとのことでしたが、これまで他にどういうお仕事がありましたか?
長坂 民間で金沢市内の仕事ですと、橋場町にある『HATCHi』というホテルです。もともとこちらは『仏壇センター』という古い建物だったのですが、それを改修させていただきました。
Tad 前を通るとそれこそコンクリートが印象的な建物という感じがしますね。
金沢市橋場町にあるホテル『HATCHi』。古いビルをリノベーションした。
原田 こちらの建物はもともと、『HATCHi』とは違う構造なんですよね。
長坂 そうですね。昭和30年代か40年代くらいの建物ですが、もう図面も残っていなかったので、建物の中の鉄筋がどういう形で入っているかがまったく分からなかったのですが、下調べの段階からお付き合いさせていただきました。用途変更をして耐震補強もした建物というのは金沢市としても初めてだったはずです。東京から構造計算の担当者が来たり、すごく大変な仕事だなと思いながらもなんとか無事に手掛けることができました。
原田 構造計算って何ですか?
長坂 建物の強度が十分かどうか、安全性を検討・確認するための計算です。この建物は図面がないのでどれだけ持つのかがまったく分からなかったんです。そこで、壁の一部をくり抜いて、鉄筋が本当に入っているかどうかを調べたりして、それから図面をまた起こして構造計算で実証した上で工事が進みました。
原田 古い建物の改修って、けっこう大変な作業なんじゃないですか?
長坂 そうですね。住宅だったものを住宅にリノベーションするだけだったらまだいいんですが、今みたいに用途変更を行うとなると、けっこう大変なことになって。
Tad 中に入ってくるものの重量も変わってくるし、構造計算も本当に強度が出せるのか保証しないといけないんですね。これからも建物の用途変更を伴うリノベーションっていうのはすごく増えそうな感じがありますよね。
長坂 そうですね。この何年間かを見ていると、新築工事もありますが、リノベーションのような改修工事の系統のものがすごく増えてきているなと思いますね。
原田 特に金沢なんて古い建物がたくさんあって、町全体として、それを守りつつ変えながら、という方向ですよね。
Tad それこそ国立工芸館もそのようになされたわけですが、金沢の街並みを急に変えていくということではなくて、今の街並みの雰囲気を残していくということですね。
長坂 そっちの方がやっぱり金沢らしさを作っていくような感じがして、私もいいかなとは思うんです。ただ、簡単に「いいな」とは言えるんですが、作る側としてはけっこう大変な仕事で。新築で作っていく方が本当は楽なんですよね(笑)。
原田 でも大変な仕事を成し遂げたときの満足感は大きいんじゃないですか?
長坂 そうですね。工事をまとめる監督さん、大工さん、左官屋さん、電気屋さん、いろんな職種で関わる方々がいて、みんな好きで仕事をしていますから、難しい仕事をした後に感じる達成感は、全員、大きく感じていらっしゃると思います。
Tad 達成感を感じる瞬間っていうのは、やっぱり完成の瞬間なんですか?
長坂 私は足場がなくなった瞬間が一番好きですね。もちろん、完成してお客さまにお使いいただけることが一番いいのですが、内心は足場がなくなった時が何となく区切りになってワクワクします。「もう一息だ!」って。
原田 長坂さんは他にも今、いろいろとお仕事をなさっていて、大手町の洋館を手掛けていらっしゃるそうですね。
長坂 昭和8年か9年くらいの建物で、建てた人が金大医学部を作ったお一人らしいんです。山田さんというカイゼル髭の方で、その縁者の方がずっと住まわれていたのですが、売りに出たんです。それでマンションに建て替えられる運命が目前に迫っていたのですが、やっぱり残したいという声もあり。誰かこの建物の歴史を継ぐ人はいないかということになり、たまたま僕のお客様に「こういうの、いかがですか?」と話をしたら、二つ返事で「わかった、買ってくる」という方がいらっしゃいまして。
原田 マンションになることは、ほとんど決まっていたんですか?
長坂 その方が買わなかったら、今頃マンションが建っていると思います。
Tad 白鳥路を兼六園の方から出た突き当りのところですよね。
長坂 そうですね。
原田 そういえば足場が組まれていましたよね。「あれ、そういえばここ、何だったっけ?」って思ってました。
長坂 先頃、やっと足場が解体されてまして。
金沢市大手町の洋館(長坂組による外装改修後の写真)。往時の姿が蘇った。
Tad 今一番ワクワクされているんじゃないですか(笑)。
長坂 そうですね。写真撮りながらニコニコしてました(笑)。
Tad もとの洋館の姿を残しながら中をリノベーションなさったんですか?
長坂 そうですね、今はとりあえず外部だけを直して、内部に関しては用途をどのようにするかがこれからの議題なのですが。まず、残っただけでも十分かなと。
Tad かつての素敵な建物がもとの姿を留めながらまた違った形で活かされていくというのは、本当に金沢の街を守っているようなお仕事ですよね。

ゲストが選んだ今回の一曲

Ace of Base

「The Sign」

「高校生の頃、MTVが流行っていてたまたま見たのがこの曲で、すごく印象に残りました。社会人になって残業していた時なんかも図面を書きながら聴いたり、ドライブの時もこの曲をかけたりしていて、今も変わらず好きな曲ですね。iPhoneの中にアルバムも入れています」

トークを終えてAfter talk

Tad 今回はゲストに『株式会社長坂組』代表取締役社長、長坂 慎太郎さんをお迎えしましたけれども、いかがでしたか、原田さん。
原田 コンクリートの建物を何気なく見ていましたが、壁や柱を作るときに型枠を作ってそこに流し込んで作るっていうのを初めて知りました。すごく大きな建物もあるじゃないですか。あれはどういうふうに型枠を作っているんだろうとか、いろいろなことに興味が湧きました。Mitaniさんは、いかがでしたか。
Tad 建築現場の足場が取り除かれたときにもっとも高揚するとおっしゃっていたのが、やっぱり建築のお仕事がお好きなんだなとすごく印象的でしたね。会社の歴史を振り返っても、木造の大工からコンクリート造りの構造物、建築物が増える時代に型枠の事業に挑戦されて、さらに今では総合建築の事業も確立されていらっしゃいます。時代に合わせて会社としても変化されてきたということですが、実は長坂社長も新しい変化を作り出そうとしているとうかがっておりますので、次回はそのことについてもぜひ聞いてみたいと思います。

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