後編

甘酒をはじめ発酵食の魅力を再定義し需要を創造。

第59回放送

株式会社ヤマト醤油味噌 営業部長

山本 耕平さん

Profile

やまもと・こうへい/1985年、石川県金沢市生まれ。2003年、石川県立金沢泉丘高等学校を卒業、神戸大学経営学部に進学。2008年、大学卒業後、『富永貿易株式会社』に入社。小売店向けの販売やセールスなどを担当。2010年、『株式会社ヤマト醬油味噌』(創業は1911年。金沢市大野町。醬油、味噌、だしなどの調味料、また甘酒の製造と販売など)に入社。2020年よりWeb小売店部門の営業部長として新商品のマーケティング、デザイン、輸出などの業務も兼任。

ヤマト醤油味噌Webサイト

Tad 今回のゲストは前回に引き続き、『株式会社ヤマト醤油味噌』営業部長、山本 耕平さんです。山本さんは武道がお好きだそうですね。
山本 はい。極真空手です。
Tad 山本さんは筋肉がムキムキなんですよ。
原田 そんな感じには見受けられないんですが…。
Tad 意外と筋肉がありますよね。
山本 学生時代から好きで、高校から剣道を始めて、大学からカヌー部に入って、ひたすら懸垂ばかりして、背中がたくましくなったタイミングで古武術を始めました。
原田 古武術?
山本 護身術を含めていろいろ経験させていただきました。金沢に帰ってからは空手を10年くらい続けて、最近になって極真空手の試合にも出場したりしています。周りはバリバリの高校生の現役で、三十代を迎えたわたしがバシバシやるんですが、やっぱり今までできなかった動きができるようになった時とか、極限の緊張状態のなかで動けるようになった時に「進歩したな」「ささやかな前進をしたな」と感じます。その感覚が企業経営ともつながります。体を動かすと調子もよくなりますが、結局、好きでやっています。
Tad ご経歴を改めてうかがいますと、最初は貿易会社に勤めていらっしゃって、後に家業でもある『ヤマト醤油味噌』に入社されたということですが、家業に戻られることはご自身にとって自然な選択だったんですか?
山本 当時は自然な選択でした。家族がみんな頑張っている会社なので、小さくても何かしら助けになれればと思って帰ってきました。
Tad 帰ってきて最初にされた仕事は何ですか?
山本 製造部に配属されて、甘酒とかお味噌とか、一通りの商品の作り方を学びました。実家ではあるんですがモノづくりの現場は知らなかったので、その現場を体験させていただいて、そのあとは甘酒担当ということで、工場長のもとで甘酒作りをしていました。
左/工場長の山本晋平さん 右/代表取締役の山本晴一さん
原田 工場長は「甘酒博士」とのネーミングをお持ちと聞いています。
山本 工場長は金沢大学大学院に50代になってから入学されました。伝統の発酵食品こそ健康にいいんじゃないかということで、そういう考えを科学的に証明したいとういう熱意があり、ほとんど寝ずに研究をしていたんじゃないでしょうか。当時一緒に働きながらその姿を見ていました。すばらしい研究成果を残しまして、研究論文を書いて、日本で初めての甘酒博士(工学博士)になったそうです。
Tad ということは、ただのネーミングではなく、ちゃんと博士課程を修了されているんですか?
山本 はい。博士号を取得していますので、いわゆる「ドクター」ですね。
原田 すごいですね!その方と家族のようにお仕事をされていくなかで、ご自身が戻ってきて初めて気づいたことや感じられたことはありましたか?
山本 最初に甘酒の製造部にいて強く感じたのは…あまりに暇だったということです(笑)
原田 そうなんですか?
山本 甘酒って今でこそ、美容のために飲まれる方が増えたと思うんですが、わたしが入社した10年前というのは、「甘酒? 酒粕のくさいやつ?」というような、そんなイメージのほうが強かったんです。当社は特に玄米の甘酒を売っていたので「この茶色いのは何ですか?」とよく聞かれるような、そんな世界でしたので全然売れなかったんです。わたしは製造部に所属していましたが、毎日の仕事といえば製造部とは名ばかりで、ステンレスのタンクを磨いたり、製造機器の掃除をしたり、そんなことを一生懸命していました。でも、前職では営業をしていましたので、そんな状況にちょっと危機感があったんですね。このまま製造部にいても助けにはならないだろうという思いがあって、「製造部で長く経験させたかった」と言ってくれてはいましたが、営業に志願して、営業部に入ることになり、甘酒を持って販売しに行くことになりました。
原田 作っていたということは、工場長さんにしても「これは絶対良いものだ」という確信があって、それを「売る」となったときに登場されたのが山本さんだった、ということでしょうか?
山本 そんなにかっこいいものではないですが(笑)
Tad しかも貿易会社で働いていらしたんですものね。
山本 「甘酒なんて簡単に売れるだろ」みたいな感じで、多少期待もあったと思うんですが、期待外れもいいところでした。やっぱり市場というものは厳しくて、当時、甘酒ってあんまり認知されていない飲み物でしたし、「なんで甘酒を飲むのか?」と、まずそこからですよね。今でこそ甘酒を朝に飲むとブドウ糖が脳の栄養源にもなるし、アミノ酸もたっぷりで、体作りや美肌作りにもいいものと認知されていますが…。
原田 今では「飲む点滴」と言われていますものね。
山本 当時はその言葉が出る前だったんです。お客さまにまだ甘酒が求められていなかった、そういう時代でした。
Tad 今はヒット商品ですね。どうやって売れるようになっていったんですか?
山本 今も大変お世話になっている野々市市の自然食品店の店主が甘酒を「いいものだね」とすぐに認めてくださったんです。「でもお客さんはあまりよくわからないと思うから、とりあえず店頭に立ってみたら?」と言ってくださって、机一個分のスペースを用意してくださって、とりあえず2ケースほどの甘酒を持ってきたのを陳列して、そこで甘酒の豆乳割りを「玄米ラテです」と言って一人ずつ小さいカップに注いで配っていったんです。すると、その自然食品店には玄米を好んで召し上がる方がすごく多く来店されていたので、「飲む玄米ね」ってすっと認知してもらえたんです。甘酒としてではなくて、「玄米を発酵させて非常に栄養豊かなドリンクにしたものですよ」と。そういう視点でお客さまにすごく認めていただいて、「美味しいから買っていくよ」というお客さまが一人、二人と増えていったんです。それで「お店でこんなに売れると思わなかった」というお褒めの言葉をいただきました。
あとは、東京のファーマーズマーケットに行ったんですが、そこで、これまでクレープやコーヒーといったの軽食を出されていた方が「この玄米甘酒はすごい」と感動してくださって、それまでのお店をやめて玄米甘酒を売るために起業されたんです。そんな出会いもあったり、そこまで惚れ込んでくださる方がいたりして、徐々に自信を深めていきました。「飲む玄米」として、また、甘酒としても認めてもらって、お客さまとの出会いもあって少しずつ輪が広がっていきました。
「有機玄米甘酒」は飲む以外に甘味調味料としても使用できる。
Tad なるほど。今も「飲む玄米」と思って買う方もいれば、「甘酒の玄米版だね」という方もいれば、人それぞれ違うポイントに魅力を感じているように思います。
山本 発酵食品同士を組み合わせて、ヨーグルトにお砂糖の代わりにかける方もいらっしゃいます。甘酒ってお砂糖を使わないけど自然に甘いので、お砂糖を減らしたい方も使われたりしています。
原田 お菓子作りにもよく使われていますし、使い勝手がいいなという印象です。
山本 ありがとうございます。普段から使っていらっしゃる原田さんに言われるとうれしいです。
原田 大好きです!
Tad 甘酒をいろいろな形で取り上げてもらえるようになって、でも会社としてはドレッシングや麺つゆなど、いろいろな商品展開をされるなかで、やはり最初の一歩というのは、お客さまに知ってもらうための活動ですよね。
山本 そうです。僕たちは今、自社のあるエリアを「ヤマト糀パーク」と呼んでいるんです。「わたしたちは何屋さんですか?麺つゆ屋さん?だし屋さん?それとも醤油屋さん? 味噌屋さん?」と問い質し、「わたしたちは世の中に“発酵食美人”を増やす“美人メーカー”です」と再定義しなおしました。その“発酵食美人”というのはどんなライフスタイルを送っているのかという部分をいろいろ考えたんです。それで、毎日糀を召し上がっているとか、朝ごはんに、できれば玄米ごはんにお味噌汁、それに何かおかずが一品、つまり一汁一菜でいいんですが、お時間がないときは甘酒をグっと飲んでいただいてもいいですし。例えば、お味噌汁を作るにしても、やっぱり一人分の味噌汁はちょっと面倒だと思いますが、その時に甘酒を召し上がっていただけたらなあという思いもありますし、ちょっと家族に美味しいものを食べさせてあげたい、作ってあげたいなあっていう時には、うちの発酵調味料、麺つゆ、おだしも作っていますから、そう言ったお醬油とか味噌をベースにした発酵調味料を使ってお料理をしていただく。それで、最終的にはいいものをたくさん食べていただいて、体の中から美人になっていただく、健やかになっていただくということを目指しています。
Tad 何度かうかがわせていただきましたが、本当に「糀のテーマパーク」みたいな場所ですよね。新型コロナウイルスの影響で、なかなかご来店いただけないようなお客さまもいらっしゃると思うんですが、そういった方には何かアプローチはされているんですか?
山本 Webショップやオンラインの活用が課題だと思いました。コロナ禍の外出自粛時なんかは、直接来店したくても来店できない、控えないといけないっていう地元のお客さまが多かったと思いますし、発酵食品を摂るといいよっていう情報があるにしても、「どうやって使えばいいのかわからない」ですとか、「どこから何を買えばいいのかわからない」ですとか、いろいろとお困りのお客さまはいらっしゃったと思うので、そんな方に向けてオンラインショップで発酵食をお届けするということを強化しました。例えば発酵食品の使い方がわからないというお客さまが結構いらっしゃったので、オンラインで料理教室をしたり、ブログで「発酵食品を摂ると何がいいの?」という質問に根本的に解説をしてあげるようなものを立ち上げたり、そこでレシピを掲載したりですとか。
「一汁一菜に一糀」のライフスタイルを提案している。
Tad なるほど。
山本 お客さまとはオンラインでのファンの集いといいますか、レシピコンテストみたいなものをInstagramで行ったりもしました。
Tad ご家庭で作ったレシピや写真を投稿したり、「こんなふうに作ったよ」みたいに披露されたり、ということですね。
山本 はい。例えば「糀大好きフォトフェス」は「皆さんの“糀大好き”を投稿してください」と呼び掛けてハッシュタグをつけていただきました。すると一か月くらいで150件くらいレシピが集まりました。すごく勇気がある方ばかりだと思いますよ。ご家庭で自分が作った料理を他人に披露するというのは結構勇気がいります。
原田 そうですよね。
山本 本当によくエントリーしてくださったなあと感謝の思いしかないです。そうやって「糀大好き」を人に伝えたいという一般の方も多くいらっしゃって、そういった方とSNSを通して繋がれたというのも、ものすごくいい体験です。
Tad なるほど。コミュニティ作りをされている感じですよね。ユーザー、お客さま同士が刺激を受けあって「じゃ、この調味料を買ってみようかな」っていうふうに思ってくださるということですものね。
山本 そうですね、最終的には我が社の商品を買って、「ご家庭でお料理に使っていただければ」という気持ちもあるんですが、そうは言っても糀ってまだまだ広がっていません。僕たちが広げたいなあと思うのは、塩糀の使い方は難しいことはなくて、お塩の代わりに塩糀が使えて、甘酒も飲む以外にお料理でお砂糖の代わりにも使えるということ。塩の代わりに塩糀、砂糖の代わりに甘酒という、そんなシンプルな使い方でも毎日糀を摂っていただけるので、それでどんどん輪を広げていきたいなと思っています。

ゲストが選んだ今回の一曲

PUNPEE

「Renaissance」

「一般ピープルのことを俗に“パンピー”と言いまして、“板橋生まれの一般ピープル”ということで、アーティスト名をパンピーと言うらしいんですけれども、同年代の彼は本当に言葉選びの天才だと思っています。歌詞がすごく良くて、ヒットを目指して大海原の財宝を目指しても、それは意外と手に入らなくて、手近な砂浜にあるものを使って作ってみたら、意外と自分らしくていいものできたなっていう、そんな曲なんです。意外と自分のやっている仕事ってそういうことなのかなと思いまして、すごく共感します。同年代のクリエイターとして現在進行形でたくさんのものを作っていらっしゃるので、すごく大好きなアーティストです」

トークを終えてAfter talk

Tad 今回も前回に引き続き『ヤマト醬油味噌』営業部長の山本 耕平さんをお迎えしましたけれども、いかがでしたか?
原田 このコロナ禍で、オンラインで糀ファンの輪が全国で広まっているということでしたが、わたしも純粋に仲間入りしてもっと知りたいな、と思いました。
Tad 前回も甘酒がすごく好きだと言いましたが、玄米甘酒も、最初から需要が明確にあったのではなくて、山本さん自身が店頭に立って試飲をしてもらって一人目のお客さまを作るところから構築されたというのはすごく驚きました。自然食や玄米食を取り入れているお客さまから「飲む玄米なんだね」というふうに理解されたというエピソードはなるほどという感じがしますが、インターネットを使ったお客さま同士の交流というのも、お客さま自身の、発酵食品や調味料の使い方の気づき・発見というのをお互いに得られる活動なのだろうなと思います。事業の目的って、よく「顧客の創造」っていうふうに言われることも多いんですが、山本さんご自身の甘酒や他の製品の需要を作ってこられたお話や姿勢は、新商品や新製品を世に送り出そうとする企業の方々にとっても、勇気づけられる話だったんじゃないかなと思いました。

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