後編

地元の人たちも金沢の文化を体感できる場に。

第117回放送

株式会社金城樓 代表取締役社長

土屋兵衛さん

Profile

つちや・ひょうえ/1975年、石川県金沢市生まれ。明治大学商学部卒業後、1997年から東京銀座のフランス料理店『シェ・イノ』で、2000年から『東京吉兆銀座店』での修業を経て、2003年、『株式会社金城樓』(1890年創業 所在地:金沢市橋場町 料亭、旅館、コンベンションホール運営、ブライダルほか各種冠婚葬祭、おせち・ギフト商品・お弁当の製造販売、天ぷら屋『天金』を経営)に入社。2006年、専務取締役に就任、2012年、代表取締役社長に就任。

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Tad 今回のゲストは『株式会社金城樓』代表取締役社長の土屋兵衛さんです。すごくお忙しくされていらっしゃる時にご出演いただき、ありがとうございます。『金城樓』の年末年始ってどんな感じなんですか?
土屋 実は年末年始に旅館の予約を取るようになったのは、北陸新幹線が開業してからなんです。それまではちゃんとお店を休んでいました。
原田 そうなんですか。
土屋 新幹線で東京のお客様や海外のお客様が多くなるだろうというタイミングで、旅館部分をリニューアルさせていただいたり、お部屋をきれいにしたりしまして、年中無休となりました。それまでは年末年始は唯一の休みだったんですけど。
Tad そうだったんですか。
土屋 おかげさまで予約が埋まるようになっていまして、1月1日にはお正月ということで餅つきをしたり、お鏡餅を飾ったり、仲居さんたちにも加賀友禅の黒留袖を着てもらって接客をしていただいております。
Tad ピッと締まるような感じですね。
土屋 そうですね。お鏡餅やしめ飾りというのは外国にはないものだと思うんですが、そういうところをしっかりと、昔からのやり方で。
Tad 自宅にもそういうものはだんだんなくなってきていますよね。
年始には贅沢でおめでたい正月料理が楽しめる。
原田 年末年始ということは、お客様は年越しをされることを目当てに宿泊されるわけですよね。大みそかも何かイベントが?
土屋 年越しそばを召し上がっていただいたりもします。
原田 素敵な年越しになりそうですよね。
土屋 地元の方からも「泊まってみたいです」と言われます(笑)。
Tad 前回は『金城樓』の歴史的なお話と、今の事業についてお話をうかがいました。北陸新幹線開通後は特に観光客の方が増えたということですが、その次の時代に向けて『金城樓』として取り組まれていることや、観光客の方に対して何か働きかけていることがもしあれば是非うかがいたいです。
土屋 金沢という街の中でもわたしたちは橋場町、浅野川界隈という、最も金沢らしいとも言われる場所で料理を提供しておりますので、その風情、最も金沢らしい文化、そういった「本物」をしっかり体感できる場所としてあり続けなければいけないなと思っております。そういったものを県外のお客様、あるいは海外のお客様に見ていただく場所として『金城樓』はあるべきという責任感を持ち、また、それをやりがいにしなければならないと思っております。金沢には『金城樓』も含めていろんな料理屋がありますが、それを支えてくださっている地元のお客様をしっかり大切にした上で、県外、海外のお客様にも金沢の文化を見ていただく。そんなふうにしっかり考えていかなくてはいけないのかなと思っております。
Tad 海外や県外の方に対しては、どういう形で情報を発信されているんですか?
土屋 海外のお客様は、圧倒的にお泊りいただく方が多いので、海外向けの宿泊サイトに登録しています。ほとんどのお客様はそのサイトから予約していただいております。ネットでの発信が非常に大事なのかなと思っています。
Tad 海外でもメディアに取り上げられることはあるんですか?
土屋 ございました。
Tad そういうものを見て、あるいは口コミなのかもしれませんが、海外からも次々とたくさんお客様がいらっしゃるということは、輪が広がっていっているわけですね?
土屋 そうですね。海外のちょっとした雑誌や旅行ガイドブックみたいなものに紹介されていたようで、イスラエルだったかブルガリアだったか、あるエリアからお客様が立て続けにいらしたことがありました
原田 へぇ!
土屋 なんでこんなに知っていただいているんだろうと不思議でした(笑)。そしたら「これに載っているんだよ」とお客様が見せてくださったんですが、以前、来てくださったお客様が冊子の関係者の方だったようで、載せてくださったみたいです。「あ、こんなのに載っているんですか!」みたいなこともありました。
原田 世界各国からお客様が…他にはどんな国から?
土屋 サウジアラビアの方もいらっしゃいますよ。
原田 日本の伝統的な様式や食に触れて、みなさんはどんなふうに反応されますか?
土屋 料理も含めて本物の日本の佇まいや、日本のおもてなし、そういったものを金沢でしっかり見ることができることが、すごく受け入れられているのかなと感じます。東京に一旦入られて、新幹線で金沢に来たとおっしゃる海外の方もたくさんいますが、やはり東京で泊まるということになると、大きな外資系のホテル…もちろん素晴らしいホテルがたくさんありますが、東京の都心で本当に純和風の佇まいのところがあるかというと、なかなかそういうところはありません。石川県に入って金沢の旅館や、あるいは金沢周辺の温泉旅館に泊まって初めて受ける和のおもてなしというものが、外国のお客様にはすごく魅力的に映っているのかなと思います。
それと、和食が、かなりメジャーになっているように感じます。昔みたいに「お箸の持ち方が、お上手ですね」というレベルではなくて、海外の方でもしっかり和食の知識を持っていらっしゃるんだなと感じますね。
原田 なるほど。
土屋 そういえば、外国のお客様に「なぜこのブリは血合いがこんなに大きいんですか?
 おかしいんじゃないですか?」と言われまして(笑)。
原田 すごいですね(笑)。
土屋 ニューヨーク、パリといった都市でも和食の食材が相当流通しているんだなというのを感じます。
原田 そういう中で、やはり日本の文化をしっかり発信しなければと…
土屋 はい。その中でも加賀料理というものをちゃんと知ってもらわないといけないと思っております。
Tad 地元の方に向けても価値を提供されているということですが、今はどういう形で?
土屋 この2年間、コロナ禍でお客様にお店に来ていただく機会というのがほとんど失われてしまっていますが、何とかいろんな制約の中で来ていただくにはどうしたらよいかと考えました。例えば芸妓さんの踊りを見て、『金城樓』の広間で会席弁当を食べていただくとか、金沢にはオーケストラ・アンサンブル金沢という素晴らしいクラシックの演奏家たちがいて、そういう方々のミニリサイタルを催して、お客様に来ていただくというような、そういったことをやっています。
芸妓の至芸を『金城樓』の会席弁当とともに楽しめるという特別イベントの様子。
Tad 和のステージで?
土屋 和のステージもありますし、地下にはコンベンションホールがあるので、そこを使っています。地元のお客様にも料亭というものがどんな雰囲気なのかを見ていただきたいですし、芸妓さんの芸も金沢の大切な文化の一つなので、それを見ていただく、支えていただくということも大事なのかなと思っています。「毎日『金城樓』の前を出勤時に通るけど、初めて入ったわ」というお客様や、「芸妓さんを初めて見たわ」というお客様もたくさんいらっしゃいまして、喜んでいただいております。
Tad そういう意味では、コロナ禍を経験して、地元の人が地元の文化を楽しむ機会が作りやすくもなったのかなと思いますが、いかがですか?
土屋 そうですね。おっしゃる通りだと思います。地元の方に支えていただいているんだなという思いも、僕だけじゃなくて、調理場のスタッフや接客係の子達もみんな思っていたと思います。お客様に来ていただくことのありがたさを身に沁みて思った2年間でした。
原田 これを機に「やっぱりハレの日は『金城樓』で」という地元の方が増えていくような気がしますね。
土屋 本当に、ありがたいことだと思います。
原田 コロナ禍で『金城樓』以外の料亭の方々もいろいろと工夫を凝らされていらっしゃると思うんですが、料亭同士の連携や交流というのもあるんでしょうか?
土屋 はい。料亭業、日本料理屋というものをみんなでしっかり守っていこう、発信していこうということで、全国の組織もありますし、金沢独自でもあります。
Tad 芽生会(めばえかい)ですね?
土屋 はい、そうです。この芽生会という組織が料亭や日本料理屋の二代目、三代目、いわゆる跡取りさんなどで構成されていまして、青年部のような位置付けなのですが、こちらでも活動しています。
Tad 土屋さんのお役目は副理事長ということで。
土屋 はい。去年から全国の副理事長をさせていただいております。
原田 全国的なお役目もありながら、土屋さんご自身は五代目主人としてこれから『金城樓』をどんなふうにしていこうと思われますか?
土屋 現代社会において、日本人が大切に培ってきた和の文化がどんどん失われてきています。ライフスタイルも急速に欧米化が進んでいます。身の回りでは日常的に着物を着ている人もほとんどいないですし、純和風の佇まいのお家に住んでいる人もかなり少なくなってきています。そんな中で我々のような料亭という場所には、まさに日本の建築様式、純和風の佇まい、お料理も含めて、日本人が大切に守ってきた本物の和の文化がある。これをしっかり守っていく、次の世代に引き継いでいく、あるいは世界に発信していくということを我々がやっていくんだという責任感、あるいはそれを自分たちの生きがいといいますか、誇りに代えてやっていきたいなというふうに思っております。

ゲストが選んだ今回の一曲

フランキー・ヴァリ

「君の瞳に恋してる」

「フォー・シーズンズというコーラスグループの伝記映画『ジャージー・ボーイズ』でもこの曲のエピソードが描かれていて、印象に残っている曲です」

トークを終えてAfter talk

Tad 今回はゲストに『株式会社金城樓』代表取締役社長の土屋兵衛さんをお迎えしましたけれども、いかがでしたか、原田さん。
原田 土屋さんがコロナ禍で地元のお客様に支えられていると実感しているとおっしゃられて、わたしたちもすごく地元に意識が向いた期間だったなというふうに思っているんですが、これをきっかけにして大切なものを守りながら伝統文化をこれからどのように発信していかれるのか、新しい段階に入ってきたのかなと感じました。
Tad 芸妓さんの踊りを見て懐石弁当をいただくとか、石川県民、地元の人があらためて金沢の文化を知るという機会を提供できるというのは、やはり地下ホールとか舞台のある『金城樓』ならではの企画だなというふうに思います。こういう取り組みでわたしたちも初めていろんなことに気が付くわけですよね。『金城樓』に行けば金沢らしさや金沢文化をしっかり味わえる。そして、守り手の一員にもなれる。それがまた県外や外国にもいい循環を起こしていけるのだと思います。コロナ禍が明けて、外国や県外との往来が再びできるようになっても、ぜひ、引き続き地元のわたしたちに向けても地元枠向け企画を続けていっていただきたいなと思います。

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