前編

「株式会社」の枠組みを活かして、障害者雇用の社会課題に取り組む。

第122回放送

ヴィスト株式会社 会長

奥山純一さん

Profile

おくやま・じゅんいち/1984年、岐阜県生まれ。静岡大学教育学部を卒業後、外資系人材サービス企業『アデコ』に入社。2012年、『ヴィスト株式会社』(金沢市広岡。石川、富山、神奈川を拠点として障害者就労支援事業、発達に特性のある児童向け支援事業を展開)を設立、就労移行支援事業である「ヴィストキャリア」を立ち上げる。2017年、放課後等デイサービス「ヴィストカレッジ」を開始。2019年より障害者雇用等のコンサル事業を行う『株式会社ヴィストコンサルティング』を本格始動。

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Tad 今回はわたしと同年代で尊敬する社会起業家の方をお招きしております。『ヴィスト株式会社』会長、奥山純一さんです。ご無沙汰しています。この番組にも来ていただいた『株式会社小林製作所』の小林さんの結婚式以来だと思います。
原田 奥山さん、とてもワイルドで、ちょっとキムタクに似ていらっしゃると言いますか、かっこいい車から降りてきそうな雰囲気ですね。
Tad 僕もそう思ってました(笑)。
奥山 今日も頑張れそうです(笑)。
Tad ところで、『ヴィスト株式会社』はどういう事業をされているのでしょうか?
奥山 「あらゆる人に働く希望を、心豊かなストーリーを」というミッションを掲げ、働くことに“づらさ(〇〇し辛さ)”を感じている方の就労支援をしています。まず、働きたい方と採用したい会社のマッチングをし、働く前の準備と就職活動を支援、そして就職後に会社に入ってからの定着支援もする「ヴィストキャリア」という事業と、障害のあるみなさんをわたしたちが実際に雇用する就労継続支援事業、そして、児童向け、特に発達に特性のあるお子さんに向けた「ヴィストカレッジ」というサポート事業、大きくこの3つを展開しています。
原田 今“づらさ”という言葉を使われましたけど、これはどういう意味合いなんでしょうか?
奥山 障害者手帳というと、身体障害(身体障害者手帳)、知的障害(療育手帳)、精神障害(精神障害者保健福祉手帳)の3つがあると一般的には言われています。「個人が障害を持っている」という考え方もありますが、それよりも、実際には社会側に障害があるんじゃないかと、わたしたちは考えます。たとえば、歩けなくて車椅子に乗っている方がいらっしゃるとしますよね。この場合、その方に障害があるというよりも、実際に階段や段差を登ることができないことが障害なんじゃないかと考えるわけです。そうした社会側の障害がなかったとしたら、その方の「歩きづらさ」は軽減されますよね。つまり、そういう発想を基に社会側にアクションしていくことで少しでも多くの人が「〇〇しづらい」ということなく、社会とつながることができるといいなっていう発想で事業展開をしています。
Tad “づらさ”というのは、いわゆる「生きづらさ」や「暮らしづらさ」、あるいは「働きづらさ」とか、そういったことを総称しているわけですね。歩けない方は足に障害があるのではなく、階段があることが障害であると。目から鱗です。階段があることが当たり前の社会、そもそもそれが障害だと。
奥山 はい。マジョリティ側の人たちが作った社会だから、マイノリティの人たちからすると当然、生きづらい。言われてみれば「たしかにそうだよね」と思うかもしれないですが、日常生活の当たり前に慣れすぎていると、そういった視点は抜け落ちてしまいがちです。僕らにとって些細なことでも、実はマイノリティの方にとっての“づらさ”につながっているということは結構あるんです。
原田 わたしの子どもは左利きなんですが、道具を扱う時や社会のいろんなところでちょっとやりづらいなと感じることが多いみたいで、そういうことまで広げると、結構いろんな人に関わってくる問題ですよね。
奥山 はい。結構身近なんですよ。
Tad 「Suica」で改札を通る時は右手でタッチしますが、左利きだとね…
原田 そうですよね、持ち替えてっていうことになりますしね。
Tad そういうことも障害であると広く言ってもいいものなんですね。なるほど。そういう方々が就労するには、実際にはどんな障害があったりするんでしょうか?
奥山 「実際に会社で働いていきましょう」となった場合に、たとえば先ほども挙がった車椅子でいうと、会社に行くまでの階段やエレベーターがなかったら…ということも障害につながるかもしれないですし、知的障害があるという方の場合も、実は体を動かすことがすごく得意だったとしても、事務所でパソコンを使った仕事のように、その人にマッチしていなければ仕事内容そのものが障害になるわけです。精神に疾患を患っていらっしゃる方が、お薬の副作用の関係などで朝起きるのが苦手だとします。そうすると、そこに少し配慮をしてもらえたら働くことができるかもしれないですが、実はそういった些細なことが障害になっていたりするんですよね。
Tad なるほど。定時は何時だから…みたいなことも障害になるわけですね。そこは、もう少し柔軟に考えてもいいのかもしれないってことですよね。
奥山 そうですね。
Tad 就労する先の企業側にそういう配慮が求められる時代でもあるんでしょうか?
奥山 今は多様性、インクルーシブ、SDGsなど、いろんなキーワードが飛び交う風潮ではあると思います。でも実際に企業側からすると、今回コロナ禍において、いろんな面で逼迫することがあると思うんです。ですから会社側に立ったとしたら「なかなかそこまで配慮するのは難しいよ」という話もわかります。ただ、そういった状況でも「できることを少しずつでも一緒に考えてやっていきましょう」と、少しでもいろんな方が働ける可能性が広がっていくといいなというふうに思います。
Tad そうすると、就職先の企業や職場で実際にどのようにその障害を解決していくのかを話し合うこともあるんですか?
奥山 はい。わたしたちが事業としてやっている大きなところは、特に「ヴィストキャリア」の仕事になるんですが、働きたい方と採用する方をつなげて、互いに仕事を継続しやすい環境をどのように作ることができるのかがポイントになるので、就職した後に、わたしたちが会社を訪れて、課題を見つけたり、どういうふうにすると働きやすくなるのか、企業側もお仕事を任せやすくなるのかなどをすり合わせながら進めていきます。
個別の就労支援でサポートしてくれる「ヴィストキャリア」。
「ヴィストキャリア」における、グループでのワーク受講の様子。
Tad ホームページを拝見しますと、就労支援の事業をいろいろと発展させていらっしゃるようですが、それは、ある事業では解決しきれないものがあって、派生していったということですか?
奥山 そうですね。今、障害を持つ方を一般企業におつなぎするというところだけに焦点を当ててお話ししたんですが、必ずしも一般企業で働くことがゴールじゃないとは思うんです。もしかしたら起業も一つかもしれないですよね。わたしたちは福祉の事業所として様々な特性のある方々を雇用する、という事業もしています。
原田 作業所みたいなところですか?
奥山 そうですね。わたしたちの「ヴィストジョブズ」という事業では就労継続支援をしています。そういった枠組みを増やして展開するということもこれまでありましたし、いろんな人に関わることで、もしかしたらもっと早く働く可能性を広げられるのかなと感じることがあって、児童の分野にも広げていったということです。
Tad 働くずっと前から関わっていくということですね。
奥山 はい。目の前に起きていること、起きたことをベースに事業を展開することになっていったという感じですね。
原田 なるほど。今おっしゃった児童向けというのは具体的にどういったものになりますか?
奥山 児童分野では「ヴィストカレッジ」という事業で、今でいうと0歳のお子さんから受け入れることができる状態ではあるんですが、年齢によって、発達の段階によって求められることがお一人ずつ違うと思うので、個別のニーズ、必要性に合わせて、お子さんとわたしたち支援員の一対一、もしくは一対数人など、ご本人の特性に合わせてサービスの内容を変えています。たとえば、生活に関すること、運動機能に関すること、社会性に関することなど、いくつかカテゴリーで分けられるんですが、コミュニケーションでいうと仮にお友達を作ろうという場面で、どんなふうに話しかけたらいいかな、とか、話しかけられたときにどういうふうに答えるといいかな、とか、どういうふうに友達と関わっていくといいかな、というように場面の切り出しをして、職員、支援員と一緒に練習してみたり、運動機能でしたら、割と得意な部分と苦手な部分の凸凹があったりするので、本人がしたいことをお聞きしながら、その機能が少しでも伸びていくようなことに一緒に取り組んだりします。
原田 それは、放課後に学童保育に行くような感じで、デイサービスというスタイルでなさっているわけですか?
奥山 そうですね。未就学児は「児童発達支援」、小中高生は「放課後等デイサービス」と打ち出していまして、園や学校の後に通所していただく感じです。
「ヴィストカレッジ」では、一人ひとりに合わせて、きめ細やかな支援を提供。
パズルを使って手先と頭を楽しく使う、「ヴィストカレッジ」の未就学児向けプログラムのひとつ。
原田 18歳までですか?
奥山 そうです。
Tad 学童保育と違うのは、今の支援員との対話的なやりとりであったり、場面を切り出しての練習みたいなことというのは、その人たちが、将来もちろん働くでしょうけれども、働く手前の学校という社会生活の場でも円滑に、障害を障害とせずに生きていくための練習だったりするわけですよね。
奥山 そうですね。
原田 なるほど。やはり早い段階から関わっていくことの大切さっていうのを感じていらっしゃいますか?
奥山 はい。
原田 2012年に会社を設立されていますが、結果として手ごたえは感じていらっしゃいますか?
奥山 そうですね。通っていただく中で学年が上がるごとに、たとえば社会から求められることや、お友達の関係性にも変化がありますよね。その時に感情で反論してしまって、うまくお話しできなかったり、自分で感情のコントロールができなかったりすることもあったかもしれないですが、徐々にそれを意識的にコントロールできるようになったり、生活しやすくなったりということもあるようです。また、わたしたちは保護者の方と学校に対しても働きかけて一緒に取り組んでいくわけですが、そこをつなげていくことで、家庭の中だけで、あるいは学校の中だけで抱えていたことが表に出てきて、「じゃあ、みんなで考えて取り組んでいきましょう」という感じでチームになっていって、みんなが生活しやすくなっていくということは、うかがっています。
Tad なるほど。ちょっと話しにくい質問になるかもしれないんですが、これをビジネスとして、株式会社としてやっていらっしゃると、何か不都合を感じる部分はあるんでしょうか?
奥山 NPO法人とか社会福祉法人、一般社団法人など様々な法人格がある中で、わたしたちは株式会社としてスタートしています。そもそも会社で始めたというのは、前職で株式会社という分野に身を置いていたのでそれが自然だったというか、その方法しか知らなかったというのもありますし、その後に変えることができたかもしれないのに株式会社でいま進めているということに関しても、これをサービスとして持続可能にしていくためには事業としての戦略みたいなものや、働いてくれるみなさんの雇用に関するところもちゃんと確立していかなくてはいけないわけです。
Tad 職員のみなさんの働き甲斐の部分などもありますよね。
奥山 はい。たとえば、社会福祉法人でいくと法人税が免除されるということもあるわけですが、もしかしたら会社として強く経営ができていたら法人税に関しても貢献できるかもしれない。会社という体制で、経営面でも強くやっていけたらなということもあります。でも正直に言うと、最初は株式会社以外の形でこの事業に取り組む方法を「知らなかった」という感じです(笑)。
もう一つは、社会福祉法人やNPOという立場だと非営利な事業しか展開できないんですよね。株式会社なら営利的な事業も含めて展開が可能です。やはり取引の際などは、株式会社の方が企業側からとっつきやすい面もあると思うんです。企業としてパートナーシップを持ってやっていこうよという時は、なじみがない法人形態だとちょっと関わりにくかったり、取引しにくいということがあるかもしれないですよね。僕らは企業側に対してもサポートしていきたいという思いもあったので、そこにも理由があるかもしれません。
Tad なるほど。いろんな経緯の中でこの形態を選ばれて、この形態でしかできないことをいろいろと展開されているんですね。

ゲストが選んだ今回の一曲

久石 譲

「もののけ姫」

「映画『もののけ姫』が大好きなんです。歴史的には室町時代の少し前の時代を描いているものだと思いますが、実は今の時代をまさに描写しているようにも感じます。人間に都合のいいことを推進していきたいエボシと、自然側を大事にしていきたいと思っているサンや神様がどういうふうに共に生きていくかということを葛藤するという作品だと思うんですが、今、まさにそんな時代だなと思うんですよね」

トークを終えてAfter talk

Tad 今回はゲストに『ヴィスト株式会社』会長、奥山純一さんをお迎えしましたけれども、いかがでしたか、原田さん。
原田 はい。奥山さんのおっしゃる“づらさ”を感じている方が、社会で生きていくためのサポートはもちろんですが、社会のほうを変えていくんだという視点、これがすごく大切なことだとわかりました。
Tad そうですね。なぜ非営利法人や社会福祉法人じゃなくて株式会社か、っていう最後の質問について、奥山さんは「このやり方しか知らなかった」とはおっしゃっていましたが、納得したのは、就労支援をする先の企業とも職場や仕事や働き方について打ち合わせやすり合わせ、様々な調整をしなければならないとか、企業側も相手に健全な財務基盤があると思えるなら取引できる、というような背景があってこういう形態を選ばれているわけですが、本当にそういうことってあるんですよ。そういう意味では、ほかの法人形態の方にも“づらさ”があるということなのかもしれませんが。
適正な利潤のよい循環があって、対企業のサービスも充実して、職員の方の働き甲斐や収入アップにもつながっていく…結果的にはこの「株式会社」という枠組みで社会課題に取り組むことそのものがイノベーティブであるとも思うんですが、普通の民間企業も社会課題に向き合っていく必要のある時代ですから、『ヴィスト株式会社』の経営姿勢はどの企業にも参考になったのではないかと思います。

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