前編

探求心を解放する。金沢に移住したクリエイター。

第126回放送

46000株式会社 代表取締役社長

越後 龍一さん

Profile

えちご・りゅういち/1988年、東京都生まれ。早稲田大学国際教養学部在学中からクラウドファンディングを運営する『株式会社キャンプファイヤー』に関わり、卒業後に入社。その後、インターネット企業『ピクシブ株式会社』に転職。2015年に個人事業主として独立。VR映像作家、音楽芸能事務所のデジタル戦略担当、またCM制作会社のプランナーとして各社と業務委託契約を結びつつ様々なプロジェクトに参加。縁あって2020年7月、金沢に移住。2021年4月、『46000株式会社』(金沢市幸町)を設立。IT関係のコーディネートや映像制作、SNSを含めたメディア活用のコンサルティング、アート事業などを展開する。

インタビュー後編はこちら

Tad 今回はわたしの一推しのクリエイターをご紹介させていただきたいと思います。『46000株式会社』代表取締役社長の越後龍一さんです。
原田 まず目に飛び込んでくるのは、ピンクの御髪でございます!(笑)
Tad 赤だったりピンクだったり、会うたびに色が変わっているような感じですよね。
原田 そうなんですよ!似合ってらっしゃるんですよ! BTSみたいだなと思いました。
Tad そうですよね。かっこいいです。まず「46000(シマンロクセン)」というちょっと変わった社名ですが、それは何か理由があるんですか?
越後 会社名をアラビア数字で書いていますが、由来は漢字で書く四万六千(シマンロクセン)なんです。金沢に来てわたしが結構衝撃を受けたと言いますか、金沢に興味を持つようになった理由の一つが、東山にある観音院っていうお寺でして、こちらが旧暦のお盆ぐらいに四万六千日という縁日、お祭りを毎年されていますよね。
Tad やってますね。
越後 何も知らないまま夏に東山を歩いていたときに、その場にたまたま出合ってしまったんです。地元の方はご存じだと思うんですが、五色の旗がグワッと軒先に出ていて、でもそこには何にも書かれていなくて。最初はレインボープライド(註:主に、性的少数者が差別や偏見にさらされず前向きに生活できる社会の実現を目指した団体やイベントを指す)みたいな、そういう先進的な取り組みがあるのかなと思ったんですが、その先に観音院がありまして、いろんなお話を聞いてみると、四万六千日(シマンロクセンニチ)という名前の縁日をやっていて、トウモロコシのお守りを売っていたんです。それを軒先につるすと商売繁盛につながるというもので、なんて面白い文化なんだろうと驚きました。それと、四万六千という名前を会社名にしたのにはもう一つ理由があって、この日に行くと46000日お参りしたのと同じくらいの、一生分のご利益があるという意味が込められているそうで、「そんなおいしい話、ないじゃないか!」と(笑)。
Tad原田 (笑)
越後 ご利益にあやかろうと思いまして。
Tad 46000日分の功徳を積んだのと同じということなんですよね。
越後 そうなんですよ。そんなラッキーなことってないじゃないですか。それにあやかりたい!という気持ちでつけたのが、この社名なんです(笑)。
Tad なるほど(笑)。そんな『46000株式会社』なんですが、具体的にはどういうお仕事をされてるんでしょうか?
越後 立ち上げにはわたしを含めて3人が関わっていまして、それぞれの専門分野が違うので、それぞれがやりたいことをやりながら、会社として取り組んでいます。基本的には共通して金沢の魅力や知られていないこと、我々自身が「これ、おもしろいな」と、まさに社名をつけたときのように、思ったままに発信していったり、もしくは地域に課題があった場合にそれを解決するお手伝いをしたりというようなことを、共通の理念として掲げています。とにかく金沢は面白い街だなと思っているので、みんなに知ってもらいたいですし、自分は移住した身なので、「面白い街に移住したんだな」と思われるようことに取り組みたいなと思っています。
事業としてはいくつかあって、わたしがやっているのは基本的にはデジタルを使った――巷ではDXなんて言いますが、インターネットとかソーシャルメディア、そういったものを使って、地元の事業者様、商店街や行政の方のお悩みを解決して、プラスαとして何かわたしの方でも動画などのコンテンツを作ったり発信内容を考えたりするような取り組みを中心に手掛けています。
それ以外では、わたしは東京出身なので、東京の会社の人たちと交流する場がこの街にできたらいいなと思っていて。発起人は、地元の元市議会議員の方でいらっしゃるんですが、その方と一緒に首都圏の企業と金沢の企業がコラボレーションするようなことをやってみようと、「金沢NEW WORK CITY協会」という組織を運営している側面もあります。
また、県外の画家や様々なアーティストが金沢に滞在して作品を制作し、その作品の展示や発表をもって金沢の魅力を発信していく「アーティスト・イン・レジデンス」というものにも会社で取り組んでおります。
アーティスト・イン・レジデンスの第一号作家と前金沢市長
Tad 世界中にそういうプログラムがあったりしますね。アーティストがその町に住んで、地元の方と生活を共にしないと得られないようなインスピレーションから、その町でしか作れないような作品を作る、というようなイメージですよね。
原田 アーティストの方にも刺激を与えつつ、それを発信することで、地元の人にとっても地元を発信してもらえる良さもあったりするんでしょうか?
Tad そうですよね。デザインとかクリエイティブ、アート、そういう領域かと思いきや、行政の方と関わったり、地元の商店街の方とも関わったりとおっしゃっていましたが…
越後 そうですね。商店街さんともいろんなことに取り組みました。
Tad どんなふうに?
越後 飲食店だったり、眼鏡屋さん、スーツ屋さん、いろんな商店があると思うんですが、そういった方たちって意外とソーシャルメディアについては弱かったりして。お店の方ご自身が使っていないから、まだきちんと整理できていないような…いわば「タウンページ」があるのにそこに名前を載せていませんよ、というような状態がインターネット上で起きているんです。今回、わたしが取り組んだもので一番多かったのが、Google Mapと言われる、おそらく今、日本で、いや、世界で一番、お出かけの際に使われている検索アプリがありますが、そこに、例えば「カレー 片町」と入れて検索するとお店が出てきますよね。そのお店の名前が本当に合っているかどうか、写真が変なことになっていないか、営業時間が載っているかどうか、そういったことに意外と手を付けていらっしゃらない方が多かったので、それは商店街でまとめて越後に相談して、そういうルールブックを作ったり、実際にみんなで一斉に更新したりということをやってみよう、というような取り組みが、今回一番多かったです。
Tad う~ん。なるほど。
原田 個人の商店主の方だけではそこまで手が回らないっていうことを越後さんに一括でお願いして見てもらえれば、っていうことですよね?
越後 そうですね。一番「あ、これは危険だな」って思ったことで言うと、わたしはやっぱりまだ観光客気分なので、おでんも食べるんですが、金沢のおでん屋さんって11月以降になると“カニ面”を出しますよね。
原田 はい。
越後 Google Mapのお店の情報って一番見られる画像がトップというか検索の最初に出ちゃうんですね。
原田 ええ。
越後 それで、ベテランの方がやっているおでん屋さんで、ユーザーの投稿写真がカニ面しか表示されていない状態になっているとしますよね。それで、例えば年が明けて2月や3月に「あ、カニ面があるんだ」と思って行ってみたら、実際には香箱蟹の解禁時期が終わっているから、もうないわけですよね。そういうことはクレームにつながるリスクがあるわけです。
Tad なるほど。すごく現実的なお話ですね。
原田 そうですね。思ってもみないことですよね、逆に言うと、お店の方からしたら「あっ、そんなことになってたんだ」みたいなことですよね。
越後 そうなんです。気づいていらっしゃらない方が多かったので、その反響がすごく大きくて。
Tad お店の人も「どうしてお客さんから怒られているのかわからない」みたいなことですよね。お客さんはGoogle Mapを見て来ているから「カニ面がある!」と思い込んでいる…たしかに、これは危険な感じがします。メディアの使い方というのは、例えばSNSとかGoogle Mapの使い方を、商店街の方々に「こんなふうに使えばいい」と最終的にインストールされる状態になるまでを、越後さんがお仕事されているということですか?
越後 わたしが全部やるというスタンスより、地元の人と一緒にやってみる。1回やったことがあれば次は自分でできちゃったりするものなんです。これまでは、商店街に若いお兄さんがいて、その人がやってくれたというようなことはあったと思うんですが、そこにわたしが入らせていただいて、その若いお兄さんの役をやって、地元の商店さんがそういったツールのバージョンアップをして、さらに持続可能にしていく、そんな取り組みにできたらいいなと思っています。
Tad なるほど。必ずしもクリエイティブの領域じゃなくても、Google Mapの最適化みたいなところで、お悩みをうまくキャッチされているわけですよね。どうやってその課題があるっていうことに気づかれたんですか?
越後 わたし自身、当事者意識が高いということがありますね。よく外食をするんですが、木倉町は割と水曜日がお休みだったりして、“この街独特のルール”ってありますよね。それって地元のみなさんは当たり前のように知っていて、「今日はその辺のお店はお休みだよ」って言われるんですけど、Google Map上でそれが更新されていないと、自分としては「行けるんじゃないか」となるわけです。それで、実際に行ってみて「あっ、やってなかった」と。これまでにそんな経験を何回もしたので、自分みたいな人が増えたら困るでしょうし、金沢にはおいしいお店も多いので、そういうところで残念な気持ちになるのって金沢という街にとっても損だなという気持ちが強くあって、課題を自分で見つけてお伝えしたという感じです。
Tad それって商店街の業者の方に「こういう課題があるんじゃないですか?」みたいにアプローチされるんですか?
越後 そうですね。幸い、わたしのことをいろんなところで紹介してくれる人がいて、金沢市商店街連盟という商店街を束ねる団体がありまして、そこに紹介していただいてセミナーをやってみて、さらに興味があった商店街様に呼ばれて…っていう感じです。
Tad 最初はセミナーをやって、「自分も移住者としてこういう課題を感じるので、ちゃんとやったほうがいいですよ」と?
越後 そうなんです。プロジェクターいっぱいにカニ面の写真を映し出して、「大丈夫でしょうか、みなさん!」と。
越後さんが講師を務めたセミナーの様子。
原田 なるほど!すごく伝わったと思いますよ。
越後 本当は笑ってもらえると思ったんですけど、結構深刻に受け止められて。
原田 「そうだったんだ!」と(笑)。
Tad 「うちもやばいかも」と(笑)。
越後 そうなんです。
原田 たしかにお店の方が自分の店のGoogle Mapがどうなっているかなんて客観的に見ることはないかもしれないですよね。
Tad そうですよね。越後さんはそういうメディアを使った発信という事業もしつつ、映像など、いろんなコンテンツ制作もされていると思うんですが、それらもやっぱり金沢にまつわるものが多いんですか?
越後 独立してからはVRっていうゴーグルをつけて見る特殊な映像技術を使った映像ばかり作っていたんですけど。
原田 仮想現実みたいなものですか?
越後 そうです。金沢でも一つそういったお仕事をやっています。 大手企業からの仕事で、アジア向けに観光映像をショッピングモールで流すVR映像制作のお仕事があったんですが、コンペの中でわたしが移住者だったこともあって、「いや、絶対に京都より金沢のほうが面白いから」ってずっと言い続けたせいか、金沢の街を実際に撮れることになって。金沢で本格的な撮影をさせてもらって、すごく楽しかったです。
Tad 業者の方っていうのはベトナムの方なんですか?
越後 そうなんです。金沢って台湾からの観光客がすごく多いですよね。アジアの方たちって、そういった台湾や中国の人たちが行く場所を参考に旅行先を決めていることがあって。時代によっても違うと思いますが。そのときは航空会社さんの戦略としては台湾の人だけでなく、タイやベトナムとかそのあたりの、これからお金持ちが増えていく国の人々が旅行先に選ぶと思われる都市の候補として金沢を選んでいただいて、それで金沢に決まったんです。
Tad 我々があまり知らないところでベトナムに金沢の風景が発信されていたということですよ。
原田 本当ですね。地元に住んでいたら気づかないことっていっぱいありますよね。外からいらっしゃったからこそ「わっ、これ面白いんじゃない?」っていうような視点がいろいろあったんだろうなと思います。
Tad そうですよね。そういう地元の人が気づいていない良さや魅力、価値を発信するというのが『46000株式会社』のミッションだと思っていいですか?
越後 そうですね。すごく趣味っぽくなっちゃうんですが、個人的な趣味や探求心とか知りたいことを「みんなも知りたいだろう」と自分の中である種「勘違い」をして、会社という体で仕事としてやっていくのがとても楽しいですね。
Tad なるほど。金沢の評価が高くなってるその裏側に、実は越後さんがいたんだっていうことをリスナーの方も実感されたかと思います。
越後 そうなりたいなと思います。

ゲストが選んだ今回の一曲

B’z

「HOME」

「わたしが今仕事をしている東京の音楽芸能事務所の所属アーティストで、そこからリリースされた曲ということでもあるんですが、ファンの方ならご覧になった方もいらっしゃるかと思いますけれども、コロナ禍でいろんなアーティストがいろんな形で“ステイホーム”というキーワードで、家の中で音楽を通じて『寂しくないよ』『楽しもうよ』というメッセージを伝える動きがたくさんありましたよね。この曲でアーティスト本人もリモートでZoomを使って収録をしつつ、YouTubeを通して発信して。ユーザーから投稿動画を募るなどのSNSでつながるキャンペーンをして、文字通り自分の故郷へのいろんな思いも込めて、映像を通してみんなで繋がっていこうよという試みをしました。直近で仕事を通じてこれまでで一番自分の人生が動いたと実感した、思い出深い曲です」

トークを終えてAfter talk

Tad 今回はゲストに『46000株式会社』代表取締役社長の越後龍一さんをお迎えしましたけれども、いかがでしたか、原田さん。
原田 Tadさんが一推しのクリエイターと紹介されましたが、クリエイターって例えば映像作品とかいろんなものを生み出す仕事でもあるけれど、いろんなつながりを創造する仕事でもあるんだなと感じました。
Tad 地元の人たちが普通に、当たり前のこととして見ているものも、県外から移住された人や旅行客の人の目で見ると、すごくイノベーティブに見えることもあれば、すごく独特で不便に見えることもあると思います。越後さんたちのお仕事って、それを不自然に強調したり、問題視して否定したりするんじゃなくて、金沢の人にも県外の人にもなじむ形で、街とか暮らし、旅をよりよくしているということなんだと思いました。
クリエイターっていうと尖った人が多いのかなって思われるのかもしれませんが、そういう意味ではすごく街や人にやさしいというか、すごくやわらかいクリエイター像を与えてくれたと思います。越後さんが金沢にいることで何か面白いことが起きそうだなと感じました。

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