前編

製菓・製パン業界を盛り上げるための新たな挑戦。

第114回放送

能崎物産株式会社 専務取締役

能崎 将明さん

Profile

のざき・まさあき/1981年、石川県金沢市生まれ。金沢桜丘高等学校、国士舘大学政経学部を卒業後、食品専門商社に入社。2012年、『能崎物産株式会社』(1920年創業 所在地:金沢市柳橋町 製菓・製パンの卸売業及び食品機械の販売)に入社。2013年、専務取締役に就任。2019年より、お菓子のセレクトショップ『Je prends ça(ジュプランサ)』としても事業を開始。

インタビュー後編はこちら

Tad 12月に入るとクリスマスケーキをどうしようかなと考えていらっしゃる方が増えるんじゃないかなと思います。
原田 いろんなケーキがあって迷っちゃいますよね。
Tad 洋菓子屋さんのケーキの材料ってどこから来ていると思います?
原田 小麦粉とかそういうものですよね。どこから仕入れるんでしょう…
Tad 今回はそうしたお菓子店の、さらに前段階での準備に関わる会社の方をお招きしております。『能崎物産株式会社』専務取締役の能崎将明さんです。
『能崎物産株式会社』は製菓・製パンの原材料の卸売業をなさっているということですが、詳しくはどんな内容になりますか?
能崎 簡単に言うと、お菓子屋さんやパン屋さんに原材料を卸して販売する会社です。メーカーや商社から原材料を買って、地域のケーキ屋さん、パン屋さんに販売するという事業です。
Tad 創業の頃から洋菓子店に向けて販売されていたんですか?
能崎 最初は和菓子屋さんが多かったようで、砂糖や小豆、桜の葉といった原材料の販売と小売をしていました。どちらかというとお菓子屋さんに買いに来てもらったり、材料を分けたりしていたのを、取り扱う種類が増えていって、現在の卸売業のような形になったと聞いています。
原田 時代のニーズもありますし、原材料は今やすごく多岐に亘っていますよね。
能崎 そうですね。商品数はかなりあると思います。在庫品だけで今、2000アイテムくらいあります。
Tad お菓子って、そんなにいろんな種類の材料を使って作られるものなんですね。
能崎 チョコレートひとつとっても産地が違ったり、最近はカカオバター分とかカカオ分ってよく耳にされるかもしれませんが、そういうものが異なったり、ブランドもたくさんありますし、それを足していくとものすごい量とアイテム数になります。
原田 取引先から「こういうものはない?」と言われて、さらに扱いを増やすということもあるわけですか?
能崎 そうですね、ご要望に応えて増えていったという感じではあります。
Tad ちょっと変わったご要望もあったりするんですか?
能崎 最近は誰でも気軽に情報を入手できますし、東京やフランスなどで修業されたシェフが帰国されると、「ヨーロッパで使っていたあの商品は?」とか「東京の修業先では〇〇〇を使っていたんだけど」とお問い合わせをいただくこともありますので、その商品を探して、これまで取引がなかったものはどうやって取引するかを考えます。やはりこだわりのある方も多いですし、味というのはちょっとした原料でも大きく変わるものなので、求められることは、できる限り応えたいなと思っています。
原田 原材料だけでなく、食品機械の販売もされているそうですね。
能崎 機械もありますし、包材と呼ばれる、ケーキ屋さんが使う箱やお菓子を入れる袋、さらにケーキの上に飾るロウソクなども取り扱っています。食品機械でいうと、いわゆるケーキ屋さんやお菓子屋さんが厨房で使う冷蔵庫、オーブン、ミキサーみたいなものや、ケーキを並べるショーケースもあります。それらをメーカーさんから仕入れて、お店に設置もします。販売と設置、さらにメンテナンスにも対応しています。
Tad 原材料屋さんというよりは、洋菓子屋さん、和菓子屋さん、パン屋さんのための総合的なプロデュース業という感じですね。
能崎 お菓子屋さんやパン屋さんに使っていただくもの、買っていただくものを少しずつ増やしていきながら、ご要望に応えていきました。「あれも要るということは、これも要りますよね」という感じで提案していったのか、お願いされてこのようなことを始めたのかは分からないんですが、今はそういうふうになっていますね。
Tad 2019年には『Je prends ça(ジュプランサ)』というお店をオープンされたそうですが、これはどういうお店なんですか?
能崎 これは『能崎物産株式会社』の立場から言うとお客様にあたるケーキ屋さんから、そのお店のケーキやお菓子を『ジュプランサ』としてセレクトして仕入れて販売しています。当店で何店舗かの洋菓子屋さんのお菓子を買えるということなんですが、洋菓子屋さんを知ってもらうお手伝いができればいいなと思っています。各店がどんなケーキを作っているのかをお客様に知っていただく広告塔のような、発信する場所として立ち上げて、お菓子をセレクトして販売しています。
Tad お店はどちらにあるんですか?
能崎 金沢市笠市町という金沢駅から徒歩8分くらいのところにありまして、もう一店舗は2021年3月に金沢駅の百番街、『あんと』に2店舗目を出店しました。
(※本内容はラジオ番組放送時の情報です。笠市町の店舗は現在、通常営業はしておらずイベント等での販売営業となっています)
Tad 笠市町のお店の写真を拝見させてもらいましたが、素敵な木造の小屋のような、おとぎ話に出てきそうな雰囲気ですね。
金沢市笠市町にあるお菓子のセレクトショップ『Je prends ça(ジュプランサ)』。(※現在はイベント時のみ営業)
原田 静かな通りにありますよね。わたしも通りかかって「あれ?」と思った記憶があります。
能崎 住宅街にあるんですが、実はあの場所は『能崎物産株式会社』の創業の地なんです。『ジュプランサ』を造る前は砂利の駐車場としてしばらくお貸ししていたんですが、なんとなく創業の場所でもう一度、という思いもあって、整備してお店を建てたんです。あんまり洋菓子屋さん風に作らないでおこうかなと思って、山小屋みたいなイメージで造りました。洋菓子屋さんっぽくないので、うっかり通りすぎてしまったり、見つからないと電話がかかってきたりもするんですが…。
原田 ちょっと奥まったところにありますよね。
能崎 細い路地にあって、昔ながらの間口が狭くて奥行きがある感じですね。手前が駐車場で奥に店舗があります。ほかの洋菓子屋さんには「普通は道の前にすぐ店舗を作るものなんだよ」と言われました(笑)。「変わったお店ですよね」と言われながら見つけてもらうのもいいかなと思っています。
原田 『ジュプランサ』とは、どういう意味なんですか?
能崎 フランス語で「これをください」という意味なんです。「これください」と言ってもらおう、というとこからいろいろ案が出ました。最初は『ツエーゲン金沢』さんみたいに金沢弁っぽくて英語っぽいものをいろいろ調べたんですが、なかなかいい言葉がなくて。それで、いろんなお店の商品をお客さんに見て、選んでもらって「これください」と言ってもらおう、というところから『ジュプランサ』として立ち上げました。
フランス語で「これをください」を意味する『ジュプランサ』。
Tad 『能崎物産株式会社』として原材料をお納めしているケーキ屋さんやパン屋さんなどのアイテムをセレクトショップのように販売されているということですね。
原田 セレクトするにあたっては、今おすすめのものとか季節のものを選んでいらっしゃるんですか?
能崎 そうですね、取り扱う商品は各店のシェフと僕とで打ち合わせをさせてもらって決めます。簡単に言うと、一つは各店の看板商品、もう一つは季節の商品や新商品という感じです。こちらからお菓子屋さんに、「これが一番の貴店の顔だと思うので、これにしましょう」と提案もしますし、先方も「これがうちの看板なんで」と出してくれることが多いです。
原田 なかなか普段気づいていないものや、行ってみたかったけど行ったことがなくて、「あ、あのお店のものなんだ!」っていう発見がありますよね。
能崎 『ジュプランサ』はそういう使い方をしていただければいいなと思っています。うちの店に来て、知らなかったお店のケーキを1つ食べてみて、「こんなにおいしいんだったら、本店に行ってみよう」となればいいなと思っています。雑誌やインターネットで各店の情報を知ることもあると思うんですが、やっぱりお客様にとっては「1個食べてみる」というのがひとつのハードルになっていると思いますので、まずは僕の店で気になるお店の商品を見つけていただいて「あ、おいしそう」とか、食べてみて「おいしいな」というところから、今度はそのお店に直接行ってもらう。そんなふうにしていただくのが『ジュプランサ』の理想な楽しみ方かなと思います。
金沢駅の百番街「あんと」内にある店舗。地元のさまざまなショップのお菓子が並んでいる。
Tad 人によってそれぞれ「このケーキ屋さんが好き」という好みがありますが、新たな出合いの場になりそうですね。
能崎 そうですね。金沢には素敵なケーキ屋さんがたくさんあるんですが、やはりなかなか知られないところもあったりしますから、『ジュプランサ』としては、みなさんにとってケーキ屋さんを開拓するきっかけになる場所でありたいですね。
Tad 『能崎物産株式会社』としては、これまでは原材料を卸したり、機械を納品したりと、いわゆる洋菓子屋さんなどのバックヤードを中心に動いていたのが、『ジュプランサ』によって急にフロントに来たという感じなのかなと思いますが、何か新たな気づきはありましたか?
能崎 僕らもお客様のためだと言いながら、どこか『能崎物産株式会社』の都合で販売していたこともたくさんあったんだなと思いました。自分でケーキ屋さんを一からつくったわけではないですが、ケーキ屋さんとして営業してみると、みなさん、すごく大変なんだなという実感はあります。また、これまではどうしても僕らの都合でケーキ屋さんに「100枚からしか売れません」とか「1ケース、いや10ケース買ってください」という商品もあったわけですが、各店舗のバックヤードが狭いという事情や、細かくいろんな商品が欲しいんだなということが分かりましたし、どういったケーキが好まれるのかという気づきもありました。『能崎物産株式会社』として「お客様のためにやっています」という顔をしながら、実はこちらの都合を優先して販売していたようなところがあったんだなと。生ものを扱うことの難しさもありますし、あらためて気づけて良かったかなと思っています。
Tad それがまた次のビジネスの種になりそうですね。
能崎 そうですね。当社がお客様の現場を理解した上でお客様に提案し、寄り添うことが大事なのかもしれません。僕らはケーキそのものを作っているわけではなく、あくまで卸売業ですから、お菓子屋さんが発展していくことで僕たちも発展していくことができます。そのお手伝いをどんなふうにできるかという学びを得ることができました。
原田 創業は能崎さんのひいおじいさまが?
能崎 はい。曾祖父ですね。
原田 能崎さんは、ゆくゆくは四代目になられますが、いろんな時代に合わせて変化してきて、今、『能崎物産株式会社』に求められていることはどんなふうに感じていらっしゃいますか?
能崎 昔は、東京や大阪じゃなくても金沢で材料が買えるという所から事業が始まって、取り扱いアイテムが増えていきました。次の段階ではお客様のご要望から厨房機器も扱うようになりました。現在は、どういうふうにお菓子を売っていくのかといったことや、お店づくりの部分でも、原材料と一緒に提案できるのかなと思っています。そのためには自分でまずはお菓子を売ってみるというのは、かなりプラスにはなりました。
原田 お菓子屋さんにとって最高の相談相手になれそうですね。
能崎 それが理想ですが、まだまだお菓子のことや原材料のことも勉強しなければなりません。
Tad ケーキ屋さんや洋菓子屋さん、パン屋さんはケーキやパンを作ることに集中したいと思いますし、それ以外の部分についてもフォローされていらっしゃるんですよね。
能崎 はい。『ジュプランサ』は「現金が使えないお店」として笠市町の店舗を立ち上げました。僕はそれが得意だったわけではなかったんですが、これからはキャッシュレスだと世の中が騒いで、これからそういうふうになっていくということを洋菓子屋さんもお菓子屋さんも気にされていたので、「じゃあ僕たちが先にやってみます」というような感じで、「クレジットカードしか使えないです」とか「決済は現金ではできません」と言ったときに一般のお客様がどれぐらい反応するかというようなことを『ジュプランサ』で試してみて、それを今度は僕らであるお客様に還元していく、ということもやっています。そういう役割をもっと担っていけるといいなと思っています。
Tad 次のお店の在り方について、各店に先駆けていろいろ試されて、それをみなさんにフィードバックしていかれるということですね。
能崎 そうですね、そういう立場になれればいいなとは思っています。

ゲストが選んだ今回の一曲

Kan Sano

「Endless River」

「金沢桜丘高校を卒業したんですが、Kan Sanoさんは2個下の後輩なんです。僕が3年の時に、僕と同じブラスバンド部の同級生が『1年に天才的なのがいる、すごいのがいる。学園祭でピアノを弾くらしいから見に行こう』と言って見に行きました。すでにその時に彼はオリジナル曲を弾いていましたが、彼の作品を大人になってからCDショップで見つけて、『あの時の彼だ!』と驚きました。今はどんどんメディアに出て有名になっていらっしゃいます」

トークを終えてAfter talk

Tad 今回はゲストに『能崎物産株式会社』専務取締役の能崎将明さんをお迎えしましたけれども、いかがでしたか、原田さん。
原田 『ジュプランサ』を始めたことで、お菓子屋さんの大変さが身をもって知ったというお話がすごく印象的でした。2021年で創業101年目ということですが、これからお菓子屋さんのどのようなパートナーになっていかれるのかということに興味がわきました。
Tad そうですね。創業の地、笠市町と『あんと』にもできた『ジュプランサ』というお菓子のセレクトショップは、すばらしいコンセプトだと思いました。『能崎物産株式会社』のお客様の商品を売るわけですから、たくさんの人がそこでお気に入りのケーキやお菓子を見つけられるようになれば、お菓子店さんが繁盛してくれて、原材料の使用量もきっと増えるだろうということですよね。それからお客様が、お店を経営される上でどんなことにお困りなのかを身をもって理解でき、そこにまた新たな提案のチャンスがあるかもしれない。非常に説得力があるなと思いました。これもやはり『能崎物産株式会社』がただの原材料屋ではなくて、洋菓子屋さん、和菓子屋さん、パン屋さんのための総合的なパートナーであらねばならないという創業時からの存在意義を体現する方法だと思うんですが、非常にエレガントな方法だなと思いました。しかも創業の地で、というところにもドラマがありますよね。

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