後編

ショコラの街・金沢をプロデュース。

第115回放送

能崎物産株式会社 専務取締役

能崎 将明さん

Profile

のざき・まさあき/1981年、石川県金沢市生まれ。金沢桜丘高等学校、国士舘大学政経学部を卒業後、食品専門商社に入社。2012年、『能崎物産株式会社』(1920年創業 所在地:金沢市柳橋町 製菓・製パンの卸売業及び食品機械の販売)に入社。2013年、専務取締役に就任。2019年より、お菓子のセレクトショップ『Je prends ça(ジュプランサ)』としても事業を開始。

インタビュー前編はこちら

Tad 金沢といえば和菓子の町っていうイメージがありますよね。実は意外にも、世帯当たりのチョコレート消費量も金沢は日本一だそうです。
2018年~2020年平均の品目別都道府県庁所在市及び政令指定都市ランキングより)
原田 チョコレートも?
Tad そんな金沢で老舗のお菓子材料の卸売屋さんはどんな展開をされているのか――今回のゲストは前回に引き続き、『能崎物産株式会社』専務取締役の能崎将明さんです。
プロフィールによると、能崎さんは一度別の会社に入社されていますね。
能崎 現社長の父親に会社を継げと言われたことはないんですが、物心ついた時ぐらいから、「いずれやるんだろうな」と思っていました。大学では経済を勉強して、食品を取り扱っている会社に就職しようとなんとなく思って、就職しました。基本的には最初から食品に携わろうと思っていましたが、まず一回勉強として違う会社に就職したという感じです。
Tad それはご自分にとってプラスになりましたか?
能崎 そちらは本当に大きな会社で、全国で商売をしている商社だったので、そのネットワークに助けられているところはあります。僕はそこで6年間働きましたが、困った時にこの人に聞けるというネットワークを作ることができたので、それが一番大きかったです。
Tad そちらでもお菓子の原材料を取り扱っていたんですか?
能崎 はい。ナッツやドライフルーツを輸入したり、大きなお菓子メーカーに販売したりする商社でした。みなさんがよく知っている大きなパン屋さんや製菓メーカーが主な取引先でした。
Tad 能崎さんが『能崎物産株式会社』に入社するのが2012年ということですが、これは何か経緯があったんですか?
能崎 本当は5年くらい働いたら帰ってこようと思っていたんですが、東京で3年働いたら大阪に転勤してほしいと言われまして。当社の現社長に相談したら「わかった」と言ってくれたので、東京で3年、大阪で3年働いて帰ってきました。
金沢市柳橋町にある能崎物産の金沢本社。
Tad やはりお父様としては「いずれ帰ってきてほしい」という思いがおありだったのでしょうね。
能崎 あとから周りの人に聞くと、僕以外にはそんなふうに言っていたようですね。
Tad 前回は、『能崎物産株式会社』はパン屋さんや洋菓子店、和菓子店に原材料や機械を納める立場でありながら、パン屋さん、洋菓子店、和菓子店のための総合的なパートナーであらねばならないという思いを実現する場として、お菓子のセレクトショップ『ジュプランサ』を始めたというお話をうかがいましたが、今の御社、あるいは能崎さんがまさにチャレンジしようとしていることがあれば今回、お聞かせ願いたいなと思っています。
能崎 『ジュプランサ』を立ち上げたときから構想はあったんですが、「金沢をチョコレートの街にしよう」という目標、スローガンがあるんです。先ほどMitaniさんからお話があったように、金沢はチョコレートの支出額が全国1位という街なので、金沢をチョコレートの街にすることによって金沢のお菓子を広め、発信していって、県内の方にももっともっとお菓子を食べていただきたいし、県外から来た方にも観光に来て、「金沢に来たらお菓子を食べなきゃね」と思ってもらいたい。それは買って帰ってもいいし、その場で消費してもいいんですが、チョコレートが観光の目的の一つになればいいなと思いながら今、チャレンジしているところです。
能崎さんは「金沢をチョコレートの街にしよう」という思いでさまざまな発信をしている。
原田 意外です。「金沢とチョコレート」、不思議な組み合わせのような…
能崎 僕らもなぜ金沢でそんなにチョコレートが消費されるのか、いろいろと考えてみました。和菓子とお茶のように、お茶と相性のいいものとして、ということでもありますし、今ではコーヒーや紅茶などいろんな飲み物のお供としてチョコレートを味わうということが、金沢市民にはしみ込んでいるんでしょうね。
原田 そうですね、お茶菓子の組み合わせは、お抹茶だけでなく、コーヒーや紅茶である場合もあるでしょうし。
能崎 それがずっと続いていて、昔は和菓子しかなかったけど、だんだんいろんなお菓子が出てきて、コーヒーを飲む時にはケーキも食べますし、チョコレートがすごく身近だったんじゃないかなと僕は推測しています。お茶文化がここにつながっているのではないかと。
Tad お茶請けとしてのチョコレートっていうことですね。
原田 なるほど。金沢発信と言うからには、金沢でこだわってチョコレートを作っている方々も結構いらっしゃるんですか?
能崎 そうですね、あんまり表立って「チョコレートしかやっていません」というお店は少ないですが、チョコレートが得意なシェフはたくさんいらっしゃいます。
原田 そうなんですね。
能崎 有名ショコラトリーで修業された方や、ベルギーやフランスで勉強された方で実はチョコレートが得意という方もいらっしゃいます。ボンボンショコラっていう小さい四角いトリュフみたいなお菓子がありますよね。あれって全国的にみると夏は売れないので、一年中販売しているお店って少ないんですが、金沢ではそれを一年中売っているケーキ屋さんを結構見かけるんです。あるいは、チョコが得意なシェフが商売との兼ね合いもあってケーキも作っていて、ケーキ屋さんとして認知されているけれど、本当はチョコレート屋さんでもある、というお店もあります。
原田 今は昔とチョコレートのイメージが違って、板チョコもおいしいですが、切り口がケーキみたいに美しい層になっているものもあって、一つのお値段もそれなりにしますが、すごくこだわりを持って作っていらっしゃるシェフも多いんでしょうね。
能崎 そうですね。コーヒーと似ていて、カカオの産地や、カカオ分のパーセンテージが違うとか、何を組み合わせるかで個性が出るので、それを楽しんでいただけるといいなと思っていますし、そういう街になるといいなと思っています。
Tad 発信という部分にも力を入れていらっしゃるんですか?
能崎 「チョコレートの街・金沢」と僕が一人で言ったところでなかなか広まっていかないので、金沢の人たちで連続ドラマを撮ろうと、2年ぐらい前から企画として挙がっていました。最初は雑談ベースでしたが、2021年8月に金沢市で全5話のドラマを撮影しまして、「鈍色ショコラヴィレ」というタイトルで2022年2月にMRO北陸放送で放送されます。
(註:すでに放送されました。ドラマのWebサイトはこちら
原田 鈍色というと、金沢の空のイメージですか?
能崎 そうです。これは僕の仮説なんですが、金沢の空は割といつも暗いですよね。金沢の人は一日の日照時間が少ないから、鮮やかなものを好むんじゃないかと。加賀友禅とか九谷焼、料理、和菓子もすごく華やかですよね。鈍色の下にある街だけど、すごく鮮やかなものがいっぱいあるというところから「鈍色ショコラヴィレ」というタイトルにしたんです。
Tad なるほど。どんなドラマなんですか?
能崎 実在する洋菓子屋さんで、ケーキが出てきて、ちょっとだけシェフのインタビューを参考にしてますが、フィクションではあるんですが、お店の雰囲気も感じられるように、ショコラやお菓子にまつわる話が1話ずつ展開していきます。主演は新垣里沙さん。お菓子ブロガーとしていろんなお店をまわりながら、各店ごとにちょっとしたエピソードを15分ずつ紹介していきます。
原田 なるほど。地元の方が知っているお店や、行ってみたかったお店が出てくるんですね。
能崎 観光も少し意識して、近江町市場や金箔体験のシーン、茶屋街を歩くシーンを入れたりして、みなさんの知っている金沢の風景や人が出てきたりします。そういう部分も楽しんでもらいたいですね。金沢のみんなで作っているんだよというところも感じてもらえたらいいなと思っています。
Tad 金沢のみんなで作っている、というと?
能崎 監督は高岡の方ですが、スタイリストさんやロゴデザインなどのアート・ビジュアルを担当した方は金沢の方なんです。金沢にいてもドラマの仕事があるというところで、いろいろな企業にもご協力いただきました。自分たちも関わったドラマだと思っていただける人が一人でも増えたら、たくさんの方に見ていただけるのかなと思って。
Tad 巻き込まれてしまうと「絶対観なきゃ」っていう感じはありますよね。
原田 そういう背景をお聞きすると、ドラマを観る人も夢を感じられますよね。金沢でもこんな仕事ができるんだ、とか、こんなことがあるんだとか。
能崎 うですね、東京や大阪に行かなくても、金沢でもおもしろいことができるよということが伝わればいいな、とも思っています。
Tad そこでも『能崎物産株式会社』としては表にあんまり出てこないんですよね。
能崎 そうですね。
Tad お客様であるケーキ屋さんが主役で、そこでも御社はセレクトショップのような立ち位置で。
能崎 はい。今回は5店舗ですが、視聴者の方がドラマを観て次の日にそのお店にケーキを食べに行きたいと思ってもらうというのが目的ですし、お菓子にはこういう背景があるんだとか、こんなお店なんだということが地元のみなさんにドラマを通じて伝わって、明日ケーキを買いに行こうと思ってもらえるといいなと考えています。第二弾もぜひやろうと思っています。

ゲストが選んだ今回の一曲

陽香留(ひかる)

「ほしをみるひと」

「今回の僕たちのドラマの主題歌を歌っていただく陽香留さんの曲です。一緒にドラマを作った金森正晃監督が前作で作った曲ということで選ばせていただきました」

トークを終えてAfter talk

Tad 今回はゲストに『能崎物産株式会社』専務取締役の能崎将明さんをお迎えしましたけれども、いかがでしたか、原田さん。
原田 お菓子の業界を盛り上げようと、能崎さんはついにドラマの企画までされて、とても驚きましたし、お菓子の現場から出てきたお菓子のドラマ、放送がすごく楽しみです。
Tad ドラマの仕掛人が洋菓子の原材料の卸売業をされている『能崎物産株式会社』だというのもすごいことですし、卸売業である能崎さんは、自社の商品のブランディングではなく、「金沢のショコラ」という自社のお客様全体のブランディングをされているんだなと思います。前回うかがったお菓子のセレクトショップ『ジュプランサ』も、今回うかがった「鈍色ショコラヴィレ」というドラマも、「何を売る会社なのか」ではなく、「何のための、誰のための会社なのか」ということを中心軸に考えて、その意味では変化球じゃなくてストレートなやり方なんだろうなと感じました。

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