前編

石川の企業を全国や海外へと橋渡しし、イノベーション創出を目指す。

第134回放送

株式会社みずほ銀行 金沢支店長

泉屋拓郎さん

Profile

いずみや・たくろう/1974年、石川県金沢市生まれ。金沢大学教育学部附属高等学校、慶應義塾大学法学部法律学科を卒業。1998年に『株式会社第一勧業銀行』(当時)に入行、その後、『株式会社みずほコーポレート銀行』ストラクチャードファイナンス営業部、クレジットエンジニアリング部などに所属。2012年、みずほフィナンシャルグループ従業員組合中央執行委員長を経て、『株式会社みずほ銀行』池袋第二部副部長、『株式会社みずほフィナンシャルグループ』取締役会室参事役を務める。2020年、『株式会社みずほ銀行』金沢支店長(金沢市上堤町)に就任。

インタビュー後編はこちら

Tad 今回のゲストは『株式会社みずほ銀行』金沢支店長の泉屋拓郎さんです。泉屋さんはこの番組のヘビーリスナーでいらっしゃるとか。ありがとうございます。
泉屋 毎回楽しく聞かせていただいております。
Tad (笑) ちなみに何かお役に立てたことはありますでしょうか?
泉屋 会社のイノベーションに関するいろんなアイデアをいただいて、この番組をきっかけにお話をした企業もございます。
Tad うれしいですね。ありがとうございます。まず伺いたいのは、『みずほ銀行』とは、どういう銀行なんでしょうか?
泉屋 『みずほ銀行』は、大河ドラマでも取り上げられた渋沢栄一さんが日本で最初に設立した『第一国立銀行』(後の『第一勧業銀行』)、富山県出身の安田善次郎さんが作った『安田銀行』(後の『富士銀行』)、それと、産業育成を目的とした『日本興業銀行』、この3つの銀行を源流としまして、2002年に『みずほ銀行』が誕生しました。
Tad なるほど。当時は大型の経営統合が話題になりましたね。『みずほ銀行』と言えば日本を代表するメガバンクの一行ですが、金沢支店はどのような役割を果たしているんでしょうか?
石川県金沢市のオフィス街エリアにある『みずほ銀行 金沢支店』。
泉屋 銀行の中でも大きな銀行になりますが、全都道府県や世界中に支店があるというのが『みずほ銀行』の特徴です。金沢にありながらグローバルにネットワークを張り巡らせていて、我々は金沢、あるいは石川県のお客様と、世界、全国津々浦々のお客様とをつなげる、そういう役割を持っています。
Tad “つなげる”というのは、どのように?
泉屋 例えば、金沢の会社が世界に進出するときや、世界のお客様や東京のお客様に石川県の企業を紹介するときなどですね。
Tad 実際は、どんなふうにつながっていくものなんですか?
泉屋 石川県にはいいものを持った会社がとても多いのですが、一方で情報に非常に飢えてもいますので、ビジネスマッチングの取り組みもさせていただいております。
原田 地方銀行もありますが、『みずほ銀行』くらいの大きな銀行になると、世界や大きな都市とつなぐという部分が大きな役割になるんですね。
泉屋 お借入れなどはどこの銀行でもできることではありますが、それだけでなく、みずほの場合は証券、信託、あとはコンサルティングも含めて幅広くワンストップでサービスを提供できるという特徴があります。
Tad 一般の消費者目線で見ると、銀行の事業といえば「預ける・引き出す・借りる」というイメージがあるんですが、ほかにはどんな仕事があるんでしょうか?
泉屋 一般の個人のお客様にしてみれば、銀行窓口が朝9時から午後3時まで開いていて、預金を下ろしたり預けたり、というイメージかもしれませんが、企業の皆様にご融資することも銀行の大きな仕事です。しかし、今の時代はそれだけではなく、むしろ銀行が持っている情報をどう使えるか、あるいはその情報を使ってそれぞれの企業様が発展するためにどうお役立ていただくかということのほうが、今はメインになっていると思います。
原田 情報というのはどのようなものですか?
泉屋 お客様とはいろいろな話をします。むしろ資金のことより、会社それぞれの事業のお話をします。そこで得られた情報を本部で集約しておりますので、その情報を元にお客様同士をつなげます。
原田 例えば何かを考えている会社があって、同じようなことを考えている会社があるとすると、その二社が一緒に何かしたらおもしろいんじゃないかとか、そういう提案だったり?
泉屋 はい。むしろそういう話のほうが支店長としてはメインになりますね。お金の貸し借りよりも、その事業をどうやって成長させるか、その中で社長の夢やどういうことをやっていこうかということをいろいろとお聞きしますので、そこから我々ができることは何があるんだろう、というような会話を常にしています。
Tad 先ほども世界や全国、大都市とつなぐというお話がありましたが、そういう観点でつなげていく、ということになるんでしょうか?
泉屋 石川県の中だけで物事を完結しない時代になってきていますので、お客様のそういったニーズ、要望は非常に強いと思います。
Tad 具体的なニーズにはどのようなものがありますか?
泉屋 石川県の会社は非常に技術もあって、内部留保も厚くて体力もあるんですが、例えば「こういう会社を買いたい」とか「こういうところと取引したい」という要望が結構あります。それについて情報を集めたり、あとは全国に支店がありますので、直接やり取りしながらつなげたりもします。もう一つは、先ほど申しましたように証券、信託といろんなグループ会社がございますので、横のネットワークを活かしながら情報を集めて、“One MIZUHO(ワン・みずほ)”で、ワンストップでいろいろなサービスを提供して欲しいという要望にお応えしています。
Tad 『みずほ銀行』はすごく柔軟な組織体制だなという実感があります。フロントは泉屋さんであり『みずほ銀行』ですが、企業側のニーズに応じて信託、証券、コンサルティングと最適な組み合わせで打ち合わせやミーティングをさせていただいたり、何かプランについてのお話をさせていただいたりします。組織の垣根を越えて“One MIZUHO”を本当に体現されているなと感じるんですよね。
原田 常に組織の垣根を越えて情報交換をなさっているということですか?
泉屋 そうですね。お客様の情報については制限があるんですが、商品の情報は常にやりとりしていますし、『みずほフィナンシャルグループ』全体の組織も、「カンパニー制」といってお客様ごとに区切っているんですね。中小企業のお客様だったら中小企業に必要なものを銀行、信託、証券の垣根を越えて考え、大企業だったら大企業に必要なものを、というふうに、お客様ごとにセグメントを分けているというのが「みずほ」の特徴なんです。お客様ありき、お客様第一で考えたときの、あるべき姿を追求しています。
Tad 極論すれば、お金自体はどこで借りても同じなのかなという感じもありますよね。
泉屋 はい。本当にお金を提供するだけとなると結局コスト競争になってしまうというところではあるんですが。
Tad 「金利が安いところがいい」みたいな…
泉屋 そうなんですよね。そういうことではなくて、我々の日頃の情報力や、いかにお客様に寄り添ってお客様の課題を聞き、解決するのか、そういうところで我々は付加価値を持とうと考えています。
Tad 『みずほ銀行』として、もしくは『みずほフィナンシャルグループ』としても、必ずしも融資の金利で稼ぐという時代ではもうなくなってきていて、お客様にサービスを提供するなかで価値を認めていただいて、収益を作っているということですね。
泉屋 貸し出しだけで、あるいは預金だけで銀行がみなさんのお役に立てられるという時代ではなくなってきていますので、5年10年ぐらいの中長期的な目線でどうやって地域やお客様に貢献できるのかということを、常日頃から考えていかなきゃいけないと思います。
Tad 地域貢献というと、直接お金には結びつかなくて、むしろコストがかかるもののようにも思えますが?
泉屋 「石川県に『みずほ』があってよかったな」と思ってもらえるようなブランド力が、結果として巡り巡って利益になってくるんじゃないかなと考えます。遠回りかもしれませんが、やはり長い目で見たときに利益になる、そういうことを考えながらやっているということですね。
原田 実際に夢をかなえたりするのは企業かもしれないですが、それを応援して、バックアップして、一緒にその地域を盛り上げる、そういう役割をなさるということでしょうか?
泉屋 そうですね。銀行というのは、そのものが主人公になることはなくて、お客様あっての業種だと思いますので、そこをいかに体現していくかというところですね。
Tad 銀行とイノベーション、仮にこの言葉を並べてみたときに、金沢支店としてはどのようにお考えになられますか?
泉屋 まだ道半ばというところですが、例えば、スタートアップ企業にも積極的に首を突っ込んでいかないと、我々自身も成長がないように感じています。そういうスタートアップ企業、イノベーション企業との接点の中でいろんな新しい出会いや考え方に触れられますし、そういう会社がひょっとしたら10年後に大きな会社になっているかもしれない。ひょっとしたらGoogleみたいになっていたり…。そういう可能性というのは多分にあると思うんです。そういった接点を大切にして、そこに対する目利きやアドバイスできることを我々自身が鍛えていかないと、銀行の将来もないんじゃないかなと思いながら取り組んでいます。
Tad 具体的にはどんなことをされているんですか?
泉屋 まず金沢、石川県のイノベーション企業をしっかりサポートすべく、『みずほ銀行』ではイノベーション企業支援部というスタートアップ企業を中心にサポートする部隊があるんです。そこを、金沢のお客様、石川県のお客様に紹介する、あるいは東京で勢いのあるイノベーション企業を金沢のお客様に紹介する。直接は関係ないかもしれませんが、そういう企業の動きを石川県の企業に知ってもらうだけで、ひょっとしたら化学反応が起きるんじゃないかと思っています。
また、直接は関係ないと思われる考え方を実際に自分のところに持ち込んだときに、ひょっとしたら新しいことができるんじゃないかと考えている若手企業が、石川県には本当に多いと感じます。そういう企業同士を積極的に結びつけることをやっていきたいなと思っています。
Tad 全国にネットワークがありますし、なおかつ東京や大阪のようなスタートアップ集積地でベンチャー企業と一般企業のマッチングをする“M’s Salon”というイベントをされていますよね。そういった取り組みを通じて、地方にもそういうベンチャー企業の情報が、たぶん泉屋さんの元にも色々と入ってきているのかなと思います。
泉屋 石川県の企業、あるいは大企業がスタートアップ企業と付き合おうとすると、まず、スタートアップ企業というのは本当にいっぱいあるわけですが、『みずほ銀行』が紹介するスタートアップ企業は、我々がしっかり中身を見させていただいているので、安心して付き合っていただける企業ばかりでございます。そういう企業と石川県の企業をしっかり結び付けていけたらなと思って取り組んでいます。
Tad 短期的には収益につながらない事業ですよね。その辺はどうお考えになられているんですか?
泉屋 前の銀行であれば、どの会社でもそうですけれども、短期的な利益・収益の目標が掲げられていましたが、最近の『みずほ銀行』ではそういう定量的な項目だけではなく、金沢支店が持続的に成長するために必要な種まきのような動きについてもしっかり評価する体系に変わってきています。そういう観点では、むしろ将来的にどう取り組めるかというところを重視したいですね。そのほうが若手社員にとっても「銀行っていろんなことができるんだな」と思ってもらえていいんじゃないかなと思っています。銀行の名刺を持っていけばいろんな方にお話を聞けますから。いろんな提案もできて、非常にクリエイティブで、自由度が高くて夢のある職場なんだということを、特に金沢支店の若手のみんなには伝えたいなと思っています。

ゲストが選んだ今回の一曲

ASKA

「晴天を誉めるなら夕暮れを待て」

「高校時代まで金沢に住んでいまして、高校時代からずっとCHAGE and ASKAのASKAさんのファンなんです。特にこの曲は『晴天を誉めるには日没を待て』ということわざをASKAさんがアレンジした曲です。山あり谷ありの人生で、絶頂の時というのはどうしても思い上がるところがあったりするんですが、いろんなことが終わった後に『あの時はよかったな』と思えばいい。天狗になるな、自画自賛するんじゃなくて、まずは自分を諫めよ、というメッセージがこもった曲です。ライフステージのいろんな場面でこの曲を聴きながら、自分自身を顧みるようにしています」(泉屋)

トークを終えてAfter talk

Tad 今回はゲストに『株式会社みずほ銀行』金沢支店長の泉屋拓郎さんをお迎えしました。いかがでしたか、原田さん。
原田 泉屋さんのお話をお聞きして、銀行って企業同士をつなげたり、可能性を広げたり、地域を盛り上げたりと、すごく夢のあるお仕事なんだなと思いました。
Tad そうですね。メガバンクが地方に支店を出す意味って何だろうと思われていた方もきっといらっしゃると思うんですが、今回、その謎が解けたんじゃないかなと思います。『みずほ銀行 金沢支店』は石川県や北陸の会社が県外・海外で活動したり、県外・海外にお客様を求めたり、県外・海外の技術やイノベーションを取り入れたりする上で、重要な役割を担っています。イノベーションが生まれやすい状態というのは、実はネットワーク理論によって科学的に解明されています。それは、異質なもの、違う考え方、違う技術、違う市場に少ないステップでアクセスできるということなんです。泉屋さんは、県外・海外との橋渡し役こそ『みずほ銀行 金沢支店』のミッションと捉えられて、短期利益ではなく中長期的な視野・視点でまさに“One MIZUHO”を具現化することで、大きな価値構築を担われているんだと感じました。

読むラジオ一覧へ