前編

能登牛をはじめとする高品質な食肉を全国へ。

第120回放送

株式会社サニーサイド 専務取締役

中田 光信さん

Profile

なかた・みつのぶ/1985年、石川県金沢市生まれ。金沢大学附属高等学校を卒業後、慶應義塾大学経済学部に進学。2009年、『スターゼン株式会社』に入社。子会社の『スターゼンインターナショナル株式会社』で牛肉の輸入と販売に携わる。2015年、『株式会社サニーサイド』(創業は1926年。金沢市南新保。食肉卸売業)に入社し、取締役に就任。2018年に専務取締役に就任。2021年には『株式会社野々市ミート』を設立、代表取締役に就任。

インタビュー後編はこちら

Tad 石川県にはおいしい食材がたくさんありますが、最近注目されているものの中に能登牛、能登豚といったお肉があります。スーパーやレストランでもよく見かけますし、石川県を代表するブランドに育っていますよね。今回は、石川県で能登牛といえばこの会社、能登牛の取り扱いについては業界最大手である『株式会社サニーサイド』専務取締役の中田 光信さんをゲストにお招きしています。こうして会うのは少し照れくさいのですが…実は中田さんとは小・中学校、大学の同級生でもあるんです。
中田 そうなんですよ。小学1年生の頃からよく知っています(笑)。
原田 お互いにいろんなことを知っているんですね?(笑)
Tad でも会社のことをお聞きするのは今回が初めてなんですよね。簡単にどんな会社なのかをご紹介いただけますか?
中田 『株式会社サニーサイド』は主にお肉の卸売りをしている会社です。お肉の卸売りというのは、石川県内外や世界各地からお肉を仕入れてきて、街中のスーパーや焼肉屋さん、ホテル、旅館、レストラン、結婚式場と、お肉を使用するありとあらゆるところに供給しているということです。ところでお二人は、映画の『ロッキー』ってご存じですか?
原田 ええ。
Tad はい。最近見たんですけど。
中田 最近ですか(笑)。『ロッキー1』って、ロッキーが冷凍庫の中で牛肉の塊をバーンバーンとやりながらトレーニングをしているシーンがありましたが、あのぶら下がっているものを「枝肉」と言います。特に国産和牛や豚肉に関しては枝肉の状態で仕入れて、会社の加工場でチェーンソーを使って切ったり、「脱骨」と言って熟練の職人がお肉をカットして食べやすい形にし、塊で納品する場合もあれば、スライスして焼肉セットのような形ですぐに焼いて食べられる状態にして納品するところもあったりと、お客様に応じていろんな形でお肉を提供・供給しています。あらゆる業態のお客様がいらっしゃいまして、我々の会社は金沢にありますが、毎日、富山県と福井県にも配送しています。現時点では福井は京都との県境の小浜まで、富山は魚津の方までと、結構広範囲に亘って、毎日だいたい27、8台くらいは自社の営業トラックを走らせています。
熟練の職人が肉をカットしてさまざまな形で提供している。
Tad それだけお客様が多いということですね。創業は大正15年ということで、歴史のある会社ですよね。
中田 『株式会社サニーサイド』は、ちょうど私の曽祖父にあたる中田甚造が創業したんですが、最初は『天狗中田 白銀町店』というところからスタートしたんです。今、街中に『天狗中田』というお肉の小売店がいっぱいあると思うんですが、うちも実はもともとその中の一軒としてスタートしています。曽祖父の代に今の『天狗中田本店』から分家しました。
Tad 独立したような感じですか?
中田 そうです。その後で会社にした時に『天狗中田商店』という名前になりました。その時はまだトラックの技術が進んでいなかったので、金沢市内を中心にお肉の卸売りをしていたようです。
原田 なるほど。分家したというのは何か理由があったのでしょうか?
中田 96年前になりますが、当時は誰もが肉は肉屋、魚は魚屋に買いに行っていたわけです。うちは『天狗中田』の創業者の次男の家系なんですが、本家は新竪町の方に今も店舗があります。うちは白銀町で肉屋をしていまして、独立した後、昭和の中盤から後半にかけて、金沢市内にもスーパーマーケットのような食の総合店のようなものが増えてきたので、肉屋のままだったら間違いなくスーパーマーケットにとってかわられる時代が来るだろうということで、そこから卸売りの方に力を入れ出しまして、スーパーマーケットや近隣のお肉を使っている飲食店、焼肉屋、レストラン、ホテルといったところに注力するようになりました。いまやスーパーマーケットはどこに行っても当たり前みたいにありますし、店舗の広がりとともに業務も拡大して、白銀町のお店が手狭になってきたこともあって、今、会社のある南新保の方に移転しました。
Tad 創業された直後の頃というとお肉の卸売業というのは、そんなにたくさんは存在しなかったんでしょうか?
中田 そんなにはなかったですね。会社にある祖父の日記によると、昔からあったのは『天狗中田』と、『肉の世界館』という会社も100年以上前からありまして、昭和の初め頃は、石川県内のお肉屋さんと言ったらその二社が主流で、県内外にそれぞれ20店舗以上展開していたような時代があったということです。
Tad 飲食産業が盛り上がっていくにつれて、食肉をお店や企業に直接卸売りするというニーズが高まっていったと。
中田 そうですね。昔は町のラーメン屋さんやレストランの店主もお肉屋さんにお肉を買いに行った時代があったんです。会社を創業した頃というのは、そもそも冷蔵トラックというものもありませんでした。
Tad のちに、冷たいうちに届けられる範囲が広がったわけですね。
中田 はい。写真に残っているんですが、昔は竹籠に肉を積んで、それを背負って運んだようです。
Tad 歴史を感じますね。ところで、能登牛に関しては『株式会社サニーサイド』は最多購買者、つまり最もたくさん買っていらっしゃるということですね。
中田 「最多購買者」という表現が若干難しいのですが、能登牛というのは基本的に石川県内唯一のブランド和牛として石川県内外で販売していまして、我々のような卸売りをする業者は能登牛を生産者から直接買えるというわけではありません。金沢市にある『石川県金沢食肉流通センター』というところに一旦牛を搬入して、そこで枝肉の状態にしてから競りにかけられるんです。あまり聞きなれないと思うんですが、実は石川県の能登牛は全て競り市場を介して流通しているんです。
Tad つまり、『株式会社サニーサイド』がそこで一番多く能登牛の肉を競り落としているということですね?
中田 はい。
原田 能登牛の肉は年間どのくらい流通しているものなんですか?
中田 能登牛は、昨年度と今年度で言うと年間一千頭ぐらい出荷していますが、実はこれでも数がかなり増えた方で、10年前は年間出荷数が500頭いくかいかないかくらいだったんです。
石川県内で肥育されている黒毛和種の「能登牛」。
Tad 倍増しているんですね。
中田 はい。どうしても石川県の食材というと海産物のイメージが強いと思います。それもあってか牛肉の生産量は全国で下から数えて5番目か6番目ぐらい。生産者の数自体が非常に少ないんですよ。
原田 そうなんですね。
中田 全国的には企業として生産に取り組んでいる会社が多いんですが、実は10年くらい前の石川県というと、牛も豚もほとんど個人の生産者、いわゆる家族経営のところが多く、なかなか生産頭数が伸びない時期が続いていたんです。そのタイミングで全国各地にブランド和牛ブームが起きました。石川県には能登牛というブランド和牛がありますが、お隣の富山では氷見牛、福井県では若狭牛、岐阜県では全国でもかなりのメジャーブランドになった飛騨牛と、いろんなブランドがあります。ですが、石川県の能登牛はブランド化するにはなかなか生産頭数が追い付かなくて。
原田 能登牛は、どういうところが魅力なんでしょうか?
中田 実は「和牛のオリンピック」と呼ばれている「全国和牛能力共進会」というものが開催されていまして、全国各地の和牛のコンテストをしているのですが、第9回に石川県から出品した能登牛は脂質がとても優れているということで「脂質の賞」を受賞したことがあるんです。
Tad すごいですね。それはどういう評価だったんですか?
中田 能登牛はオレイン酸の含有量が全国各地の和牛と比べても非常に優れているということで賞をもらったんです。オレイン酸と聞いて、ピンときますか?
Tad あんまりピンとこないかも…
原田 健康油のようなもので「オレイン酸を摂りましょう」というのは聞いたことがありますが、お肉とは結びついていなかったですね。
中田 そうなんです。オレイン酸というのはオリーブオイルなどに多く含まれていて、不飽和脂肪酸の一種になります。脂肪酸はすぐに酸化してしまう特徴があって、酸化してしまうと善玉コレステロールが減って悪玉コレステロールが増えるので、あまり体にも良くないのですが、オレイン酸に関しては脂肪酸の中でも特に酸化に強い、酸化しづらいという特徴があるので、むしろ多めに摂取することによって脂肪酸でありながらも体にも優しいというわけなんです。
Tad いい能登牛だと口の中でじゅわっと味わいがとろけるような感じがありますよね。
中田 能登牛も和牛なのでテレビやスーパー、焼肉屋さんで見るとサシがびっしりと入っているし、実際に多いと思うんです。そういうお肉ってあんまり量が食べられないという先入観がありますよね。
原田 胃もたれしそうなイメージがありますね。
中田 焼肉で2、3枚食べたらもう十分かなと思う方も結構多いと思うんですが、能登牛は脂の質が非常に優れているので、意外とたくさん食べられるんですよ。
能登の美しい自然とやさしい風土の中で育てられた肉質のキメが細かい能登牛を厳選。
原田 なるほど。
中田 焼肉屋さんに行ってお肉を頼んで10分、20分ほどしたら、最初はサシがバシっと入っていたのにいざ焼こうとしたらサシが溶けているのかお肉が赤くて、べちゃっとしているようなことがあると思うんですが、それはむしろいい脂の証なんです。いい脂って融点が35~36度ぐらいで人間の体温と同じぐらいなので、室温や、それこそ手の上にのせるだけでも溶けます。必然的に脂の融点が低い方が当然、人間の体内へ摂取した時にも胃で消化されやすいわけです。和牛の焼肉やしゃぶしゃぶ、すきやきを食べたら胃がもたれるというのは、そのお肉の脂の融点が高いということなんです。
Tad 脂という観点でお肉選びをするというのは新鮮ですね。
中田 能登牛は牛肉の中でも特に脂質が優れているので、脂っていうとあんまり体に良くないんじゃないかなというイメージを持つ人が多いと思うのですが、能登牛の脂は他の和牛と比べても、体に非常に優しいものなんですよ。

ゲストが選んだ今回の一曲

LUNA SEA

「ROSIER」

「中学・高校とずっとテニス部で、今も趣味でやっているんですが、中学・高校の部活の先輩で、今も尊敬しているすごくテニスの強い先輩がいて、人間的にもすばらしい方なんですが、その先輩がいつも試合の前に気合を入れるためにこの曲を聴いていたんです。わたしも感化されて、大事な試合の前や大人になった今でも大事なことに取り組む前にこの曲を聴いて、テンションを上げて臨むようにしています」

トークを終えてAfter talk

Tad 今回はゲストに『株式会社サニーサイド』専務取締役の中田光信さんをお迎えしましたけれども、いかがでしたか、原田さん。
原田 能登牛はブランド牛だからおいしいんだなと単純に思っていたんですが、脂がヘルシーという特徴があるというのは驚きでした。
Tad そうですね。実は、『株式会社サニーサイド』、それから中田さん個人としても県内外において能登牛というブランドをさらに高めていく取り組みをなさっているみたいなんです。次回はそのあたりも聞いていきたいと思います。

読むラジオ一覧へ