後編

能登牛専門の「町のお肉屋さん」をオープン。

第121回放送

株式会社サニーサイド 専務取締役

中田 光信さん

Profile

なかた・みつのぶ/1985年、石川県金沢市生まれ。金沢大学附属高等学校を卒業後、慶應義塾大学経済学部に進学。2009年、『スターゼン株式会社』に入社。子会社の『スターゼンインターナショナル株式会社』で牛肉の輸入と販売に携わる。2015年、『株式会社サニーサイド』(創業は1926年。金沢市南新保。食肉卸売業)に入社し、取締役に就任。2018年に専務取締役に就任。2021年には『株式会社野々市ミート』を設立、代表取締役に就任。

インタビュー前編はこちら

Tad 今回のゲストは前回に引き続き、『株式会社サニーサイド』専務取締役の中田光信さんです。中田さんは2003年に高校を出て2009年に大学を卒業されていますが、僕と全く同じなんです。前回も中田さんは僕の同級生なんだとお話ししましたが、入学と卒業が同じ唯一の友人なんですよね。
原田 あれ、ちょっと長い感じですか? お二人とも学生時代にいろいろ充実した時間があったということでしょうか?
Tad そうですね(笑)。
中田 大学、大好きなんで(笑)。
Tad いや、大学が僕らのことを大好きだったんですよね(笑)。
中田 そうですよね(笑)。
Tad しかし卒業された後、どこにいらっしゃるのか全然知りませんでした。『スターゼン株式会社』に入社されたそうですが、こちらはどういう会社なんですか?
中田 東京に本社のある食肉の企業です。北陸の方は営業所がないので馴染みがないかもしれませんが、全国では北は北海道、南は鹿児島まで営業所を展開していまして、お肉に関する総合商社として手広くやっている会社です。わたしは『スターゼンインターナショナル株式会社』というお肉を輸入する子会社の方で、大学を卒業してからずっと働いていました。主にオーストラリア産の牛肉の輸入に携わりまして、オーストラリアにも何度か足を運んで、実際に現地の牧場や工場に行き、オーストラリア産の牛肉を日本国内の各メーカーやスーパー、それこそ『サニーサイド』みたいな卸売業者に売ったりしていました。
『スターゼンインターナショナル株式会社』に在籍中の中田専務。海外の牧場にて。
Tad なるほど。そして家業である『株式会社サニーサイド』に就職されたのが2015年ですが、それからも輸入や外国の牛肉を扱う業務をなさってこられたんですか?
中田 それまではそういう仕事にずっと携わっていたので、もちろん同じような仕事をする気満々で帰ってきたんですが、実は『株式会社サニーサイド』って能登牛とか能登豚に代表される国産のお肉に強い会社ということで世間には認知されていて、輸入のお肉の扱いがほとんどなかったんですよ。
Tad そうだったんですか。
中田 ところが、意外に思われるかもしれないですが、実は日本国内で流通している牛肉って、国産よりも輸入牛の方が多いんです。
原田 そうなんですね。
中田 はい。普段何気なく食べているお肉も、実は国産よりも輸入牛の方が多いんです。当然、今後ますます国産、特に和牛になると生産者も全国各地で跡継ぎ問題などがあって生産量も減っていく中で、輸入牛は今後間違いなく伸びしろがあるだろうと読みました。ただ、『株式会社サニーサイド』は輸入牛肉の扱いがほとんどなかったので、このままでは先細りになってしまうということで、入社した当初はわたし一人で輸入食肉豚の一人部署を立ち上げました。
Tad そうだったんですか。最初はそんな規模だったんですね。
中田 そうなんです。基本的に弊社は2トン車とか1トン車の営業トラックでお客様のところへお肉を配送するのがメインの仕事になるんですが、お客様も当初は「そもそも『株式会社サニーサイド』は輸入肉の扱いってあったの?」という感じでした。社内の人間も「そもそも輸入肉を売ったことがないし、国産牛・国産豚のスペシャリストとしてこれまでやってきて、なぜ今さら輸入肉なんて売らないといけないんだ、単価も安いし量も多いし」という感じで、社内から総スカンを食らったところからのスタートでした。
Tad 海外のお肉にもブランドがいろいろありますよね。
中田 はい。それこそ和牛に負けず劣らずのいいお肉がありますし、用途は様々ですが、いろんなグレードのお肉が国産牛以上に幅広くあります。
原田 食肉の文化は海外の方が根付いているでしょうしね。
中田 国によって飼っている牛の品種、畜種が違います。日本の和牛、牛肉と言うと真っ黒な牛をイメージすると思うんですが、オーストラリアに行ったら熱帯種の牛が多いんです。こぶつきの牛もいたりして。
Tad ヨーロッパの方でもやはり違うんですか?
中田 ヨーロッパはまた全然、牛の品種が違います。最近のスーパーやレストランにも、ブラックアンガスとかシャロレー、リムジン種とかいろんなお肉があると思いますが、それぞれの国で流通しているメジャーな牛の品種も全然違うんです。
Tad 海外の牛肉のブランドのあり方から能登牛のブランドもこうあるべきなんじゃないかという着想を得たりすることもあるわけですか?
中田 どこのブランドもそれぞれにブランディングに非常に力を入れていて、輸入牛と言っても本当にピンキリなんです。外食に輸入牛が使われることは多いですが、某レストランチェーンや焼肉チェーンからも、「うちはもうこのブランドしか使わない」という要望があります。海外のブランドは乱立していて、「このブランドの牛肉はステーキに向いてますよ」、「このブランドの牛肉は煮込み料理に向いてますよ」というくらいにお肉の個性で売ることができます。しかし、国産牛しか売ってなかったらそういうことがなかなかできなくて。
『株式会社サニーサイド』に戻ってきてから定期的に、社員のみなさんには申し訳ないながらも、営業から帰ってきた後に夕方6時から1時間くらい輸入食肉の勉強会を開いたり、実際に食べ比べをしてみたりと、草の根活動を続けました。『株式会社サニーサイド』全体で輸入牛肉または輸入豚肉をもっと売っていこうという流れを作るのに2年はかかりました。
Tad ちなみに『野々市ミート』の設立というのは?
中田 これは2021年6月に設立したんですが、『株式会社サニーサイド』とは全く別で、野々市市内に、俗に言う「町のお肉屋さん」を作りました。『野々市ミート』は、いわば「能登牛の専門店」です。
原田 能登牛に特化しているということですか?
中田 そうですが、「町のお肉屋さん」でもあります。『野々市ミート』では基本的に全ての牛肉を能登牛でラインナップしています。ここは『株式会社能登牧場』という能登町にある会社と一緒に立ち上げました。能登牛の中でも特にここのお肉は非常にクオリティが高く、わたしが惚れ込みまして、ぜひ一緒にやろう、むしろ『株式会社能登牧場』の能登牛を売る専門店を作らせてほしいと言いました。そこまでお願いして作ったんです。どうしてそこまでしたかというと、能登牛と言うと、石川県民であればそれなりに知名度もあるし食べたことのある人も多いと思うんですが、一歩県外に出てしまったら能登牛と言ってもあんまり知名度がないどころか、そもそも認知すらされていないんです。
Tad 石川県にそんなブランドがあったんだ、と?
中田 東京や大阪に行って「能登牛がね」と言っても「能登牛って、何?」というくらい、「能登牛の能登って、何?」というところから話さないといけないんですよ。石川県には能登牛というすばらしいブランドがありますが、今後生産頭数も増えてきたらいよいよ石川県内で消化しきれなくなるので、もっと石川県外に売っていかなければなりません。少なくとも、向こう2、3年以内には間違いなくそういう局面が来ると思っています。そういった場合に、知名度がなければ絶対に売れません。かといって石川県外で「能登牛はおいしいよ」とか、「能登牛をもっと食べましょう」といったイベントも現状ほとんどやっていないんです。「このままではだめだ」と思いました。それで、どうせやるなら自分が生まれた石川県に恩返しする思いも含めて、わたしも前面に出て能登牛を県外に売っていきたいと思ったのです。その場合、とりあえず値段を安くするというやり方もあります。そうするとたくさんのスーパーで置いてもらえるでしょう。ただ、それだと本当の意味で能登牛のおいしさをなかなか伝えられないと思うんです。「能登牛、知ってるよ。あそこのスーパーで安く売ってますよね」というのではなく、「能登牛、知ってるよ。おいしいよね」と、そんなふうにお客様に認知してほしいと思っています。
野々市ミートを立ち上げた頃の中田専務。
Tad そうですね。
中田 能登牛というのは、前回もお話ししましたが、特に脂が優れています。とりわけ一緒に取り組んでいる『株式会社能登牧場』の能登牛は格別です。ちなみに、よくスーパーに並んでいる和牛というのは、生まれてから26か月前後のお肉を出荷している場合が多いんですが、『株式会社能登牧場』は長期肥育という部分にこだわっていて、基本的に30か月以上飼った能登牛を出荷しているんです。2021年には40か月を超えるような能登牛も生産していました。
Tad 肥育期間が長いと味がしっかりしてくるんですか?
中田 そうですね。長く飼うことによって当然肉質も、脂の質も良くなります。一方で、長く飼うことによってエサ代がかさんだり、牛のお世話をする人件費や、牛が病気になったりするリスクも上がってくるので、割に合っているかといわれたら何とも言えないんですが、少なくとも今後、能登牛を外に売ろうとする時に、他の和牛と同じ売り方・作り方をしていてはだめだと思ったんです。そこで他の和牛と差別化が図れる部分、つまり能登牛は値段もいいし高品質であることを前面に押し出すことにしました。『株式会社能登牧場』の能登牛なら、食べてもらえばまず外れることもないし、絶対の満足を約束します。
『株式会社能登牧場』の平林さん(左)とイベントに参加した際の中田専務。
Tad お肉のプロがここまで熱く語る最高の能登牛だけを専門店的に取り扱うお店が『野々市ミート』で、ここを基幹店にして、ネットでの販売も広げていくということですね。
中田 はい。全国各地への配送となると、今ならやはりテレビやネット配信などが一番簡単にアピールできる場になっているので活用しています。YouTubeのチャンネルを作って、「ノトウシマン」という名前でアピールしている人もいますが(笑)。
Tad なるほど(笑)。前回も創業のエピソードをうかがいましたが、もう一回「町のお肉屋さん」に戻ってきたというのは、どういう意図があったんでしょうか?
中田 野々市市って、能登牛認定店がないどころか、我々が出店するまでいわゆる「町のお肉屋さん」自体、一軒もなかったんです。県外に能登牛を売っていこうという中で「いやいや、ちょっと待てよ。そもそも地元の人が地元の牛肉を食べたことがない状態なのに、県外に売りに行こうなんておこがましいな」と思いました。県外の人からすると、東京とか大阪の人だって、石川県の知り合いがいたら「能登牛って知ってる?」って絶対に聞くと思うんです。それで、もし聞かれた側の人も食べたことがなかったら、そもそも自信をもっておすすめするどころか、能登牛の普及なんて絶対にできないと思うんです。そこで、まずは野々市市の一般の各ご家庭で能登牛を食べてもらおうと思いました。専門店があれば、能登牛一頭分の商品がありますし、中にはヒレステーキとかサーロインステーキとかも365日ラインナップしてますから、「今日は〇〇ちゃんの誕生日だから、おうちでステーキよ!」という日でも大丈夫。実際にそういうお肉を売ってるスーパーもあまりないんです。『野々市ミート』にはヒレステーキとかサーロインステーキみたいな単価の高い商品も置いてますが、すき焼き、しゃぶしゃぶ用や、焼肉用、切り落としも、いろんな商品を揃えているので、まずはみなさんの日々のお買い物のルートに組みこんでもらえたらなと思っています。

ゲストが選んだ今回の一曲

大塚 愛

「黒毛和牛上塩タン焼680円」

「わたしの青春を大塚 愛に捧げた、ということもあって選曲したんですが、何より、黒毛和牛の相場が年々上がってきていて、いま焼肉屋さんで黒毛和牛上塩タン焼を食べようとしたら、とてもじゃないけど680円で食べることはできません。どこに行っても1000円は超えます。そういった点でも昔が懐かしいなと。ただ、聴いていただくとわかると思うんですが、曲自体は恋愛の歌です。PVの設定は焼肉屋さんになっています」

トークを終えてAfter talk

Tad 今回は前回に引き続き、ゲストに『株式会社サニーサイド』専務取締役の中田光信さんをお迎えしましたけれども、いかがでしたか、原田さん。
原田 今回も「能登牛愛」が止まらない中田さんでしたが、2021年にオープンした『野々市ミート』は日常使いできる能登牛のお肉もあるということで、主婦の立場としては大変興味がわきました。
Tad 流行とか認知、ブランドっていうのはどうやって形成されるのかなというのを考えていたんですが、狙いたいマーケットに対してどういうチャンネルで情報が伝播していくのか、おそらくそういうネットワーク構造を捉えることがすごく重要なのかなと思いました。石川・金沢の食文化の場合、そもそも県外の方に注目される前に、やはり我々のような市民・県民が一足お先に楽しんできたわけですよね。その意味で県外の認知・ブランドを高めるためにこそ、まず県内に目を向けるというのはとても腑に落ちましました。わたしも今度『野々市ミート』に行ってこようと思います。

読むラジオ一覧へ