後編

無限の可能性を秘める最中の皮。

第67回放送

加賀種食品工業株式会社 専務取締役

日根野逸平さん

Profile

ひねの・いっぺい/1978年3月生まれ。金沢市出身。金沢工業大学を経てコンピュータ総合学園halを卒業。2年ほど個人でWeb制作の仕事を行い、2003年に家業である加賀種食品工業株式会社へ入社。加賀種食品工業株式会社は明治10年(1877年)創業。最中の皮などの菓子種の専門メーカー。年間およそ3500社へ製品を提供。取引先を和菓子屋から洋菓子やその他に拡大中。

加賀種食品工業Webサイト
オンラインショップ「たねらく」

インタビュー前編はこちら

Tad 前回は、全国の和菓子屋さんで使われている最中の皮の何パーセントかは、実は加賀種製だというお話でした。皆さんが全国のどこかで最中を食べると、皮は金沢製ということがあるんですね。
原田 最中の皮以外にもふやきせんべいなども作られているんですよね。母親に聞いたら、県外から来たお客様にいただいたふやきせんべいを見てみたら加賀種製だということもあったらしいです。
Tad 日根野さんは、金沢工業大学を卒業後にコンピュータの専門学校を出られたということですが。加賀種のお仕事とは一見違うようにお見受けしますが。
日根野 コンピュータやデザインが好きなんです。大学入学時あたりが、一般にインターネットが普及しだした時期で。その時にインターネットに興味を持ちました。今では当たり前ですが自分が書いた文書や絵が世界中で見られるというところに感動してしまって。そこからもっと好きになって独学でプログラムやデザインをやるようになり、さらに専門学校へ行って、しばらくはそういう仕事をしていました。紹介でWebサイトを作ったり、プログラムを書いたり。今の仕事とは180度違います。
Tad 会社が成長していく過程においては生産管理や社内のシステム整備をしていったという話もありましたが、コンピュータ関連のお仕事の経験が生かされたのではないでしょうか。
日根野 僕が入社したのは2003年ですが、その当時は会社が伸びている時期でお客様の数もどんどん増えていました。社内は商談の記録も全部紙に残していたようなアナログ状態だったので、そういった部分は、今までの経験を活かしながら、システム化を進めたりWebサイトも見栄えのするものに変えたりしました。
原田 Webサイトもすごく可愛らしいというかワクワクしますね。最中やふやき煎餅の製造過程の動画があり知らないことがいっぱい知れるような仕上がりです。例えば、ふやきせんべいの真ん中に四角い模様みたいのが入っているのはなんだろうとずっと思っていたら動画で紹介されていて、私の長年の疑問が解けました。
加賀種食品工業のWebサイト。製造工程が分かりやすく紹介されている。
日根野 そうですね、あの焼く前のもち米の種を、四角い鉄板で挟んで焼くので、どうしてもそのあとは残る。従来の昔ながらの製法で作った証でもあるんです。
Tad 加賀種さんはECサイトもありますよね。3500社からのお客様がいらっしゃって、それぞれが自社のオリジナル商品を作ってほしいだとか、少量だけ売ってほしいとか、そういうご要望にお応えするためでしょうか。
原田 ECサイトって何ですか。
Tad 加賀種さんのWebサイト内で、最中の皮を販売しているんです。
原田 個人でも購入できるのですか?
日根野 「たねらく」という名前のECサイトを立ち上げて5年ぐらい経ちます。メインのお客様が和菓子屋様になりますので、どうしても注文の単位が1000、2000という数になります。一方で、個人の方や飲食店の方から、使ってみたいという要望も多くいただいていた。それなら広く周知して、大々的に販売してみようかということでECサイトを立ち上げました。ここでは、100枚単位で販売しています。
Tad 100枚から販売されている。
日根野 ECサイトを立ち上げた当初はどんな人がどんな買い方をするのかも分かりませんでしたが、まずはやってみようと。年々売り上げも伸びているのですが、個人の方は一割ほどで、飲食店の方にご購入いただいていますね。季節感を出すのも利用していただきやすいのかなと思い、春なら桜、秋は栗などを象ったものをご提案しています。
最中種を100枚単位で販売しているECサイト「たねらく」。
Tad 飲食店さんはどんな風に利用されるのですか。
日根野 料理をのせたり、白玉やアイスをのせてデザートメニューにしたりが多いですかね。
原田 元々、もち米からできていて、材料もシンプルだし、味も邪魔しないものですものね。
日根野 もち米100パーセントなので、日本人にはなじみやすいですし、癖がないので何と試していただいても、使いやすいのかなと思っています。
Tad こんなものにも実は菓子種が使われているんですよというものはありますか?
日根野 最近一般的になってきたお湯をかけるタイプのものですね。要は、お吸い物だったりお味噌汁だったり。最中の中に乾燥具材が入っていて、お湯をかけると、一品になる。
原田 手元にココア最中の資料がありますけれど、これは最中の中にココアの粉末が入っているんですね。
日根野 そうですね。これは当社の製品なのですが、最中の皮は別に最中をあんこ挟むだけのものじゃないことをご提案しています。
オリジナル製品の「ココア最中」。キャラクターの口の部分にお湯を注ぐデザイン。
原田 最中の皮の部分の風味や香ばしさを一緒に楽しめるというのがまた魅力ですね。
日根野 ココア以外に梅・昆布を最中の皮に入れた製品もあるんですけど、昆布茶にあしらってあるあられのような風味と食感を楽しんでいただけますね。
原田 実際の商品バリエーションがあれば、じゃあ洋風スープならクルトンの代わりに使えそうだ、とアイデアが広がりますもんね。
Tad いいですね。容器的な役割も果たしつつ、味わいも香ばしさが加わって。不思議な存在です。
日根野 基本的に、最中の皮は何かを挟むことが多かったのですが、一枚で器として使われることが増えています。最近、SDGsや脱プラスチックの機運が高まっているので、テイクアウト時の持ち帰り商材、食べ歩き用の紙皿、プラスチック皿の代わりに最中の皮を使っていただくことが増えました。
Tad 最中の皮をお皿として使ってもらって。
日根野 はい。最後は全部食べてしまえるというわけです。
Tad 確かにSDGsの文脈でいうと最中の皮というよりは、「食べられる容器」という風に受け止められている部分もあるんですかね。
原田 時代に迎合するカタチで利用される側面はありますね。
日根野 今の社長が社長になった時に、我々に言った言葉が、「菓子種、最中の皮を和菓子材料だけではなくて、あらゆる食のシーンで使われる食材にしたい」でした。15年ぐらいかけて、色々と用途を広げているところですね。
食べ歩きトレー製品。近年、SDGsの観点から、食べられる容器として広く受け入れられている。
Tad それは、社長さんがそうおっしゃった時には、時代の流れとしてそのような兆しがあったのですか。
日根野 はい。その頃にも洋菓子屋さんで使ってくださっている方がいらっしゃいました。その完成形を見て、この方向を発展させていけるのではないかとは思っていました。これからの時代、和菓子屋さんがどんどん新規開店することは想像しづらい。しかし、洋菓子や飲食店に目を向ければ、まだまだ勝機はある。新しいアイデアも生まれ、それとともに利用シーンも増えていってほしいという思いです。
Tad 例えばお湯をかけたらお味噌汁になる、ドリンクになる、というように、新しい商品については、要望や企画として持ち込まれることが多いのですか。それとも加賀種さんの方からご提案することが多いのですか。
日根野 基本的には持ち込まれる方が多いです。今はWebサイトを見て来られる方の他、菓子博覧会や食品業界の展示会にも出展してその時にご縁をいただくこともあります。大手の食品メーカーさんや問屋さんが様々な商材を紹介する横で、最中の皮を紹介していると、商社や飲食店、ホテル関係の料理人の方々が興味を持ってくださって新しい企画につながったりしています。
最中種の使用例。菓子業界のみならず、料理人の方々も食材の一つとして注目を寄せる。
Tad 一見ただの最中に見えつつ、バキッと割ると中から花びらや予想できないものがふわっと出てくるのは感激しますよね。
原田 やはり型を自社で作られるのが一番の強みかなと改めて思いました。
日根野 デザインから型の製造まで自社で行っているので、お客様の要望に素早くお応え出来ているかなと自負しています。
原田 最中というと年配の方のお茶請けというイメージですが、加賀種さんの最中の皮にはかわいいものがたくさんあるので、若い女性のニーズも掴みそうです。
日根野 和菓子屋さんもちょうど代替わりの時期に入っていて、比較的新しいものに挑戦する人も出てきました。シンプルな形を好まれる方が増えているので、そういう点は敏感に反応してついていくようにしています。
愛らしいデザインの最中種。春のおもてなしのシーンを華やかに彩ってくれる。
Tad これから加賀種食品工業をこんな会社にしていきたい、菓子種をこうしていきたいという思いをお聞かせいただけますか。
日根野 金沢というブランドがとても大きなものだと感じております。最中の皮なので、一般の消費者の方にまで知っていただきたいという欲はあまりないのですが、飲食店や食に携わる方々には、最中の皮が欲しければ金沢で手に入るんだよね、という風に認知していただけるようになりたいです。特徴ある他にない会社にしていきたいなと思います。
Tad すでに他にはない会社だと思いますけれど、この後、さらに特徴づけていくとしたら、どのような展開をお考えですか。
日根野 可能性は無限大にあると思っているんです。最中の皮はどんな形にもできるので、その可能性をもっと広げたいというか、もっと見せてあげたいという思いがあります。最中の皮ってこんなことまでできるんだよっていうことがまだ食品業界の方々に伝わってない気がしていて。もうしばらくは最中の皮の可能性を知っていただくことが大事なのかなと思っています。

ゲストが選んだ今回の一曲

CHAGE and ASKA

「太陽と埃の中で」

「中学生の時に、一番好きだったアーティストがCHAGE and ASKAで、初めてコンサートに行ったのも彼らでした。「追いかけて、追いかけて」という歌詞がすごく好きで今もよく聴いています」

トークを終えてAfter talk

原田 最中の皮のこれからにワクワクしました。コンピュータ関係に詳しい日根野さんが会社に戻られたことが、最中の皮が時代に合わせて進化を遂げていくきっかけになったんだと感じました。Mitaniさんいかがでしたか。
Tad 最中の皮の使い方をユーザー側が発想していくのが、時代にあっている素材だなと思いました。洋菓子に使う、お吸い物にする、ココアの粉末が入った器として使う、という汎用性の広さは発想を使い手に委ねたから生まれたのだと感じます。新しいイノベーションは、既存と既存との新しい組み合わさり方によって生まれるものです。まさにプロダクトイノベーションだなと感じました。日根野さんご自身や加賀種食品工業の社員の皆さんが、最中の皮、菓子種の使われ方に無限の可能性があるんだと信じる力があるからこそ、です。それ自体が、会社の強みの源泉であるという風に感じました。

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