前編

革新を積み重ね伝統を作り上げる。

第1回放送

株式会社福光屋 専務取締役

福光太一郎さん

Profile

ふくみつ・たいちろう/1978年 石川県金沢市に福光屋14代目として生まれる。不動産開発会社、アパレルメーカーでキャリアを積み、2010年 福光屋に入社。2012年 専務取締役に就任。2018年には公益社団法人金沢青年会議所理事長を務める。

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Tad こんにちは、Tad Mitaniです。
原田 原田幸子です。
Tad 石川県の皆さん、初めまして。この番組のナビゲーターを務めさせていただきます、Tad Mitaniです。ところで原田さん、企業の社長さんとか経営者っていうと、どんなイメージをお持ちでしょうか?
原田 そうですね……広い社長室の奥の方にある椅子にどーんと座って、葉巻をくゆらせて、「おいちょっと君これよろしく」みたいな。そんなイメージですね。
Tad そうですよね。髭を生やしていたり、お金持ちで良いスーツを着て、良い靴を履いていたり。そういう社長室にはウイスキー、ブランデー、葉巻がある、みたいな。そんなイメージをお持ちの方も少なくないと思います。でも実際にはそんな人はごくわずかです。
原田 そうなんですね。
Tad 現在石川県内には、15,000社を超える企業が本社を構えているそうです。つまり石川県には15,000人の社長さんがいるということになりますけれども、本当に様々な社長さんや経営者の方がいます。
この番組では、石川県内にある会社のうち、創業100年を超えるような老舗企業や、他の会社にはない圧倒的な強みを持った企業、あるいは、新進気鋭のベンチャー企業など、魅力あふれる会社の皆さんや、経営者の皆さんたちをお招きして、根掘り葉掘り、いろいろ 聞いてみたいぞという番組です。
石川県の人なら誰でも知っているような会社の経営者が、「どんな人なのかな」ということにもきっと皆さん興味があるのではないかと思いますし、石川県の経済がこれからも元気であり続けてほしいと、皆さん自身も思っていると思います。そのヒントになるお話をいろいろな経営者の方からたくさん聞いていきたいと思っています。
原田 いろんなお話が聞けそうですね。そしてMitaniさんご自身も社長さんでいらっしゃる、ということですよね?
Tad 僕のことはいいじゃないですか(笑)
原田 なんででしょう? (笑)
Tad さあ! さっそくゲストをお迎えしていきましょう!
原田 どなたでしょうか?
Tad 今回のゲストは『福光屋』専務取締役の、福光太一郎さんです。こんにちは。
福光 こんにちは、よろしくお願いします。
Tad 福光さんとは時々お目にかかる事があります。僕のラジオの第1回目にお越しくださいまして、ありがとうございます。
福光 大変光栄に思っています。どうもありがとうございます。
原田 お二人とも、プライベートでの交流があるんですね。
Tad プライベートのほうが、交流があるかもしれないです(笑)
原田 なるほど、そうですか(笑) さぁ今日はどんなお話が聞けるのでしょうか? 楽しみです!
Tad この番組では会社の歴史や経緯、お取り組みなど、いろいろなことをお聞きしたいと思っています。まずは『福光屋』さんとは、一言でいうとどんな酒蔵なのでしょうか。
福光 基本的には酒蔵で、1625年に創業しました。日本酒を造っている酒蔵なんですけれども、近年では化粧品ですとか、あと発酵食品なんかを作っています。簡単に言うと「米発酵会社」といえるかもしれません。
Tad 発酵食品も作られているんですね。
福光 はい。日本酒自体も発酵食品でもありますね。
原田 新しいジャンルですね。「米発酵会社」って、初めてお聞きする括りです。
Tad お酒も飲ませていただいています。
福光 ありがとうございます。
Tad 「福正宗」に始まり、「加賀鳶」ですとか、銘柄をいくつもお持ちですよね。
福光 けっこう飲まれますもんね。
Tad いやあ、まあ、そうですか?
原田 「けっこう」の度合いは、けっこうすごそうですね?
福光 あの、大好きですよね(笑)
Tad 特に太一郎さんとご一緒するときは、つい。『福光屋』のお酒が美味しいので……。
福光 ずっと日本酒ですね。
Tad ええ、ずっと日本酒ですね。
原田 季節ごとで、その時々のおいしい日本酒もありますしね。
Tad 金沢の石引の地に本社を構えていらっしゃいますね。最近でいうと新幹線が開通して、金沢駅周辺や金沢城、兼六園、ひがし茶屋街、にし茶屋街といった中心地に近い場所が盛り上がっているようにも思います。その状況から考えるとちょっとだけ離れた石引に本社を置かれている理由というのは? 転居や移動は考えますか?
福光 酒蔵としてはかなり街中にある方なんです。一般的には山奥に酒蔵があるケースが多いのですが、うちは比較的街中にあるんですよ。
Tad 商店街の中にありますもんね。
福光 日本酒の原材料というのはシンプルでして、うちの場合は特に「純米酒」というお酒しか造っていません。お米とお水だけです。
Tad 原材料は、お米と水だけ。
福光 そうです。お米もお水も非常に重要です。特にお水でいうと、白山に降り注ぐ雨や雪がどんどんと解けていって、地中を抜けていって、ちょうど福光屋の地下に流れてきているんです。
Tad 白山に降った雨や雪が地下を流れてきているんですね。
福光 地下水を汲み上げて、仕込み水として使っているんですけども、だいたい白山から100年くらいかかり福光屋の直下150メートルまでたどり着いてます。
Tad 100年!
原田 そんなに長くかかるんですね。
福光 その間、地層を通ってくるんです。貝殻層のような場所も通ったりして、ミネラルを含んだお酒造りに適したお水が流れてきているということです。やはりお水は非常に大事ですし、お水を変えるともちろん味も変わります。
原田 お米とお水でできているわけですから、水が変わればまったくお酒の味も変わる。
福光 そうなんです。例えば軟水で造ると甘口になりやすいですし、硬水で造ると辛口になりやすいと言われています。当社で使っている水というのはやや硬水なんですね。少し辛口になりますけれども、100年もかけてたどり着いた水なので、かなり口当たりはまろやかです。硬水とは思えないくらいまろやかです。
Tad 普段何気なくお酒をいただいていましたけれども、そういう100年の時間を一緒に飲ませていただいているのかなって思うと、素敵です。すごいですね。
原田 100年かけてきたお水を使い、またそこで醸す作業というのもずっと受け継がれてきた歴史のある作業なわけですよね。
Tad お酒造りには、どんなプロセスがあるのでしょうか?
福光 お酒造りは簡単に申し上げると、お米を蒸して、麹菌を振り、そこから麹カビを生やして、それを元にお水を使いながら酵母などの微生物を活躍させてお酒を仕込む、という過程になります。昔ながらの造り方からほとんど変わっていません。いかに江戸時代の方たちが努力をされて、今の造り方を確立させたかというところだと思います。
Tad なるほど。昔からその製法といいますか、作り方は、変えずにここまでこられたのでしょうか?
福光 もちろん工夫はどんどんしていっています。より効率化を考えることもそうです。江戸時代とは何が違うかというと、科学技術を応用することができます。温度計もない時代でしたから、そういう意味では精度はだんだん上がっていっていますね。
原田 安定した品質のものを出し続けるということですね。
福光 そういう技術は向上しています。
Tad 『福光屋』といえば、「純米酒」。お水とお米だけで造っているということですが、「純米酒」というのは、そもそも、あえて言わなきゃいけないくらい珍しいものなのでしょうか?
福光 そうですね。戦前は、ほぼすべてのお酒は「純米酒」だったんですけれども、戦時中からいろいろと状況が変わってきたんです。
Tad 純米酒をお造りになられて、『福光屋』が金沢を代表する酒蔵になるまでというのは、どのような経緯をたどられているのでしょうか?
福光 私の祖父母の時代の頃から代々生産量が増えていっておりますので、徐々に、というところです。
Tad 太一郎さんは先ほど14代目とおっしゃられていました。
福光 14代目です。
Tad すごい歴史ですよね。
福光 いやいや(笑)
原田 やはり守り続けないといけない部分と、時代に応じて変えていかなければならない部分というのを経営者として、14代目として、見据えていきたいというところでしょうか。
福光 そうですね。国内では日本酒の市場は右肩下がりです。それを見据えて、日本酒だけではなく、いろんな事業を展開していかなければいけないという思いもあります。
Tad 先ほど日本酒以外だと発酵食品というお話もありましたけれども、他にはどんな商品展開をされているのでしょうか?
福光 日本酒以外でしたら、基礎化粧品と発酵機能性食品です。共通しているのは、お米を発酵させて商品化しているということです。
Tad お化粧品もですか?
福光 はい、お米を発酵させたエキスを使って基礎化粧品を作っています。お米は発酵させるとアミノ酸をたくさん出します。アミノ酸は肌に良いんですよ。
福光屋が手掛ける「アミノリセ」シリーズ。
原田 へぇ~、それはお肌への浸透も良いのでしょうか?
福光 そうですね、アミノ酸の力が働きますので保湿効果が高いです。
原田 そうなんですね。ではお酒を作っていらっしゃる方はもしかしてすごく肌がきれいだったりするのでしょうか?
福光 そうですね。手はツルツルですよ。
Tad 太一郎さんも、お肌ツルツルですね。
福光 ツルツルですか?ありがとうございます。
Tad 酒蔵が身近なのも理由でしょうか。
福光 そうですね、手をきれいに保とうと思って毎日自社の化粧水を塗っています。あ、酒蔵で生活しているわけではないですよ。広い社長室にいるわけでもないです。
Tad たしかに手もきれいです。
原田 ああホントだ! すごく手を気にされている女性のような、このふっくら感とツヤツヤ感。うらやましい。
Tad つい握ってしまいたくなるような(笑)
福光 いつでもどうぞ(笑)
原田 本当に発酵の力ってすごいですね。化粧品もそうですけれど、食品というお話もありました。
福光 例えば甘酒は麹からつくっていますし、甘酒系の商品を中心に展開しています。最近ではお米を麹と乳酸菌で発酵させて作る「ANP71」という商品もあります。「あじのなれずし」をご存じでしょうか? これは能登のほうの家庭料理なのですが、その乳酸菌がすごいパワーを持っていて、整腸作用や免疫をコントロールする力があります。そこからとった乳酸菌でお米を発酵させて使用している商品もあります。あとは麹と天然素材を使った経口補水液。これも米と麹と塩だけで作っています。
石川県の伝統醗酵食品から抽出した植物性乳酸菌・ANP7-1株と麹で醗酵させたお米の醗酵飲料「ANP71」。
Tad 風邪をひいたときによさそうですね。
福光 そうですね、甘酒の進化系かもしれません。
Tad 甘酒も「飲む点滴」と言われていますね。
福光 すごく栄養価が高いんです。江戸時代は、夏バテ防止に甘酒を飲んでいたそうです。本当に体に良いですよ。元気になります。
原田 甘酒っていうと、子どものころは温めて飲むイメージがありました。ですが今では「夏に飲んで、夏バテ防止」ともよく聞きますよね。
福光 温めて飲むイメージというと酒かす……?
原田 あ! そっちですね。
福光 お湯に溶かして砂糖を入れて飲む。
原田 生姜とかを入れて。
福光 そうです。その甘酒もありますが、麹甘酒はちゃんと発酵させて作る甘酒で、栄養価がまったく違うんです。甘酒と言っても2種類あって、麹甘酒は完全にノンアルコールなんですよ。
原田 子どもでも飲めるんですね。
福光 もちろんです。赤ちゃんでも飲めます。
原田 お酒から発祥して、色々なものに展開されていっているということですね。
国産の契約栽培米と霊峰白山を源とする恵みの百年水だけで仕込んだ「純米 糀甘酒」。
福光 基本はお米が大事でお水も大事です。先ほどのお話にもありましたが、『福光屋』は全てのお酒が純米酒です。純米酒というのは お米とお水しか使わないお酒造りということです。消費者の方に混ぜ物があるという説明をすると、「あ、何か入っているんだ」というイメージが持たれてしまいます。それは体に悪いというわけではないのですが、説明していくよりも、全て「お米とお水のお酒」に切り変えてしまった方が酒蔵としてのアイデンティティになると思いまして、2001年から全てを純米酒に切り替えました。
Tad 昔の造り方に戻して行ったというか、原点回帰されたということですね。貴重なお話をありがとうございます。

ゲストが選んだ今回の一曲

Mr.Children

「 I'LL BE」

この曲のサビの歌詞が非常に良くて好きなんです。《人生はフリースタイル》という歌詞に続き、《孤独でも忍耐 笑いたがる人にはキスを》とあります。
私たちは会社として独自のことを多くおこなっていますので、日本酒だけにとらわれることなくフリースタイルでいたいという想いが重なります。また、これまでにも「伝統は革新の連続」という家訓を掲げて商売をして参りましたので、 フリースタイルという歌詞に共感します。

トークを終えてAfter talk

Tad 今回はゲストに『福光屋』専務取締役の福光太一郎さんをお迎えしました。お話を聞かせていただくことができてすごく楽しかったですね。
原田 そうですね。穏やかな中にも秘めていらっしゃる想いがじわっと伝わってきましたよね。
Tad そうですよね。パッと聞かれてすぐに答えることができるということは、それだけ普段から真剣に取り組んでいらっしゃることの表れではないかと思いました。
原田 Mitani さんご自身も気づかれたことや学んだことがおありだったのではないですか?
Tad 福光さんが言われた中で「伝統は革新の連続」というお言葉がありましたけれども、すごく印象的な言葉でした。本当の意味で革新を積み重ねてきて、それによって本当の意味での伝統を作り上げてきた会社にしか言えないことなんだろうなと、心に刻まれました。本日は本当にありがとうございました。
Tad 次回も福光屋専務取締役の福光太一郎さんをお迎えしてお送りします。

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