前編

金沢の各種イベントをアップデート。

第62回放送

金沢市長

山野之義さん

Profile

やまの・ゆきよし/1962年生まれ。1987年慶應義塾大学文学部を卒業。1990年ソフトバンク株式会社に入社。その後、1995年金沢市議会議員に。2010年金沢市長に就任。現在3期目。

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Tad この番組を始めて、もう一年ちょっと経ちましたけれども。前回から緊張して、一週間ちゃんと寝ていないんですよ。色々な組織のトップをゲストにお迎えして放送してきましたけれども、今日のゲストはなんと、金沢市長の山野之義さんです。本日はどうぞよろしくお願いいたします。
山野 よろしくお願いします。
Tad まさかお越しいただけるとは。大変幸甚です。さて、ここ最近の金沢市は他に類を見ないほど注目されているまちだと思います。大変なコロナ禍の中、一年を振り返り、いかがでしょうか。
山野 おっしゃる通り、日本・世界中がこの一年間新型コロナウイルスに振り回されてきたと思います。金沢市は2月21日に初めて陽性患者が確認されました。それから様々な対策に取り組み、2月の下旬には、多い時で週3回、4回と記者会見を開き、今の状況や金沢市の対策をお伝えしました。我々も市民の皆さんも十分な知見がありませんでしたので、できる限り、市民の皆さんと情報を共有することによって対策を進めていくしかないという思いがあり、記者会見に加え、市のホームページにも記載しました。その後も常に私なりの言葉で自身のブログやフェイスブックで報告するということをしながら情報共有に努めてきました。
原田 市長ご自身の言葉でという点を強調されましたが、そこはやはり大切にされている部分でしょうか。
山野 やはり、トップが自ら表に立ち、自分自身の言葉で、どんな思いでこの決断をしたのかを説明せねばなりません。なぜかというと、今後、新しい知見が分かる場合もあります。その時には、以前の報告と異なる報告をしなければならない場面も出てきます。その際、トップでないと前の報告を否定できませんし、新しい決断も報告できないと思います。ですからコロナ禍では常にトップである私が表に出ている状態を意図して続けました。
原田 なるほど。
Tad コロナの感染対策においては、非常に活躍が目立った自治体の方もいらっしゃれば、そうでない方もいらっしゃいましたが、山野市長はどのぐらいの手応えを感じながら、対策を進めてこられましたか。
山野 隔靴搔痒の感もあります。実は感染症については、感染症法にて都道府県知事が所管と定められています。一方、金沢市は保健所を持っており、感染症病棟を保有する市立病院もありますので、金沢市独自の施策も可能です。ただ、石川県全体の中で県と連携しながら取り組んでいる面もあり、そこのバランスを常に取りながら、情報共有や発信をしてきました。一つひとつを見ていけば課題はありましたが、全体としてみれば調整が取れていたのではないかと思います。
原田 大変な状況の中で市長ご自身のスタンスが分かるというのは市民にとってすごく安心できる部分でした。私のママ友は休校措置が出た時に、山野市長のブログを見てすごく納得したと話していたので、市長がご自身の声で発信されるということは市民にとってすごく大きいことなんだと実感しました。
山野 ある小学校では私のブログをプリントアウトして、先生方が確認しながら動いていたそうです。そんな学校があるということもお聞きしていますので、トップが意思表示をするというのは大切だなと思います。
Tad なぜそのような政策になったのかということが、届きやすい時代になったということでもありますね。
山野 そうです。決まった、一律的なことでしたら事務的で良いと思いますが、今回のような危機管理に直結する突発的なことで、今までにない重要な部分は全部でなくともトップが表に出るべきだと思っています。
Tad 金沢市の事業にも影響が出た部分もあったと思いますが、1年を振り返られて、いかがですか。
山野 金沢市の目玉事業であります「金沢百万石まつり」を中止にせざるを得ませんでした。「金沢マラソン」、「金沢ジャズストリート」、「金沢アカペラ・タウン」、そして、「風と緑の楽都音楽祭」も全て中止になりました。ただ、6月19日に、国が都道府県を跨いでの移動の自粛を解除しましたので、それ以降は、できる限り代わりの事業をやっていこうと呼び掛けて一生懸命やってきました。一つ例を挙げると、「金沢マラソン2020オンライン」があります。本当にたくさんの方に参加をいただきまして、新たな市場が開けたのではないかなと思っています。この例に限らず、代替事業を行っていく中で、意外とこれはいいなとか、今までとは違う方々にも施策や情報が届いたという実感がありました。コロナ以降は様々な大会などをリアルと今回のようなオンラインでの代替事業とのハイブリッドで実施できないかなと、そんなことを今職員と共に考えています。
2021年はリアルな大会に加え、オンラインも活用される「金沢マラソン」(イメージ)。
原田 新たな視点というか、今まで気づかなかった部分が開いてきたということもあるということですね。具体的にはどういうことでしょうか。今までなかった交流が生まれた、そういったことでしょうか。
山野 「金沢マラソン」で例えますと、オンラインで実施する1カ月の間に42.195キロを完走するという内容です。早い遅いを競うものではありません。知人に、市民ランナーで体を壊して、とてもじゃないがフルマラソンは走ることができないという方がいたんです。でも1カ月の間だったら、体調をみながら、ウォーキングしたり軽くジョギングしたりで、2キロ3キロは走れる。1日で完走するのは無理でも、1カ月かけてなら決して不可能じゃないとオンラインマラソンに参加いただき、本当に1カ月かけて42.195キロを完走されました。ご本人の言葉をお借りすると「完走ではなく完歩」とおっしゃっておられましたけれど、金沢マラソンに関わることができたと喜んでおられました。お年を召した方からも同じような話をお聞きしましたので、民間的に言えば新たな市場が開拓できたかなあという風に思っております。これはやっぱり大切にしていきたいですね。
Tad この先のイベントも、今まで参加できなった方々も、ハイブリッドなら新しい形で参加できるかもしれないということですね。新しい可能性を開いていかれている感じがしますね。
山野 そうですね、怪我の功名というか、ピンチをチャンスにするというか。コロナでなければ実現していなかったと思いますね。「金沢市デジタル工芸展」も初めての試みですが、こちらも評判がよかったですね。窮余の一策で行ったものが新しい視点や市場を開いてくれることがありますので、どんな形にせよ、来年以降もこの経験を何とかプラスに生かしてきたいと思っています。
Tad 「金沢市デジタル工芸展」はどういった形で開催されたんですか。
山野 工芸作家さんも個展などが全くできなくなりました。金沢市がネット上に、展覧会を開こうと工芸作家さんに呼び掛けて作品の写真を送ってもらいました。それを全てアップして、作家さんのお名前を添えて展示(掲載)いたしました。そして出展料をお支払いしました。たくさんの作家さんに出品していただき、4月以降で30万件近いアクセスがありました。その数に驚き、ひっくり返る思いでした。来年はなんとしてもリアルの展覧会を開催していきたいと思っていますが、今回、会場に来ることができない遠方の方々に対して、デジタル展覧会とすることで参加していただけたのではないかと。そこから販売にもつなげていければ作家支援としても役立つのではないかと思っています。
工芸作家を支援するため、インターネットを活用して配信する「金沢市デジタル工芸展」。
Tad 先端的なお取り組みですね。
山野 何度も言いますが、窮余の一策なんです。窮余の一策として職員が、市長これどうですか、こんなことやっていきましょうと進言してくれる。それを「おお、それはいい、それいい」とカタチにしているわけです。
Tad 職員の方のアイデアだったりするんですね。
山野 「金沢マラソン2020オンライン」も「金沢市デジタル工芸展」も、両方とも職員のアイデアです。
原田 今、「金沢市デジタル工芸展」のお話がありましたけれども、それ以外にも今年一年の事業の成果があると思いますが、いくつか挙げていただいてもよろしいでしょうか。
山野 実はですね、今年1月から2月初頭の新年会のたびにお伝えしてきたことがあります。「水害ハザードマップ」というものがあるのですが、これまでは水防法に基づき、「100年に一度の大雨に備えた避難所が分かるハザードマップ」を作り、周知をはかってまいりました。しかし、いよいよ不規則な天候になってきましたので、「1000年に一度の大雨が降った時のハザードマップを作ろう」ということになり、石川県と連携しながら昨年度中に全て完成させ、梅雨前に全世帯に配布をしました。
紙の資料があっても、ホームページにアップされていても、なかなかピンとは来ないものなので、職員が出かけて行き、色々な場面で説明することによって危機感を持っていただければと。個別に災害図上訓練を実施し、危機感を共有していただくということを、春からやっていく予定でいましたけれど、とてもじゃないですができない状態になりました。マップはすべて配り終えたので、8月以降には地域ごとに職員が出かけていき、「我々の地域はここが一番避難しやすい、安全だ」などの意見を聞きつつ、水害ハザードマップで図上訓練をしながら問題意識の共有を進めています。今年の8、9月から始めた取り組みですが、これは引き続き徹底してやっていかねばと思っています。
災害時の安全確保のため、金沢市の全世帯に配布された「水害ハザードマップ」(イメージ)。
原田 確かに、今、災害が増えていますよね。今までに体験したことのないものばかりです。
Tad 激甚化していますよね。
原田 そういう意味では備えというものはどこまでやっても十分とは言えないでしょうから、そこはもう先駆けてやっていかれるのですね。
山野 毎年のように全国で大雨水害がありますので、決して石川県や金沢市は安全だという保証はありません。ですからハザードマップで危機感を市民の皆さんと共有することを今年の後半からやっていますし、来年も引き続き継続していかねばと思っております。
原田 私を含めた子育て世代からすると、教育や子供を取り巻く環境が変わっていく中で、金沢市としては、どういう風に子供たちを育てていこうと考えていらっしゃるのかお聞かせいただけますか?
山野 子育てにはやはり力を入れていかねばと思っていますし、これまでも力を入れて取り組んできたところでもあります。ただ今回、お叱りをいただいたのは、小学校にエアコンが完備されていないじゃないかということ。5月まで学校を休業した関係で、夏休み期間中の登校日の際、何校かでエアコンが完備されておらずご迷惑をおかけしてしまいました。2021年の夏前には全校にエアコンを完備して環境を整えていきたいと思っていますし、様々な課題にしっかりと対応していきたいと思っています。
Tad なるほど。実は、最後にもう一つお聞きしたいことがあってですね。金沢市のトップとして、市長としての思いとか、苦しみ、あるいはこういうところが楽しいんだということを教えていただきたいです。市長ってどんな存在なのかを一言いただけますでしょうか?
山野 あの、市長という職は、誤解をもって受け止められるかもしれませんが、楽しいです。
まさに今、こうしてお二人と直接お話しをしています。多くの市民の皆さんに触れ合います。厳しいことも、ありがとうと感謝の言葉もいただきます。時には、文字通り、触れられることもあります。市民の皆さんと直接触れ合えるのが我々基礎自治体の魅力だと思っていますし、先ほど申し上げたように、金沢市の職員は非常に優秀ですので、新しい政策の提案もしてくれて、それを検証しながら、よし行こうと推し進めていくわけです。案件の小さい、大きいはありますけど、毎日がその積み重ねですので、とても楽しく仕事をさせてもらっています。
Tad ありがとうございます。お聞かせいただき、なんだか凄く充足した気持ちになりました。

ゲストが選んだ今回の一曲

「ムーンライト・セレナーデ」

「恥ずかしながらですね、50歳超えてから人に勧められるままサックスの練習を始めました。先生から、今からいろはから勉強したら嫌になるから、誰でも聴いたことのある曲からスタートしましょう、と言われ、選んでいただいたのがこの曲です。公務の合間、3年近くかけて2019年の金沢ジャズストリートでJAZZ-21の子供たちとセッションをさせていただきました。大変思いの深い曲ということで選ばせていただきました」

トークを終えてAfter talk

Tad 今回はゲストに、金沢市長・山野之義さんをお迎えしましたけれども、いかがでしたか原田さん。
原田 はい、山野市長には小規模なイベントでもよくお姿を見かけするため市民に近いイメージがあって、親しみをもって市長さんって呼びたくなるような方だなと勝手に思っていました。今日、実際にお会いして、市民や職員の方の声をしっかり聴いて、それに対してきちんとレスポンスすることを大事にされている方なのだなということがよくわかりました。Mitaniさんいかがでしたか。
Tad はい、あの曲が鳴っている間も、「金沢マラソン2020オンライン」も「金沢市デジタル工芸展」も、本当に職員の発案だったのですと誇らしげにおっしゃっていたのが心に残っています。ご自身では想像もつかなかったんだって、そんな風におっしゃっておられて。職員からすれば、提案を聞いていただけて、真剣に検討してくださるからこそ、安心感や信頼感があるだろうなと。それがあるから金沢というまちがどんどんイノベーティブで面白いまちになっていくんだろうなと思いました。市民の声を直接聞けるのが楽しみとおっしゃっていましたが、市長が、市民も、職員も、企業も、観光で来られた方々も大切にして、みんなで金沢のポテンシャルを引き出していくことをまちづくりの中心に据え続けられる限り、金沢がどんな危機に見舞われたとしても、それをバネにして行ける、ほんとうの意味で強いまちになれるような感じがすごくしました。ありがとうございました。

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