後編

モノづくりのDNAと工作機械への愛。

第69回放送

中村留精密工業株式会社 専務取締役

中村匠吾さん

Profile

なかむら・しょうご/1991年金沢市生まれ。慶応義塾大学大学院卒業後、2015年、白山市の工作機械・光学機械のメーカー、『中村留精密工業株式会社』(社員数約600人、世界55ヵ国に販売。特にマルチタレットと言われる複合加工機のジャンルで高いシェアを誇る)に入社。営業、生産、設計、管理と社内のすべての本部業務を経験後、2018年、専務取締役に就任。自社の主力である工作機械事業を統括する。

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Tad 前回に引き続きまして、今回のゲストは『中村留精密工業株式会社』専務取締役の中村匠吾さんです。聞くところによれば、中村専務はご趣味がいろいろおありとのこと。
中村 そうですね、音楽も好きですし、ツイッターみたいなSNSを使った活動も大好きですし、筋トレも好きですし、何より甘いものが大好き。
原田 甘いものを食べて筋トレして。
中村 そうですね。筋トレした後に甘いものを食べるのは筋肉に非常にいいらしいので。
Tad 僕は筋トレせずに甘いものばっかり食べてますけれども。
中村 僕は筋トレして、甘いものを食べるためにまた鍛えてという、そういう循環で。
Tad 音楽は、プロ並みの腕前と伺いましたが。
原田 あ、そうだ、前回の曲紹介の時もすごく熱の入った紹介でしたね。
中村 音楽は中学生の頃からずっと大好きですね。
Tad 好きなだけじゃなくて、作られてもいますよね。
中村 一時期作曲もやらせていただいて、曲をリリースする機会もいただきました。
Tad どういうジャンルになるんですか?
中村 当時やっていたのはハウスとかテクノというジャンルですね。曲作りはパソコンで、DJもしてました。楽器をやろうとしたんですが、あまりできないタイプで、憧れが強かったのかもしれないですね。音楽で表現をしたいけど、楽器ができないから何で表現しようかと考えたときにパソコンがあって、DJ機器もあったりして。そこから入っていったような気がします。
Tad それも一種のプログラミングみたいな。
中村 そうですね、近いかもしれないですね。パズルのように組み合わせていく感じ。音のバランスとかを考えながら配置していくので、そういうような感じかもしれないですね。
Tad 前回、『中村留精密工業株式会社』が石川県でも代表的な工作機械、すなわち「機械を作る機械」を作られているメーカーさんだというふうにお話を伺いましたが、中村専務ご自身もかなり熱のこもった、愛のこもったお話を、「工作機械のことは俺に聞け」と言わんばかりに語っていらっしゃいましたが、最初に工作機械に触れたのっていつですか?
中村 そうですね、中学校の図工の時間に私、椅子を作ったんですね。木で作ったんですが、「ボール盤で穴あけをしてください」と言われたんですね。
Tad ボール盤というのは?
中村 ボール盤というのは穴あけをする専用機のようなもので、中学校の図工教室とかにもあるような機械なんですね。
原田 穴をギーってあける、レバーみたいなもの?
中村 そうですね。その時はボール盤が工作機械だということはまだ知らずに「こんなんで穴開けるんや、ちょっと怖いなあ」って感じでやってましたね。それが実は工作機械との最初の出合いだったということに最近気が付いて、ものすごくあれが大切な時間だったんだなと思っています。
Tad 工作機械のメーカーさんの家にお生まれになったということは…
原田 会社、工場とかに、行ったりしませんでしたか?
中村 いや、それが全然なかったんです。もちろん物心がつかない頃は、会社のイベントに連れていかれたりということもあったかもしれないんですが、やっぱり中学生、高校生になってくるとそうした関係性が薄くなってしまって、その時は会社が何を作っているのかも全然知らなかったんです、実は。中学生、高校生の頃は(人に家業のことを)ぼかして言ってましたね、ネジとか機械をどうするだとか曖昧に説明していました。
Tad お父様からも曖昧に説明されていたんですか?
中村 そうですね、父は意外とそういうことには関与せず、私はある程度自由にやらせてもらっていました。あまり直接「うちはこういうことをやってるよ」と言われた経験はないですね。
原田 となると、いつ知ったわけですか?
中村 実はそのきっかけというのが大学で、別に機械系ではないんですが、ある日、機械工学について大変権威のある先生に「ちょっと来てください!」と呼ばれまして行ってみると、研究室の地下に工作家具がずらっと並んでまして、それを見ていく中にうちの機械があったんですね。そこで先生が立ち止まって「あなたのところのこのマルチタレットという機械は、このジャンルのパイオニアなんだ」ということを熱弁されて、「この構造のここがすごい!」と、何にもわからない自分にずっと説いてくださったんですね。
その印象が強烈で、さすがに家に帰って家業のことを調べました。「こういうものを作っとるんや」とそこで実感しまして、そこから会社に興味を持ち、より関心をもって接していったという感じですね。
広々とした工場内には、工作機械がずらりと並ぶ。
原田 なるほど。やっぱりどこかできっとDNAとしてありますよね。モノづくりのようなことに対して「なんか面白いな」という気持ちはあったんでしょうね。
中村 はい。小さい頃から牛乳パックなんかを切り開いて工作をしていたような子でして、そこに熱中すると何を言っても止まらないような子だったらしくて。今も何かモノを作るということにすごく関心がありますね。曲を作るのもモノづくりに近いところが多少あって、1つのクリエイションですから、そう意味では「1つのモノを形作っていくことが好きなんだなぁ」と今でも思っていますね。
Tad 大学の先生にある意味強烈に教わって…その後に『中村留精密工業株式会社』にご入社されるというのは、ご自分でお決めになったんですか?
中村 その時はやはり父の後押しがありました。大学卒業間近に、父が一人で東京に来て「飯、食わんか」ということでレストランに行きまして。その時に「一緒にやってみんか。会社に入らんか」と言われたことを覚えていますね。その後はバーで二人でいろいろ身の上話をしながら快諾をしたという思い出があります。その頃は会社についてものすごくいろいろ調べて、やっぱりこの会社と一緒にやっていきたいという思いが私の中ではあったので。「背中を押された」という形が正しいのかなと思ったりもしますが。
Tad なるほど。経営者の家に生まれたからといって、必ずしもその会社に入ったり、後を継いだり、それだけが人生じゃないですよね。
中村 そうですね。中学とか高校の頃から「必ずしもそうでもないから」と思いながら進路を決めている感じだったんですが、それでも自分で決めてこの業界に入ったので、今でも仕事をするたびに「自分で決めたから、やってみるか」みたいな感じがすごくあるんですね。
自社独自の操作盤を備えた工作機械と一緒に写る中村専務。
Tad 中村専務が入社されてから今に至るまで、実感として『中村留精密工業株式会社』を「こんなふうに変えてきた」というのはありますか?
中村 一番大事にしているのは、社員の方に自発的に取り組んでもらうことです。一人のパワーでやっても会社がうまく回っていかない時代。これからはみんなで一緒にやっていくというのが正しいのかなと思っています。いろんな人がそれぞれに考えて、それぞれにアクションを起こしていくという姿を目指しています。弊社にもIoT化のプロジェクトがあって、それは場合によって実際の工場に自分でソフトを作って導入し、そのソフトを自分たちで使って成果を出そうよ、というプロジェクトなんです。
2016年あたりから進めているんですが、その過程で、若い社員の方々、特に強い意見を持っている社員の方を集めてやらせてもらうと、彼らの行動力はすごいですし、自分が知らないことも実際に多いんです。私が全部認知しているわけではなくて、彼らが勝手に動いて、何かソフトを作ってそれを使っているという状況にものすごくパワーを感じています。
原田 なるほど。指示を待っているのではなくて、自分たちでいろいろトライされているわけですね。
中村 はい、久々にソフトを開けると、私も知らない機能がいっぱいあって。こんなものができたのかという感じで、自分もいろいろ調べるんですが、それも追いつかないぐらいのスピードでやっていくのが面白いなと思っていますね。
Tad 若い社員さんたちが楽しみながら仕事をしているんですね。
中村 そうですね。楽しんでいるということは自発性に大きく関わってくると思います。工作機械を使うにしても、やっぱり楽しんで使っていただきたい。そういう機能のアイディアを工作機械に盛り込んでいくことでお客様がいっそう工場現場を楽しんでもらえるようになるというのが、私の一つの目標だったんです。そういうところは、自分なりに楽しむことで実現していきたいなと思っています。
Tad 楽しめる機能というものもあるんですか?
中村 自分の思っていた形が実現されることが、現体験としてのモノづくりの面白いところだと思うんですが、たとえば段取りや納期に追われたり、プログラムの作成が溜まったり、もしくは不良が出たり、寸法が外れたとなると、どんどん辛くなっていくんですね。そういうことを乗り越えるものがあれば、もう少し気持ちに余裕が生まれて、楽しい瞬間が増えるんじゃないかなというふうに考えているので、工作機械がそこでできる余地というものがあるんじゃないかなと個人的には思っています。
Tad そんな中で、昨年(2020年)は新しいサービスを配置されていますね。
中村 そうですね。12月にちょうど「プログラム代行」といったサービスを始めまして、お客様でお困りになっているプログラム作成を我々がサポートさせていただくというものです。こういうプログラムで、こういう図面を加工していきたいだとか、もしくはツーリングリストをいただいた上で、我々が「こういうプログラムはどうですか?」と提案させていただくサービスになります。
プログラムの作成を代行する新たなサービスをスタート。
Tad お客様ご自身が『中村留精密工業株式会社』の機械を導入されて、大体同じようなものを作っているんだけど、途中「ちょっと変更したい」とか「こんなふうに形が変わります」というのをお客様から依頼されて、プログラムの作成を代行してくれるということですね。
中村 そうですね。お客様の機械を納入させていただく時は、その加工機の検収と一緒にプログラムを納入させていただくことはこれまでもやっているんですが、納入後に新しく段取りして、プログラムを作成しないといけないという回数が圧倒的に多いんですね。「プログラムのサイクル短縮を手伝ってくれないか」とか「一緒に段取りしてくれないか」みたいな話が結構あって。「ああ、これは世の中にこれでお困りになっている方々が実はたくさんいるんじゃないか」ということで代行サービスを立ち上げました。
Tad 今後は会社をどんなふうにしていきたいか、最後に一言よろしいでしょうか。
中村 はい。モノづくりをもっと面白くするための機械を作っていきたいです。

ゲストが選んだ今回の一曲

U-zhaan & Ryuichi Sakamoto feat. 環ROYx鎮座DOPENESS

「エナジー風呂」

「教授(坂本龍一)の『energy flow』という曲があって、それをもじって『エナジー風呂』とした、非常に遊び心のある曲です。身近な風呂というものをこの素晴らしく音楽性の高いメンツでやっているのが、もう見ただけで“間違いないな”という感じで、たまらない曲です」

トークを終えてAfter talk

Tad ゲストに『中村留精密工業株式会社』専務取締役の中村匠吾さんをお迎えしましたけれども、いかがでしたか、原田さん?
原田 どんな時期においてもワクワクしながら、工作していた幼い頃の心そのままに、ご苦労もありながらモノづくりに取り組まれていらっしゃるんだなと思いました。Mitaniさんはいかがでしたか?
Tad 大学の先生から「あなたの機械がすごい」と言われた時、ご本人がまだ詳しく家業のことをご存じではなかったというところが面白かったですね。
おじいさまである創業者の方が、扱うのも大変な汎用機を使う社員さんたちの姿を見て「なんとか自動にして、彼らを楽にしてあげたい」という思いから事業がさらに発展したというお話がありましたが、お客様のプログラムを代行で作成してさしあげるといった新しいサービスについても、中村専務の工作機械に対する愛と心を、社員さん、お客様といった工作機械を使われる方へとしっかり繋いでいるなと、そんなふうに思いました。ありがとうございました。

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