前編

2つの法人で企業のブレイン役を務める。

第72回放送

株式会社サクセスブレイン 常務取締役

田野口和矢さん

Profile

たのぐち・かずや/1969年、東京都大田区生まれ。上智大学経済学部を卒業後、大手食品メーカー『味の素株式会社』でマーケティング部門を経験。2008年に『株式会社サクセスブレーン』(※現 株式会社サクセスブレイン。1993年創業。株式会社サクセスブレインと税理士法人サクセスブレインからなる税務会計コンサルティングファーム)に入社。顧客の潜在価値を高める独自のコンサルティング手法で、企業の黒字化や、後継者・幹部社員の育成、新規事業の立ち上げなど実績多数。税理士、M&Aシニアエキスパート。

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Tad 今回のゲストは『株式会社サクセスブレイン』常務取締役の田野口和矢さんです。会社での経歴などについて改めてお聞きするのは初めてなんですが、ちょっと気になるのが、『株式会社サクセスブレイン』は『株式会社サクセスブレイン』と『税理士法人サクセスブレイン』という2つの法人から成り立っているということなのでしょうか?
田野口 そうですね。
Tad これってどういうことなんですか?
田野口 まず、当社のロゴは、石垣島のマンタと組み合わせたものなんですね。
『サクセスブレイン』のロゴマーク。マンタが遊泳する姿をモチーフにしている。
原田 エイのことですか?
田野口 そうです。マンタはエイの一種なんですが、石垣島で悠々自適に泳いでいますが、実際は潮の流れがかなり速く、なかなか激しい海なんです。そんな中でも2つの羽のような胸ヒレを使って悠々自適に泳いでいる。だから当社もマンタのように、クライアント企業を2つの羽で悠々自適に導いて差し上げるという企業コンセプトとなっております。ですから税理士法人と株式会社で一つの会社というふうになっております。
同社のイメージビジュアル。マンタが持つ2つの羽のように、税理士法人と株式会社の2つでクライアントを導く。
Tad 『税理士法人サクセスブレイン』はこの番組のCMでも流していただいていましたが、実際には、税理士法人としての側面と、株式会社としての側面、その両方を使い分けているということでしょうか?
田野口 そうですね。『税理士法人サクセスブレイン』というのは、一般的な会計事務所と一緒で、法律上の決算書を作ったり、申告書を作ったり、まさに税務会計、お金の面からお客様を支援するというのが役割ですが、お客様といろいろお話をしていると、例えば「社員が辞めていくんだけど、どうしたらいいか?」とか「将来的なビジョンをどうすればよいか?」、あるいはISOみたいな「会社としての仕組みを作りたい」だとか、実際の財務会計以外にいろいろな相談をいただくんですね。今までだったら「それは僕たちの仕事じゃないです」とか「それはできません」というふうに答えていたんですが、株式会社の部分で、どうすればお客様の会社が良くなっていくか、成長していくかという付加価値についてお手伝いさせていただいているということですね。
Tad 税理士法人というステータスだけではできないことを株式会社の方で、株式会社の方ではできないことを税理士法人の方で実現するというようなことですよね?
田野口 そうですね。
原田 どちらとも会社にとっては大事な側面でどちらかが欠けていても会社にとっては大問題で、その両方を見ていただけるというのは、お客様としてもすごく心強いですよね。
田野口 そうですね、ですから顧問の税理士さんがいらっしゃる会社でも、当社は経営顧問としてお仕事をさせていただいています。ライバルとしてではなく、一緒になってやっていきます。ですから、そういったコンセプトの会社というのはあまりないかと思いますね。どちらかというと会計事務所で「取った・取られた」みたいな話はあるかと思うんですが、「取った・取られた」じゃなくて、タッグを組みながらやっていくというのが当社の特色です。
Tad 実際には企業にどんなサービスを展開されているのでしょうか? 例えば『税理士法人サクセスブレイン』でいうと、税務会計のいろいろなペーパーワークも含む提出作業などが中心かと思うんですが、株式会社の方の「付加価値的な仕事」というのは、一体どういうものなんでしょうか?
田野口 具体的には経営理念、あるいは経営計画を作ったり、先ほど述べたISOの作成だったり、人事評価制度を作ったり。あとは社員研修ですね。リーダー研修というところではよく「ヒト・モノ・カネ」という言い方をしますけれども、特に「ヒト」の部分に注力しながらコンサルティング活動を行うのが株式会社としての当社の特徴かと思います。ただ、先ほどマーケティングという話もあったかと思いますが、元々、僕は「モノ」のところも前職でやっていたので、「ヒト」と「モノ」は株式会社として、「カネ」の部分は税理士法人として対応していくという感じですね。ですから当社は「ヒト・モノ・カネ」のすべてにアプローチすることのできる会社になるのかなと思います。
原田 会社づくりみたいなところでいくと、元々、会社という「モノ」があるわけですよね。その「モノ」を「新たに作り上げる」ってなんだか不思議な気もするんですが、それはどういうことなんでしょうか?
田野口 そうですね、相談に来られた時に、例えば会社側から「頑張っているけれどなかなか利益が出ない」、「しっかり経営しているはずなんだけど、なぜかみんな辞めていってしまう」、そういったお話が結構あるんですね。それをじっくり見ていくと、実はお金の問題ではなくて、会社内でいわゆるモラル・ハザードが起きているとか、結局はヒトの問題であることが多いんです。世間で言うところの「セクショナリズム」というものになるのでしょうか。
Tad 部署ごとに「自分の部署の仕事はこれだから、それはあなたの仕事でしょう」と言い合うようなことですよね。
原田 社内で分業が固定化されてしまったような状態ですね。
田野口 分業自体は悪いことではないんですが「自分さえよければ、ほかは助けない」、あるいは「全部が他人の責任」というような形で出てくることが問題ですね。営業と工場間で「営業がちゃんと仕事を取ってこないからだ」、「工場がちゃんと生産していないからだ」なんて問題になることは、わりとよくありますね。
Tad さらに良い会社、さらに良い社風にしていこうと思ったら、会社づくりに力を入れなければならないと。
原田 社風なんて、すでにあるものですよね。だけど、ずっといるから気づかない、みたいな話はあるかと思うんですが…。
田野口 そうですね、ですから家庭の味といいますか、例えば家庭で奥さんが作ってくれる味噌汁や野菜炒めって、そこで食べていると当たり前のものですよね。でも、ほかの家で食べたら野菜炒めも味が違っていたりしますよね。味噌汁なんかは特にそうですよね。家庭の味は家にいたらわからない。でも外に行ったらよくわかる。よくあるのが、結婚して、今までのおふくろの味が、奥さんが作るようになったら「違うぞ」だとか。
原田 たしかに「これ、おいしいね、どういう分量で作るの?」みたいなことを聞かれてもわからないですよね、家の味というのは。「お味噌はどんなものを使っているの?」とか「塩はどのくらい入れているの?」とか、それに気づかせてくれるというか、そういった意味合いですか?
田野口 そうですね、ですから僕らが何をしているかと言うと、まずはそれに気づいてもらって、じゃあこの味のレシピを再現するにはどうしたらいいか、というのをコンサルティングサービスという形で提供している、そんな感じですね。
Tad 面白いですね。
原田 そうするとやっぱりみんな自分の会社について考え直して、一層こういうふうにしていきたいという気持ちを強くしていくでしょうね。
Tad あるいは経営者がこういう会社にしていきたいんだというビジョンを持っていたりするんだけれども、その提案の仕方がわからないとか。
原田 うまく伝えられなかったりだとか。
Tad 伝わっていないから実際に社員がやってくれていないのかもしれないですし。そこを「手伝ってもらいたい」というような気持ちも経営者側にはあるかもしれないですね。
田野口 逆に言えば、理想論ばかり唱えている経営者、しかも赤字を出しているような場合、お風呂で喩えると栓が抜けているままで水をジャージャーと出しているような状態ですが、そうすると、栓をきちんと閉めて水が溜まる状態にしないといけませんよね。理想論ばかり語っていると寝言になってしまう。そこに実を入れるとなると、やっぱり会計事務所の仕事ですね。しっかり仕事を「見える化」していくということも非常に大事になる。だから申告書・決算書を作ることだけが大事じゃなくて、いわゆる「会社の健康診断」になりますが、きっちり経営分析できるようにしておくことが大事ですね。そこに、今言った「社風」がのる。ですから、どれか一つが欠けても実はダメなんです。
原田 構造物みたいな世界になってくるわけですね。
田野口 そうですね。まさに構造物ですね。
Tad 会社づくりや社風づくり、それをやり抜く上でどういったことを大事にされているんですか?
田野口 一番はやっぱり経営者の方としっかりお話をして、どういう会社にしたいのか――「ミッション」、「ビジョン」という言い方をしますが、自分の会社はどんな会社になっていきたいかというところを経営者がしっかり持っていないと、僕らもお手伝いできないんですね。例えば、アメリカに行きたいのか、それとも中国に行きたいのか、どこに行きたいかわからないのにとりあえず船を出してくれと言われても、どうしたらいいかわからないものです。ですから会社というのは、やはり船頭である、経営者、社長さんの力が大きいなというのは、やっぱり感じますね。
原田 そのお話をされていく中で社長さんも最初は見えていなかったけれども、田野口さんとお話していく中で何か見えてきたぞと、そういった過程もあるわけですか?
田野口 まさにその通りですね。
原田 それが見えてくると、今度はそのためには何が要るかといったことが固まってくるということですよね。そういう意味では本当に大事なことを見極めるためにある会社ということですよね。人であったり、経営理念とか、それから何が、どんな人が必要かとかいったことですよね。
Tad 事業基盤の一つが税理士法人であるということは、経営の上でどのように有効に作用しているんですか?
田野口 税理士の仕事というのは、その会社の中に入れるわけです。会社の全部が見えるポジションなんですね。でも、一般的にはその価値に気づいていない会計事務所って意外と多いんじゃないかと思います。なぜかというと、申告書・決算書を作ることだけが会計事務所の仕事だと思っているから。でもポジション的には会社の内部が一番よくわかるところなので、実は「宝の山」なんです。そこを活かそうというのが、『株式会社サクセスブレイン』の一つの考え方ですね。
Tad 株式会社と税理士法人が表裏一体という組織形態を持っていて、機能を使い分けながら運営する税理士事務所なんて、なかなか聞いたことがないですね。
田野口 ないですよね。実際、北陸でのライバルといえるところはどこかといわれてもないですし、もしかすると全国的に見てもあまりない形態かもしれませんね。
Tad こういう運営をしていこうという発想の根源はいったい何だったんですか?
田野口 当社は平成5年(1993年)創業ですが、この『株式会社サクセスブレイン』も会計事務所と一緒に設立しているんですね。当社代表の岩木(岩木弘勝氏)自身が当初から、いわゆる申告書だとか決算書を作るだけの会計事務所は世の中からなくなると言っています。本来の会計事務所の仕事はやはりお客様の会社を導いてあげること、会社を永続的に発展させていくというのが本来の会計事務所の役割ではないか。それができない会計事務所は今後潰れていく――そういう発想で、事業を立ち上げているんですね。
原田 最初から! 実務面とクリエイティブ面の両方を担っていらっしゃると考えると、すごいですよね。まさに企業の脳、両方のブレインをということですね。
Tad 理念のないところに行動の計画や規範というものがあっても、たぶんそれは実現しないということですよね。
田野口 二宮尊徳さんの「道徳なき経済は犯罪であり、経済なき道徳は寝言である」という言葉があります。当社のホームページに書いたのですが、大河ドラマにもなった渋沢栄一さんの道徳経済合一説にちなんで、やっぱり経済・道徳のどちらもないとだめなんだよというのは、当社としてもその通りだと思っていて、それをきちんとやっていくというのが社会にとっても非常に大事なことなのかなと思いますね。
同社が提唱している「理念ピラミッド」。永続的に発展するための企業経営の在り方を構造的に示している。

ゲストが選んだ今回の一曲

中島みゆき

「糸」

「最初にこの曲を聴いた時には涙が流れるくらい感動したというのが一番の理由としてあります。また歌詞に、出会いを糸に喩える部分がありますが、僕自身、ここにたどり着くまでにいろんな人に助けられ、あるいは人を傷つけてしまったこともありました。無駄な人生はない、出会いというのは偶然のようで必然なんだということを、この歌を通じて学ばせていただいたように思います」

トークを終えてAfter talk

Tad 今回はゲストに『株式会社サクセスブレイン』常務取締役の田野口 和矢さんをお迎えしましたけれども、いかがでしたか、原田さん。
原田 社風とは家庭の味噌汁のようなもの、という喩えがすごくわかりやすくて、当たり前のことを紐解いていくと、会社としてすごく大切なことが見えてくるということなんですよね。Mitaniさんはいかがでしたか?
Tad 実は『サクセスブレイン』が株式会社と税理士法人の2つから成り立っているということを、本当に知らなかったんですよ。『税理士法人サクセスブレイン』としては、企業向けに税務・会計監査とか、各種の申告業務を提供されていますし、そうした税理士法人を業務基盤としつつも、一方でそれに限らず、会社づくり・社風づくりなどお客様となる企業の経営全般に関わることをコンサルティングされている。こういう企業形態ってほとんど見たことがないんですよ。今回の田野口さんのお話を聞いて納得しました。税理士が本来持っている機会を考えると、担当する業務領域だけではもったいない。2つの組織形態を重ねてこの構造を作り上げてこられたこと自体も非常にイノベーティブだと思いますし、コンサルティングの説得力も感じます。「税理士法人や会計事務所ってこんな感じだよね」という常識をある意味では疑って、『株式会社サクセスブレイン』の組織構造と事業領域を作り上げてこられた田野口さんや経営陣の方々、その考え方と実行力を、心からリスペクトします。

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