前編

広く生活の中に溶け込むデジタルサイネージを提供。

第17回放送

サイバーステーション株式会社 代表取締役社長

福永泰男さん

Profile

ふくなが・やすお/1974年、石川県金沢市生まれ。高校卒業後、大手家電量販店に就職。1998年、『株式会社ドリームワークス』を創業し、ソフトウェアの受託開発を中心に事業を展開。2000年、『サイバーステーション株式会社』設立、代表取締役に就任。2009年より、現在の主力製品であるデジタルサイネージ「デジサイン」の販売を開始。

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Tad 今回のゲストは『サイバーステーション株式会社』代表取締役社長、福永泰男さんです。最近、本当にデジタルの看板が増えましたよね。いや、増やしましたよね、福永さん。
福永 増やしましたね。
Tad デジタルサイネージとはこういうものだという定義はあるんでしょうか?
福永 ディスプレイを使った、看板の代わりの表示装置の総称として「デジタルサイネージ」と言われています。
Tad 駅でもデジタルサイネージの広告や看板を見ますし、お店の中でも商品の紹介などに使われていますよね。
福永 元々は渋谷のスクランブル交差点の大型ディスプレイのような、映像を流していろいろな商品のプロモーションに使われていたものが一般的になってきて、ようやくいろんな場所に導入されているというのが現状です。
Tad 私も存じ上げなかったのですが、福永さんは最初、ソフトウェアの受託開発の会社を経営されていたそうですね。そこからデジタルサイネージを主力事業とされるまでに、どのようなきっかけがあったんでしょうか?
福永 独立し、創業すると、最初はご飯を食べるために一生懸命やらなければいけないですよね。そして従業員が増えてくると当然、彼らの給料のことも考えていかなければならない。そうなると「すぐにお金になる仕事」といえば、やはり請負の仕事、受託の仕事です。大手企業から依頼を受けたら、求められたものを作って納品するという作業の繰り返しです。ただそれは、簡単に言うと人の時間、自分の時間をある意味でお金に換えているわけなので、仕事量を増やすと従業員を増やさないといけない。失敗したら残業をしなくてはいけない。納期が短いならばその分、徹夜をしてでも仕上げなければならない。そういうことの連続ですので、それが幸せなのかと思ったら、決してそうじゃない。だったら事業の在り方も含めて違った方法を考えていかなければいけないなと思って、2009年から自社製品であるデジタルサイネージの「デジサイン」をリリースしたというのが、大枠の経緯です。
Tad 当時、さまざまなジャンルの製品を作ってみてもよかったと思うんですが、なぜデジタルサイネージが良いと思われたのですか?
福永 そうですね。『株式会社アイ・オー・データ機器』の細野社長(註:細野昭雄氏・現会長)と2002年くらいから親しくさせていただきまして、当時の同社はビジネス向けではなくて個人向けの商品をいろいろと展開されていました。しかし時代の変化で個人消費が減ってきたわけです。そこで同社としてはビジネスユーザー、要するに企業をお客様として展開するチャレンジをしていかないといけない、そんなタイミングだったんですね。そこで同社の製品を我々がソフトを変えて、つまり我々の商品とドッキングすればビジネスユーザーのニーズにも対応できるんじゃないかということで、2社でアイデアを出し合って作ったのが、デジタルサイネージの1号になったわけです。
Tad そうなんですね。モニターのような表示をさせるためのデバイス、装置といった要素を『株式会社アイ・オー・データ機器』がお持ちで、それを活かして製品作りをして行き着いた先がデジタルサイネージだった、ということですね。
福永 元々200億ぐらいのマーケットだったんですね。ただ、1台の放送システムが数千万という費用になる。というのは、デジタルサイネージの始まりは、テレビの放送と同じような仕組みだったんです。先ほども渋谷のスクランブル交差点の頭上の映像の話をしましたが、あれは正しくは放送システムの延長だったわけです。それが、インターネットがこれだけ普及する中で、ハードウェアの値段もだんだん下がってきた。それならばこれを組み合わせれば同じデジタルサイネージができるんじゃないか、さらに、もっと低価格になればニーズの裾野も広げられる。デジタルサイネージを使ってさまざまなプロモーションに活用していただくこともできる。または「動く看板」と言うほどでもないですが、映像を流してわかりやすくお客様に商品のことを説明する、ある意味「店員の代わり」にもできる。そういうふうになればもっともっと普及するんじゃないか、ということで取り組んできたわけです。
Tad 今、『サイバーステーション株式会社』で作ったデジタルサイネージの数というのはどのくらいになりますか?
福永 全国で約3万台を超えています。
Tad それはどんな用途が多いんですか?
福永 最初は銀行でした。窓口やATMの上などにディスプレイが置いてありますよね。そこからスタートしています。
銀行をはじめとした金融機関などから導入が進んだ、主力製品のデジタルサイネージ「デジサイン」。様々な情報をタイムリーに顧客に伝える。
原田 意外と身近にあって、いつの間にか増えてきた、そういう存在ですよね。
福永 銀行からの需要はどこにあったかというと、たとえば金利を表示するための金利ボードという専用の機械。あとはポスターチェンジャーという機械。「振り込め詐欺注意」のようなポスターがグルグルとロール式に回転するものです。この2つの機械を買おうとすると単純に100万ぐらいするんです。でも、デジタルサイネージの機械を入れれば20万ぐらいで事足りるわけです。
原田 それぐらいの金額で済むものなんですね。
福永 グルグル回さなくても、画面ですから勝手に切り替わりますし、音も流せるし、さまざまなことに使えるわけです。そうすると一石二鳥に留まらず、一石三鳥となるわけです。
Tad 銀行が初期のユーザーなのに対して、今はどんなユーザーが存在しますか?
福永 今は店舗ですね。金沢市内はまだ導入が進んでいませんが、関東や関西の方ではやっぱり飲食店内のメニュー表示ですね。
原田 お客様がその時点でほしいと思う情報をその場所に応じて出す、ということですよね。
Tad これだけ急速にデジタルサイネージが広がり、我々の生活に浸透している背景というのはどういうものなんでしょうか?
福永 今、日本人の労働者が少なくなってきています。特に外食産業では外国人を雇用することが多いんですが、そういう方々による接客や、インバウンドも含めたお客様への提案がなかなか難しい。そういった部分をデジタルサイネージが代わりにやってくれるということです。あともう一つはお客様の「単価」を上げること。要するに、お店側としてはついでに何かを買ってもらいたいわけです。今人気の商品は何なのかということを具体的に教えてくれて、店内で他の商品のレコメンドもしてくれる、という部分でしょうか。
Tad お客様一人ひとりの単価を少しずつ上げていく対策を打てるということですね。
福永 モノの値段が安くなってきています。今まで1万円だった商品が3000円になったとしますよね。そうすると単価が7000円、下がるわけです。それだとお店は儲からない。それなら3000円の商品を5点買っていただいて1万5000円にする。そういった部分でさまざまな商品を併せてご提案していくということも、各社ごとに工夫しているわけです。そういうなかでデジタルサイネージがどんどん活用されているということもありますね。
Tad 他にもデジタルサイネージのメーカーは何社かあると思うんですが、『株式会社サイバーステーション』が持つ強み、特徴はどういった点になりますか?
福永 まず一つはソフトウェアだと思っています。使いやすさのような部分。あともう一つはコスト面ですね。他社はいわゆる皆さんが使うパソコンをベースにシステムを組んでいらっしゃるんですが、我々は『株式会社アイ・オー・データ機器』と連携して製品開発をさせていただいておりまして、「STB」、つまりセットトップボックスという小さな箱のような機械を使ってやっているんです。
Tad トランプ2つ分ぐらいのサイズでしょうか。
福永 本当にそれぐらいの、お弁当箱よりちょっと小さいですね。そこからインターネットに繋がって、広告が流れたり、CMが流れたり、金利の数字が流れたり、そういったことができるような仕組みを我々がご提供しているというわけです。
原田 使いやすさは、やはり大事にされている部分ですか?
福永 そうですね。当然お客様によって、例えば飲食店、衣料品店、銀行と、それぞれの使い方があります。我々からすると、それぞれのマーケットで使いやすいセット、ソフトウェアの機能などをアレンジして提供させていただいております。それが我々の特徴だと思っています。
大手衣料品店にも導入されている「デジサイン」。商品のレコメンドや、人件費の削減などにも役立っている。
Tad 全国区で展開されていますが、石川県に会社を置く理由というのは何かあるのでしょうか?
福永 そうですね。よく言われるんです。「なんで東京に来ないんだ」って。
原田 実際、東京にも拠点はありますよね。
福永 大手町のほうにありますが、やっぱり石川県って人材の宝庫だと思います。全国的に見ても大学が多く、高等教育が充実していますよね。学生の数も約4万人いるわけで、そこは魅力的です。もう一つは環境です。商品を作るとかいいアイデアを生むということを考えると、もちろん、東京もいい環境と言えるのかもしれませんが、そもそも東京にはいろんな仕事があって、仕事というものに溺れてしまうんです。
原田 いつの間にか溺れる、埋もれる。
福永 次から次へと仕事がやってくる。そういう環境の中でいいアイデアが生まれるかというと、私は正直、生まれないんじゃないかなというふうに思っています。例えば東京、大阪、名古屋、それぞれのマーケットを俯瞰的に見たり、冷静に判断できるというのも、ある意味、金沢、北陸にいることの最大の魅力だと思っています。
原田 福永さん自身を育んだのも、この石川の地ですからね。小さな頃からそういったことはお好きだったんですか?
福永 もうオタクのようにITとサッカーを愛していました。
原田 また気になるキーワードが出てきましたが、詳しくは次回、うかがいたいと思います。

ゲストが選んだ今回の一曲

山崎まさよし

「One more time,One more chance」

「創業した当時はギターを趣味でやり始めた頃だったんですが、ギターといえば山崎まさよしさん。この方のギターの技術はすごいということで、実はライブにも行きました。どちらかというと男性が女性にフラれてくよくよしている歌なんです。チャンスをください、時間よ戻れ、と。それは男女の話だけじゃなくて、ビジネスにおいてもそういったことがあるんじゃないかと思うんです。後悔せずに生きていくということが重要だなというところを、ある意味で気づかせてくれる曲です」

トークを終えてAfter talk

Tad 今回はゲストに『サイバーステーション株式会社』代表取締役社長、福永泰男さんをお迎えしましたが、いかがでしたか、原田さん。
原田 福永さん、その名のごとく福々しい笑顔と言いますか、すごく充実されたニコニコの顔をしていらっしゃるなと思いました。受託でお仕事をされていた時に、「これは自分にとって幸せなんだろうか」と思ったことが転機になったというお話がありましたが、そこに福永さんの人生、仕事に対する考え方がすごく表れていると感じました。Mitaniさんは、いかがでしたか。
Tad 私もやはり、最後に環境の良さや良いアイデアを生むこと、幸せに仕事をするということ、仕事に溺れないことが次の仕事をより良い成果に繋げていく、そんな話をされていたことが印象的でした。幸せかどうかということを軸に事業の道筋を判断していくということが福永さんの個性であるように感じました。デジタルサイネージというと小難しく聞こえますが、電子看板、電子広告、そういったITシステムを日々意識しないほど生活に溶けこんで心地よい生活が創られているというのは、福永さんたちのこういった考え方によるものなんだと感じました。

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