前編

学生時代から起業を志し、様々な事業を展開。

第23回放送

株式会社SOOL 代表取締役CEO

深澤祐馬さん

Profile

ふかさわ・ゆうま/早稲田大学理工学部卒業後、『株式会社リクルートコスモス(現:株式会社コスモスイニシア)』に入社。その後2社のベンチャー企業取締役を経て、2009年、『株式会社SOOL』を設立。代表取締役に就任。採用やリーダーシップ開発、コミュニケーション開発のプロとしてコンサルティング事業を手掛ける傍ら、2014年、ダイレクトリクルーティングサービスを一部上場会社に事業譲渡。これまで10,000人超もの経営幹部向けにダイアローグ、コーチング、キャリアアドバイスなど、対話形式により人が持つ強みを発掘し、「気づきの支援」を行ってきた。『株式会社ビジネス・ブレークスルー』講師、『NPO法人文化都市金沢構想』顧問、『情報経営イノベーション専門職大学』の客員教授なども務める。

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Tad 今回のゲストは『SOOL』代表取締役CEO、深澤 祐馬さんです。
深澤 よろしくお願いします。
川瀬 こんにちは。今回は原田さんに代わりまして、川瀬裕子が担当いたします。どうぞよろしくお願いいたします。
Tad 深澤さんは『澁谷工業』の澁谷副会長から「面白いやつがいるから会わなきゃだめだ」とご紹介されたんです。その後もいろいろな形で接点を持たせていただきました。ありがとうございます。
深澤 こちらこそありがとうございます。
Tad 深澤さんと言えばコーチング、キャリアアドバイスといった人事系のキーワードが並びます。ベンチャーという側面もあるかと思いきや、実は最初は『株式会社リクルートコスモス』(現:株式会社コスモスイニシア 以下同)に入社されていたんですね。不動産の会社ですよね。
深澤 不動産ディベロッパーの会社ですね。
Tad なぜ『リクルートコスモス』に入られたんですか?
深澤 学生時代から将来は起業したいという思いを持っていまして、『リクルート』と言えば人材輩出企業であり、起業家になる人が多い、そんなイメージから選択しました。
Tad 確かに『リクルート』OBのベンチャー起業家ってすごく多いんですよね。
深澤 はい、本当にたくさんの起業家がいらっしゃいますよね。ただ当初の僕は全くの無知で、リクルートという会社があることすら知りませんでしたから、「うちに入社したら将来会社を起こせるぞ」と口車に乗せられるがままに内定承諾したのを覚えています。実は『リクルートコスモス』が不動産をやっているということすら説明を受けずに入社を決断したんです。
川瀬 そうだったんですね。
深澤 すごく特殊な採用をしていた会社だと思います。当初の『リクルートコスモス』は、不動産に興味がある・なしにかかわらず、何か一つ、尖っている人間を採用していた時代だったので、たまたま僕みたいな人間が引っかかったんでしょう。
実は大学生の頃、学校に行く意味を見失っていたんです。3年生の時、両親に「大学を辞めて、早く社会人経験を積んで起業したいんだ」って話をしたら泣かれてしまって。就活もせず悶々としていた頃、たまたま『リクルート』の方にお会いして同様の相談をしたら、じゃあうちに来たらどうかって話になり。そこからとんとん拍子に話がまとまっていったんです。
独立前の深澤さん。
Tad 『リクルートコスモス』ではやはり不動産のお仕事をされていたんですか?
深澤 それが入社して半年の現場研修した後、間もなく人事部に配属されてしまいまして。「俺は起業したいのになぜ人事なんだ」と思ったわけです。「人事」と聞いたら採用のことくらいしかわかりませんから、「これで本当にお金を稼げるの?」とか、「将来起業できるの?」なんて、とても不安になりました。とにかくショックで、会社に「人事部に行くくらいなら会社を辞めます」と脅しをかけたこともありましたが、「騙されたと思って人事をやってみなさい。君の今までの話を聞いていると、人事は絶対に嵌まるはずだから」と大人たちに説得されまして、泣く泣く人事部に行ったのが始まりでした。
Tad 深澤さんにとっては全く意外だった人事部への配属が、実は後々の深澤さんの人生を決定づけたわけですね。
深澤 そうですね。当初自分のことを自分が一番わかっていなかったんでしょうね。単純なもので人事部に配属されて3か月後には完全に嵌ってしまい、「これが天職だ」なんて言っていました。自分を諭してくれた先輩方はさすがだなと、今でも尊敬しています。
Tad すごいですね。そこまで嵌まると。
深澤 結局学生時代も社会人になってからも、人と相対することがずっと好きでしたね。学生時代は理工学部だったんですが、あまり学校に行かず、アルバイトして稼いでは海外放浪して、いろんな国をバックパックで周りながら、老若男女、いろんな人の人生観や哲学、宗教観などに触れては自分の世界観をアップデートしていました。そんな話をよくしていたからでしょうね、「こいつはやっぱり対人させたら面白いんじゃないか」と人事部にあてがわれ、それが嵌まったということだと思います。
Tad なるほど。それが後々のご自身の起業のテーマに繋がっているんですね。2社のベンチャー企業の取締役を経て、2009年に『SOOL』を設立されますが、これは完全にご自身で作られた会社ということですね?
深澤 そうです。ずっと「起業したい」って思いながらも、石橋を叩いて叩いて、2社のベンチャーを渡り歩いて「経営って一体何をやっているんだろう」とか、「IT系ってどうなんだろう」なんて模索しながら、ある時ようやく「自分でできるぞ!」って思えたのがきっかけです。2009年、33歳の時でした。
『SOOL』起業当初の渋谷のマンションオフィス。
Tad 『SOOL』は経営幹部向けのダイアローグやコーチング、キャリアアドバイス等をされていますが、一般的には『SOOL』という社名よりも、当時作られた「iroots(アイルーツ)」というサービスがすごく有名だと思います。改めて、これはどのようなサービスなのでしょうか。
深澤 「iroots」はいわゆる新卒採用のダイレクトリクルーティングサービスになります。会社を作った次の期に立ち上げました。
Tad 新卒のダイレクトリクルーティング? 新卒とは大学生ということですよね。
深澤 新卒の大学生が履歴書を書いて、データとして「iroots」の中に収めておいて、それを利用している日本の企業の経営陣や人事担当が見て「この学生に会いたい」と思った学生に直接スカウトを送ることができるという仕組みです。
Tad それがダイレクトのリクルーティングということですか?
深澤 はい、当初は大学生向けにダイレクトにリクルーティングするようなサービスはなかったので、いわゆる日本初と言いますか世界初の仕掛けだったんです。
Tad それこそ『リクルート』の「リクナビ」などは、学生さんはみんな自分が登録した後に希望の企業を登録するというような形ですよね。深澤さんの場合は、逆に企業の側から登録されている履歴書を見て、「この人に会いたい」、「この学生に会いたい」という希望をサービス化されたようなイメージですよね。
深澤 まさにそうです。当初「リクナビ」のような大手のメディアですと、ざっくり学生が100万人、企業が10,000社くらい利用していますが、当初の仕組み上、どうしても学生の希望が総合商社や自動車メーカー、広告代理店のような人気企業に偏ってしまうんです。実際ベンチャー企業や地方企業、B2Bの企業でも素晴らしい企業はたくさんあるのですが、学生にあまり知られていないので応募が集まらないんです。こうした悩みを抱えている企業が日本はたくさんあることを知り、なんとかしたいなと思っていました。
ヒントになったのは、私が在籍していた『リクルートコスモス』での採用経験です。不動産業界は当初人気業界ランキングでほぼ最下位でしたから、リクルートグループとはいえ登録者も限界があり、メディアだけでは目標とする接触人数を達成することが難しかったんです。結局、待っても来ないならば、行くしかない、ということで、採用担当者は全国行脚して学生にアプローチして、徹底的に口説く作戦を取ったわけです。その結果、大手人気企業と競合しても勝てるケースが出てきた。それが年々ノウハウ化されていた会社でした。
その後のベンチャー企業においても、こうしたノウハウを活用したところ、社長が東大生や京大生に対して直接アプローチしたところ採用できるケースが増えていったんです。それならばこうした経験をネット上の仕組みとして展開して優良な日本企業を活性化したい、そんな想いで作ったサービスが「iroots」なんです。
Tad 一般的な就職活動と違って、オファー型と言いますか、学生がオファーを受けて就職することを決意するような、そういう感じですね。そういうサービスというのは、今でこそそれなりにあるような気もしますが、深澤さんが世界初といいますか、日本初ということですね。
深澤 そうですね。新卒でオファー型をやったのは日本初、ということは世界初ですよね。中途採用向けではアメリカの『リンクトイン』、あるいは『ビズリーチ』もありますが、当初、中途採用も日本で出始めたばかりの時に作りましたので、新卒採用でそれをやるの?等と賛否ありましたが。
Tad 否定的な意見にはどんなものがありましたか?
深澤 実際に会社、人事担当がそうした労力を使うかどうかというところです。会社の人事が、数多の学生をわざわざ検索して探すかどうか、そこに時間を費やしてくれるのか、一件一件「あなたに会いたい」というメールを企業側が書くのか、そういった意見です。
これは、「採用する会社の方がなんとなく偉くて、学生が下」というような概念がかつての新卒採用業界にはありましたが、私はそうではなく「イコール」だというのが、主張でした。学生も企業もフラットな関係で、学生が企業に入りたいと申し込むなら、企業側も学生に「あなたが欲しい」と歩み寄る場があっていいんじゃないかという思いがありました。
Tad それが最初、そもそも『リクルートコスモス』に深澤さん自身が採用してもらった時の感覚や、自分が人事部として尖った学生に「君、こっちの会社にこないか」と勧誘していたような、その時の体験がサービスに生かされているということですね。
深澤 まさにそうです。自分の原体験がベースにあります。ベンチャー2社に携わっていた時は全くの無名企業に、東京大学の学生が本当に来るのかという疑念がありましたが、結果、強い思いを持ってアプローチすると学生は来てくれるわけです。さらにこうした人材が数年後に中核人材になり、サービスを伸ばしていく。僕が携わった会社は結果的に一部上場を果たしました。そう考えると、世の中にはまだ知られていない「潜在能力の高い会社」というのはいっぱいあって、企業側が努力さえすればそうした会社に有力な人材が来てくれるんです。そして彼らが可能性を大きく広げてくれる。まさに「情熱が夢を成就させる」わけですね。
Tad そういった採用や就職活動に使われるようなWebサービスは、今ではいろんな分野で出てきていると思います。
深澤 そうですね、スカウト型とかダイレクトリクルーティング型は今ではすっかり当たり前になりましたよね。実は僕たちがサービスをスタートした1年後には、同様のサービスが5、6社出てきまして、そのうち大手も参入してきました。
Tad 「iroots」はどのぐらいの人に使われて、何人ぐらいのユーザーがいたんですか?
深澤 売却する直前はトータルで20,000会員ぐらいですかね。
Tad 20,000会員というと、やはり学生さんは毎年入れ替わっていくと思うんですが、毎年20,000人の学生が「iroots」に登録していたということですよね。
深澤 それぐらいのサービスに伸びてきたということですね。
Tad なぜ『エン・ジャパン』への「iroots」売却を決意されたんですか?
深澤 候補企業はいくつかありましたが、「iroots」の世界観や採用への想いに最も共感いただけたことが決めてだったと思います。また当初は自分たちでやり切ることも考えてはいたのですが、年々多くの競合が増えてくる中で、サービスを伸ばし続けるにはより多くの資本が必要だと感じていたこともあります。それと「エン・ジャパン」さんならば、「iroots」ブランドをより高めていただくことができるだけでなく、採用業界にダイレクトリクルーティングのカルチャーを浸透させることができると判断したことも売却の理由になりました。
Tad なるほど。「iroots」のさらなる成長のためだけでなく、業界のことも考えて事業売却を決意されたんですね。

ゲストが選んだ今回の一曲

SEKAI NO OWARI

「Dragon Night」

「みなさんご存じの曲だと思いますが、実は私の息子も好きな曲の一つで、この曲を去年、英語で頑張って覚えて、それを歌って『劇団ひまわり』に合格したんです。そういうエピソードがあって、我々としても非常に思い出深い曲になりました。自分で覚えて表現して、それが認めてもらったということで息子も自信がついたでしょうし、家族としても非常に盛り上がった曲です」

トークを終えてAfter talk

Tad 今回はゲストに『SOOL』の深澤 祐馬さんをお迎えしましたけれども、いかがでしたか、川瀬さん。
川瀬 驚きのご経歴であられるというのが第一印象なんですが、元々起業したいというところから、実際に就職したのは全然希望と違う場所で、それでもご自身の経験を活かして、自分のものにされて起業していらっしゃるところも素晴らしいと思います。Mitaniさんはいかがですか。
Tad 就職活動のためのオンラインサービスはいろいろあるんですが、学生をスカウトするオファー型のサービスというと「iroots」が代表格だと思います。深澤さんのご経歴をうかがって、学生さんに直接声をかけるスカウト型の人事をやっていたということや、深澤さん自身もそんなふうに会社に採用されていて、それが後にご自身で事業展開する上で大きなインスピレーションになっていたんだと気づきました。人事に配属されたのが最初は不本意だったというお話もされていましたが、キャリアというものを考える時、何かを始める前にこれが何に繋がるのかということよりも、実際に自分がたどってきた道を振り返った時にポイントを繋げていく力みたいなものがすごく感じられて、元気をもらったような感じがします。

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