前編

パーティション業界1位までの道のり。

第19回放送

コマニー株式会社 代表取締役 社長執行役員

塚本健太さん

Profile

つかもと・けんた/1978年、石川県小松市生まれ。星稜高等学校吹奏楽部時代にサックスに出合い、東海大学経営工学部中退後、サックスで音楽の道を志す。しかし創業家としての使命を果たすことを決断し26歳で就職を決意。2006年、『京セラコミュニケーションシステム株式会社』に入社し、営業と経営管理を担当する。2009年、『コマニー株式会社』(1961年創業。パーティションの開発、設計、製造、販売および施工を手掛ける)入社。経営企画、経営管理などの管理部門と営業責任者を経て、2019年、創業家3代目として代表取締役社長執行役員に就任。

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Tad 今回のゲストは『コマニー株式会社』代表取締役 社長執行役員、塚本 健太さんです。
原田 社名を聞いただけでは、「何の会社なんだろう?」という方も、もしかしたらいらっしゃるかもしれませんね。
Tad パーティションの開発、設計、製造、販売、施工ということですが、パーティションとはどのようなものでしょうか?
塚本 パーティションというのは、部屋と部屋を仕切っている後付けの壁と思ってもらえればよいと思います。今のところ当社のパーティションは自宅にはほとんどありませんが、学校、病院、オフィス、工場、あらゆるところにパーティションは使われています。
オフィス、工場、学校や病院などあらゆるところに『コマニー株式会社』のパーティションが納入されている。
原田 いわゆる「間仕切り」と言えばよいでしょうか。家にないというお話もありましたが、広い意味で考えると、襖や障子も間仕切りなのではという気もします。
塚本 間を仕切るという意味では、日本古来ではそれこそ屏風もそうですし、雪見障子なんかは非常におもしろい区切り方をしますよね。
Tad 広い意味で言えば、そういう古くからある間仕切りもありますが、『コマニー株式会社』が作られているものというのは、建築物の中で工業化されたようなパーティションであるということですね。
塚本 大量生産ができ、誰でも組み立てられるものになっているということです。
Tad 広い空間が建物の中にあって、それを細かく区切っていくことで部屋として成立させていくための建材なんでしょうね。
塚本 そうですね。建材のひとつですね。例えばトイレの個室なんかも、我々が製造している商品の一つになります。
原田 壁ではないですよね、上が開いていたりしますし。そうすると、実は身近にたくさんあるんですね。例えば学校なんかでも見かけたりしますね。
Tad そのパーティション業界の中で実は『コマニー株式会社』が業界1位のポジションについているということですが、どのぐらいのマーケットサイズになるんでしょうか?
塚本 日本全国でもニッチな産業でして、1,400億円ぐらいの市場です。
Tad なるほど。業界1位、つまり日本一と言えると思いますが、創業当時から間仕切りの製造を行っていたのでしょうか?
塚本 実は当初は『小松キャビネット株式会社』として創業していまして、キャビネット、つまりスチールロッカーを作るメーカーとして産声をあげたんですね。ところが、キャビネットというのは箱ですので、東京や大阪などの市場へ運ぶのにトラックにたくさん積めないわけです。
箱の中の空気ばかり運んでいるような状態で、これでは商売にならないということで、スチールの技術を使って運送効率の良いもので、これからの世の中で役に立つものは何か? ということで、創業者の塚本信吉が「パーティションなら売れるだろう」と。
1961年の創業時は『小松キャビネット株式会社』としてキャビネットメーカーとしての事業活動からスタート。
Tad 当時はまだ、パーティションというものはそんなになかったのでしょうか?
塚本 そうですね。当時は今ほど確立されていなくて、建物の壁はいわゆる造作の建築壁で、今のように後から持って行ってパチパチと組み立てるものがありませんでした。しかし高度成長の日本においてビルがたくさん建つ時代にそのような建築壁ではスピードが追い付かないはず、それならば、工場で半分完成させられる、こういったパーティションが必ず売れるはずだということで、パーティションの道に進んでいったんです。
Tad 建築壁というと、職人さんたちが壁として構築していくようなものだったわけですね。それが、半完成品のような形のパーティションであれば簡易的に設置でき、プラスアルファの施工でスピーディーに空間ができるということですね。
原田 しかも設える位置を変えようと思えば変えられるわけですよね。
塚本 変えられます。後から取り外してもう一度違うレイアウトに取り付けることができます。
原田 まさに日本のように国土の狭いところでは、一つの空間をどのように使うかというのはおそらく大いに頭を悩ませる部分だと思うんです。そこにぴったりフィットしたということも成長の要因なのでしょうか。
塚本 当時はまだ確立前ではありましたが、おそらく全国には同じようなものを作っていらっしゃる会社もあったと思うんです。しかし、当社はすでにキャビネットを作る設備を買ってしまっていたので、なんとか生産して売っていかなければいけないと。そこでキャビネットからパーティションに転換して、勢いよく生産できたということが大きいと思いますね。
Tad 全国区にはライバルになるような会社もあると思いますが、なぜ石川県の『コマニー株式会社』が業界1位の座に着くことができたのか、どうやって1位にたどり着けたのかというところが気になります。
塚本 理由は二つあると思っています。一つは、パーティションを大量生産できる初めての全自動のラインを自社で開発し、それが市場のニーズにマッチしていたということ。つまりスピーディーに大量生産できたということです。もう一つは全国に販売代理店を築いていったこと、その二つだと思いますね。
Tad それは当時、他のメーカーはやっていなかったことなのでしょうか?
塚本 そう思いますし、機械会社と組んで設備を一から作りましたので、当時、おそらく世の中にはまだなかった装置でしたから、反響は大きかったと思いますね。
原田 大量生産をなるべくスピーディーに行わなければならなかったということですが、それだけニーズが高まっていったということですか?
塚本 当時は、それこそ我々の営業部隊が喧嘩をして在庫を取り合うような状態でした。とにかく納期に間に合わないので、できたものから積んで出してくれというような状態でした。どう早く、いいものを作るかということに集中していた時代ですね。
Tad その過程で社名を何度か変えられていますね。1984年に『株式会社コマツパーティション工業』から『コマニー株式会社』に変更されていますが、これはどういった意図だったのでしょうか?
塚本 『株式会社コマツパーティション工業』といいますと、パーティションを作っている会社ということでわかりやすいんですが、我々が提供している価値とは何かということを考えてみると、お客様はパーティションというものを買っているのではなくて、パーティションを使った空間自体に価値を見出していらっしゃる。つまり我々は「快適機能空間を提供する会社」であるべきだと、それであえて、社名からパーティションという言葉を外したんです。
Tad 「空間屋さん」ですね。自由にいろんな家具を配置でき、自由に使われ方をアレンジできる、でもそれは間仕切りがあっての空間である、ということですね。面白いですね。パーティションという名前を外したことで、それを表現したということですね。
原田 『コマニー』って、ちょっとユニークにも聞こえるような名前ですが、どのような由来がありますか?
塚本 発祥の地であります小松市から「コマ」、そして、「ニー」というのは、英語の「ニュー(new)」をスウェーデン語の「ニー(ny)」にあてまして、「新しい小松、“ニュー小松”を作っていこう」というイメージで「コマニー」としました。
原田 まさに新しい小松でいろいろと新しい製品づくりにも取り組まれていると思いますが、今、特に力を入れている商品にはどのようなものがありますか?
塚本 高耐震の間仕切り「シンクロン」を発売しました。
震度7の地震にも耐えることができる高耐震間仕切「シンクロン」を開発。
原田 なるほど。まさに日本のためのような商品ですね。
塚本 日本は地震大国であるとよく言われますが、建物に関しては、昔は潰れなければいいとか、命が助かればいいという意識だったんです。しかし最近は、地震の際には東京ではオフィスビルから出ないでくれ、帰宅困難になるからオフィスビルに留まって3日くらいはそこにいてほしいというようなことを言われています。そうすると、建物は「潰れない・壊れない」ではなく、有事でもいつも通り使えるという機能が求められるようになってきました。そう考えると、建物が潰れないだけではなくて、内装をいつも通り保つことができないと機能しません。パーティションは空間に必ず使われていますので、これは高耐震でなければならないということで開発しました。
Tad 高耐震でなかった間仕切りは、強すぎる地震が来ると壊れてしまうということがあったんですか?
塚本 実は間仕切り自体が壊れるということは、当社の商品ではなかったのですが、間仕切りは床と天井で支えられていますので、強い地震で天井が飛んでしまうと間仕切りも倒れてしまうということになります。
原田 つまり、倒れないための工夫をしたパーティションを作られたということでしょうか?
塚本 そういうことになりますね。
Tad そこには何か特殊なメカニズムがあるんでしょうか?
塚本 実はシンプルでして、従来の間仕切りは天井と床に繋げていなかったんです。床と天井にあるレールと呼ばれる部品にパネルをのせたり、のみこませたりすることで上下を支えていました。そこで地震で天井が飛んでしまうとパネルが倒れてしまうのですが、実は地震は横揺れでも天井はそのうち波打って縦揺れに変わってしまうんです。そうすると床と天井の距離が変化し、距離が広がった時にパネルが外れてしまうのです。これを阻止するために床と天井をしなやかに連結する間仕切りを作りました。
原田 「しなやかに連結」というのは、例えば、地震で天井がぐーっと動いても、それにちょっと軽くついていくみたいなことですか?
塚本 そうですね。厳密には逆で、床の動きに対して天井の動きをシンクロさせるということなんです。
原田 両方の動きを同じにするような仕組みということですか?
塚本 実は床と天井というのは同じ揺れ方をしません。床は床、天井は天井で揺れるわけです。
Tad 違う波打ち方をするんですね。それを同じ揺れ方にしてあげるというような発想なんでしょうか?
塚本 そうです。
原田 しなやかに繋ぐことによってそういうことができるようになるということですね。でもがっちり繋ぐと、壊れてしまう。
Tad 東海地方や関東も地震のリスクが高まっていると言われていますので、こういった製品が求められているのですね。
ラジオ収録時の塚本健太社長。

ゲストが選んだ今回の一曲

T-SQUARE

「TRUTH」

「私はF1が大好きで、この曲が流れるとF1のレースを思い出します。毎日、仕事でいろいろなことが起こりますが、この曲を聴くと自分にもエネルギーがチャージされていくようで、なんだか燃えてくるんです」

トークを終えてAfter talk

Tad 今回はゲストに『コマニー株式会社』代表取締役 社長執行役員、塚本 健太さんをお迎えしましたけれども、いかがでしたか、原田さん。
原田 社長になりたて(収録当時)とうかがっていたのですが、すごくがっちりして風格のある社長さんだなというのが第一印象で、いろいろお話を聞く中で、パーティションの会社ではありますが、パーティションをつけたら終わりということではなくて、その空間を使う人のことをすごく考えていらっしゃるんだなというのが印象的でした。Mitaniさんは、何か学びや気づきはありましたか?
Tad そうですね。社名から「パーティション」を外したという部分を聞いて、すごいなと思ったんです。今の原田さんの話とも繋がりますが、やはりお客様はパーティションを買っているし、会社ももちろんパーティションを売っていたけれども、途中で「お客様はパーティションが欲しいのではなくて、空間を作りたいんだ」ということを理解された上で、『株式会社コマツパーティション工業』から『コマニー株式会社』に社名を変更されたわけですよね。こういうことに自分たちで気付けるというのはすごいことだなと、改めて思いました。

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