後編

人との出会いと地元のポテンシャルを活かす。

第29回放送

株式会社松浦電弘社 代表取締役社長

松浦 隆弘さん

Profile

まつうら・たかひろ/1965年、石川県金沢市生まれ。福井大学電気工学科を卒業後、石川県内のメーカーに就職。1989年、『株式会社松浦電弘社』に入社。『株式会社松浦電弘社』は創業1968年、制御盤の制作事業を主な事業とし、計測システム、画像処理システム、ロボットシステムの事業及び開発を展開。2003年より現職。

インタビュー前編はこちら

Tad 原田さん、先日ネットで「印鑑の押印ロボット」というものが話題になっていたんです。
原田 ハンコを押すロボットということですか?
Tad そうです。もちろん今やパスワードで承認や決済をしていますが、「このご時世になぜロボットにハンコを押させるんだ」ということがすごく話題になったんです。ですがよく考えてみれば、自治体に提出しなければならない書類やお客さまにお届けする書類には絶対に押印しているので、電子的に決済されていった書類が実際に紙に落とし込まれて印鑑を押すところまで自動化できれば、それはすごく良いソリューションだと思いました。この開発元を見ていたら、前回のゲストの『松浦電弘社』の名前が入っていたんです。
今回も前回に引き続き、『松浦電弘社』代表取締役社長、松浦 隆弘さんにお越しいただきました。この印鑑を押してくれるロボット、反響があったんじゃないですか?
松浦 そうですね。展示会にもメディアの方を含めてたくさんの人がいらしたので、びっくりしております。
Tad 前回は画像処理や計測処理というお話でしたが、ロボットの事業でいうと他にはどんなことをされているのでしょうか?
松浦 メディアに多く取り上げていただいたのは、「電王戦」というプロ棋士と対戦するロボットの制御と画像処理を受け持っています。
プロ棋士と対局するロボットアーム「電王手」の画像処理とアーム制御の開発、メンテナンスを担当。
原田 将棋の駒を掴むにしても私たちは何気なくできますけど、ロボットではどうなんでしょうか。
松浦 一番苦労したのは、「成る」と言って反対の面に駒をくるっと回すところですね。みんなでアイデアを出して考えました。
Tad 面白いですね。ひっくり返すだけというのも、ロボットには難しいんですか?
松浦 難しくはないんですが、人間同士の対戦と一緒で持ち時間があるので、いかに短時間でそれをやるかということも重要になってきます。
原田 間違いなくきちんとそこに置くということも、よく考えたら難しそうですね。
松浦 さらに手彫りなので、一個一個微妙に違うんです。厚みも違います。それを微調整しながら動かしていく必要があるので、画像処理も同じだけ作業が必要になってくる。それは苦労しましたね。
Tad 「電王戦」のロボットの制御までされていたなんて知りませんでした。
松浦 一番苦労したのは安全対策でした。やっぱり人間は考えこむと基板の上にかがみこんでしまうんですよね。そのタイミングでロボットが動くと危ないので、エリアセンサーというレーザーで囲って、ロボットが人にできるだけ干渉しないようにはしているんですが、とにかく持ち時間の関係でロボットをできるだけ早く動かしたいという要求があり、そうなるとロボットを急停止させる必要があります。なだらかに止まることは可能なんですが、急停止させるといろいろなトラブルを生みがちなので、その部分の制御に苦労しました。
Tad 前回は計測システムや画像処理の事業に携わってこられたお話でしたが、ロボットの事業に携わることになったきっかけは何ですか?
松浦 私たちがプラットホームとして使っているアメリカの計測器メーカーのカンファレンスでテキサスに行った時の話なんですが、エキシビションとカンファレンスが終わって何人かでステーキハウスに行ったんです。みんなでワインを飲み、ステーキを食べていると後ろのテーブルから声がかかりました。見ると、私も顔を知っているイタリア人のとある社長さんでした。日本には産業用ロボットがたくさんありますが、それまではパソコンで動かせるものというのは少なく、独自のコントローラーで独自の動かし方で動かすというものだったんです。このイタリアの社長さんの会社では、一般的なパソコンから世界中の産業用ロボットをコントロールできるようなソフトウェアを作っていました。でもその社長さんは創業したばかりだったこともあって、何とか日本に行きたいけど日本に行くお金がないというのです。その場に先のアメリカの会社と日本のロボットメーカーの方もいたんですが、みんなでゲームをして負けた人が「イタリアの社長さん分の日本へのペアチケット代を出そう」となって、ワインのコルク立てゲームをしたんです。案の定、私が負けて、航空券を送りました。そこからそのイタリアの社長さんとも仲良くなったんです。そんなところからロボット事業をするようになりました。
Tad そんなご縁もあるんですね!
松浦 そこで私が負けていなかったら、また違ったことになっていたかもしれません(笑)
原田 そういうことを大切に捉えて実行されて、ご縁を繋いできたからこそ、今があるんでしょうね。
Tad そうですよね。いや、まさか食事をしていて隣のテーブルに座っていた人に話しかけられて、聞けば日本に行きたいからチケットを買ってくれだなんて(笑)
松浦 そうですね、それも図々しいと思ったんですけど(笑)
Tad そのイタリアの会社の製品と言いますか開発ツールみたいなものを使って、今はロボット制御を?
松浦 今はもう使っていないです。彼らも会社を売却して、今はもうありません。当初は使っていました。
Tad ロボット事業に携わるきっかけとして、記憶にずっと留めておきたいエピソードですね。
松浦 今でもよく覚えています。2011年、震災前の1月に、ミラノ近郊にローディという町があって、彼の会社がそこにあったので行ってきました。西暦1300年代からある建物で、ロボットがいっぱい歩いているところは半地下の馬小屋みたいなところでした。パソコンの置いてある事務室の天井はフレスコ画でしたし、イタリアってすごいところだなと思いました。そんなところで先端の仕事をしているし、素晴らしいところだなと思ったことが印象に残っています。
Tad ロボットの事業はその後、どんなふうに展開されていますか? メーカーのいろんな課題をお持ちの方が相談に来るような感じですか?
松浦 私どもを使ってもらうメリットとしては、ワンストップでシステムを提供できるところだと思うんです。前回お話ししたみたいに、元々父の代からやっている制御盤の制御の技術と、今お話ししたようなアメリカの会社のプラットホームを使った計測の事業、まずこれを柱としてやっていましたし、ロボットのシステムを使う時は制御の技術と計測の技術、どちらも使うんです。ですから、元々わかるスタッフもいましたし、知見もあったので、ロボットを使っていろんなシステムを作ることはそんなに抵抗なく行えています。加えて、地元にはいろんなものづくりに特化した会社が数多くあるので、その方々とチームを作ってお客さまに製品をお届けすることを仕事としております。
ソフトウェアとハードウェアの一体開発を進めるうえで大きな役割を果たしている、『ナショナルインスツルメンツ』のソフトウェア「LabVIEW」。
原田 いろいろなところと組んで、パートナーとして協力しながら開発されたもので印象に残っているものはありますか?
松浦 ロボットではないんですが、放射線量率という放射能を測る装置を作っています。東日本大震災のあった3月に原発事故があって、その後、8月ぐらいから取り掛かって11月に120~130台という大きな規模で国の機関に使っていただきました。そこからずっとそのような事業を行っております。
原田 どこかと協力されているんですか?
松浦 はい。私どもは京都大学の特許を使用させていただいて、先生方の知見を組み込んだ装置を作っております。
Tad それまではそういう測定装置というのはなかったんですか?
松浦 あったんですが、測れる性能が違います。価格の問題もありましたし、重量、大きさなどを見ると、やはり私どもの方がコンパクトで軽量で使いやすいということで選ばれたんだと思っています。
原田 やはり身近なところの放射線が気になるから確認したいというニーズもあったと思いますし、そういう意味では大掛かりな物ではなくて、誰でも使えるというのがよかったんですね。
松浦 そうです。主に車に載せて使っていまして、今も福島県内の民間のバスで使われています。福島県内のバスは同じ時刻に同じところを通りますから、住民の方は毎日ではないかもしれないですが、毎月どのくらい放射線量率が低下していくのかがわかるんです。これを行政が公開していまして、データを集める装置としても使っていただいております。
Tad 日々の生活に組み込まれているんですね。
原田 しかも見えないものを「見える化」出来るというところがすごいですね。
松浦 私たちにとっては、ロボットを動かすことも、画像処理をすることも、放射線量率を測ることも、同じプラットホームで同じようにソフトウェアを作って行います。光もロボットも放射線も同じように扱えるというところが、会社としての強みなのかなと思います。
原田 相手のニーズを汲み取ると言いますか、「こんなようなことが求められているんだろうな」ということを、松浦さんとしても考えていらっしゃるんですね。
松浦 そうですね。私どもの会社だけではなくて、県内にいろんなエキスパートの方がいらっしゃいますので、ご協力いただいています。こんなに公的に効果があるものと言いますか、世の中の役に立つものというのは、多くの人に参加いただいて、多くの人の力があって成し得るものだと思いますので、これからも同じようにして広めていきたいと思っています。
Tad 石川県の総力として、すごいポテンシャルを持っているということですよね。
松浦 そうです。学生さんも、もちろん大学も多いですし、いろんな特技、得意なことを持った企業がたくさんありますので、東大阪とか東京の大田区あたりに匹敵するくらいのポテンシャルはあるんじゃないかなと思います。

ゲストが選んだ今回の一曲

Official髭男dism

「イエスタデイ」

子どもも好きでよく家でかけているので私も好きになった曲です。石川県と同じ日本海側、鳥取出身の方を中心にご活躍されているそうで、曲も前向きで良いなと思いますし、石川県からもぜひこんな素敵なバンドが出るといいなと思います。

トークを終えてAfter talk

Tad 前回に引き続き、ゲストに『松浦電弘社』代表取締役社長、松浦 隆弘さんをお迎えしましたけれども、いかがでしたか、原田さん。
原田 ロボットや放射線の測定とか、その他にもいろいろなことに携わっていらっしゃって、いろんな可能性を見せていただいたように思います。松浦さんのように人との出会いを大切にされてきたことが、きっとその広がりを生んでいるのではないかと感じました。
Tad イタリア人の社長さんの話なんて、衝撃的でしたね。ロボット事業をなぜ始めたかというエピソードで、制御盤事業と計測システム事業をやっていたこと、その両方がロボット事業に必要な要素としてすでに自社の中に蓄積があったから、ロボット事業に自然と取り組めたということでしたが、振り返ってみれば必要なピースが実は揃っていたというところが、すごく運命的だなと思いました。また、「石川県の産業の総力を上げて」という話がありましたが、松浦さんが発したシグナルを、石川県のさまざまな企業が受信して、地域ぐるみで一緒になってものづくりが行えるという強さをもっと知りたいと思いました。

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