後編

移動式プラントによって、世界に広がるニーズに対応。

第33回放送

株式会社エコシステム 代表取締役社長

高田 実さん

Profile

たかた・みのる/1979年、石川県能美市生まれ。星稜高等学校を卒業後、1998年、成蹊大学法学部政治学科に進学。在学中に環境NGOのスタッフになり、フジロックフェスティバルなどの屋外音楽フェス会場でごみゼロナビゲーションの活動などに携わる。卒業後、環境関連の会社『栗田工業株式会社』に入社、2006年、『株式会社エコシステム』(創業は1994年。土木、舗装事業と産業廃棄物の中間処理業を手がける)に入社。2018年4月より現職。公式サイト

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Tad 今回のゲストは、前回に引き続き『株式会社エコシステム』代表取締役社長、高田 実さんです。前回の放送では、日本家屋に使われている瓦、これが年間100万トンともいわれる廃棄量があって埋め立てるしかないという状況と、一方で、ヒートアイランドの問題に対して、保水性があり、打ち水効果のある歩道を作りたいというようなところをうまく掛け算をして、瓦を原材料にした舗装材としてリサイクルをしていくという事業のお話をしていただきました。事業の次なる展開について、現在、高田さん自身はどのように考えていらっしゃるんでしょうか?
高田 実は、海外にも瓦がたくさんあるということが分かったんです。主に欧州ですが、ドイツ、フランスといったところは、もうほとんどの建物の屋根が瓦でできているんです。
原田 そうなんですか!?
Tad 意外ですね。
原田 石造りというイメージですが、屋根瓦なんですね?
高田 屋根瓦が多いです。屋根材として、石のようなスレートという素材やセメント瓦というものもあるんですが、いわゆるクレイタイルと呼ばれる、日本で言う「瓦」がかなりたくさん使われています。
欧州のほか中南米でも瓦の使用率が高い。写真はボリビアの街並み。
原田 そうなんですね。海外では使わなくなった瓦はどうなるんでしょうか?
高田 例えば環境先進国のドイツだと、同じように瓦を砕いてリサイクルはするんですが、砕いたものをそのまま砂利や砂として使うぐらいのことしかしていないようですね。欧州の展示会に行ってきましたが、そこではそういったものしか見当たらなかったです。展示会で現地の人に当社のパンフレットを見せて「日本でこんなふうに瓦をリサイクルして歩道を作っているが、欧州でこういったものはあるか?」と尋ねると、「いや、こういったものはない」という答えが返ってきたので「これは今、日本で、石川県でやっている事業をそっくりそのままノウハウとして輸出できるんじゃないか?」というふうに考えたんです。
ボリビアのサンタクルス市で、瓦・レンガのリサイクル舗装材についてプレゼンする高田社長の様子。
Tad 海外展開では、どういった形態をお考えなんですか?
高田 瓦のリサイクルのノウハウを、今、日本国内ではフランチャイズという形で提供しています。瓦は重量物ですので、地産地消でリサイクルしてあげる必要があるんですね。
Tad 運ぶとやはり効率が悪いんですか?
高田 そうなんです。だいたい化石燃料を使って運ぶというのはエコじゃないので、本来であればその場ごとに処理してあげないといけません。リサイクルしてその場で加工し、舗装に使うという必要があるんです。今、フランチャイズによって、ほぼ全国各地に代理店さんができて、日本のだいたいのエリアで瓦の舗装材を供給できるような体制になっています。こういったビジネスモデルが日本で非常にウケたので、同じように、ドイツやフランスなど欧州の方でもウケるんじゃないかというふうに思ったんです。そういうノウハウを展開したいという思いと、舗装材を作るのに必要なプラントというものがあるんですが、これも自社で開発して、製品として持っています。これも売りたいと思っています。
Tad プラントというと、製造設備と言ったらいいんでしょうか?
高田 そうです。製造機械みたいなものですね。自社で開発しました。
原田 それってかなり大きな設備なんじゃないんですか?
高田 4トントラック、いわゆる中型のトラックに載せるような機械になります。「生コンプラント」と言って、生コンクリートを作る工場がありますが、それをぎゅっとして、トラックに載せられるサイズにまで小さくした、「モバイルのコンクリートプラント」というものになります。
Tad すると、トラックに積んであるから自由自在に必要なところへ行って、瓦を原料としてコンクリートを作ることができるということですか?
高田 そうです。瓦の舗装材はセメントをバインダーとして、それに水と瓦の砂利だとかを加えてコンクリートにしています。コンクリートというのは砂、砂利、セメントと水でできていて、できたてのコンクリートは生コンクリート(生コン)と呼ばれます。生コンと水とセメントが反応して固まったものをコンクリートと言いますが、弊社の舗装材はこの砂と砂利の代わりに瓦を砕いた砂利と砂、いわゆる瓦砂利と瓦砂を使っています。それにセメントを合わせてコンクリート舗装材にしています。このプラント自体は瓦を砕くものではなくて、もともとホッパー(入れ物)の中に瓦チップと呼ばれる砂利と砂を入れて、セメントタンクもあって、それを自動で計量してミックスして出すことができるという機械です。
車載式なので、現場まで移動して使用することができるプラント。
Tad コンクリートというと、タンクをクルクル回転させながら走る車をよく見かけますが、あれとは違う考え方ですよね? 現地で作るんですよね?
高田 基本的に生コン工場とは固定された工場、設置されている工場を言います。そこで生コンを製造して、今までの生コン車、ミキサー車と言いますか、正確に言うとアジテーター車というんですが、それに載せて現場まで運びます。練り上げられた生コンクリートは、通常1時間半以内に使わないと品質が落ちていくんです。
Tad どんどん反応していっちゃうんですね。
原田 フレッシュなほうが良いわけですね?
高田 フレッシュなほうがいいです。そのフレッシュな状態で使える範囲というのが固定式プラントだと1時間半以内と決められてしまうんですが、移動できるプラントであれば、そういった制約がなくなりますから、いつでもどこでも生コン製品を提供できるというわけです。ちなみに瓦のコンクリートが作れるプラントで普通の生コンも作れます。ホッパーの中身の瓦砂と瓦砂利を普通の砂と砂利にすれば、普通のコンクリートを作ることもできます。
原田 どちらにも対応しているということですね。
Tad 移動式の生コンプラント車のような車は、日本にはあんまりないんですか?
高田 あまりないです。日本にはあまりないんですが、欧米では結構あります。
Tad 工場から1.5時間で行ける範囲までだから、全国にたくさん生コン工場があるんですね。
高田 そうです。だいたい3,300弱くらいの生コン工場がありますが、それでもこの20年で、年平均で約75プラント…75工場くらいずつ減っているという状況です。生コンプラントは高度経済成長期に整理されましたが、当時、生コン需要はものすごくありました。北陸地方では現在、北陸新幹線が生コンを使っていますが、日本全体で見ると右肩下がりなんです。工場も減っています。しかし、今まで作られてきた橋、トンネル、コンクリート構造物、インフラはずっとそこに存在していますので、今後はそういったもののメンテナンスがやはり必要になってくる。でもプラントが以前はあったけど今はない、それでもコンクリートを補充する材料が必要だ。「そしたらそのエリア、どうするの?」というふうになると、そこで「移動できるプラント」というものが力を発揮していけるんじゃないかというふうに思っています。
Tad これからの時代に、日本の社会を維持するためには、この移動式の生コンプラントが必要だということですね。まして原材料は瓦という古い建材のリサイクルをしながらエコロジカルに、さらに保水性があるような快適なコンクリートも作れると、そういうことですね。
原田 必要な時に必要なだけ作れるということですものね。
車載式プラントを使って現場でコンクリート舗装材をつくり、施工を行う様子。
Tad 海外にも原料として瓦の需要があるというのは、意外ではありましたが。
高田 ヨーロッパではスペインやイタリアも瓦をたくさん使っています。中南米の方でも、実は瓦やレンガがたくさん使われています。レンガなんて世界中で使われていますから、それも瓦と似たようなものなので、そういったものがたくさんある地域は私たちのノウハウを使うことができます。例えば、ノウハウだけだと舗装材を作る時はどうするのかという問題が出てくるんですが、生コンプラント自体が少ないエリア、例えば中南米だと、日本ほどたくさんプラントがあるわけじゃないので、インフラが整っていないところもたくさんあります。そういったところにも移動できるプラントを提供することができます。向こうとしてもこうしたものは非常にありがたいといった声を現地で聞いてきましたので、そちらも展開していきたいなというふうに思っています。
Tad 先ほど、生コンプラントが「セメントタンクで自動計算して」というお話がありましたが、瓦砂利、瓦砂、セメント、水がちょうどいい量になるようにそれぞれを選り分けながら作ってくれるということでしょうか?
高田 はい、自動で計量するようになっています。
原田 コンピュータ制御ということですか。なるほど。
Tad ということは、ざっと原材料を用意して、現地に行ってある程度操作方法のノウハウさえあればコンクリートがどんどんできちゃうということですね。
高田 そうですね。今後は、例えばホストコンピュータで「配合はこれ」というのを設定して送信すると、「プラントガイアックス(「モバコン」に改名)」と名付けたところに「この配合で練りますよ、作りますよ」という信号がいって、現場ではボタンを押すだけで生コンクリートができるというタイプのものも作っていきたいと思います。
Tad トラックに載せるくらいのサイズのプラントで、しかもリモート制御ができて、といったものを海外にノウハウとセットで提供していく、さらに、日本全国でも提供していくとなると、『株式会社エコシステム』だけでは当然ながら、日本全国の瓦をカバーしきれないですよね。
高田 はい。今のフランチャイズで一緒にやっている仲間の会社さんたちにもこのプラントを使っていただいて、現地での瓦のリサイクルをもっと促進していきますし、一方で、インフラのメンテナンスで必要となる材料もこの機械で作れますので、現地の土木、建設業者さんにもこのプラントを使って、インフラの整備やメンテナンス、そういったところにどんどん適用していただければと考えています。
Tad なるほど。これから発展していく社会においても、生コンプラントを作ってからということではなくて、移動式のそれがあればすごく社会の効率がよくなりますよね。
高田 且つ、普通の固定式プラントよりも、ずいぶん安く導入コストを抑えることができます。
Tad なるほど。そういうふうにインフラ作りが変わっていっているんだということを改めて知ることができました。ありがとうございます。

ゲストが選んだ今回の一曲

中島みゆき

「糸」

「人と人との出会いで、人生、仕事というものは進んでいって、一つの物語になっていくのではないかなというふうに思っています。昨年誕生した息子の名に「結」という字を使いました。多くの人と出会って人と人を結ぶような人になって幸せになってほしいという思いでつけたんですが、この曲はまさにそのことを歌っているもので、自分の大好きな曲の一つです。私自身、これからもたくさんの縁というものを大切にして、その糸をどんどん紡いでいって人生を色とりどりに織りなしていきたいなというふうに思っております。前回の放送で右手に大けがをしたとお話させてもらいましたが、実はその大けがをしたときの担当看護師さんが、今の私の妻なんです。そういったことも考えたりすると、この曲を聴くたびに目頭が熱くなるのです」

トークを終えてAfter talk

Tad 今回は前回に引き続き、ゲストに『株式会社エコシステム』代表取締役社長、高田 実さんをお迎えしましたけれども、いかがでしたか、原田さん。
原田 今、気候変動も進んでいる中で、温暖化ももちろんですが、豪雨も多いですよね。本当に土のように雨水を吸収してくれるこの瓦リサイクルの歩道が全国にもっと広まったらいいなと思いましたし、それが世界にも今届けられようとしていること、その技術を持っているのが石川県の会社だということに、なんだか嬉しいような誇らしいような、もっとみんなに知ってほしいなという思いに駆られました。
Tad 生コン工場がどんどん少なくなっているというお話もありました。生コンクリートは1時間半しか輸送できない、いわば賞味期限90分の品物なわけですよね。それを移動式プラントによって、さらに瓦やレンガなどの廃材の有効利用によって材料も現地調達しながら、途上国では新しいインフラの建設を効率よく、日本みたいな高齢化などによって働き手が減っていく先進国にとっては、快適なインフラを少ない設備と人数で維持できるようにする――そんなお話だったかと思います。
ちょっと違った文脈ではあるかもしれませんが、やはり国土が道と道で結ばれているからこそ、私たちの暮らしや世界が豊かであり続けることができるのだと思いますし、最後に人と人とのご縁を結んでいくことで新しい時代を紡いでいきたいとおっしゃられましたが、まさに「道」でそういったものが結ばれていく――高田さんはそんな新しい時代を紡いでいくお一人であるんだなと感じました。

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